公認心理師 2024-66

事例の精神医学的反応に該当する診断名を選択する問題です。

症状の持続期間だけ覚えておけばよい問題でしたね。

問66 29歳の女性A、学校教員。両親に連れられて総合病院精神科を受診した。同居の両親によると、Aは、1週間前の夜、長年交際してきた同僚の男性Bから別れを告げられた。翌朝、険しい表情でリビングに現れたAは、なぐさめる両親に対して激しく興奮し、その日から仕事を休んでいる。自宅では、「Bの声が聞こえる」と言って騒いだり、「Bが迎えに来た」と言って誰もいない玄関に飛び出したり、落ち着かない状態が続いた。外来でもAは、「診察室に生徒がいる」と言って混乱した様子を見せた。入院治療となり、2週間程度でこれらの症状は消失した。その後は安定した状態が続いている。
 Aの病態の理解として、最も適切なものを1つ選べ。
① 統合失調症
② パニック症
③ 妄想性障害
④ 短期精神病性障害
⑤ 心的外傷後ストレス障害

選択肢の解説

① 統合失調症

本事例の特徴としては以下の通りになります。

  1. 29歳の女性A、学校教員。両親に連れられて総合病院精神科を受診。
  2. Aは、1週間前の夜、長年交際してきた同僚の男性Bから別れを告げられた。
  3. 翌朝、険しい表情でリビングに現れたAは、なぐさめる両親に対して激しく興奮し、その日から仕事を休んでいる。
  4. 自宅では、「Bの声が聞こえる」と言って騒いだり、「Bが迎えに来た」と言って誰もいない玄関に飛び出したり、落ち着かない状態が続いた。外来でもAは、「診察室に生徒がいる」と言って混乱した様子を見せた。
  5. 入院治療となり、2週間程度でこれらの症状は消失した。その後は安定した状態が続いている。

症状としては、上記の3や4をどう捉えるか、ということになりますし、もっとも重要なのはそうした症状が「2週間程度で消失して、その後は安定している」という事実ですね。

まずは統合失調症に関するDSM-5の診断基準を参照してみましょう。


A.以下のうち2つ(またはそれ以上)、おのおのが1カ月間(または治療が成功した際はより短い期間)ほとんどいつも存在する。これらのうち少なくともひとつは(1)か(2)か(3)である。

  1. 妄想
  2. 幻覚
  3. まとまりのない発語(例:頻繁な脱線または滅裂)
  4. ひどくまとまりのない、または緊張病性の行動
  5. 陰性症状(すなわち感情の平板化、意欲欠如)

B.障害の始まり以降の期間の大部分で、仕事、対人関係、自己管理などの面で1つ以上の機能のレベルが病前に獲得していた水準より著しく低下している(または、小児期や青年期の発症の場合、期待される対人的、学業的、職業的水準にまで達しない)。

C.障害の持続的な徴候が少なくとも6か月間存在する。この6か月の期間には、基準Aを満たす各症状(すなわち、活動期の症状)は少なくとも1か月(または、治療が成功した場合はより短い期間)存在しなければならないが、前駆期または残遺期の症状の存在する期間を含んでもよい。これらの前駆期または残遺期の期間では、障害の徴候は陰性症状のみか、もしくは基準Aにあげられた症状の2つまたはそれ以上が弱められた形(例:奇妙な信念、異常な知覚体験)で表されることがある。

D.統合失調感情障害と「抑うつ障害または双極性障害、精神病性の特徴を伴う」が以下のいずれかの理由で除外されている。

  1. 活動期の症状と同時に、抑うつエピソード、躁病エピソードが発症していない。
  2. 活動期の症状中に気分エピソードが発症していた場合、その活動期間の合計は、疾病の活動期および残遺期の持続期間の合計の半分に満たない。

E.その障害は、物質(例:薬物乱用、医薬品)または他の医学的疾患の生理学的作用によるものではない。

F.自閉スペクトラム症や小児期発症のコミュニケーション症の病歴があれば、統合失調症の追加診断は、顕著な幻覚や妄想が、その他の統合失調症の診断の必須症状に加え、少なくとも1か月(または、治療が成功した場合はより短い)存在する場合にのみ与えられる。


これらを踏まえて、本事例を見ていきましょう。

先述の通り、事例の状態としては「自宅では、「Bの声が聞こえる」と言って騒いだり、「Bが迎えに来た」と言って誰もいない玄関に飛び出したり、落ち着かない状態が続いた。外来でもAは、「診察室に生徒がいる」と言って混乱した様子を見せた」というところが最も精神医学的な問題を感じさせるところになりますが、統合失調症のA基準に該当していると言えるでしょう(妄想やまとまりのない行動など)。

