公認心理師 2024-74

事例の状況を踏まえた地域包括支援センターの支援に関する問題です。

各サービス・支援が、どのような状態像の人が対象になるかを知っておきましょう。

問74 80歳の女性A、自宅で一人暮らし。Aは、Alzheimer型認知症と診断されている。先日、Aの日常生活の世話をしていた夫Bが、急性心筋梗塞で亡くなった。このことを受け、Aを担当する居宅介護支援事業所のケアマネージャーCから、地域包括支援センターに連携の依頼があった。Cによると、Aは3年前に要介護認定を受け、訪問介護とデイサービスの利用を開始した。その後も、Aの認知機能は徐々に低下し、1年前には、一人で買い物や金銭の管理をすることが困難な状態になった。最近は、食事や服の着替えについてもBの介助が必要であった。Bが亡くなった現在、Aに存命の親族はいない。
 この時点で、地域包括支援センターのAへの支援として、適切なものを2つ選べ。
① 自立支援医療の申請
② 後見開始の審判の申立て
③ 地域ケア個別会議の開催
④ 介護予防サービス計画の作成
⑤ 認知症初期集中支援チームとの連携

選択肢の解説

② 後見開始の審判の申立て
③ 地域ケア個別会議の開催

地域包括支援センターとは、介護保険法で定められた、地域住民の保健・福祉・医療の向上、虐待防止、介護予防マネジメントなどを総合的に行う機関です。

介護・医療・保健・福祉などの側面から高齢者を支える「総合相談窓口」になります。

専門知識を持った職員が、高齢者が住み慣れた地域で生活できるように介護サービスや介護予防サービス、保健福祉サービス、日常生活支援などの相談に応じており、介護保険の申請窓口も担っています。

介護保険法第115条の45第2項各号に定められているのが、地域包括支援センターの業務になります。

  1. 被保険者の心身の状況、その居宅における生活の実態その他の必要な実情の把握、保健医療、公衆衛生、社会福祉その他の関連施策に関する総合的な情報の提供、関係機関との連絡調整その他の被保険者の保健医療の向上及び福祉の増進を図るための総合的な支援を行う事業
  2. 被保険者に対する虐待の防止及びその早期発見のための事業その他の被保険者の権利擁護のため必要な援助を行う事業
  3. 保健医療及び福祉に関する専門的知識を有する者による被保険者の居宅サービス計画及び施設サービス計画の検証、その心身の状況、介護給付等対象サービスの利用状況その他の状況に関する定期的な協議その他の取組を通じ、当該被保険者が地域において自立した日常生活を営むことができるよう、包括的かつ継続的な支援を行う事業
  4. 医療に関する専門的知識を有する者が、介護サービス事業者、居宅における医療を提供する医療機関その他の関係者の連携を推進するものとして厚生労働省令で定める事業(前号に掲げる事業を除く)
  5. 被保険者の地域における自立した日常生活の支援及び要介護状態等となることの予防又は要介護状態等の軽減若しくは悪化の防止に係る体制の整備その他のこれらを促進する事業
  6. 保健医療及び福祉に関する専門的知識を有する者による認知症の早期における症状の悪化の防止のための支援その他の認知症である又はその疑いのある被保険者に対する総合的な支援を行う事業

具体的には、介護予防ケアマネジメント(要介護認定審査で「要支援2」「要支援1」「非該当」と認定された人や、生活機能の低下していて将来的に介護が必要となる可能性が高い人の相談やケアプランを作成)、権利擁護や高齢者虐待の早期発見・防止(お金の管理や契約などに関するときに、頼れる家族がいない場合には、成年後見人制度の申立ての支援などを行います。

また、高齢者虐待に関する発見・把握など、他の関係機関と連携した支援)、総合相談支援業務(高齢者本人や家族、地域住民の人からの、介護・福祉・健康・医療に関する困ったことに対する相談への対応・支援を行う)、包括的・継続的ケアマネジメント支援業務(高齢者の人々を直接的に支援するほか、地域の事業所のケアマネージャーの支援・指導などを行い、連携をとりながら地域の人が暮らしやすい環境づくりを行う)などになりますね。

こうした地域包括支援センターの役割を理解した上で、各選択肢の解説に移っていきましょう。

上記には「成年後見人制度の申立ての支援」が入っていますが、本事例の状態は「認知機能は徐々に低下し、1年前には、一人で買い物や金銭の管理をすることが困難な状態になった。最近は、食事や服の着替えについても介助が必要であった」とあるように後見開始の審判の申立てを行うべき状況であると言えます。

こうした支援を検討する場として地域ケア会議が挙げられ、これは高齢者個人に対する支援の充実と、それを支える社会基盤の整備とを同時に進めていく、地域包括ケアシステムの実現に向けた取り組みになります。

地域ケア会議は開催の目的・方法によって大きく、「地域ケア個別会議:個別事例の課題検討」と「地域ケア推進会議:地域に必要な取組を明らかにして施策を立案・提言」に分かれます(「介護予防のための地域ケア個別会議」は地域ケア個別会議に分類される)。

「地域ケア個別会議」は、市町村または地域包括支援センターが主催し、検討する事例のサービス担当者に限らず、地域の多職種の視点から課題の解決に向けた検討がされます(地域ケア会議の機能については「公認心理師 2023-133」を参照)。

