公認心理師 2020-133

高齢者に副作用の少ない睡眠薬を選択する問題です。

そもそも「高齢者でなくても副作用が強い薬剤」もありますから、その辺から一つずつ選択肢を狭めていきたい問題と言えます。

問133 高齢者に副作用の少ない睡眠薬として、適切なものを1つ選べ。
① バルビツール酸系薬剤
② フェノチアジン系薬剤
③ オレキシン受容体拮抗薬
④ メラトニン受容体作動薬
⑤ ベンゾジアゼピン受容体作動薬

解答のポイント

各睡眠薬の特徴を把握していること。

その上で、高齢者に副作用の少ない薬剤の把握ができていることが望ましい。

選択肢の解説

本問で示されている睡眠薬に限らず、高齢者の薬物治療には特別な配慮が必要になります。

その理由について、まずは薬物動態の4相(吸収・分布・代謝・排泄)から見ていきましょう。

  • 吸収:
    年を取ると、食べるものが低脂肪になったり、胃粘膜が萎縮したり、消化管の血流が低下したり、消化管の運動が弱くなるので、これらが薬物の吸収に様々な影響を及ぼす可能背があります。
    このため、薬物の吸収は概して遅れる傾向にありますが、他の相に比べると変化は小さいとされています。
  • 分布:
    加齢とともに体液量は減少し、これに伴い体脂肪率が増加します。
    このため、水に溶けやすい性質を持った薬は、溶け込むことができる水分が減るので血中濃度が上昇し、効き目も副作用も強く出やすくなります。
    一方、脂に溶けやすい性質を持った薬は、相対的に増加した死亡に溶けて体内に長くとどまるため、作用時間が長引きやすくなります。
  • 代謝:
    肝臓の薬物代謝酵素の働きは年をとってもあまり変化しませんが、加齢とともに肝臓自体の血流量や肝臓全体の重量が減少します。
    従って、これらの影響を受けやすい一部の薬では代謝が遅くなり、血中濃度が上昇しやすくなります。
  • 排泄:
    最も加齢の影響を受けやすいプロセスです。
    薬の排泄に携わる主要臓器は腎臓と肝臓ですが、どちらも加齢によって働きが衰えます。
    特に腎臓は、加齢の影響を最も受ける臓器の一つです。
    腎臓は血液を濾して尿を作るネフロンと呼ばれる機能単位がたくさん集まってできていますが、ネフロンの数は年齢とともに減っていくため腎排泄能は年とともに衰えます。
    大部分の薬は腎臓から排泄されるので、腎機能が低下すると多くの薬の血中濃度が上昇しやすくなり、また体内に薬が長く留まりやすくなるため、効き目も副作用も強くなります。

また、加齢とともに体のいろいろな機能が衰えるため、高齢者では若年者と性質の異なる副作用が現れやすくなります。

なかでも、脳や神経の機能が衰えるために精神症状や神経症状が現れやすいことが高齢者の副作用の特徴です。

さまざまな薬によって、中枢神経症状(幻覚、妄想、錯乱、不安、抑うつ、傾眠、記憶障害、不随意運動など)や自律神経症状(起立性低血圧、便秘、尿閉、尿失禁など)などが起こりやすくなります。

また、「元気がない」「食欲がない」「フラフラする」など、あまり特徴のない症状が高齢者では良く見られます。

特に、向精神薬や自律神経に作用する薬を用いるときには、こうした症状が現れやすくなります。

薬が原因と気づかずに本当の病気と思い込んで、別の薬を投与してしまって副作用を増やしてしまいかねませんので、注意が必要です。

このように高齢者の薬物療法では、その投与には慎重になる必要があり、特に注意するポイントとしては以下の通りになります。

  1. 不必要な薬を用いない
  2. 高齢者に合う薬を選ぶ
  3. 原則として、少なめの量から用いる
  4. 使い方をできるだけ単純にする
  5. 対症療法薬を漫然と用いない
  6. 他の医療機関で処方された薬に注意する
  7. 服薬を管理する

これらは高齢者への薬物療法全般の注意点となります。

それでは、これらを踏まえて各選択肢の解説に入っていきましょう。

① バルビツール酸系薬剤

バルビツール酸が合成されたのは1864年のことであり、最初のバルビツール酸系睡眠薬が臨床で用いられたのは1903年とされています。

現在もなお使用はされていますが、最近は別系統の睡眠薬が用いられることが多くなっています。

その理由としては、バルビツール酸の特徴と、次のような問題点があるためです。

  1. 常用量と致死量の幅が狭く、外来で処方した2週間分をまとめて服用すれば重篤な昏睡状態に陥る。アルコールや他の中枢抑制薬を同時に飲んだ場合は致死量はさらに低くなる。
  2. 薬理学的耐性が急速に(2、3日目から1か月くらいの間に)生じ、用量を増加しないと睡眠効果が得られなくなる。
  3. 常用量を連用している限りでは、身体依存は起こらないが、精神依存を生じる。大量に連用すると身体依存を生じ、離脱時に様々な身体症状を呈する。
  4. 入眠潜時を短縮し、中途覚醒時間を減じ、3、4段階の睡眠を減らすが、最も顕著な変化は、REM睡眠潜時を延長し、REM睡眠時間を短縮し、REM睡眠終期の回数を減らすなどREM睡眠活動を減弱させることである。慢性にバルビツール酸を服用した後、急に中断するとREM睡眠が反跳的に増加し、悪夢を伴う不眠を生じる。
  5. 肝臓の薬物代謝酵素を誘導する。したがって、肝臓で代謝を受けるような薬剤を併用している場合、その薬剤の効果が低下する。例えば、鎮痛薬、抗ヒスタミン薬など。

