公認心理師 2024-79

説明に合致する対人援助職のコンピテンシーを選択する問題です。

知らなくても解けるくらいわかりやすい内容でしたね。

問79 対人援助職のコンピテンシーの1つで、対象者とやりとりする中で絶えず自己を振り返り、相手への影響を考慮しつつ自己の言動を調整していくことを表す用語として、最も適切なものを1つ選べ。
① 自己開示
② 反省的実践
③ マインドフルネス
④ メンタライジング
⑤ 関与しながらの観察

選択肢の解説

② 反省的実践

臨床家を育成する従来の訓練モデルでは、大学院での履修科目の種類や科目履修時間などを設定することを定め、カリキュラムをどのように規定するかに重点が置かれてきたという歴史がありました。

しかし、カリキュラムを整備しても、実際にどのくらいの教育・訓練の効果が挙がったのか、その成果を明確に定義し、それが達成されていることが確認されるべきだという指摘がなされ、近年ではコンピテンシーという概念を用いた訓練モデルに移行しつつあります。

アメリカ心理学会(APA)では、1990 年代から大学院における心理学の訓練においてこのコンピテンシーの概念が議論されてきており、専門心理学実践の資質に関する特別委員会が2002年に設置され、心理職のコンピテンシーのあり方、その特化された領域ごとのコンピテンシー、コンピテンシーの評価の方法などについて活発に議論がなされてきました。

それは、何を教えるのかというカリキュラムをもとに教える側から訓練を定義することから、何を身につけ、できるようになったのかという学ぶ側から訓練を捉え直す変化であると言えます。

専門心理学実践の資質に関する特別委員会は、心理学実践においてのコンピテンシーの発達を図式化して表すコンピテンシー立方体モデルを発表しています。

このモデルでは、臨床的コンピテンシーは3つの軸からなっています(Rodolfa et al.,2005)。

【基盤コンピテンシー:基本的な姿勢のようなイメージ。図形の上部分】

  1. 専門家としての姿勢:心理職の価値観と倫理に基づく言動
  2. 反省的実践:自己の言動を振り返り、他者に対する自己の影響の認識や、自らを評価する
  3. 科学的知識と方法:科学的な研究から得られた知識を尊重し、効果的に応用する。
  4. 治療関係:個人やグループ、共同体と効果的に意味のあるやり方で関係を作る。
  5. 文化的ダイバーシティ:様々な価値、文化的背景などをもつ個人、集団に対する敏感さと配慮
  6. 他職種協働:他の専門家と効果的に協働作業ができる。
  7. 倫理・法的基準と政策:倫理的概念や法に関する知識を個人や集団に対して適用できる

【機能コンピテンシー:専門的な技能を指す。図形の正面部分】

  1. 心理的アセスメント:客観的な心理アセスメントと解釈、手法の理解と活用
  2. 介入:クライエントの特徴にあった介入計画、知識とスキル、成果の評価
  3. スーパーヴィジョン・教育:専門的知識やスキルの教授を受ける
  4. 研究と評価:研究とその方法への理解。知見の効果的な活用。
  5. 管理・運営:メンタルヘルスサービス、事業の管理と組織運営への関わり。
  6. コンサルテーション:リファー元に対する専門家としての助言や支援。
  7. アドボカシー:権利・利益を擁護し、代弁する。社会、政治、経済、文化的に影響を与え、個人、集団、システムの変化を促進する。

これらを踏まえると、本問の「対象者とやりとりする中で絶えず自己を振り返り、相手への影響を考慮しつつ自己の言動を調整していくことを表す用語」としては、反省的実践であることがわかると思います。

これは、行為がおこなわれている最中にも「意識」はそれらの出来事をモニターするという反省的洞察をおこなっており、そのことが行為そのものの効果を支えているとするドナルド・ショーンの議論のことであり、彼はこの洞察を「行為の中の反省」、その行為者を「反省的実践家 」と呼んでいます。

