公認心理師 2024-56

心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引きに基づく対応を選択する問題です。

頻出領域と言えますから、間違わずに解けるようになりたいですね。

問56 改訂心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き(令和2年、厚生労働省)に基づく対応として、適切なものを2つ選べ。
① 産業医の意見に基づいて、主治医が最終的な職場復帰の決定を行う。
② 事業者と主治医との連携は、正式な職場復帰が開始された時点で終結する。
③ 主治医及び通院先の医療スタッフが中心となって、職場復帰プランを作成する。
④ 産業医は、主治医による職場復帰可能の判断と職場で求められる業務遂行能力の内容について精査する。
⑤ 事業場内産業保健スタッフは、病気休業の開始に当たって、事業場外の職場復帰支援サービスに関する情報を提供する。

選択肢の解説

① 産業医の意見に基づいて、主治医が最終的な職場復帰の決定を行う。
② 事業者と主治医との連携は、正式な職場復帰が開始された時点で終結する。
③ 主治医及び通院先の医療スタッフが中心となって、職場復帰プランを作成する。
④ 産業医は、主治医による職場復帰可能の判断と職場で求められる業務遂行能力の内容について精査する。
⑤ 事業場内産業保健スタッフは、病気休業の開始に当たって、事業場外の職場復帰支援サービスに関する情報を提供する。

改訂心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き(以下、手引き)では職場復帰支援の流れを以下の通り示しています。

  1. 病気休業の開始及び休業中のケア:
    労働者から管理監督者に、主治医による診断書(病気休業診断書)が提出され、休業が始まります。管理監督者は、人事労務管理スタッフ等に診断書(病気休業診断書)が提出されたことを連絡します。休業する労働者に対しては、傷病手当金などの経済的な保障や休業の最長(保障)期間等の必要な事務手続き、及び職場復帰支援の手順を説明します。
  2. 主治医並びに産業医による職場復帰の可否判断:
    休業中の労働者から事業者に対し職場復帰の意思が伝えられると、事業者は労働者に対して主治医による職場復帰が可能という判断が記された診断書の提出を求めます。診断書には、就業上の配慮に関する主治医の具体的な意見を記入してもらうようにします。その際、主治医による職場復帰可能の判断が、必ずしも職場で求められる業務遂行能力まで回復しているとの判断とは限らないため、主治医の判断と職場で必要とされる業務遂行能力の内容等について、産業医等の精査を経て、採るべき対応を判断することが重要です。
  3. 職場復帰の可否判断及び職場復帰支援プランの作成:
    安全でスムーズな職場復帰を支援するため、最終的な決定の前段階として、必要な情報の収集と評価を行った上で職場復帰できるか否を適切に判断し、職場復帰を支援するためのプランを作成します。この具体的なプランは復帰中の就業上の配慮など個別具体的な支援内容を定めるもので、管理監督者、休業中の労働者の間で十分な打ち合わせをもったうえで定めます。
  4. 最終的な職場復帰の決定:
    上記内容を踏まえ、事業者が職場復帰の最終的な決定が行われ、具体的な支援が実行に移されます。
  5. 職場復帰後のフォローアップ:
    職場復帰後は、管理監督者による観察と支援のほか、事業内産業保健スタッフ等によるフォローアップを実施し、適宜職場復帰支援プランの評価や見直しを行います。

上記の流れに基づいて、ここでは選択肢⑤→選択肢④→選択肢③→選択肢①→選択肢②の順で解説していきましょう。

選択肢⑤には「事業場内産業保健スタッフは、病気休業の開始に当たって、事業場外の職場復帰支援サービスに関する情報を提供する」とあり、手引き内には「休業する労働者に対しては、傷病手当金などの経済的な保障や休業の最長(保障)期間等の必要な事務手続き、及び職場復帰支援の手順を説明します」などのアプローチが示されています。

上記以外にも、手引きには「職場復帰支援における専門的な助言や指導を必要とする場合には、それぞれの役割に応じた事業場外資源を活用することが望ましい」とあり、特に50人未満の小規模事業場では、事業場内に十分な人材が確保できない場合が多いことから、必要に応じ、地域産業保健センター、労災病院勤労者メンタルヘルスセンター等の事業場外資源を活用することが有効であり、衛生推進者又は安全衛生推進者は、事業場内の窓口としての役割を果たすよう努めることが必要となります。

衛生管理者等は、こうした事業場外資源との連絡調整が役割として挙げられています。

これらを踏まえれば、事業場外の職場復帰支援サービスに関する情報を提供することも、病気休業の開始にあたっては重要なことであると言えますね。

よって、選択肢⑤は適切と判断できます。

選択肢④には「産業医は、主治医による職場復帰可能の判断と職場で求められる業務遂行能力の内容について精査する」とあり、この点について手引きでは「主治医による職場復帰可能の判断が、必ずしも職場で求められる業務遂行能力まで回復しているとの判断とは限らないため、主治医の判断と職場で必要とされる業務遂行能力の内容等について、産業医等の精査を経て、採るべき対応を判断することが重要」とされていますね。

主治医の「職場復帰OK」と、その職場に必要な業務遂行能力を把握している産業医の「職場復帰OK」には違いがあるということです。

ですから、産業医は主治医からの「職場復帰OK」という判断を踏まえた上で、産業医の視点から「職場復帰OK」か否かを判断するために、その職場で求められる業務遂行能力が本当に回復しているかを精査するというわけですね。