ただし、統合失調症においては、こうした症状が6か月以上持続していることが要件となっています(基準Cですね)。

ですが、本事例ではこうした症状が「2週間程度で消失して、その後は安定している」となっていますので、Aを統合失調症として理解していくのは妥当ではありません。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。

② パニック症

DSM-5の診断基準を挙げていきましょう。


A.繰り返される予期しないパニック発作。パニック発作とは、突然、激しい恐怖または強烈な不快感の高まりが数分以内でピークに達し、その時間内に、以下の症状のうち4つ(またはそれ以上)が起こる。
注:突然の高まりは、平穏状態、または不安状態から起こりうる。

  1. 動機、心悸亢進、または心拍数の増加
  2. 発汗
  3. 身震いまたは振え
  4. 息切れ感または息苦しさ
  5. 窒息感
  6. 胸痛または胸部の不快感
  7. 嘔気または腹部の不快感
  8. めまい感、ふらつく感じ、頭が軽くなる感じ、または気が遠くなる感じ
  9. 寒気または熱感
  10. 異常感覚(感覚麻痺またはうずき感)
  11. 現実感消失(現実ではない感じ)または離人感(自分自身から離脱している)
  12. 抑制力を失うまたは“どうかなってしまう”ことに対する恐怖
  13. 死ぬことに対する恐怖
    注:文化特有の症状(例:耳鳴り、首の痛み、頭痛、抑制を失っての叫びまたは号泣)がみられることもある。この症状は、必要な4つ異常の1つと数えるべきではない。

B.発作のうちの少なくとも1つは、以下に述べる1つまたは両者が1ヵ月(またはそれ以上)続いている。

  1. さらなるパニック発作またはその結果について持続的な懸念または心配(例:抑制力を失う、心臓発作が起こる、“どうかなってしまう”)。
  2. 発作に関連した行動の意味のある不適応的変化(例:運動や不慣れな状況を回避するといった、パニック発作を避けるような行動)。

これらを踏まえて本事例を見てみると、パニック症とするにはAの症状は、妄想的な色彩が色濃くなっており、パニック発作によって生じていると見なすのは難しいですね。

ただ、パニックについては状態像に幅があり、一概に言語的な情報から「パニック症ではない」と判断することが難しい場合も多いのですが、本事例の場合は仮にパニック発作であると認めたとしても、基準Bの「1ヵ月(またはそれ以上)続いている」というところが該当しないことになります。

よって、選択肢②は不適切と判断できます。

③ 妄想性障害

DSM-5の基準を見ていきましょう。


A.1つ(またはそれ以上)の妄想が1ヵ月間またはそれ以上存在する。

B.統合失調症の基準Aを満たしたことがない。
注:幻覚はあったとしても優勢ではなく、妄想主題に関連していること(例:寄生虫妄想に基づく虫が寄生しているという感覚)

C.妄想またはそれから波及する影響を除けば、機能は著しく障害されておらず、行動は目立って奇異であったり奇妙ではない。

D.躁病エピソードもしくは抑うつエピソードが生じたとしても、それは妄想の持続期間に比べて短い。

E.その障害は、物質または他の医学的疾患の生理学的作用によるものではない。また、醜形恐怖症や強迫症など他の精神疾患ではうまく説明されない。

いずれかを特定せよ
被愛型:この下位分類は、妄想の中心主題が、ある人物が自分に恋愛感情をもっているという場合に適用される。
誇大型:この下位分類は、妄想の中心主題が、卓越した(しかし実際は認められない)才能または見識をもっているという確信、または重大な発見をしたという確信である場合に適用される。
嫉妬型:この下位分類は、妄想の中心主題が、自分の配偶者や恋人が不貞をはたらいているというものである場合に適用される。
被害型:この下位分類は、妄想の中心主題が、陰謀を企てられている、だまされている、見張られている、つけられている、毒や薬を盛られている、不当に中傷されている、嫌がらせを受けている、長期目標の遂行を邪魔されるといった確信である場合に適用される。
身体型:この下位分類は、妄想の中心主題が、身体機能または感覚にかかわる場合に適用される。
混合型:この下位分類は、複数の妄想の主題のうち、いずれも優勢でない場合に適用される。
特定不能型:この下位分類は、支配的な妄想確信がはっきりと決定できない場合やある特定の型にならない場合(例:際立った被害的もしくは誇大的な要素のない関係妄想)に適用される。


