公認心理師 2023-37

高齢者に生じやすい薬物による有害事象に関する問題です。

ほぼ同じ問題が過去に出題されており、この問題の解説もリンク先の問題解説からの引用です。

問37 高齢者において薬物による有害事象が増加する原因の説明として、適切なものを1つ選べ。
① 体脂肪率の低下
② 体水分量の増加
③ 薬物吸収の低下
④ 薬物代謝の亢進
⑤ 薬物排泄の減少

解答のポイント

高齢者の薬物治療に配慮が必要な理由を把握している。

選択肢の解説

① 体脂肪率の低下
② 体水分量の増加
③ 薬物吸収の低下
④ 薬物代謝の亢進
⑤ 薬物排泄の減少

高齢者の薬物治療には特別な配慮が必要になります。

その理由について、まずは薬物動態の4相(吸収・分布・代謝・排泄)から見ていきましょう。

  • 吸収:
    年を取ると、食べるものが低脂肪になったり、胃粘膜が萎縮したり、消化管の血流が低下したり、消化管の運動が弱くなるので、これらが薬物の吸収に様々な影響を及ぼす可能性があります。
    このため、薬物の吸収は概して遅れる傾向にありますが、他の相に比べると変化は小さいとされています。
  • 分布:
    加齢とともに体液量は減少し、これに伴い体脂肪率が増加します。
    このため、水に溶けやすい性質を持った薬は、溶け込むことができる水分が減るので血中濃度が上昇し、効き目も副作用も強く出やすくなります。
    一方、脂に溶けやすい性質を持った薬は、相対的に増加した脂肪に溶けて体内に長くとどまるため、作用時間が長引きやすくなります。
  • 代謝:
    肝臓の薬物代謝酵素の働きは年をとってもあまり変化しませんが、加齢とともに肝臓自体の血流量や肝臓全体の重量が減少します。
    従って、これらの影響を受けやすい一部の薬では代謝が遅くなり、血中濃度が上昇しやすくなります。
  • 排泄:
    最も加齢の影響を受けやすいプロセスです。
    薬の排泄に携わる主要臓器は腎臓と肝臓ですが、どちらも加齢によって働きが衰えます。
    特に腎臓は、加齢の影響を最も受ける臓器の一つです。
    腎臓は血液を濾して尿を作るネフロンと呼ばれる機能単位がたくさん集まってできていますが、ネフロンの数は年齢とともに減っていくため腎排泄能は年とともに衰えます。
    大部分の薬は腎臓から排泄されるので、腎機能が低下すると多くの薬の血中濃度が上昇しやすくなり、また体内に薬が長く留まりやすくなるため、効き目も副作用も強くなります。

また、加齢とともに体のいろいろな機能が衰えるため、高齢者では若年者と性質の異なる副作用が現れやすくなります。

なかでも、脳や神経の機能が衰えるために精神症状や神経症状が現れやすいことが高齢者の副作用の特徴です。

さまざまな薬によって、中枢神経症状(幻覚、妄想、錯乱、不安、抑うつ、傾眠、記憶障害、不随意運動など)や自律神経症状(起立性低血圧、便秘、尿閉、尿失禁など)などが起こりやすくなります。

また、「元気がない」「食欲がない」「フラフラする」など、あまり特徴のない症状が高齢者では良く見られます。

特に、向精神薬や自律神経に作用する薬を用いるときには、こうした症状が現れやすくなります。

薬が原因と気づかずに本当の病気と思い込んで、別の薬を投与してしまって副作用を増やしてしまいかねませんので、注意が必要です。

このように高齢者の薬物療法では、その投与には慎重になる必要があり、特に注意するポイントとしては以下の通りになります。

  1. 不必要な薬を用いない
  2. 高齢者に合う薬を選ぶ
  3. 原則として、少なめの量から用いる
  4. 使い方をできるだけ単純にする
  5. 対症療法薬を漫然と用いない
  6. 他の医療機関で処方された薬に注意する
  7. 服薬を管理する

これらは高齢者への薬物療法全般の注意点となります。

それでは、これらを踏まえて各選択肢の解説に入っていきましょう。

まず選択肢①の「体脂肪率の低下」と選択肢②の「体水分量の増加」については、上記の「分布」の中で示していますね。

一般に、加齢とともに体液量は減少し、これに伴い体脂肪率が増加することになります。

水に溶けやすい性質を持った薬は、溶け込むことができる水分が減るので血中濃度が上昇し、効き目も副作用も強く出やすくなり、一方、脂に溶けやすい性質を持った薬は、相対的に増加した脂肪に溶けて体内に長くとどまるため、作用時間が長引きやすくなります。

体水分量や体脂肪率は薬の効果を左右する要因ではありますが、上記の選択肢では「体脂肪率の低下」「体水分量の増加」となっており、加齢で起こる実際の現象と逆の内容が示されており、本問の「高齢者において薬物による有害事象が増加する原因の説明」にはなりませんね。

続いて、選択肢③ の「薬物吸収の低下」についてです。

こちらについては、上記の「吸収」において「年を取ると、食べるものが低脂肪になったり、胃粘膜が萎縮したり、消化管の血流が低下したり、消化管の運動が弱くなるので、これらが薬物の吸収に様々な影響を及ぼす可能性がある」としており、確かに薬物吸収が遅れる可能性があります。

ですが、吸収の要因は他の相(分布・代謝・排泄)に比べると影響が小さい要因であり、より影響を与える要因が他選択肢の中で示されている以上、これを「高齢者において薬物による有害事象が増加する原因の説明」とするのは難しいでしょう。

選択肢④の「薬物代謝の亢進」についてです。

薬の排泄に携わる主要臓器は腎臓と肝臓ですが、どちらも加齢によって働きが衰えます(加齢とともに肝臓自体の血流量や肝臓全体の重量が減少するから、腎臓のネフロンの数は年齢とともに減っていくため腎排泄能は年とともに衰える)。

これらの影響を受けやすい一部の薬では代謝が遅くなり、血中濃度が上昇しやすくなります。

従って、選択肢④の内容は実際とは逆の説明となっているので、本問の「高齢者において薬物による有害事象が増加する原因の説明」にはなりませんね。

最後の選択肢⑤の「薬物排泄の減少」についてですが、選択肢④の解説中に述べた通り、腎臓や肝臓の機能は加齢とともに低下します。

特に、腎臓は加齢の影響を最も受ける臓器の一つで、腎臓は血液を濾して尿を作るネフロンと呼ばれる機能単位がたくさん集まってできていますが、ネフロンの数は年齢とともに減っていくため腎排泄能は年とともに衰えます。

大部分の薬は腎臓から排泄されるので、腎機能が低下すると多くの薬の血中濃度が上昇しやすくなり、また体内に薬が長く留まりやすくなるため、効き目も副作用も強くなります。

本問で問われているのは「高齢者において薬物による有害事象が増加する原因の説明」ですが、薬物排泄の減少により体内に薬成分が残存しやすくなり、効き目も副作用も強く生じるというのは、まさに「有害事象が増加する原因」と考えて問題はないでしょう。

以上より、選択肢①、選択肢②、選択肢③および選択肢④は不適切と判断でき、選択肢⑤が「高齢者において薬物による有害事象が増加する原因の説明」として適切と判断できます。

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