公認心理師 2024-62

事例の状態が、Bowlbyが提唱した喪の作業の4段階のうちいずれに該当するかを選択する問題です。

こちらについては過去問でも出題がありますから、比較的解きやすい内容と言えるでしょう。

問62 64歳の男性A、会社員。1年半前に長年連れ添った妻Bを、がんで亡くした。葬儀などが一通り終わった頃から、Bを失ったことが受け入れられず、深い悲しみに襲われ、Bの遺品の整理に手が付けられず、仕事にも集中しにくい状態が続いていた。Bが亡くなって半年が過ぎた頃からは、深い悲しみは和らいできたものの、何事にも無気力になっていた。ここ2か月くらいは、徐々に気分が落ち着いてきて、一人で取り組める新たな趣味をみつけ、仕事も生活も回るようになってきている。
 J. Bowlbyが提唱した喪の作業の4段階のうち、現在のAの状態に該当するものを1つ選べ。
① 再建
② 受容
③ 無感覚
④ 混乱と絶望
⑤ 思慕と探索

選択肢の解説

① 再建
② 受容
③ 無感覚
④ 混乱と絶望
⑤ 思慕と探索

喪の作業はフロイトの造語で「trauerarbeit」と命名され、英語では「mourning work」もしくは「grief work」と訳されます。

愛着対象を失った際に生起する能動的な心の営み、あるいは失われた過去を想起しながら内面に対象表象を再建していく作業を意味します。

行動レベルとしては、故人との思い出を語ること、故人の手記を書くこと、遺品を片付けること、遺言を実現すること、自助グループに参加することなどが挙げられます。

喪の作業では心模様が変化しますが、遺族の観察から様々な段階設定が試みられており、その代表的な知見としてはBowlbyのモデルがあります。

  • 第1段階:情緒危機;ショックと茫然自失(数時間から1週間程度)
    死を事実として受け止められず、死を知らされた直後の急性ストレス反応としての無感情状態。死後1週間程度続く無感覚の段階。一種の急性のストレス反応。激しい衝撃に茫然としてしまい、死を現実として受け止めることができない。
  • 第2段階:否認;追慕と探索(数週間~数年の間)
    喪失を受け止め始めながら、受け止めきれず、深い悲嘆が始まる。喪失を事実として受け止め始め、強い思慕の情に悩まされ深い悲嘆が始まる。他方、喪失を充分には認めることができず、強い愛着が続いている段階。この時期には喪失に対する責任を巡り、怒りや抗議も見られる。
  • 第3段階:断念;混乱と絶望
    喪失の現実が受け入れられ、絶望を感じ、抑うつ状態に陥る。喪失の現実が受け入れられ、愛着は断念される。それまで故人との関係を前提に成立していた心の在り方・生活が意味を失い、絶望、失意、抑うつ状態が大きくなる。
  • 第4段階:離脱・再建;心理‐社会的な再建
    それまで愛着が向けられてきた故人から離脱し、再建していく段階。故人の思い出が穏やかで肯定的なものとなり、新しい人間関係や環境の中で、死別者の心と社会的役割の再建の努力が始まる。

こうした悲嘆過程において最終的に重要なのは、喪失対象との絆の持続的維持になりますね。

つまり、新たな形で喪失対象が「生き続ける」という世界を構築するということです。

こうした悲嘆過程の経過が悪い場合の因子としては、予期せぬ突然の死である、悲嘆の遅延が生じている、悲しみや悲嘆の抑圧、生前の死者との感情的葛藤・愛憎のアンビバレンス、死者への強い依存・愛着、などが指摘されています。

ボウルビィの提唱内容は、やはり愛着理論との関連を感じるものになっていますね。

これらを踏まえて事例を見ていきましょう。

まず「1年半前に長年連れ添った妻Bを、がんで亡くした。葬儀などが一通り終わった頃から、Bを失ったことが受け入れられず、深い悲しみに襲われ、Bの遺品の整理に手が付けられず、仕事にも集中しにくい状態が続いていた」という状況は、第一段階(ショックと茫然自失)~第二段階(追慕と探索)に該当する印象がありますね。

続く「Bが亡くなって半年が過ぎた頃からは、深い悲しみは和らいできたものの、何事にも無気力になっていた」は、第三段階(混乱と絶望)であると考えられ、抑うつ状態からの無気力が見られていると捉えて良いでしょう。

そして「ここ2か月くらいは、徐々に気分が落ち着いてきて、一人で取り組める新たな趣味をみつけ、仕事も生活も回るようになってきている」という点が現在のAの状態を表しており、この状態像がBowlbyの各段階のいずれかに該当するかを考えねばなりません。

上記のような流れに加え、ここ2か月くらいの「一人で取り組める新たな趣味をみつけ、仕事も生活も回るようになってきている」というあり様は、第四段階の「離脱・再建」に該当すると見なすことができます。

よって、選択肢②、選択肢③、選択肢④および選択肢⑤は不適切と判断でき、選択肢①が適切と判断できます。

なお、選択肢②の受容については、喪の過程ではありませんが、世界で初めて死への過程を臨床的研究の成果として公にしたキューブラー=ロスの「死への5段階」などがありますね。

  • 第1段階:否認と隔離
  • 第2段階:怒り
  • 第3段階:取引
  • 第4段階:抑うつ
  • 第5段階:受容

参考までに。

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