公認心理師 2024-72

事例状況での行われている面接法を推定し、必要な対応を選択する問題です。

まずは何という面接法が行われているのか理解していないと解けない問題ですね。

問72 10歳の女児A、小学4年生。Aは、母親が他界したため、父親と二人暮らしである。ある日、Aの担任教師が、Aの腕と足にあざがあるのを見つけてAに尋ねると、Aは、「家に帰りたくない」と泣き出し、「お父さんに身体を触られて、やめてと言ったら殴られた。いつも殴られる」と話した。学校は虐待の疑いがあると判断して、児童相談所に通告し、児童相談所はAを一時保護した。児童相談所は警察、検察と協議して、Aに対して、3機関で協同面接を実施することとした。
 面接者が面接の過程で行うAへの対応として、不適切なものを1つ選べ。
① 「質問の答えを知らなければ、知らないと言ってください」と面接のルールを伝える。
② 本題と関係ない最近の身近な出来事を、思い出して話す練習をさせる。
③ 本題について、自由報告を求める。
④ 途中で面接者を交代して、補充質問をする。
⑤ 終了前に、他に話しておきたいことはないか尋ねる。

選択肢の解説

① 「質問の答えを知らなければ、知らないと言ってください」と面接のルールを伝える。
② 本題と関係ない最近の身近な出来事を、思い出して話す練習をさせる。
④ 途中で面接者を交代して、補充質問をする。

まず本問はそうとは書いてありませんが、司法面接に関する出題になっています。

虐待という犯罪状況において、被害者であるAに対して「法的な判断のために使用することのできる精度の高い情報を、被面接者の心理的負担に配慮しつつ得るための面接法」である司法面接を実施するという形になっています。

事例では「児童相談所は警察、検察と協議して、Aに対して、3機関で協同面接を実施することとした」となっていますが、これが司法面接の特徴でもあります。

司法面接にはさまざまな種類がありますが、①正確な情報をより多く引き出すこと、②子どもへの精神的負担を最小限にすることは共通の目的であり、それが最大限生かされるように工夫されています。

この②の子どもの負担を減らすための工夫として…

  • 記憶の変容や汚染が起きないように、また供述が変遷しないように、できるだけ早い時期に、原則として1度だけ面接を行う。
  • 面接を繰り返さないで済むように、録画・録音という客観的な方法で記録する。
  • これも子どもが何度も面接を受けることを防ぐためであるが、複数の機関が連携して、1度で面接を行うか、面接の録画を共有できるようにする。

…といった特徴を有しております。

本事例で複数機関が合同で面接を実施するのは、被面接者の負担を減らすため1度で面接を終えるためです。

また、面接者が変わることで、新たな面接者に再度慣れねばならないという負担を被面接者に強いることになってしまいますから、選択肢④の「途中で面接者を交代して、補充質問をする」ということは行われません。

その代わり、バックスタッフと呼ばれる面接者を支援する役割の専門家が別室に控えることになります。

バックスタッフは、チームとして面接者とともに面接を計画し、面接を支援していくことになります。

面接室に入るのは面接者のみですが、面接の終了間際、面接者は休憩を取り、モニター室にいるバックスタッフと足りない情報は無いか、曖昧な情報は無いかをチェックし、残りの質問について検討していき、再度面接者が面接に入り、残りの質問を行っていくという形を取ります。

というわけで、本問は司法面接に関する内容になっていますが、司法面接を順を追って説明していきましょう。

導入の段階では、以下のような「最小限の手続き」を行います。

導入には7~8分ほどに要するとされます。

  1. 挨拶・説明:
    子どもが面接室に入ってきたら、面接者はドアまで出向いて子どもを暖かく迎え入れ、椅子に座らせ、自己紹介を行い、面接の目的を告げる。なお、この段階で、録音・録画機材の説明を行い、モニター室にいるバックスタッフのことも告げる。
  2. グラウンドルールの説明:
    ①「今日は本当のことを話すのが大切です」
    ②「質問の意味がわからなければ「わからない」と言ってください」
    ③「質問の答えを知らなければ「知らない」と言ってください」
    ④「私が間違ったことを言ったら「間違っているよ」と言ってください」
    ⑤「私はその場にいなかったので何があったかわかりません。どんなことでも○○さんの言葉で全部話してください」
  3. ラポール形成:
    「○○さんは何をするのが好きですか」などのように、安心して話せるような関係性を築く。子ども自身が自分の持っている知識や体験を自分の言葉で話すのだということを、ここで理解してもらう。なお、ここで言うラポールとは、カウンセリングにおける親密な関係ではなく、安心して話せるような関係性のことを指す。
  4. 出来事を思い出して話す練習:
    司法面接ではエピソード記憶が重要だが、意味記憶との混乱が生じることも多い。そこで、過去の出来事を思い出して話す練習をしてもらう。例えば「今朝起きて、ここに来るまでにあったことを、全部思い出して話してください」と記憶喚起を求め、子どもが話し始めたら、それを遮ることなく聞いていく。