事例の「自宅では、「Bの声が聞こえる」と言って騒いだり、「Bが迎えに来た」と言って誰もいない玄関に飛び出したり、落ち着かない状態が続いた。外来でもAは、「診察室に生徒がいる」と言って混乱した様子を見せた」については妄想的な反応であると言えますが、そもそもA基準の「1ヵ月間またはそれ以上存在する」があるので妄想性障害には該当しませんね。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。

④ 短期精神病性障害

まずは「短期精神病性障害」の診断基準を確認しておきましょう。


A.以下の症状のうち1つ(またはそれ以上)が存在する。これらのうち少なくとも1つは1か2か3である。

  1. 妄想
  2. 幻覚
  3. まとまりのない発語(例:頻繁な脱線または滅裂)
  4. ひどくまとまりのない、または緊張病性の行動
    注:文化的に許容された反応様式であれば、その症状は含めないこと。

B.障害のエピソードの持続期間は、少なくとも1日以上1ヵ月未満で、最終的には病前の機能レベルまで完全に回復すること。

C.その障害は、「うつ病または双極性障害、精神病性の特徴を伴う」、統合失調症または緊張病のような他の精神病性障害ではうまく説明されず、物質(例:乱用薬物、医薬品)または他の医学的疾患の生理学的作用によるものではない。

● 該当があれば特定せよ
明らかなストレス因がある(短期反応精神病):その人の属する文化圏で同様の環境にあるほとんどすべての人にとって著しくストレスの強いような、単独あるいは複数の出来事に反応して症状が起こっている場合。
明らかなストレス因がない:その人の属する文化圏で同様の環境にあるほとんどすべての人にとって著しくストレスの強いような、単独あるいは複数の出来事に反応して症状が起こっていない場合。 周産期発症:発症が妊娠中もしくは分娩後4週間以内である場合。

● 該当があれば特定せよ
緊張病を伴う:短期精神病性障害に関連する緊張病のコードも追加で用いる。

● 現在の重症度を特定せよ
症度の評価は、精神病の主要症状の定量的評価により行われる。その症状には妄想、幻覚、まとまりのない発語、異常な精神運動行動、陰性症状が含まれる。それぞれの症状について、0(なし)から4(あり、重度)までの5段階で現在の重症度(直近7日間で最も重度)について評価する。


ちなみに、上記の緊張病性の行動とは、激しい興奮、拒絶、奇妙な姿勢などのことを指します。

診断基準の内容は、本事例の状態を示し(妄想やまとまりのない発語など)ていると思われ、また、短期精神病性障害はその名の通り「少なくとも1日以上1ヵ月未満」という狭い間隔でのものを指しますが、そちらも「2週間程度で消失して、その後は安定している」という記述と一致しています。

こうした点から、本事例を短期精神病性障害と見なすのが妥当であると考えられます。

よって、選択肢④が適切と判断できます。

⑤ 心的外傷後ストレス障害

まずはDSM-5の基準を見ていきましょう。


A. 実際にまたは危うく死ぬ、重症を負う、性的暴力を受ける出来事への、以下のいずれか1つ(またはそれ以上)の形による曝露:

  1. 心的外傷的出来事を直接体験する。
  2. 他人に起こった出来事を直に目撃する。
  3. 近親者または親しい友人に起こった心的外傷的出来事を耳にする。家族または友人が実際に死んだ出来事または危うく死にそうだった出来事の場合、それは暴力的なものまたは偶発的なものでなくてはならない。
  4. 心的外傷的出来事の強い不快感をいだく細部に、繰り返しまたは極端に曝露される体験をする(例:遺体を収容する緊急対応要員、児童虐待の詳細に繰り返し曝露される警官)。
    注:基準A4は、仕事に関連するものでない限り、電子媒体、テレビ、映像、または写真による曝露には適用されない。

B.心的外傷的出来事の後に始まる、その心的外傷的出来事に関連した、以下のいずれか1つ(またはそれ以上)の侵入症状の存在。

  1. 心的外傷的出来事の反復的、不随意的、および侵入的で苦痛な記憶
    注:6歳を超える子どもの場合、心的外傷的出来事の主題または側面が表現された遊びを繰り返すことがある。
  2. 夢の内容と情動またはそのいずれかが心的外傷的出来事に関連している、反復的で苦痛な夢
    注:子どもの場合、内容のはっきりしない恐ろしい夢のことがある。
  3. 心的外傷的出来事が再び起こっているように感じる、またはそのように行動する解離症状(例:フラッシュバック)(このような反応は1つの連続体として生じ、非常に極端な場合は現実の状況への認識を完全に喪失するという形で現れる)。
    注:子どもの場合、心的外傷に特異的な再演が遊びの中で起こることがある。
  4. 心的外傷的出来事の側面を象徴するまたはそれに類似する、内的または外的なきっかけに曝露された際の強烈なまたは遷延する心理的苦痛。
  5. 心的外傷的出来事の側面を象徴するまたはそれに類似する、内的または外的なきっかけに対する顕著な生理学的反応。