上記に加えて、呼吸抑制効果もあるので、高齢者への使用は特に慎重になる必要があります。

最も顕著なのは依存性の高さであり、こうした副作用の存在からベンゾジアゼピン系睡眠薬が用いられることが増えたとされています(これは高齢者に限らずですが、高齢者ならば尚更とも言えるでしょう)。

以上より、選択肢①は不適切と判断できます。

⑤ ベンゾジアゼピン受容体作動薬

上記のような理由から、バルビツール酸系睡眠薬が用いられなくなり、それに代わって容認性(薬物によって生じることが明白な有害作用が、被験者にとってどれだけ耐え得るかの程度を示したもの)の高いベンゾジアゼピン系睡眠薬へと主役が移りました。

ベンゾジアゼピン受容体作動薬は向精神薬の中では副作用が少ない方ではありますが、高齢者に対しては残遺効果(持ち越し効果:「公認心理師 2020-41」で解説済み)に注意が必要です。

睡眠薬の効果は主に夜間に働きますが、翌日昼間にも残る鎮静は「残遺効果(持ち越し効果)」と呼ばれる副作用です。

鎮静作用、催眠作用により、眠気、頭重、頭痛、脱力、倦怠感、めまい、ふらつき、構語障害などが出現し、これらは精神運動機能や認知行動機能を障害します。

注意力や集中力の低下により交通事故なども起こしえるので注意が必要です。

この作用には、睡眠薬の半減期と薬用量が関係します。

超短時間型睡眠薬ではあまり起こらず、短時間型睡眠薬も翌朝までに排泄されるので蓄積が少なく起こりにくいのが一般的ですが、高齢者は睡眠薬の血中濃度が高くなるので、蓄積される可能性があります。

また、中時間型と長時間型睡眠薬を毎日服用すると、徐々に体内に蓄積して、持ち越し効果が起きやすくなります。

そうなるとベンゾジアゼピン系睡眠薬の副作用である筋弛緩効果(による転倒・骨折)、倦怠感、せん妄等のリスクが高まるとされています。

このほか、認知機能障害や長期の服用による耐性・依存の形成もベンゾジアゼピン系睡眠薬では生じやすい反応とされています。

こうした事情により、ベンゾジアゼピン系睡眠薬と比較して筋弛緩作用が弱く、転倒リスクが低い非ベンゾジアゼピン系睡眠薬が、高齢者に多く処方されてきたという経緯があります。

以上より、選択肢⑤は不適切と判断できます。

③ オレキシン受容体拮抗薬
④ メラトニン受容体作動薬

こうした中、ベンゾジアゼピン受容体に作用しない新しい作用機序を有するメラトニン受容体作動薬が2014年に、オレキシン受容体拮抗薬が2015年に国内販売が新たに開始され、処方頻度も年々増加しています。

新たに発売されたメラトニン受容体作動薬は、ベンゾジアゼピン系薬剤に比べると耐性や依存性はなく、副作用も少なく安全性が高いとされています。

メラトニン受容体作動薬は、松果体から放出される睡眠促進ホルモンであるメラトニンと同様にメラトニン受容体を刺激することで睡眠を促します。

メラトニンは概日リズムの睡眠期や生殖活動のコントロールに関与しており、メラトニンの投与により時差ぼけ、交代勤務、視覚障碍者の非24時間睡眠覚醒症候群、睡眠相後退症候群などの概日リズムの様々な障害が改善し、しかも頭痛や吐き気といった副作用もほとんどないという報告があります(概日リズムについては「公認心理師 2020-86」も参考のこと。メラトニンも出てきていますね)。

高齢者の睡眠障害には夜間のメラトニン低下が関与している可能性があり、この年代の不眠にはメラトニンは特に魅力的な治療薬です(実際に、高齢者の中途覚醒にメラトニンの補充が有効であったとする報告があります)。

オレキシン受容体拮抗薬は、覚醒を維持する神経伝達物質であるオレキシンの受容体(オレキシン1およびオレキシン2)への結合を競合的に阻害することで、過剰な覚醒状態を抑制し、脳を覚醒状態から睡眠状態へと移行させる生理的なプロセスをもたらします。

入眠効果と睡眠維持効果があり、認知機能テストによる評価でも持ち越されないことが示されています。

また、ベンゾジアゼピン系薬剤に比べ耐性や依存性が少ないとされています。

このように、メラトニン受容体作動薬およびオレキシン受容体拮抗薬は依存性や転倒リスクの低さという点からみても、高齢者に投与しても比較的副作用の少ない薬剤と言えます。

以上より、選択肢③および選択肢④が適切と判断できます。

② フェノチアジン系薬剤

フェノチアジン系薬剤は抗精神病薬であるクロルプロマジンが代表的なものです。

統合失調症急性期の不眠の対応として用いられることが多かったですが、最近では非定型抗精神病薬を用いることが多いとされています(躁状態の夜間鎮静にも使われてきたが、同様に非定型抗精神病薬を使うようになってきている)。

フェノチアジン系薬剤には鎮静作用がありますが、血清中濃度は加齢に伴って上昇し、この傾向は65歳を過ぎると顕著になるため、高齢者にはその使用自体を控えるか、又は、初期投与量を相当程度低く抑えるべきであるとされています。

なお、フェノチアジン系薬剤は「高齢者に対して特に慎重な投与を要する薬物のリスト(日本老年医学会)」にも挙げられており、錐体外路症状、抗コリン作用、起立性低血圧、過鎮静を示すことが指摘されています(ちなみに、バルビツール酸系睡眠薬、ベンゾジアゼピン系睡眠薬もこの中で挙げられていますね)。

以上のように、フェノチアジン系薬剤は種々の副作用が生じやすく、高齢者には投与したとしてもかなり慎重である必要が示されていますね。

よって、選択肢②は不適切と判断できます。

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