公認心理師 2023-102

虐待によるトラウマの影響をアセスメントする際に用いる心理検査を選択する問題です。

まず二択まで絞れると「よく勉強しているなぁ」という感じになりますね(そして、その二択以外は過去問で出題がある)。

問102 10歳の子どもに対して、虐待によるトラウマの影響をアセスメントする際に用いる心理検査として、最も適切なものを1つ選べ。
① A-DES
② KABC-Ⅱ
③ M-CHAT
④ PARS-TR
⑤ TSCC

解答のポイント

各検査の適用年齢と検査目的を把握している。

選択肢の解説

① A-DES

A-DES(The Adolescent Dissociative Experiences Scale)とは、思春期解離体験尺度であり、解離症状のアセスメントに用いられる検査になります。

対象は11歳~18歳までであり、対象疾患は解離性障害、解離性同一性障害、反応性愛着障害、PTSDなどが中心になります。

そもそも解離とトラウマには非常に深い関連が見られており、そういう意味でA-DESが検査の候補として挙がることは適切と言えます。

ただ、今回の問題では「10歳の子どもに対して」という制限からA-DESは除外されますし、また、「虐待によるトラウマの影響をアセスメントする際に用いる心理検査」というのも厳密にはA-DESの目的とは合致しません。

解離は「自我に負担がかかるような出来事を「他人事」として処理することで安定を得ようとする心のディフェンス機能」になり、人間が他の動物に食べられていた時代から存在する機能であると考えられています。

動物に食べられている時にパニックになってしまうと生き延びる可能性が減るので、過度に冷静に自身を捉えるための機能であり、自分が遊離して自分を眺めるようになるのもそういう「俯瞰視点」で状況を見ることで状況から離脱する可能性を高めるためのものというわけです。

解離症状が頻繁に起こる場合(そして、特に日本の場合)は、幼いころから心理的負担のある環境が存在し、その環境の中で「小さな解離」を使って、その環境をしのいできたという歴史がその人には存在します。

ですから、①心理的負担のかかる環境が存在したこと、②その生体が「解離」を用いて対処してきた歴史があること、などがあって、現在のそう強くない心理的負担状況であっても「解離」が頻発するために困っている…という場合が精神的問題を有する人として我々専門家の前に現れるわけです。

②については、その生体の特徴や生まれ持っての才能なども影響するように感じています。

つまり、苦しい状況が目の前にあっても、誰もが「解離」を用いるわけではないということです。

神田橋先生は「いのち」に付与されている二つの意思として「存続の志向=保守の志向」と「自在性への志向=革新の志向」を挙げております。

存続の志向は環境寄りの志向であり、その状況に耐えたり、維持しようとする傾向として実際には現れることが多く、その「現状に耐える」という傾向の強い人ほど、心理的負担のかかる状況でも「自分の内側だけで対処できる方法(例えば解離)」を用いてその場に居続けることが多いように感じています(そして、この志向はどちらかというと女性に色濃い気がします)。

これらは「なぜ解離という方法を用いるのか?」「解離という方法を用いるのはどんな人か?」ということへの一つの思索ではありますが、根拠もないですしエビデンスを取ることも不可能な考え方ですね(でも、こういうことを考えておくことには大きな意味があります)。

さて、話を本問に戻すと、資格試験的には年齢を理由に正誤判断すればいいのですが、「虐待によるトラウマの影響を調べる=A-DES」というわけでもないのは知っておく必要があるでしょう。

もちろん、目の前の人が11歳を超えていて、虐待状況の中で解離症状を生じさせていればA-DESを用いることには問題ないのですけど、解離症状自体は虐待に限らず様々な状況で生じ得るものと考えておきましょう。

以上より、選択肢①は不適切と判断できます。

② KABC-Ⅱ

K-ABC(Ⅱじゃない方)は、2歳6か月~12歳までの子どものための個別式知能検査です。

その特徴としては、①認知処理能力と習得度を分けて測定すること、②認知能力をルリア理論(継時処理と同時処理)から測定すること、などが挙げられます。

認知処理過程尺度に継時処理尺度(3つの下位検査)と同時処理尺度(6つの下位検査)があり、それとは別に習得度尺度(5つの下位検査)が加わる形で構成されています。

算数や読み(習得度)などで困難さを示す発達障害等のある子どもにとっては、情報を処理する認知処理能力を習得度(語彙や算数など)と分けて測定することが望ましいというのがカウフマン夫妻の考え方です。

