公認心理師 2024-76

自傷行為をしている生徒の担任へのコンサルテーション内容に関する問題です。

何をするにしても、まずは見立て・アセスメントをきっちりとやりつつですね。

問76 24歳の男性A、中学2年生の担任教師。Aは、担任するクラスの生徒Bについて、スクールカウンセラーCに相談した。Aによると、Bは新年度当初から孤立傾向があり、時折元気がない様子ももられた。その一方、Bは授業を休まず、学校生活に適応しようと努力していた。AもBを励ましつつ様子をみてきた。しかし、先週、養護教諭がBの腕かみの痕跡を見つけ、即座にBから話を聞き対応した。その対応でBは落ち着き、少し元気を取り戻した。Aは自傷行為をする生徒を指導することが初めてで、今後どのようにBと関わっていけばよいか悩んでいる。
 CのAへのコンサルテーションにおいて、最初に含めるべき内容として、適切なものを2つ選べ。
① 自傷行為の基本的な理解の仕方を説明する。
② クラス集団作りのための心理教育プログラムの実施を提案する。
③ 自傷行為をしない約束を取りつけるよう、Bとよく話し合ってもらう。
④ AからBに、学校生活に適応するため、引き続き努力するように伝えてもらう。
⑤ Aと養護教諭の話を基に、Bの心理状態や自傷行為に関するアセスメントをしながら、Bの置かれている状況を共有する。

選択肢の解説

① 自傷行為の基本的な理解の仕方を説明する。
③ 自傷行為をしない約束を取りつけるよう、Bとよく話し合ってもらう。
④ AからBに、学校生活に適応するため、引き続き努力するように伝えてもらう。
⑤ Aと養護教諭の話を基に、Bの心理状態や自傷行為に関するアセスメントをしながら、Bの置かれている状況を共有する。

まず、本事例においては支援の方向性は2つあり、1つは担任に対する支援、もう1つは自傷行為をしている生徒への支援です。

前者の担任への支援として挙げられるのが、選択肢①にもある「自傷行為の基本的な理解の仕方を説明する」ということになります。

担任は「自傷行為をする生徒を指導することが初めてで、今後どのようにBと関わっていけばよいか悩んでいる」とありますが、こうした精神的な要因に起因する問題について適切な理解を有することで、適切な対応をしやすくなるのはわかりやすい話だと思います。

多くの不適切な対応は、その問題に対する無理解が潜んでいることが少なくないので、担任に対して自傷行為に関する適切な知識を伝えることは、担任の心理的負担を軽くするだけでなく、生徒を取り巻く環境をサポーティブなものにするという意味でも大切なアプローチであると言えます。

なお、私は自傷行為については、①相当な期間、感情を抑制するような状況に身を置いていた可能性が高い、②その感情が表面化したものとして自傷行為やその傷跡が存在する、③抑え込んでいた感情によって、その自傷行為の表現の仕方はさまざまな様態を見せる(例えば、不穏を抱えた自分を見てほしいという欲求であれば、どこか自傷行為に注目を集めるニュアンスが入ってくる等)といった説明を行うことが多く、そうした前提に立って、個別的にどういうニュアンスの感情・欲求を子どもが有しているかを仮説を立てて、具体的な関わり方について助言していきます。

自傷行為をどのように捉えるかは、それぞれの立場(治療やカウンセリングを行う場:学校か病院か、対応する病態の重さ:学校は軽い‐重いの幅が広い)によって変わってくると思いますが、自傷行為自体が「抑え込んできた何かしらの表出」という捉え方については共有して良いものだと思います。

そして、支援者として大切なのは、こうした「抑え込んできた何かしら」は本来ならば抑え込むべきものではなく、親子関係・対人関係の中で表出され、消化されるのが妥当であったものであり、異常なもの・理解不能なものでは本来ありません。

ですから、こうした「抑え込んできた何かしら」の表出である自傷行為は、改めて関係性の中で消化されるよう働きかけていくのが正着であり、自傷行為について「自傷行為をしない約束を取りつける」という対応は、その仕組み上不適切な対応であると言えます。

単に抑え込むだけでは、他の「出口」ができてしまうだけであり、本質的な問題解決には至りません。

もちろん、「自傷行為をしない約束を取りつける」という対応を採用しないということと、自傷行為をしても良いと保証することはイコールではありません。

この辺の機微は、自殺願望がある人に対して「死にたいという思い」を受容したとしても、死んで良いと了承したことにはならないのと同じであると言えば多少理解できるでしょうか。

ただ、私は相手によっては「自傷行為を実行するのを延期する」ということは提案します。

どうしてかというと、自傷行為に至っている人の場合、①何かしらの思いが湧いてくる、②自傷行為に至る、③生じていた①が沈静化する、という流れがあるわけですが、未治療の状態の場合は、①と②の間のスペーシングが著しく短くなっています。

