公認心理師 2023-101

不眠を訴える患者に対し、寝床を睡眠以外に使わないように指導する方法を選択する問題です。

過去問(2019-152)でしっかりと解説してありましたね。

問101 不眠を訴える患者に対し、寝床を睡眠以外に使わないように指導する方法として、最も適切なものを1つ選べ。
① 刺激制御法
② 睡眠制限法
③ 認知再構成法
④ リラクセーション法
⑤ セルフ・モニタリング法

解答のポイント

不眠に対する認知行動療法(CBT-I)の基本を把握している。

選択肢の解説

① 刺激制御法
② 睡眠制限法

不眠症の治療は、薬物療法と認知行動療法(Cognitive Behevioral Therapy Insomnia=CBT-Iと称されることが多いです)が有効だとされています。

特に認知行動療法では、睡眠衛生の指導、リラクセーション法、刺激制御法、睡眠制限法を組み合わせ、睡眠に対する誤った認識を是正しながら行動を制御する治療で、不眠の改善効果が示されています。

具体的には、まず、定期的な運動、寝室環境の調整、規則正しい食生活、就寝前の水分制限、就寝前のカフェイン制限、就寝前の飲酒制限、就寝前の喫煙制限、寝床での考え事を控えることといった睡眠衛生行動を指導します。

さらに、患者の睡眠 – 覚醒スケジュールを標準化して寝室で生じる不適切な行動を消去する刺激制御法や、床上時間を制限する睡眠制限法を実施し、不眠に関連するネガティブな考え方を変えるためのカウンセリングなども行われます。

ここでは、上記に挙げられている刺激制御法および睡眠制限法について解説していきます。

不眠に対する認知行動療法の技法の中で最もよく知られているのは刺激制御法と睡眠制限法という2つの技法です。

不眠症者には不眠経験や、寝床で眠ること以外の行動(本を読む、テレビを見るなど)によって、本来は「眠る場所」として条件付けられていた寝床が、「眠れない苦痛を伴う場所」や「起きて活動する場所」などのように不適切に条件付けられている状態が認められることがあります(言い換えれば、こうした習慣や条件づけが生じている人には、刺激制御法や睡眠制限法を実践するということになるでしょうし、スマホの普及でこうした状態にある人は多い気がしますね)。

この状態では、寝床に入ると目が覚める、考え事をするなどの不眠の原因となる現象が引き起こされやすく、寝つきの悪さや中途覚醒頻度の増加をもたらす原因となります。

このような状態を修正するため、不眠症者に「寝床では眠る以外の行動をしない」、「眠れないときは寝床から離れる」などの決まりを守るように指示し、寝床が睡眠を誘引する適切な刺激として機能するように再条件付けする方法が刺激制御法と睡眠制限法になります。

刺激制御法と睡眠制限法は1970~80年代に開発された比較的古い治療法であるが、現在の不眠に対する認知行動療法の根幹とも言える治療法となっています(元々は、眠れない状態でベッドの上に居続けるために条件づけられたというパターンを想定していたのでしょうが、現代ではスマホ一つでベッドの上で色んなことをできてしまうため、こうした方法が再浮上してきたというイメージが強いです)。

さて、ここからは刺激制御法と睡眠制限法を分けて解説していきます。

刺激制御法とは、眠る行動を促進する環境が整っていないために不眠を維持させる不適切行動が生起しやすくなるというオペラント条件づけ理論に基づき、学習された不適切な学習の変容を目指す技法です。

刺激制御法で示されやすいのは…

  1. 眠気が見られる場合のみ入床する。
  2. 床上は性交渉を除き、睡眠のみに使用する。
  3. 寝床に入って15分程度経っても眠れなければ離床する。
  4. たとえ昨夜眠れなくとも、起床時刻を一定にする。
  5. 日中仮眠をとらない。

