公認心理師 2023-96

家族療法の理論・概念に関する問題です。

だいたいは過去問で出題されていますから、比較的解きやすい問題と言えますね。

問96 家族療法において、逸脱を増幅する正のフィードバックと、安定性を維持する負のフィードバックにより情報が伝達され、家族システムが制御されることを表す用語として、正しいものを1つ選べ。
① 自己分化
② 二重拘束
③ 円環的因果律
④ サイバネティクス
⑤ 家族ホメオスタシス

解答のポイント

家族療法やその基礎となった理論・概念について把握している。

選択肢の解説

① 自己分化

ワシントン国立精神衛生研究所のBowenによる「多世代派」が提出されています(望遠鏡(ボーエン)で遠くまで見通している(多世代)ようなイメージ)。

ボーエンは「自己分化」という概念のセラピーの中心に据えており、「感情と理性が独立して機能している」「内的プロセスが外的刺激に過度に翻弄されない状態」のことを自己分化した状態として、これを目指すことを重視しています。

すなわち多世代学派では、治療目標を構成員の個別化と自律性の促進に置いており、個人の「自己分化」と呼ばれる知性と情緒性の分化が達成されているか否かを重視しているということになりますね。

自己分化度が高いと、個人の個別性が確立され、他者との関係性もバランスの取れたものになるとされますが、それが低いと、過度に感情的(感情で巻き込んで融合的になっていく)or知性的(宿題やらなくて困るのは子ども自身ですから、みたいな感じ)になってしまいます。

多世代学派で特徴的なのがジェノグラムの活用で、「多世代」と呼ばれるのは、こうした家族の歴史を見ていく中で、世代を超えて受け継がれていくもの(=世代間伝達)があると見なすためです。

ちなみにジェノグラムとは上記のようなものですね(視覚的に把握するのに便利ですから、その場でさっと書けると役立ちますよ。線の書き方などで、関係性も反映させることが可能です)。

この学派は、もともと統合失調症の家族研究をしたボーエンが、家族療法を体系化したもので、ボーエンの理論には以下の8つの基本概念があります(これらは、個人・核家族・多世代にわたる拡大家族・社会という次元で展開します)。

  1. 三角関係化:
    2人で構成される感情システムが不安定で、第3者を引き込むことで安定を構成する。妻が夫の悪口を子どもに言う、など。
  2. 核家族の感情過程:
    夫婦間で緊張がある時、家族システムの安定のため以下の方法を採る。
    ①感情遊離 ②夫婦衝突 ③配偶者の不適応 ④子の損傷
  3. 家族投影過程:
    両親の自己分化レベルが子どもたちにも伝えられる過程。多くの場合、長子になる。
  4. 分化の尺度:
    感情システム・知性システムの分化尺度(0~100で示される)。
    低分化なほどストレスの影響を受けやすい。
  5. 多世代伝達過程:
    家族投影過程の拡大版で、子から孫へ、孫からひ孫へと多世代に伝達。
    伝達の過程で分化度は、子<親となる(統合失調症では8~10世代とした)。
  6. 感情的切断:
    子が親との感情的結びつきを切り、親の感情的融合から身を守ること。
  7. 同胞での位置:
    同胞の位置が、その個人の分化度に重要な影響を与える。
    実際の位置のみでなく、機能的位置も重要。
  8. 社会的感情過程:
    こうした家族システム理論が、社会システムにも該当する。

こうした自己分化のレベルが「世代間伝達」する可能性も指摘されているわけですね。

このように「自己分化」とは、家族療法の多世代派がよく用いる表現であり「感情と理性が独立して機能している」「内的プロセスが外的刺激に過度に翻弄されない状態」と定義され、この状態を目指すことを重視しています。

これは本問の「家族療法において、逸脱を増幅する正のフィードバックと、安定性を維持する負のフィードバックにより情報が伝達され、家族システムが制御されることを表す用語」とは合致しないことがわかります。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。