こうした手続きの上で、本題に入っていきます。

ここまでが導入段階になりますが、この時点で選択肢①の「「質問の答えを知らなければ、知らないと言ってください」と面接のルールを伝える」や選択肢②の「本題と関係ない最近の身近な出来事を、思い出して話す練習をさせる」が組み込まれていることがわかりますね。

よって、選択肢①および選択肢②は適切と判断でき、除外することになります。

また、選択肢④が不適切と判断でき、こちらを選択することになります。

③ 本題について、自由報告を求める。
⑤ 終了前に、他に話しておきたいことはないか尋ねる。

法的判断に役立つ正確な情報を引き出すためには、誘導や暗示の影響を最小限にしなければなりません。

面接における誘導・暗示は、面接者の言葉に由来することが多い(例えば「〇〇が叩いたの?」という質問は被疑者の名前や叩いたという問題となる行動に関する情報を含んでしまっている)ため、これを避けるため、被面接者自身にできる限り語ってもらうことが重要です。

自由報告ではオープン質問により、子どもから、問題となっている出来事の報告を得ます。

なお、司法面接における質問の種類については以下の通りです。

  • オープン質問:
    「話してください」「そして」「それで」など。
    より正確で、より多くの情報を含んでいる。
  • WH質問(焦点化質問):
    「いつ」「どこで」「だれが」など。
    応答は短くなりがちだが、その内容は比較的正確である。
  • クローズド質問(選択肢の提示):
    「はい」「いいえ」あるいはAかBか等で答える選択式の質問。
  • 誘導質問:
    「~ですね」等の「はい」を誘発する質問。質問の「~ですね」が「はい」を引き出すタグとして機能するので、タグ質問とも呼ばれる。
    クローズド質問および誘導質問への応答は短いものになりがちである。また、質問に含まれる命題(「Aですか?」に対して「Aである」)への黙従が起きたり、質問に含まれる命題が記憶を汚染するなどの可能性がある。

これらの知見を踏まえ、オープン質問を用いて子どもの自由報告を最大限得ようとすることが、司法面接の特徴の1つと言えます。

一定の情報が得られ、さらなる情報を得るためにクローズド質問を用いる必要が出てきたならば、面接者はブレイクを取ります。

ブレイクとは「中断」「休み時間」という意味で、その間に面接者はモニター室などにいるバックスタッフと話し合い、欠けている情報や明確にすべき情報について、どう尋ねるかについて支援を受けます。

そして、必要に応じてクローズド質問等を行っていくこともあります。

クローズド質問・誘導質問になりやすいが、確認せずにおくことが不適切な情報は以下の通りです。

  • 加害者の言葉:
    脅しや口止めをしていたかどうかは、被疑者の意図を推察する上で重要。
  • その場に誰がいたか:
    他に加害者がいないか、目撃者や被害者がいないか確認する。
  • 子どもがこの出来事について、他の誰かに報告しているかどうか:
    すでに開示があれば、その人物からも情報収集ができる。
  • 疑われる出来事について何も話さなかった場合の質問:
    「○○さんは叩かれたことがありますか」などのように被疑者の名前は伏せて尋ねる方がよい。そこで「はい」と答えれば、オープン質問によって更に情報を得る。

これらの手法を用いて情報を収集し、それが十分であればクロージングになります。

あるいは上記の質問をしても情報を得ることができなくてもクロージングになります。

クロージングでは、報告してくれたことに対して感謝するとともに、他の面接者が知っておいた方がよいこと、子どもが話しておきたいこと、子どもからの質問などを受けます。

この段階で、子どもから「おじさんは牢屋に行くの?」や「これは絶対にお母さんには言わないで」などの質問や希望が出されることがあります。

司法面接における面接者は、単なる情報収集者であり、意思決定や情報提供を行う立場ではないので、「私一人で今すぐ決めることはできないけど、〇〇さんの話したことをもとに、他の人たちとも一番良い方法を考えますね」などと説明することになります。

また、「どうしてそう思うの?」と尋ねることで、更なる情報が得られる可能性もあります。

やがてサポーターが面接室に子どもを迎えにくるので子どもを見送り、面接を終了します。

こうした手順で司法面接は展開していくわけですが、ここまでで選択肢③の「本題について、自由報告を求める」のは司法面接の基本構造であること、選択肢⑤の「終了前に、他に話しておきたいことはないか尋ねる」は司法面接のクロージングの手続きであることがわかりますね。

よって、選択肢③および選択肢⑤は適切と判断でき、除外することになります。

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