…などになり、上記の1~4を初回の治療導入面接で説明していきます。

その際に治療導入前に測定した主観的(睡眠日誌)および客観的(活動計)睡眠評価の結果を本人に提示し、個々における睡眠に関する認知の歪みを明確化していきます。

その後は隔週の頻度で15~20分の面接のなかで、日々の睡眠習慣についての指導を行っていきます。

不眠症患者が不眠が続くと睡眠不足を補うために必要以上に身体を休めようとするため、床上時間が長くなり睡眠効率が低下します。

そのため、睡眠制限法では、床上時間を制限することで睡眠効率を高め、不眠の改善を目指します。

睡眠日誌に基づき、実際の推定睡眠時間だけに起床を限定し、5日間連続してその90%以上眠れた時に、睡眠時間を15分ずつ延長させる方法です。

実際には…

  1. 床上時間を2週間の平均睡眠時間(睡眠日誌上1晩に眠れた時間)プラス15分に設定し、床上時間が5時間を切るような場合は5時間に設定する。
  2. 起床時間は毎日一定にし、起床時刻を遅くして計算上の床上時間に生活を合わせる。
  3. 日中は床に就かない。
  4. 起床時には、何時間眠れたかを記録する。
  5. 5日間起床時間の90%以上眠れたら、床上時間を15分増やす。

…という流れで実施し、この方法を繰り返し行うことで、睡眠の質を高めながら、徐々に睡眠の量を増加させていくことが可能です。

2004年のCBT-I(不眠に対する認知行動療法)実施マニュアルのなかで刺激制御法と時間制限法が併せて睡眠スケジュール法として紹介されて以来、睡眠スケジュール法はCBT-Iのスタンダードな技法とされています。

上記の通り、刺激制御法は「眠る行動を促進する環境が整っていないために不眠を維持させる不適切行動が生起しやすくなるというオペラント条件づけ理論に基づき、学習された不適切な学習の変容を目指す技法:要するに寝床では寝るだけにすることで、寝床は寝る場所という条件づけを行っていく(もしくは寝床=動画を観る場所などの条件づけを消去する)」であり、睡眠制限法は「床上時間を制限することで睡眠効率を高めて不眠の改善を目指す」という方法です。

本問の「不眠を訴える患者に対し、寝床を睡眠以外に使わないように指導する方法」は、上記の刺激制御法と合致することがわかります。

以上より、選択肢②は不適切と判断でき、選択肢①が適切と判断できます。

③ 認知再構成法

認知再構成法は、代表的な認知的技法の一つであり、ある人においてパターン化した自動思考以外の考えやイメージをその人がもつことができるように、自動思考の検討を行う方法です。

単に「ポジティブな考え方」を身につけるための練習ではなく、多くの人がポジティブであると思うような内容であってもクライエント自身が納得し、受け容れられるような考えでなければ症状改善の効果は期待できません。

この技法には、以下のような思考記録表(コラム表)が用いられることもあります。

1.状況昨日の「心理査定」の授業で、教員から急に当てられて、立って質問に答えた。
2.感情(0~100%)不安が70%、悲しみが30%
3.自動思考又はイメージ「みんなが自分をバカにしている」「変なことを言ってしまった」
みんなが自分をバカにした表情で見ているイメージ
4.根拠答えた後に教員が「正しい答えだ」と言わなかった。こちらを見ている人が多かった。
5.反証「そういう考えもあるね」と教員が言っていたので、間違ったわけでもないのだる。自分が発言したのだから、自分を見ていた人がいても不思議ではない。
6.自動思考に代わる思考「自分に対して、何か思っている人がいたかもしれないけど、全員が自分をバカにしていたということはないだろう」
7.結果:感情とその強さ不安が60%、悲しみが25%

認知再構成法を行う手順は、以下の通りです。

  1. 不快な感情が伴っていた状況を具体的に1つ特定して、それに沿って検討することが望ましい。
  2. その状況での感情を一言で表せるような言葉を探してもらい、その感情の強さを0~100%の範囲でクライエント自身が評定する。0%は全く感じていない状態で、100%は今までで最も強くその感情を感じた状態である。
  3. 自動思考は、そのときに頭に浮かんだ考えやイメージである。自動思考の中から、最も強く感情を喚起する考えを「ホットな認知」と呼び、その考えを中心に検討を行う。
  4. 根拠ではホットな自動思考を支持する事実に基づいた根拠を書き出す。
  5. 反証ではホットな自動思考に反する証拠を書き出す。
  6. 根拠と反証はいずれも、自動思考に代わる思考を考え出すために行われる。
    ※根拠と反証を含まない5つのコラムから構成される表が用いられることも多い。