② 二重拘束

ここではベイトソンが示している「ダブルバインド状況を構成する必要条件」をまずは示しましょう。

なお、以下の記述はこちらの書籍からの引用になります。

  1. 二人あるいはそれ以上の人間の存在:この複数の人間の内、一人を「犠牲者」としてみることが、定義上必要である。その犠牲者にダブルバインドを課すのは母親とは限らない。母親だけでなく、他の家族成員との組み合わせでダブルバインドが成立する場合もある。
  2. 繰り返される経験:ダブルバインドは、犠牲者に繰り返し示されるテーマである。トラウマのように1回の経験が心の傷を与えるというものではなく、繰り返される経験によってダブルバインド構造に対する構えが習慣として形成される。
  3. 第一次の禁止命令:「これをすると、お前を罰する」もしくは「これをしないと、お前を罰する」といういずれかの形式を取ることになる。処罰の形として思い浮かぶのは、愛情の停止、憎しみや怒りの表示、最も過酷なケースとしては「お前はもうどうしようもない」ということを強度に表現する「見捨てられ」の経験が挙げられる。
  4. より抽象的なレベルで第一次の禁止命令と衝突する第二の禁止命令:これは第一の禁止命令と同じく、生存への脅威となる処罰またはその示唆を伴うものである。この命令の言語化は難しいが、その理由としては、①非言語的手段によって伝えられることが多い(ポーズ、ジェスチャー、声の調子、仕草、言葉の含意など)、②第二の禁止命令を言語化すると、第一の禁止命令と矛盾が生じる(翻訳しようとすると何が何やら訳が分からなくなる)、などが挙げられる。片方の親が第一を、もう片方が第二を担当することもあり、そうなれば事態はさらに複雑である。
  5. 犠牲者が関係の場から逃れるのを禁ずる第三次の禁止命令:形式的には、この禁止命令を独立で挙げることは不要かもしれない。なぜなら、第一および第二の禁止命令が強化されること自体に、生存の脅威が内包されており、また、幼児期にダブルバインドを引き入れられた者は、そもそも脱出の可能性を持たない。ただし、脱出を食い止められるための積極的な働きかけがなされるというケースも存在する。
  6. 犠牲者が自らの世界をダブルバインドのパターンによって知覚するようになってしまえば、以上の構成因子が完全にそろう必要もない。そうしたケースでは、ダブルバインド状況の任意の部分が現れるだけで、パニックが憤激が引き起こされることになる。

これらをまとめると、「相反する2つの禁止命令(こっちに来なさい!、と怒りながら言う:怒っているから近づきにくいが、「近づけ」というメッセージがある)ために混乱をきたし、そのメッセージに曝され続けることで精神的な問題が出やすくなる」ということだと言えます。

そして、こうした状況に置かれた結果、さまざまな反応が出ることになりますが、犠牲者が自己を防御するために取る方法は大きく3つ示されています。

まず1つ目が、あらゆる言葉の裏に自らの脅かす隠れた意味があるように思い込むケースであり、隠された意味に過度のこだわりを示し、誰にも騙されないという態度を取り、他人の言葉の裏の意味や、自分の周囲に起こる偶発的な出来事の背後に潜む意味を絶えず探し求め、その結果、猜疑心が強く他人を寄せ付けない人間になっていきます。

2つ目が、人が自分に言うことを、すべて字句通りに受け取るようになるケースであり、言葉とは裏腹な口調やジェスチャーがあったとしても、言葉の方に固執して、メタコミュニケーションのシグナルには全く意に介しません。

3つ目が、耳を塞ぐという方法であり、周りで何が起ころうとも、それを見ようとも聞こうともせず、固く身を閉ざして、周囲の反応を刺激することも必死になって避けようとするパターンであり、自分の関心を外部の世界から引き離し、自分の心の動きだけに集中する結果、一人殻に閉じこもるようになります。

ベイトソンは、それぞれを統合失調症の妄想型・破瓜型・緊張型に相当し、それぞれのやり方で自己防衛を図ると考えていました。

このように二重拘束とは「二つの矛盾したメッセージを出すことで、相手を混乱させる可能性のあるコミュニケーションのこと」ですから、本問の「家族療法において、逸脱を増幅する正のフィードバックと、安定性を維持する負のフィードバックにより情報が伝達され、家族システムが制御されることを表す用語」とは合致しないことがわかります。

以上より、選択肢②は不適切と判断できます。

③ 円環的因果律
⑤ 家族ホメオスタシス

システム的家族療法は、システムズ・アプローチ(対象とするシステムの目標を規定するすべての要因を抽出し、これらの相互作用の分析・検討によって、要因とその効果との関連を明らかにしようとするもの)に準拠して、家族関係を記述し、説明する家族療法を指します(理論モデルは、家族システム理論と呼ぶ)。

システムは、生物学者von Bertalanfyの「一般システム理論」によって広まった概念です。

フォン・ベルタランフィの一般システム理論の特徴は以下の通りとなります。

  • ある要素は、更にある特徴によって小さく分けられるサブシステムより成り立っており、システムはより大きい階層システムのサブシステムである。
  • システムは部分の集まりではなく、部分があるパターンによって組み合わせれてできた統合体であり、その独自性は境界によって維持されている。
  • システムは、もの、エネルギー、情報をシステムの外の環境と交換するかしないかによって、開放システム・閉鎖システムに分けられる。
  • 多くの場合、システム内の活動は未知であり、インプットとアウトプットのみが知覚できる。
  • 生きた生物体は、本質的に開放システムであり、環境との間に無限に、もの、ことを交換し合うシステムである。
  • 開放システムの世界では、原因と結果が直接的に結びつくような直線的因果律は成り立たず、すべてがすべての原因であって結果であるという、円環的因果律が成立する。