同名の著作「反省的実践家(1983)」では、この反省的実践の重要性を説きつつも、実際にはこの種の実践がいかに難しいものであるのかを説いています。

以上より、選択肢②が適切と判断できます。

① 自己開示

上記の解説の通り、「対人援助職のコンピテンシーの1つで、対象者とやりとりする中で絶えず自己を振り返り、相手への影響を考慮しつつ自己の言動を調整していくことを表す用語」は反省的実践になりますので、それ以外の選択肢の用語については、簡単な説明をして終えておくことにしましょう。

自己開示とは、他者に対して、言語を介して自分自身に関する情報を伝達する行為を指します。

主な特徴として、親密な他者には内面性(自己の否定的側面を含む程度)が高く、幅広い話題が開示されやすいこと、自己開示した程度と同程度の自己開示が他者から返される傾向(自己開示の返報性)が見られることが挙げられています。

また、内面性が高い話題の自己開示量が多いほど、精神的健康が促進されることが示されています。

なお、マイクロカウンセリングにおける「積極技法」の一つとして自己開示もありますが、それについてはこちらをご参照ください。

以上より、自己開示は「対人援助職のコンピテンシーの1つで、対象者とやりとりする中で絶えず自己を振り返り、相手への影響を考慮しつつ自己の言動を調整していくことを表す用語」ではないことがわかりますね。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。

③ マインドフルネス

「マインドフルネスに基づく認知行動療法」とか「第三世代の(認知)行動療法」など呼び名は様々かもしれませんが、これらの枠組みに共通する特徴をまずは述べていきましょう。

これらのアプローチには認知の機能に注目し、マインドフルネスとアクセプタンスを重視しているという共通点があると指摘されています。

仏教や禅などの東洋文化の流れを取り込んだ「マインドフルネス」とは、「今、この瞬間に、判断を加えずに、意図的に、注意を向けること(Kabat-Zinn,1994)」を指します(その後は、そのように注意を向けることで培われる「瞬間瞬間の、判断を入れないアウェアネス(気づき)」と変更されていますね)。

そして、「アクセプタンス」とは「体験を変えたり回避しようとせずに留まり十分に体験する」ことを指します。

これらは別々のものというよりも、例えば、マインドフルネスでは、その瞬間の体験に意図的に注意を向け続け、今の瞬間の体験に対して心を開いて好奇心をもってアクセプト(そのままにしておく)することで、結果的に思考や感情に対して脱中心化視点を獲得し、主観的で一過性という心の性質を見極めていくわけです。

こうした「文脈的な視点に立ち」「これまでの直接的な変容に加えて、間接的な方略を採用し」「変化の焦点を広く取る」のが、こうしたマインドフルネスやアクセプタンスを重視した第三世代の(認知)行動療法の特徴と言えるでしょう。

「今、この瞬間に、判断を加えずに、意図的に、注意を向けること」「その瞬間の体験に意図的に注意を向け続けること」といった意味をもつマインドフルネスですが、こうした説明は反省的実践のニュアンスに近いかもしれません。

ですが、「自己の言動を調整していくことを表す」を含む用語ではないので、やはりマインドフルネスは本問の解答とは異なると言えるでしょう(そもそも「対人援助職のコンピテンシーの1つ」ではありませんしね)。

それに、「対人援助職のコンピテンシーの1つ」という広い概念について問われているのに、マインドフルネスという一つの学派の概念が解答になるはずがないですね。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。

④ メンタライジング

メンタライジングとは、自己と他者の精神状態に注意を向けることを指します。

Allenら(アレン)は、「行動を、内的な精神状態と結びついているものとして、想像力を働かせて捉える・解釈すること」としています。

自分や他者の精神状態に注意を向け、その精神状態についての認識を心にとどめおいて、考えたり吟味したり感じたりすることであり、この自分自身や他者の感情について注意を向けて考えている時(精神状態を認識している時)に「メンタライズしている」と表現します。

 「心で心を思うこと」「自己や他者の精神状態について注意を向けること」「誤解を理解しようとすること」「自分自身をその外側から眺めること、他者をその内側からみつめること」「(何か/誰かに)精神的性質を付与すること、あるいは精神的に洗練させること」などが重要とされ、愛着理論や認知療法などと重なる概念でもありますね。