自動思考に代わる思考が案出されても、一度の試みで不快な感情が一気に和らぐわけではなく、他の技法と同様に繰り返し行っていくことが重要になります。

認知療法はBeckの理論に基づいて発展しており、ネガティブな情報処理のあり方と非機能的な信念がうつを生起させていると考えます。

ネガティブな情報処理から生まれた認知は、感情、身体反応、行動に好ましくない影響を与えていることが多いため、認知のあり方と他の要素への影響を確認することが第一歩となります。

その上でより合理的だったり、気が楽になるような認知のあり方を探してそれを実践していくわけですが、認知再構成法はそのために行われる代表的な技法の一つです。

こうした認知再構成法は不眠のアプローチとしても挙げられるものの一つではありますが、本問の「不眠を訴える患者に対し、寝床を睡眠以外に使わないように指導する方法」とは合致しません。

以上より、選択肢③は不適切と判断できます。

④ リラクセーション法

リラクセーションとは、いずれも交感神経系の抑制、副交感神経系の賦活、ストレスホルモンの低下、免疫機能の増強などの生体機能調節系の変化を引き起こす技法です。

リラクセーションを取り入れている代表的な技法に「自律訓練法」と「漸進的筋弛緩法」があります(他にも、呼吸法やバイオフィードバック法なども含まれる)。

不眠症に対しては特に、①睡眠日誌や思考記録を用いた思考内容の再構成、②気そらしやイメージ・トレーニングを用いた自動思考への対処、③リラクセーションを用いた逆制止、④安全行動の除去と代替行動の獲得、などが多く用いられています。

ちなみに「逆制止」とは、ストレス反応とリラックス反応は互いに相容れない関係にあるので、十分にリラックスした状態では不安や恐怖および身体的緊張が起きにくくなるとされ、こうした相反する関係のことを「逆制止」と呼びます。

つまりは、リラクセーションすることが技術的にできれば、それと相反するストレス状態は生じにくいことになるので不眠の改善に役立つということですね。

このようにリラクセーションは不眠の治療に用いられる手法の一つではありますが、本問の「不眠を訴える患者に対し、寝床を睡眠以外に使わないように指導する方法」とは合致しないことがわかります。

よって、選択肢④は不適切と判断できます。

⑤ セルフ・モニタリング法

セルフモニタリングとは、クライエントが自分の認知や感情、行動などを観察し、自分自身に関するデータを得て、それらを検討するという一連の流れを指します。

認知行動療法においてクライエントが身につける基本的な技法とされ、問題把握、評価、変容などの方法として治療過程の様々な段階で使われることになります。

認知行動療法では、クライエントが自身の認知や感情に気づき、それを言語化できることを特に重視していますから、その実践においては、初期からクライエントにセルフモニタリングを促すことが多いです。

セルフ・モニタリングを行うことで、治療の効果を治療外の場面に広げやすくなるという効果も期待できますね。

認知行動療法による不眠症の治療段階で、自己の睡眠‐覚醒スケジュールを監視する目的でセルフモニタリングが活用されています。

セルフモニタリングは、上記の通り、自らの健康や病気を適切に管理するために、病気の症状
や身体感覚を定期的に測定、記録、および観察を通じて認識することと定義されており、自己の健康状態や生活習慣を認識することで、健康上の問題点や改善点の把握が容易となり、習慣行動の変容や自己管理につながると考えられます。

具体的には、例えば、睡眠日記などは睡眠のセルフモニタリングとしても自己の睡眠習慣や睡眠問題を把握できる有効な方法と考えられ、その内容として、就床時刻、覚醒時刻もしくは起床時刻、入眠潜時、総睡眠時間、夜間中途覚醒回数・時間、主観的睡眠の質の項目などが挙げられるでしょう。

ただし、こうしたセルフモニタリングについては、本問の「不眠を訴える患者に対し、寝床を睡眠以外に使わないように指導する方法」とは合致しません。

以上より、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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