すなわち、システムの特徴は、全体性(全体は部分の総和ではない)、自己制御性(ホメオスタシスのように、逸脱を小さくしようとするネガティブ・フィードバック機構)、変換性(環境の変化に合わせて自身を変化させる働き。自己制御性と合わせて、大小の変化を含みシステム全体の安定を保つ)と言えます。

家族療法では、この考え方を援用して家族システム理論を唱えたわけです。

家族をシステムとして捉えていく場合、それは一組の諸要素や諸単位が、ある一定の関係または相互作用の関わりにある状態を指します。

どんなシステムでも一定の関係によって組織された諸要素から成り立っており、これを「組織性」と呼び、家族システム理論の重要な概念です。

これは以下のような捉え方をします。

  1. 全体性:諸要素から成るシステムは、全体は部分の総和以上の働きを示すものと捉える。また、一つの要素は、他の要素から独立には働き得ない。各単位や各要素は、他の単位や要素に依存し、制約を受ける。
  2. 境界:各システム及びそれを構成する各単位や要素には境界がある。境界は、空間的にも時間的にも存在する。諸要素の関係が、空間的にパターン化している場合には、物理的な境界がはっきりわかる。この考え方は選択肢③で示した、構造学派で特に重視する。
  3. 階層性:システムは階層性レベルに従って、各要素や単位が組織化している。ある男性であれば、家族システムの父親、夫婦システムの夫、会社システムの課長、町会システムの会計担当、PTAシステムの副会長といった具合に、各システムの単位とし、期待されている役割を行うことになる。

また、家族システムには安定した状態を維持するための「制御」の仕組みがあるとされています。

家族システムの持つ自己制御の仕組みは、フィードバック・ループによるものであり、これは2つの事象を単に原因と結果といった形で結び付けるのではなく、円環的に関係付け、家族システム論では「家族の問題は皆が互いに影響力を及ぼしあった結果で、いわば家族内人間関係全体が原因」と考えます。

つまり「家族療法では、原因と結果がまわりまわって出てきたもの」(円環的因果律)として捉え、何らかの問題行動や症状を示した特定の個人(これを家族療法では IP (identified patient:患者とみなされた人))の問題を、家族という脈絡の中で見ていきます。

特定の個人には責任はなく、家族システムの全体の人間関係のゆがみに由来すると捉えるわけです。

こうしたフィードバック・ループは、そのループのいかなる部分も増大し、円環的な事象も増大するポジティブ・フィードバック・ループ(ポジティブはプラスの意味とは限らない。思春期の子どもが家庭内暴力によって、家族システムの変化を要求するような場合を指す)と、ループ内の様々な事象に見られる逸脱を回復し、均衡を維持するネガティブ・フィードバック・ループ(ひきこもりの子どもが、家族関係の崩壊予防や現状維持に寄与している場合など)があります。

また、制御システムの一つとして、いつも内的状態を一定の安定した状態に維持するホメオスタシスをヒントとした、家族ホメオスタシス(生活体システムにも力動的な均衡作用がある)を前提とします。

家族の構成員の不適応や精神病理は、その構成員に原因があるとは考えず、家族システムの秩序維持である家族ホメオスタシスの作用やそれが歪んだせいだと考えます。

つまり、家族内コミュニケーションに悪循環が生じると、そのシステムの秩序維持(家族ホメオスタシス)作用への反発として、特定の家族に不適応や精神疾患が生じると考えるわけです。

こうした家族ホメオスタシスは、さまざまな学派の家族療法で前提とされていますが、戦略的家族療法では、家族ホメオスタシスによって治療の介入が無効化されることを防ぐために、セラピストからの介入が直接的になることを避け、間接的な指示を与えるようにしています。

これは、症状や問題の直接的な変化を要請するやり方では、家族が変化に対して家族ホメオスタシス(この場合、現状に保とうとする力動と言い換えてもいいでしょう。不健康な家族システムでは、問題や症状がある状態を維持しようとする)が機能することで、変化を無効化する危険性があります。

そのため、症状や問題に関わるコンテクストを変化させるという間接的指示を与えることが必要とされます。

また、指示の目的も、症状や問題を変化させるということに直接結びつかない別の目的性を持たせ、かつ、それらがセラピストからの「指示」に基づくものではなく、家族の本来備わっている変化への動機づけを増幅させるものとして理解されるようにすることが必要です。

