公認心理師 2023-24

慢性期の統合失調症患者に対する心理的支援を選択する問題です。

各支援法の対象や特徴を掴んでいること、統合失調症という病理の特徴を把握していることが求められていますね。

問24 慢性期の統合失調症患者に対する心理的支援として、最も適切なものを1つ選べ。
① エクスポージャー
② 標準型精神分析療法
③ 眼球運動による脱感作と再処理法〈EMDR〉
④ サイコロジカル・リカバリー・スキル〈SPR〉
⑤ ソーシャル・スキルズ・トレーニング〈SST〉

解答のポイント

統合失調症および各支援法の特徴を把握している。

選択肢の解説

⑤ ソーシャル・スキルズ・トレーニング〈SST〉

SSTはアメリカの精神科医リバーマンによって考案され、当初は主に精神疾患のある人たちに適用されていたが、医療機関や療育施設などで、社会的コミュニケーションに課題を抱える発達障害の子どもや大人に対しても様々な形で適用されるようになりました。

SSTは、行動理論、社会的学習理論に基づく技法であり、①教示:目標とする行動を教える、②モデリング:その行動を実際に行って見せるなどして見本を示す、③リハーサル:目標とする行動を実際に行って練習する(ロールプレイ)、④フィードバック:目標の行動が適切にできているかどうかを伝え、できていれば賞賛し、できていなければ修正点を伝える、⑤般化:トレーニング場面で獲得したスキルを日常生活のどのような場面でも、誰に対しても活用できるよう促す、という5つのトレーニングが基本要素です。

なお、「ソーシャルスキル」の定義は研究者によって多様ですが、①仲間から受け入れられること、②人との関わりにおいて好ましい結果が得られ、好ましくない結果を回避できること、③社会的妥当性、の3つの観点から特徴づけられるとされています。

SSTの適用は多岐にわたり、社交不安障害などで人と関わる際の技能の訓練が望ましい場合や、統合失調症者に対する社会復帰を目的としたアプローチ、ADHDや学習障害、ASDの子どもたちの対人スキルの向上のための手段としてSSTが挙げられています。

続いて、本問で示されている「慢性期の統合失調症患者」について述べておきましょう。

精神科において急性期、慢性期という区分は主に統合失調症の病期に対して用いられます。

統合失調症では前駆期(急性期に先行した数日から数年)に抑うつ気分、頭重、倦怠感、易疲労感、不眠等神経衰弱症状が出現し、時には離人症、強迫症状、不安障害様の症状を訴えることもあります。

前駆期に続いて、あるいは寛解期を挟んで統合失調症症状が出現する時期を急性期と呼びます。

急性期には妄想(被害的な内容が多い)、思路の障害(話のまとまりがなくなり、理解できなくなる)、幻覚(幻聴が多い)、自我意識の障害(させられ体験、自分の考えが相手にわかってしまう等)、感情障害(敏感、両価性、後に感情鈍麻等)、意欲障害(能動性、自発性の低下)等の症状がみられます。

急性期の後には寛解して発症前の状態に戻る患者、再発を繰り返す患者、一定の症状を残す者がありますが、慢性的な経過をたどるにつれて、感情鈍麻、思考や会話の貧困化、無為自閉といった陰性症状が前景となります。

この時期を慢性期と呼びます。

周囲の介助があれば家庭生活や社会生活が送れる状況にもあり、種々の生活支援、種々のリハビリテーションが必要となります。

精神科病院では療養型病床群(慢性期病棟と同義、治療内容の変化が少ない長期の入院を担う病棟)に入院しながら作業療法やSST(社会技能訓練)等各種プログラムなどが行われます。

以上より、選択肢⑤が適切と判断できます。

① エクスポージャー

不適応的な行動や情緒反応を起こす刺激や状況にクライエントを曝すことを「エクスポージャー」と呼びます。

エクスポージャーと呼ぶ場合、上記のような刺激や状況に曝すことを指すのが正確ですが、実際にはエクスポージャー反応妨害法も「エクスポージャー」という呼び名に含めていることが多いので、そちらも解説していきましょう。

エクスポージャーによって引き起こされる回避行動や強迫行為、儀式行為などの反応を他律的に妨害し、制止させる反応妨害法と合わせて「エクスポージャー反応妨害法」と呼びます。

何かの刺激によって不安が生じた場合、その刺激を回避することによってかえって不安が慢性化したり、悪化したりすることがあります。

この場合、不安の発生要因は「刺激」ですが、慢性化や悪化の要因は「回避」となるので、回避を中止すること、すなわち刺激に自然に触れることが有効になるのです。

この逆説的な治療がエクスポージャー療法(単に「エクスポージャー」と呼ぶ場合もあれば、正式に「エクスポージャー反応妨害法」と呼称することもある)で、多くの不安症において極めて高い効果が報告されています。

負担を軽減するために、治療者が同伴して、安全、安心を保証しながら、段階的に現実の事物や過去の記憶といった刺激に触れ、触れても大丈夫だったということを話し合って確認します。