これらの内容から、選択肢④の内容は適切であると判断できます。

上記の論理は選択肢③の「主治医及び通院先の医療スタッフが中心となって、職場復帰プランを作成する」を判断する上でも活用できます。

主治医や医療スタッフでは、その職場がどのような業務を行うのか、業務遂行のために必要なことは何か、といった点に関する理解があるわけではなく、あくまでも精神医学的な視点における「職場復帰」を考えていくわけです。

ですから、職場復帰支援プランを作成していくにあたっては「具体的なプランは復帰中の就業上の配慮など個別具体的な支援内容を定めるもので、管理監督者、休業中の労働者の間で十分な打ち合わせをもったうえで定めます」とされているわけですね。

なお、以下の項目について検討し、職場復帰支援プランを作成していくことになります。

  1. 職場復帰日
  2. 管理監督者による就業上の配慮:業務サポートの内容や方法、業務内容や業務量の変更、段階的な就業上の配慮、治療上必要な配慮など
  3. 人事労務管理上の対応等:配置転換や異動の必要性、勤務制度変更の可否及び必要性
  4. 産業医等による医学的見地からみた意見:安全配慮義務に関する助言、職場復帰支援に関する意見
  5. フォローアップ:管理監督者や産業保健スタッフ等によるフォローアップの方法、就業制限等の見直しを行うタイミング、全ての就業上の配慮や医学的観察が不要となる時期についての見通し
  6. その他:労働者が自ら責任を持って行うべき事項、試し出勤制度の利用、事業場外資源の利用

このように、職場復帰支援プランを作成するにあたっては、主治医や医療スタッフではなく、職場内のことをよく把握している「管理監督者」と「休業中の労働者」の十分な打ち合わせをもって作成していくということがわかりますね。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。

さて、選択肢①「産業医の意見に基づいて、主治医が最終的な職場復帰の決定を行う」についてですが、こちらについては上記に「職場復帰の可否についての判断及び職場復帰支援プランの作成を経て、事業者としての最終的な職場復帰の決定を行います」とありますね。

即ち、職場復帰の最終的な決定は主治医が決めるのではなく、事業者が行うわけです。

なお、この際、産業医等が選任されている事業場においては、産業医等が職場復帰に関する意見及び就業上の配慮等についてとりまとめた「職場復帰に関する意見書」等をもとに関係者間で内容を確認しながら手続きを進めていくことが望ましいとされています。

最終的に職場復帰を決定するのは、当然といえば当然ですが、その労働者が勤めている企業の事業者になるわけであり、企業の外部の人間がそのような責任の伴う判断を行うということはあり得ませんね。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。

最後に選択肢②の「事業者と主治医との連携は、正式な職場復帰が開始された時点で終結する」について検証していきましょう。

精神医学的な問題が職場復帰と共に消え去るわけではありませんから(むしろ、職場復帰した後にリスクがあると見なすのが自然)、当然、主治医との連携は続いていくだろうと考えて良いでしょう。

手引きには、「職場復帰後は、管理監督者による観察と支援のほか、事業場内産業保健スタッフ等によるフォローアップを実施し、適宜、職場復帰支援プランの評価や見直しを行います」とされ、以下の項目が挙げられています。

  1. 疾患の再燃・再発、新しい問題の発生等の有無の確認
    疾患の再燃・再発についての、早期の気づきと迅速な対応が不可欠です。
  2. 勤務状況及び業務遂行能力の評価
    労働者の意見だけでなく、管理監督者からの意見も合わせて客観的な評価を行います。
  3. 職場復帰支援プランの実施状況の確認
    職場復帰支援プランが計画通りに実施されているかを確認します。
  4. 治療状況の確認
    通院状況、病状や今後の見通しについての主治医の意見を労働者から聞きます。
  5. 職場復帰支援プランの評価と見直し
    さまざまな視点から評価を行い、問題が生じている場合は、関係者間で連携しながら、職場復帰支援プランの内容の変更を検討します。
  6. 職場環境等の改善等
    職場復帰する労働者がよりストレスを感じることの少ない職場づくりをめざして、作業環境・方法や、労働時間・人事労務管理など、職場環境等の評価と改善を検討します。
  7. 管理監督者、同僚等の配慮
    職場復帰をする労働者を受け入れる職場の管理監督者や同僚等に、過度の負担がかかることのないよう配慮します。

上記の4に「通院状況、病状や今後の見通しについての主治医の意見を労働者から聞きます」とあり、間接的に事業者と主治医が連携を取っているとみることができますね。

また、5においても「関係者間で連携しながら、職場復帰支援プランの内容の変更を検討します」とありますから、必要な場合には連携をしつつ対応していくことが示されています。

なお、職場復帰にあたっては、「本人の就労意識の確保のためにも、あらかじめ、フォローアップには期間の目安を定め、その期間内に通常のペースに戻すように目標を立てること、また、その期間は、主治医と連携を図ることにより、病態や病状に応じて、柔軟に定めることが望ましい」とされており、明確に主治医との連携を行っていくことが示されていますね。

以上より、選択肢②は不適切と判断できます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です