こうした技術は「逆説的指示」によってなされることが多いもので、実践上も「逆説的指示」の方が、本来の目的を見通しづらくさせ、セラピストの指示によって変化したと思わせづらい効果があります。

具体的には、「親子でけんかをするようにした方がいい」「子どもの弱さや狡さを指摘するようなことを、気が付いたらしっかりと言ってください」などのようなアプローチは、私も良く用いますし、かなり効果があると実感しています(そういう指示が効果的な事例は確かにある)。

以上のように、家族療法において円環的因果律とは「家族の問題は皆が互いに影響力を及ぼしあった結果で、いわば家族内人間関係全体が原因」という因果が円環的な相を成していることを指し、家族ホメオスタシスとは「家族システムの状態を一定の安定した状態に維持する機能」であることがわかります。

これらは本問の「家族療法において、逸脱を増幅する正のフィードバックと、安定性を維持する負のフィードバックにより情報が伝達され、家族システムが制御されることを表す用語」とは合致しないことがわかります。

以上より、選択肢③および選択肢⑤は不適切と判断できます。

④ サイバネティクス

アメリカの数学者Wienerが提案した円環型のシステム論が「サイバネティクス(cybernetics)」であり、通信理論・生命工学(生理学)・機械工学などの分野に大きな示唆を与えました。

従来、システム論では「持続性(フィードバック)のある自己制御機構」としての円環型システムはあまり意識されておらず、「原因‐結果の因果関係:直線的因果」に着目する直線型システムがメインでした。

ウィーナーはサイバネティクスを提唱することによって、結果が原因に作用(フィードバック)することによって自己システムを維持する円環型システムの実用性を指摘したわけです。

人間の身体の体温調節機能や食欲調整機構も、感覚器官・脳を介在するフィードバック回路を持つサイバネティクスであり、外部情報と内部システムの間にフィードバック回路を作っている機械制御の家電製品などもサイバネティクスであると捉えることができます。

そのため、サイバネティクスは「自己制御学」とも呼ばれ、人間の生命システムや機械の作動システムが止まらずに機能し続ける機構(仕組み)を説明する際に用いられることになりました。

機械工学・通信工学・生命工学などが共有する「持続可能なシステム構築」という課題を、円環的・循環的なフィードバックによって実現しようとしたのがサイバネティクスであり、従来の直線型システム論では説明できない生命や機械の持続的な仕組みの解明に貢献しました。

このように、サイバネティックスとは、自らのパフォーマンスについての情報(フィードバック)を活用することで全体をコントロールする自己調整機能をもつシステムについての考え方、もしくは研究分野です。

サイバネティクスにおけるフィードバックには、現在起きている傾向をそのまま強化していくように促すフィードバック(正のフィードバック)と、反対に、その傾向を弱めるように促すフィードバック(負のフィードバック)の2種類があるとされています。

正のフィードバックの例は、階段を駆け上がって脈拍が上がり息が切れた状態になった際に、それが「身体に異常があるのかもしれない」という不安を喚起し、さらに脈拍が上がる(正のフィードバック)場合が挙げられます。

この不安を増大させる正のフィードバックが循環し続けることで、全体として制御不安な状態(例えば、パニック)になると考えます。

このように、正のフィードバックが循環し続けると、システムが制御不能に陥ります。

もともとサイバネティクスは機械の研究から始まったこともあり、その焦点は負のフィードバックの活用によるホメオスタシスの維持にありました。

例えば、室温が上がると機械の温度も上がり、それが負のフィードバックを生み出し、機械の方が機能レベルを調整して自らの温度上昇を抑制するなどです。

こうしたサイバネティクスの考え方は、一般システム論と共に家族システム論の基礎となっています。

家族療法の文脈では、サイバネティクスの考え方を家族という相互関係(コミュニケーション)に適用し、家族の中の決まり(家族の中で許容される行為など)、その決まりを守るための負のフィードバックメカニズム(罰、罪の意識、なんらかの症状など)、そして負のフィードバックメカニズムが有効でなくなった場合に何が起こるのか(正のフィードバックの循環)、といった点に注目します。

なお、サイバネティクスに強く影響をうけた家族療法家は、家族の機能不全の原因を家族内のコニュニケーションのパターン(フィードバックの循環)に求めるので「コニュニケーション学派」と呼ばれます。

こうしたサイバネティクスの説明は、本問の「家族療法において、逸脱を増幅する正のフィードバックと、安定性を維持する負のフィードバックにより情報が伝達され、家族システムが制御されることを表す用語」と合致することがわかります。

以上より、選択肢④が適切と判断できます。

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