こうして、刺激に触れても過剰な反応を生じることがなくなり、日常生活での予期不安や過剰な回避による行動の制約が減少していきます。

その治療アプローチの構造上、不安症やPTSD、強迫症に用いられることが多い治療法と言えます。

よって、エクスポージャーは「慢性期の統合失調症患者に対する心理的支援」には合致しないことがわかります。

以上より、選択肢①は不適切と判断できます。

② 標準型精神分析療法

標準型精神分析療法については「令和4年 診療報酬点数表」の中で示されています。

  1. 標準型精神分析療法とは、口述による自由連想法を用いて、抵抗、転移、幼児体験等の分析を行い解釈を与えることによって洞察へと導く治療法をいい、当該療法に習熟した医師により行われた場合に、概ね月6回を標準として算定する。また、精神科を標榜する保険医療機関以外の保険医療機関において、標準型精神分析療法に習熟した心身医学を専門とする医師が当該療法を行った場合においても算定できる。
  2. 口述でなく筆記による自由連想法的手法で行う精神分析療法は、1時間以上にわたるような場合であっても、入院中の患者にあっては区分番号「I001」入院精神療法により、入院中の患者以外の患者にあっては区分番号「I002」通院・在宅精神療法により算定する。
  3. 標準型精神分析療法を行った場合は、その要点及び診療時間を診療録に記載する。
    注:診療に要した時間が45分を超えたときに限り算定する。

上記のような精神分析の設定(寝椅子を用いて,週4回以上(毎日分析)で、分析家が匿名性を守るなどの基本原則に沿って行う)に関してですが、精神分析では基本的に構造そのものに臨床的な意味をもつと考えて、治療状況、治療的な場、治療構造といった概念が活用されてきました。

その設定の中で治療的な退行が起きて、その退行の中で分析家がその構造を維持して、患者を長期間にわたって抱えることに意義を見いだしてきたわけです。

上記の設定を基本とするなら、臨床の対象(例えば統合失調症)や年齢(例えば子ども)によって変更が加えられてきたという歴史があります。

本問の統合失調症のような重症の精神障害に対する技法的変更もあります。

Federnは、統合失調症の臨床から自我境界の脆弱な精神障害の人たちには自由連想法をやめ、陽性の転移関係を構築することを目標とするべきだと述べました。

似たような意見はアメリカで同じく統合失調症の治療者であったSullivanが提唱しており、彼は人間の発達を対人関係のルールを内在化して対人関係を発展させていくものと考えており、今日の対人関係論あるいは関係論的な精神分析につながっています。

もちろん、統合失調症だからと言って必ず標準型精神分析が適応できないと言い切ることはできませんが、やはり、潜伏性精神病が顕在化したり、統合失調症が悪化する恐れがあるため、こうした疾患の疑いがあれば基本的には標準型精神分析の対象外になるという見方が多いですね。

以上より、選択肢②は不適切と判断できます。

③ 眼球運動による脱感作と再処理法〈EMDR〉

EMDR(Eye Movement Desensitization and Reprocessing:眼球運動による脱感作と再処理法)は、Shapiroが1981年に発表したPTSDの心理療法です。

EMDRでは、クライエントの眼球の動きをガイドするため、クライエントの目の前でセラピストは大きく交互に左右にリズミカルに指を往復させます。

Shapiroは、こうした両側性の刺激は直接脳を刺激し、自己治癒力や情報処理の正常化を促進するとしています。

トラウマを想起しているときの脳は、右脳の活性が優勢であり感情やイメージにあふれているが、トラウマを想起しながら目の前の指に注意を割くとワーキングメモリが阻害されるため、トラウマティックな出来事のことに巻き込まれ過ぎずに距離を取れるようになります。

また、左脳と右脳を繋いでいる脳梁を通じて、言語化を司る左脳の活性化を行うため、トラウマ記憶やその感情に圧倒されずにトラウマ的な出来事を分析できるようになるともしています。

EMDRは眼球運動に限らず、両手に振動するものを持ってもらうなどの方法もあります。

上記の通り、EMDRは主にトラウマに対する心理療法として採用されるものですから、慢性期の統合失調症患者に対する心理的支援として選択されるものではありません。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。

④ サイコロジカル・リカバリー・スキル〈SPR〉

サイコロジカル・リカバリー・スキルとは、「サイコロジカル・ファーストエイド」を提供したあとの復興回復期、もしくはより集中的な介入が必要とされる場合に用いることのできる心理的支援法です。

災害後に起こりやすい困難や問題に対処するための「スキル(訓練によって身につけることのできる技能)」を教えることで、被災者の自己効力感を高め、回復を促進することを目的としています。

こちらのサイトに「サイコロジカル・リカバリー・スキル実施の手引き」(Skills for Psychological Recovery Field Operations Guide:SPR)が示されています。

上記で示されている内容を抜粋すると以下の通りです。

  • 「サイコロジカル・リカバリー・スキル;SPR」は、災害やテロが発生して数週間から数カ月のあいだに、子ども、若い人、大人、家族に対して行うことのできる効果の認められた心理的支援の方法を、必要な部分だけ取り出して使えるように構成したものです。
  • SPR は、被災者が苦痛をやわらげ、災害後のストレスや、さまざまな困難にうまく対処するためのスキルを身につけられるよう、構成されています。
  • SPR は、被災者は広範囲にわたる反応(身体的、心理的、行動上、スピリチュアルな問題)を経験するものである‐期間は人によってさまざまですが‐という理解に基づいています。
  • 多くの被災者は独力で回復を遂げていきますが、一方で、適応的な対処を妨げるつらい反応に苦しむ被災者もいます。
  • 共感、思いやり、そして知識をそなえた支援者が適切なスキルを紹介することによって、こうした被災者を手助けすることができます。

このように、サイコロジカル・リカバリー・スキルは災害時の苦痛をやわらげ、ストレスや困難にうまく対処するためのスキルを身につけるためのものであり、本問の「慢性期の統合失調症患者に対する心理的支援」には合致しないと言えます。

よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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