公認心理師 2023-118

外来森田療法を行うセラピストの対応に関する問題です。

あまり「外来」にこだわらなくても良いのかなと思っています。

問118 外来森田療法を行うセラピストの対応として、不適切なものを1つ選べ。
① クライエントの不安の裏にある欲望への気づきを促す。
② クライエントに実行可能な行動を起こすことを推奨する。
③ クライエントが陥っている悪循環を断ち切るために話し合う。
④ クライエントに不快な心身の症状が軽減するスキルを伝える。
⑤ クライエントが日記に記載した内容についてコメントを伝える。

解答のポイント

森田療法の治療原則を把握している。

選択肢の解説

① クライエントの不安の裏にある欲望への気づきを促す。
③ クライエントが陥っている悪循環を断ち切るために話し合う。

本問の考え方として、あまり「外来」にこだわらない方が良いでしょう。

森田療法と言えば入院治療で示される以下の手順が有名ですね。

  1. 絶対臥褥期:
    4日から1週間、患者を個室に隔離し、食事、排便以外はとにかく何もせずに徹底的に横になっていることを命ぜられる。
    この目的は臥褥中の精神状態を診断の補助とするだけでなく、安静によって心身の疲労を調整する。また患者は、横になっていると浮かんでくる様々な考えや感情に対して、なるべくそのままにして、あるがままに受け入れることが求められる。
  2. 軽作業期:
    1~2週間、隔離は持続し、対人的な交流は禁じられるが、臥褥は7~8時間に制限され、それ以外の時間は起床する。昼間は必ず戸外に出て空気と日光に触れるが、無意味に散歩する、体操をするなど、気分を紛らわすことなどはやらない。
  3. 作業期:
    1週間程度で、庭造り、大工仕事、手芸など、やや重い作業を行うが、対人交流は禁止される。
  4. 社会復帰期:
    1~2週間の生活訓練が行われ、必要に応じて外出もする。複雑な実生活をすることになるため、時には病院から学校や職場に通うこともあり、退院準備期間でもある。

ですが、本問ではこうした手続きや入院のアプローチではなく、森田療法の基本的な考え方、それに基づくアプローチについて問われていると考えて取り組んでいくことが重要です。

事実、森田療法の治療原則に従えば、外来療法でも通信指導でも施行可能であるとされており、啓蒙書を読んだだけで治癒した例もあるとされています。

森田療法は、精神科医の森田正馬(1874-1938)により、20世紀初頭に考案された、もとは森田神経質を対象とした日本独自の心理療法です。

森田神経質とは、自己内省的・完全主義的な傾向に加え、よりよく生きたいという生の欲望を有する、生得的・先天的な素質としてのヒポコンドリー性基調(神経質で心気的な素質)に、環境要因が加わり、心身の感覚や情緒的反応に注意が集まる傾向です。

そして注意が集まるほど、心身の感覚や情緒的反応が強く感じられ、悪循環(これを精神交互作用と呼びます)が起こり、この状態を「森田神経質」と呼び、森田療法の主な治療対象とされました。

森田療法では、ヒポコンドリー性基調(神経質者が生来的に持っている傾向素質のこと)をもつ者が、何らかの誘因によって、それまで外界に向けられていた注意を自己の身体的あるいは精神的変化に向きを変えるようになり、注意が集中すると感覚はますます鋭敏になり、それと共に意識は狭窄して、注意がその方に固着する…という感覚と注意が交互に作用しあうことを「精神交互作用」と呼び、症状を発展固定させて、森田神経質という病的な状態に至ると考えます。

こうした神経質傾向(ヒポコンドリー性基調)から発生するプラス方向の建設的な精神的エネルギーを森田は「生の欲望」と読んであり、これは①病気になりたくない、死にたくない、生きたい、②より良く生きたい、人に軽蔑されたくない、人に認められない、③知りたい、勉強したい、④偉くなりたい、幸福になりたい、⑤向上発展したい、などであるとされています。