本事例においても、地域ケア個別会議の中で後見開始の審判の申立てなどの検討をしていくことになるでしょう。

以上より、選択肢②および選択肢③が適切と判断できます。

① 自立支援医療の申請

自立支援医療(精神通院医療)とは、精神障害および当該精神障害の治療に関連して生じた病態や当該精神障害の症状に起因して生じた病態に対して、入院しないで行われる医療費を軽減する公費負担医療制度です(医療費の自己負担額を軽減する公費負担医療制度ですね)。

対象者は以下の通りになります。

  • 精神通院医療:精神保健福祉法第5条に規定する統合失調症などの精神疾患を有する者で、通院による精神医療を継続的に要する者
  • 更生医療:身体障害者福祉法に基づき身体障害者手帳の交付を受けた者で、その障害を除去・軽減する手術等の治療により確実に効果が期待できる者(18歳以上)
  • 育成医療:身体に障害を有する児童で、その障害を除去・軽減する手術等の治療により確実に効果が期待できる者(18歳未満)

更に、対象となる主な障害と治療例は以下の通りです。

  1. 精神通院医療:精神疾患→向精神薬、精神科デイケア等
  2. 更生医療、育成医療
    ア.肢体不自由:関節拘縮→人工関節置換術
    イ.視覚障害:白内障→水晶体摘出術
    ウ.内部障害:心臓機能障害→弁置換術、ペースメーカー埋込術、腎臓機能障害→腎移植、人工透析

上記には「精神疾患」とありますが、具体的に対象となる疾患としては、統合失調症、うつ病・躁うつ病などの気分障害、薬物などの精神作用物質による急性中毒又はその依存症、PTSDなどのストレス関連障害やパニック障害などの不安障害、知的障害・心理的発達の障害、アルツハイマー病型認知症・血管性認知症、てんかんなどになります。

上記にある通り、自立支援医療は、精神障害や、当該精神障害に起因して生じた病態に対して、精神通院医療を担当する医師による病院又は診療所に入院しないで行われる医療(外来、外来での投薬、デイ・ケア、訪問看護等が含まれます)が対象となります。

ですが、本事例の状態は「認知機能は徐々に低下し、1年前には、一人で買い物や金銭の管理をすることが困難な状態になった。最近は、食事や服の着替えについても介助が必要であった」であり、すでに外来医療での対応は限界があると考えるのが妥当です。

ですから、通院医療を受けることを前提とした自立支援医療の申請は、本事例の状態に合致する支援とは言えません。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。

④ 介護予防サービス計画の作成

介護予防サービスとは、居宅介護サービスともいい、2006年4月の介護保険制度改正に伴い新設されたもので、高齢者ができる限り要介護状態に陥ることなく、また、状態の悪化を防ぐために生活機能の維持向上や改善を目的としたサービスです。

介護予防サービスは、住み慣れた地域環境で自立した生活を継続していけるように支援するためのサービスであり、65歳以上の高齢者が要介護状態になることをできる限り防ぐ、状態がそれ以上悪化しないようにする、生活機能維持および向上を目的としています。

サービスを受けられる対象は基本的に自立した生活のできる要支援1・2の高齢者で、その状況に応じて、自立した生活が継続できるよう支援します。

要支援1および2の介護予防サービスは以下のような内容になっています。

  • 介護予防訪問入浴介護
  • 介護予防訪問看護
  • 介護予防訪問リハビリテーション
  • 介護予防通所リハビリテーション
  • 介護予防福祉用具貸与
  • 介護予防短期入所生活介護
  • 介護予防短期入所療養介護
  • 介護予防居宅療養管理指導
  • 介護予防特定施設入居者生活介護

なお、要支援の認定を受けていなくても、65歳以上の高齢者で基本チェックリストの結果により、認定された方が受けることのできるサービス(ホームヘルプ、デイサービス、ケアプラン作成)もあります。

本事例は「認知機能は徐々に低下し、1年前には、一人で買い物や金銭の管理をすることが困難な状態になった。最近は、食事や服の着替えについても介助が必要であった」という状況になっています。

すでに要介護認定を受けており、介護予防サービスの利用を検討する段階をとうに過ぎていると見るのが妥当ですね。

よって、選択肢④は不適切と判断できます。

⑤ 認知症初期集中支援チームとの連携

認知症初期集中支援チームについて厚生労働省によると「認知症になっても本人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で暮らし続けられるために、認知症の人やその家族に早期に関わる『認知症初期集中支援チーム』を配置し、早期診断・早期対応に向けた支援体制を構築する」ことを目的としています。

具体的には、複数の専門職が家族の訴え等により認知症が疑われる人や認知症の人及びその家族を訪問し、アセスメント、家族支援などの初期の支援を包括的、集中的(おおむね6ヶ月)に行い、自立生活のサポートを行うチームを指します。

配置場所は地域包括支援センター等となっていますね。

本事例は「認知機能は徐々に低下し、1年前には、一人で買い物や金銭の管理をすることが困難な状態になった。最近は、食事や服の着替えについても介助が必要であった」という状況になっています。

こうした状況において、複数の専門職が家族の訴え等により認知症が疑われる人や認知症の人及びその家族を訪問し、アセ スメント、家族支援などの初期の支援を包括的、集中的(おおむね6か月)に行い、自立生活のサポー トを行う「認知症初期集中支援チーム」は適切な選択肢ではないことがわかると思います。

その名の通り、初期対応・支援を中核的に担うチームなので、本事例のようにかなり認知機能の低下が進み、生活がままならなくなっている状態は対象にならないと見なすのが自然です。

よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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