メンタライジングは、人が円滑な社会的生活を営む上で重要な能力であることがわかると思います。

メンタライジングの始まりは、乳児期初期の社会的知覚だと考えられています。

すなわち、人に対する志向性から始まり、母子関係に代表される二項関係、さらに第三者もしくは対象物を含む三項関係の成立(共同注意などがその代表的現象ですね)、そして他者の誤信念を理解する「心の理論」の成立へと続いていくとされています。

こうしたメンタライジングの内容を把握していると、もしかすると「対象者とやりとりする中で絶えず自己を振り返り、相手への影響を考慮しつつ自己の言動を調整していくことを表す用語」は何となく近く感じるかもしれません。

しかしやはり説明の内容には違いがありますし、そもそも「対人援助職のコンピテンシーの1つ」ではありませんね。

よって、選択肢④は不適切と判断できます。

⑤ 関与しながらの観察

サリヴァンの関与しながらの観察については、その著書「精神医学的面接」で詳しく述べられております。

以下が精神医学的面接における「関与しながらの観察」の関連部分です。

「「精神医学とは科学的方法を適用する根拠を有する領域である」とみなされるようになって以来のことであるが、われわれは「精神医学のデータは関与的観察をとおしてのみ獲得できるものである」という結論に達した。…目下進行中の対人作戦に巻き込まれないわけには行かないのである。精神科医の主要観察用具はその「自己」である。その人格である。個人としての彼である。また、科学的検討に適合してデータとなりうるものは過程および過程の変化である。これらが生起するところは…観察者と被験者とのあいだに創造される場(situation)においてである」(p19)

「純粋に客観的データというものは精神医学にはない。さりとて主観的データとそのままで堂々と通用するものもない。素材を科学的に扱うためには力動態勢や過程や傾向性をベクトル的に加算して力積をつくらなければならない。力積の作成操作を推論という。推論があちこちに飛び、思いがけない形を見せるところに精神医学研究の困難もあり、実用に耐える精神医学的面接の難しさもある」(p19-20)

「精神科医は面接の中で起こる事態のすべてに深く巻き込まれ、そこから逃れられない。精神科医が面接への自らの関与に気づかずそれを意識しない程度がひどいほど、目の前で起こっていることに無知である度合いも大きくなる」(p41)

「“客観的”観察のようなものは存在しない。あるのは「関与的観察」だけであり、その場合はきみも関与の重要因子ではないか」(p141)

「ジェスチャーや信号は、現在進行中の問答に関する面接者の考えをあけひろげにみせるものではないかもしれないが、被面接者に対して「面接者が人間である」ことを示唆する役には立つわけで、それで十分患者の支えになる」(p142)

「何を考えているのかの手がかりを全然示さない人、二人でどのようにしてゆくのが良いのかの鍵を全然与えてくれない人に面接を受けて、人生の大事な一面を検討されるとしたらどんなものだろうね?…要するにわれわれは(そんな能面のような人を相手としていたら)誰も自分の安全を感じないのである」(p142)

「精神医学は対人関係を研究する学である。対人関係は対人の場においてしか生じない。…対人の場とは二人の人間が互いに関わり合っている場合をいうのであって、この関わり合いを統合と言っている」(p80)

要するに、関与しながらの観察とは、治療者が臨床実践を行うにあたって重要なこととして、精神科医のサリヴァンが提唱した臨床的態度のことです。

治療者は面接において、あるいはクライエントが入院している病棟内などでクライエントと接し、その様子を観察しますが、その際に自分が与える影響を完全に排除してクライエントを観察することはできません。

治療者はクライエントに対して一方的な観察者であるということはなく、存在しているだけでも、クライエントに何らかの影響を与えていることは間違いないのです。

サリヴァンは、人間の行動を本当に理解するためには、その人を取り巻く人間関係の中で理解していく必要があることを説きました。

こうした関与しながらの観察という概念は「対象者とやりとりする中で絶えず自己を振り返り、相手への影響を考慮しつつ自己の言動を調整していくことを表す用語」とは異なることがわかりますね。

よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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