これが何らかのきっかけで、それまで外界に向かって建設的な働きをしていた精神的エネルギーが、向きを変えて自分自身の心身の変化に浪費され出すことあり、そのときの非建設的な精神的エネルギーを「死の恐怖」と呼ばれています。

森田療法では、自己に向けられた「死の恐怖」を、外界に向けられた「生の欲望」に方向転換する操作に他ならないのです。

他選択肢の解説で詳しく述べますが、森田療法では、不快な感情を消そうとせず、むしろその感情を生み出す背景にある、よりよく生きたいなど、ありたい自分を目指す自分の中の欲求に気づき、そこを活かせるような自然な生き方を見出していくということを重視しています。

森田療法では、「精神交互作用」と「思想の矛盾」の二つから成り立つ「とらわれの機制」の存在を考えていくことになります。

「精神交互作用」とは症状に注意が集中すると、その症状を敏感にキャッチし、ますます注意がそこに集中する悪循環のことであり、「思想の矛盾」とは、①この症状さえなければ自分は完全である(まったく悩みがない)と考えること、②「こういう自分であるべきだ」という理想の自己と「悩みや不安を抱えている」現実の自分との間にギャップがあり、葛藤を抱えている状態を指します。

クライエントは不安や症状があると、そこに注意が集中し、とらわれて(一種の視野狭窄状態に陥って)しまい、不安や症状を回避したり排除しようとしますが、森田療法では不安や症状をいかに取り除くかを問題にするのではなく、不安に対する態度を問題とします。

この悪い習慣を「行動することで症状や不安への拘りを忘れる」体験を通して訂正し、不安への対処法を獲得できるように援助します。

ですから、この「悪循環=とらわれの機制」について話し合い、そういうコントロールし難いものにこだわるのではなく、自分ができることを行動していくことを勧め、実践していく中で不安への対処を得るということですね。

これらのことからもわかる通り、森田療法においては「クライエントが陥っている悪循環を断ち切るために話し合う」ことを行い、その中で症状や不安へのこだわりから脱却し、こうした不安の奥にある欲求に気づくよう促していくと言えます。

以上より、選択肢①および選択肢④は適切と判断でき、除外することになります。

② クライエントに実行可能な行動を起こすことを推奨する。
④ クライエントに不快な心身の症状が軽減するスキルを伝える。
⑤ クライエントが日記に記載した内容についてコメントを伝える。

森田療法の治療の鉄則は事実唯心あるいは「あるがまま」であると言われています。

つまり、気分(症状)はいじらずに、あるがままを受け入れて、やるべきことを目的本位・興味本位にやらせることがアプローチとして採用されています。

クライエントは、まず気分を良くして、それから健康な生活態度を取ろうとします。

しかし、気分や症状は天気のように晴れたり、曇ったり、時には雨や暴風雨を繰り返す等、自分の力ではどうにもコントロールできないものと考えます。

気分や症状はそのままにして、自分の力でどうにでもなる行動を健康人らしくすることが何より大切であると森田療法では考えるのです。

「外相整いて、内相自ら熟す」という言葉があり、これは健康人らしく振る舞えば健康になれるという意味であり、森田療法では、頭で理解するものではなく、行動で体験的に理解させようとしていくのです。

森田療法では日記指導では、日記に日々の行動を記録し、治療者がコメントを入れて返却します。

こうした日記指導を通して、自分の行動やその時に感じたことなどを振りかえることができるわけですが、上記の「頭で理解するのではなく、体験的に理解する」ということは日記指導の中でも強調されることの一つとされています。

これらを踏まえれば、選択肢②の「クライエントに実行可能な行動を起こすことを推奨する」および選択肢⑤の「クライエントが日記に記載した内容についてコメントを伝える」は森田療法のアプローチや考え方として適切なものであることがわかりますね。

一方で、選択肢④の「クライエントに不快な心身の症状が軽減するスキルを伝える」というのは、あるがままを重視する森田療法の考え方からは外れていると見なすことができるはずです。

以上より、選択肢②および選択肢⑤は適切と判断でき、除外することになります。

また、選択肢④が不適切と判断でき、こちらを選択することになります。

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