2004年に、K-ABCが改訂されてKABC-Ⅱが刊行されました。

日本版KABC-Ⅱでは、「認知-習得度」というカウフマンモデルを継承しながら、大幅な改良が加えられています。

主な点としては、以下が挙げられます。

適応年齢の上限が12歳11か月から18歳11か月になった(下は2歳6か月)。
認知処理の焦点が「継時、同時、計画、学習」と拡大された。
習得度で測定されるものが「語彙、読み、書き、算数」と拡大した。
ちなみにアメリカ版ではKTEA-Ⅱという優れた個別学力検査があるので、K-ABCの習得度に含まれていた「算数」「言葉の読み」「文の理解」はのぞかれています。

上記の通り、KABC-Ⅱは、①認知処理能力と習得度を分けて測定すること、②認知能力をルリア理論(継時処理と同時処理)から測定することが特徴であり、こうした点に課題があると思われる子どもに実施されることになります。

ですから、本問の「10歳の子どもに対して、虐待によるトラウマの影響をアセスメントする際に用いる心理検査」には合致しないことがわかります(合致しているのは年齢だけで、検査目的が違いますね)。

以上より、選択肢②は不適切と判断できます。

③ M-CHAT

M-CHATは、自閉症スペクトラムのスクリーニング尺度です。

一部の項目が全国の1歳6ヶ月乳幼児健診で必須チェック項目となっているほか、一部の自治体の健診では悉皆スクリーニングとして活用されています。

18~24ヵ月の幼児が対象なので、保護者が記入し評価者が採点を行うという方式を採用しています。

こちらのページに、実際の物があるのでご参照ください。

ただ、M-CHATについては、これのみで評価するのではなく、M-CHATを第一段階として、これに陽性であれば第二段階の面接が必要とされています(選択肢①の解説の通りです)。

あくまでも一次スクリーニングであり、それのみで診断をしていくわけではないということです。

こちらのサイトにもあるように、M-CHAT陽性と判断された子どものうち二人に一人は自閉症スペクトラム障害ではない(=陽性的中率は50%程度)であり、あくまでも第二段階(スクリーニングとその後の精査)のステップにつなげ、これを丁寧に行うことによって自閉症スペクトラム障害になる子どもの早期診断につながることが期待されており、実際に成果が上がっています。

このように、M-CHATは自閉症スペクトラムのスクリーニング尺度ですから、本問の「10歳の子どもに対して、虐待によるトラウマの影響をアセスメントする際に用いる心理検査」には合致しないことがわかります。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。

④ PARS-TR

PARS-TR:Parent-interview ASD Rating Scale-Text Revision(親面接式自閉スペクトラム症評定尺度 テキスト改訂版)という表記からもわかるとおり、ASDの特性と支援ニーズを評価する面接ツールです。

ASDの発達・行動症状について母親(母親から情報が得がたい場合は他の主養育者)に面接し、その存否と程度を評定する57項目からなる検査です。

この得点から、対象児者の適応困難の背景にASDの特性が存在している可能性を把握することができます。

対象年齢が3歳以上(3歳以上の子どものいる母親に実施するということ)ですから、幼児期および現在の行動特徴をASDの発達・行動症状と症状に影響する環境要因の観点から把握します。

半構造化面接により発達・行動症状を把握することを通じて養育者の対象児者に対する理解を深めることが狙えます。

このように、PARS-TRはASDの特性と支援ニーズを評価する面接ツールですから、本問の「10歳の子どもに対して、虐待によるトラウマの影響をアセスメントする際に用いる心理検査」には合致しないことがわかります。

以上より、選択肢④は不適切と判断できます。

⑤ TSCC

TSCC(Trauma Symptom Checklist for Children)は虐待などトラウマ性体験の子どもへの影響をより正確にもれなく評価できる最新の心理検査です。

適用年齢は8歳~16歳になっています(7歳及び17歳の子どもへの適用可能性も示唆されています)。

慢性的なトラウマ体験の子どもへの心理的影響を主たる研究・臨床領域としている著者により開発されたTSCCが、わが国トラウマ研究の第一人者(西澤哲)により日本語版として翻訳されました。

54または44項目からなる簡単なチェックリストを子どもたちに記入してもらい、その答えをプロフィール用紙で採点することによって、子どもたちがトラウマ性体験によって傷ついている可能性を確実かつ容易に見出すことができます。

このチェックリストによる気づきから、早期に適切な対応をとることでトラウマを持つ子どもたちの困難を減じ、早期のサポートが可能になります(そして、トラウマへの対応は早ければ早いほど良い)。

上記の内容は、本問の「10歳の子どもに対して、虐待によるトラウマの影響をアセスメントする際に用いる心理検査」に合致すると言えますね。

以上より、選択肢⑤が適切と判断できます。

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