要するに、何かしらの欲求が湧いてきたらすぐに自傷行為をしてしまうわけですが、自傷行為に至ってしまうことで、もともと生じていた①が当人に認識されることがなくなってしまうというマイナスがあります。

支援の目標は、自傷行為に至ってしまうような①を、クライエントが認識し、抱え、カウンセラーが①を抱えているクライエントを関係性を以て支える、そして、クライエント自身も①を抱えて苦しいけど自傷せずにいられる…という状態をつくることになります。

①と②の時間的距離が短すぎると、①の認識や抱えが生じにくくなってしまうので、自傷行為(②)を延期することで、①と②の間にタイムラグを作り、どういう欲求によって自傷行為に至ってしまっているのかを認識しやすくするというアプローチを行うわけです。

こうしたアプローチができる人ばかりではありませんが、こうした支援の形をイメージしておくと、その都度できることが創案しやすくなるというメリットがあります。

さて、本事例の支援の方向性として「自傷行為をしている生徒への支援」もあると述べましたね。

ただ、実際に支援に入るためには、Bがどういった状態で自傷行為に至っているのか、家庭状況はどうなのか、学校での適応はどうか、などをアセスメントしていくことが求められます(ちなみに「腕かみの痕跡」という自傷行為の形態は、やや衝動性を感じさせるものがありますから、その辺も含めて見立てていく感じですね)。

選択肢⑤の「Aと養護教諭の話を基に、Bの心理状態や自傷行為に関するアセスメントをしながら、Bの置かれている状況を共有する」ということを実践していくことになるわけですが、現時点において気になるのが「Bは新年度当初から孤立傾向があり、時折元気がない様子ももられた。その一方、Bは授業を休まず、学校生活に適応しようと努力していた」という記述です。

自傷行為(特に繰り返されているような自傷行為)については学校だけの要因で起こることは少なく、たいていは家庭の中での家族との関係性や、本人の精神生活の持ち方(感情を押さえがち、抑え込まざるを得ない家庭環境の存在など)などが影響するものです。

ですが、例えば、①家庭で自分の思いを抑え込むことが多い、抑え込まざるを得ない状況にある、という場合に、②Bは授業を休まず、学校生活に適応しようと努力していたという学校の状態像は心配なものになります。

①と②が相似形を成しているのは明白であり、学校と家庭とで同じような心理状態になりやすく、それが生徒の限界を超えているのではないかと考えることができるわけです。

ですから、選択肢④にある「AからBに、学校生活に適応するため、引き続き努力するように伝えてもらう」というのは、上記の見立てが否定されたときに、そして学校適応が生徒の支えになっていると思えるときになされる助言であり、現時点ではそこまでの見立てができている状況ではありません。

なお、選択肢④の「AからBに、学校生活に適応するため、引き続き努力するように伝えてもらう」を不適切とする理由として、「学校で努力していることが苦しいのでは」を挙げる人がいると思いますが、これは本質としては正しくありません。

自傷行為という事態は、単に学校で無理をしたという状況だけで生じるものと見なすべきではなく(もちろん、学校で通常範囲を超えている問題があるなら話は別。いじめに耐えているなど)、家庭やその中での精神生活と関連させて考える方が適切です。

以上のように、CのAへのコンサルテーションにおいて、最初に含めるべき内容としては、自傷行為の基本的な理解を説明すること、自傷行為をしている生徒のアセスメントを行うことが挙げられるでしょう。

自傷行為をしない約束や適応の努力の継続を勧めることなどは、自傷行為の仕組みを鑑みれば、また、アセスメント前の現時点では行うべきではありません。

よって、選択肢③および選択肢④は不適切と判断でき、選択肢①および選択肢⑤が適切と判断できます。

② クラス集団作りのための心理教育プログラムの実施を提案する。

こちらについては、生徒の自傷行為が「クラスの集団の中での過ごし方」や「クラスの落ち着きの無さ」などが要因になっていると見立てられたときに考えるべき内容ですね。

現時点ではそうした見立ては行われている状況ではありませんから、最初に提案することとしては不適切と言えるでしょう。

また、本事例の状況で「クラス集団作りのための心理教育プログラムの実施を提案する」ということを行えば、暗にクラス状況が悪いために自傷行為が起こったのだ、というメッセージを送ることになってしまいます。

状態の悪いクラスで本人が適応しようと無理したために自傷行為に発展した、というストーリーは確かにあり得なくもないですが、アセスメントが不十分な本事例の状況では第一選択とすべきではありません。

また、仮に状態の悪いクラスにいることが負担になっていたとしても、だからと言って自傷行為を行うことが自然かと言われれば、やはりそれは違うでしょう。

そこに生徒独自の要因や苦しさが潜んでいると考え、その点も含めて見立てていくことが重要になりますね。

以上より、選択肢②は不適切と判断できます。

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