C.心的外傷的出来事に関連する刺激の持続的回避、心的外傷的出来事の後に始まり、以下のいずれか1つまたは両方で示される。

  1. 心的外傷的出来事についての、または密接に関連する苦痛な記憶、思考、または感情の回避、または回避しようとする努力。
  2. 心的外傷的出来事についての、または密接に関連する苦痛な記憶、思考、または感情を呼び起こすことに結びつくもの(人、場所、会話、行動、物、状況)を回避しようとする努力。

D. 心的外傷的出来事に関連した認知と気分の陰性の変化。心的外傷的出来事の後に発現または悪化し、以下のいずれか2つ(またはそれ以上)で示される。

  1. 心的外傷的出来事の重要な側面の想起不能(通常は解離性健忘によるものであり、頭部外傷やアルコール、または薬物など他の要因によるものではない)。
  2. 自分自身や他者、世界に対する持続的で過剰に否定的な信念や予想(例:「私が悪い」、「誰も信用できない」、「世界は徹底的に危険だ」、「私の全神経系は永久に破壊された」)。
  3. 自分自身や他者への非難につながる、心的外傷的出来事の原因や結果についての持続的でゆがんだ認識。
  4. 持続的な陰性の感情状態(例:恐怖、戦慄、怒り、罪悪感、または恥)。
  5. 重要な活動への関心または参加の著しい減退。
  6. 他者から孤立している、または疎遠になっている感覚。
  7. 陽性の過剰を体験することが持続的にできないこと(例:幸福や満足、愛情を感じることができないこと)。

E. 診断ガイドラインと関連した、覚醒度と反応性の著しい変化。心的外傷的出来事の後に発現または悪化し、以下のいずれか2つ(またはそれ以上)で示される。

  1. 人や物に対する言語的または肉体的な攻撃性で通常示される、(ほとんど挑発なしでの)いらだたしさと激しい怒り。
  2. 無謀なまたは自己破壊的な行動
  3. 過度の警戒心
  4. 過剰な驚愕反応
  5. 集中困難
  6. 睡眠障害(例:入眠や睡眠維持の困難、または浅い眠り)

F. 障害(基準B、C、DおよびE)の持続が1ヵ月以上

G.その障害は、臨床的に意味のある苦痛、または両親や同胞、仲間、他の養育者との関係や学校活動における機能の障害を引き起こしている。

H. その障害は、物質(例:医薬品またはアルコール)または他の医学的疾患の生理学的作用によるものではない。

いずれかを特定せよ
解離症状を伴う:症状が心的外傷後ストレス障害の基準を満たし、次のいずれかの症状を持続的または反復的に体験する。
離人感:自分の精神機能や身体から離脱し、あたかも外部の傍観者であるかのように感じる持続的または反復的な体験(例:夢の中にいるような感じ、自己または身体の非現実感や、時間が進むのが遅い感覚。
現実感消失:周囲の非現実感の持続的または反復的な体験(例:まわりの世界が非現実的で、夢のようで、ぼんやりし、またはゆがんでいるように体験される)。
注:この下位分類を用いるには、解離症状が物質(例:意識喪失)または他の医学的疾患(例:複雑部分発作)の生理学的作用によるものであってはならない。

該当すれば特定せよ
遅延顕症型:その出来事から少なくとも6ヵ月間(いくつかの症状の発症や発現が即時であったとしても)診断基準を完全には満たしていない場合。


本事例の精神医学的な反応について「失恋によるトラウマ反応である」と考えてしまう人もいるかもしれませんが、PTSDの診断にはA基準(出来事基準)が満たされている必要があるので、失恋という出来事でPTSDと見なすのはそもそも困難です。

また「自宅では、「Bの声が聞こえる」と言って騒いだり、「Bが迎えに来た」と言って誰もいない玄関に飛び出したり、落ち着かない状態が続いた。外来でもAは、「診察室に生徒がいる」と言って混乱した様子を見せた」という反応は、PTSDのいずれの症状にも該当しないことがわかると思います(無理をすれば再体験症状:侵入症状でしょうか)。

いずれにせよ、Aを心的外傷後ストレス障害とするのは妥当ではありませんね。

よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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