公認心理師 2024-64

事例の状態を説明する診断名を選択する問題です。

睡眠はさまざまな症候に絡んできますから、その周辺の特徴を踏まえて精査していくことになりますね。

問64 48歳の男性A、会社役員。昼間の強い眠気と倦怠感、集中力の低下などを訴え、精神科クリニックを受診した。Aは、40歳を過ぎてから徐々に体重が増加し、現在のBMIは30である。また、高血圧症の診断の下、内科クリニックで薬物療法を受けている。毎日6時間程度の睡眠時間を確保しており、寝付きは良いが、夜間に頻繁に目が覚める。起床時には、頭痛がひどく、熟眠感に乏しい。いびきがうるさいとのことで、数年前から妻は別の部屋で寝ている。最近は、重要な会議でも居眠りをすることが多くなり、部下からそのことを指摘されることも気になっている。
 Aの病態の理解として、最も適切なものを1つ選べ。
① 睡眠時随伴症
② ナルコレプシー
③ むずむず脚症候群
④ 睡眠時無呼吸症候群
⑤ 概日リズム睡眠・覚醒障害

選択肢の解説

① 睡眠時随伴症

本事例では、以下のような状態像を説明することができる診断名を選択することが求められています。

  • 昼間の強い眠気と倦怠感、集中力の低下などがある。最近は、重要な会議でも居眠りをすることが多くなり、部下からそのことを指摘される。
  • 40歳を過ぎてから徐々に体重が増加し、現在のBMIは30である。
    ※日本肥満学会では、BMIが22を適正体重(標準体重)とし、統計的に最も病気になりにくい体重とされています。25以上を肥満、18.5未満を低体重と分類しています。
  • 高血圧症の診断の下、内科クリニックで薬物療法を受けている。
  • 毎日6時間程度の睡眠時間を確保しており、寝付きは良いが、夜間に頻繁に目が覚める。起床時には、頭痛がひどく、熟眠感に乏しい。いびきがうるさいとのことで、数年前から妻は別の部屋で寝ている。

これらを踏まえ、各症候を見ていきましょう。

本選択肢の睡眠時随伴症とは、睡眠中におきるねぼけ行動の総称であり、睡眠中に生じるねぼけ、夜尿、歯ぎしり、悪夢など望ましくない現象を総称です。

主として運動面の問題として現れるものとして睡眠時遊行症、夜驚症、レム睡眠行動障害、寝言などいわゆるねぼけに含まれるものがあります。

また、自律神経の問題が主なものとしては、睡眠時遺尿症(夜尿症)、乳児睡眠時無呼吸症などがあります。その他のものとしては、悪夢、睡眠麻痺などがあります。

物を調理し食べるといった動作を特徴とする睡眠関連摂食障害(SRED)もここに含まれ、また、ベンゾジアゼピン系睡眠薬などの副作用としてノンレム睡眠から生じる覚醒障害が出現することもあります。

これらの睡眠時随伴症では、周囲が覚醒させることは難しく、患者は実際に何が起こったかを思い出せず、夢見の体験は伴いませんから、これらはノンレム睡眠(特に深睡眠)から不完全に覚醒した状態(寝ぼけ)と考えられています。

多くは小児期に始まり思春期早期に自然に治りますが、まれに成人期まで持続することがあります。

治療の対象となることはまれですが、本人や周囲の人に危険が及ぶ場合には治療を必要とします。

寝室の安全性を高め、睡眠時に施錠する等の対策を講じたうえで、必要に応じ薬物療法が行われます。

こうした睡眠時随伴症の特徴は、上記の本事例の特徴とは合致しないことがわかりますね。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。

② ナルコレプシー

ナルコレプシーは、睡眠発作、情動脱力発作、入眠時幻覚、睡眠麻痺を四主徴とする一つの疾患単位です。

それぞれについて述べていきましょう。

ナルコレプシーの最も基本的な症状は日中反復する居眠りがほとんど毎日数年間にもわたって続くことです。

これは睡眠発作と呼ばれ、昼間何回も眠気に襲われ、実際に数十分も眠り込んでしまう発作性病状です。

通常は10~20分くらい眠ると目が覚めてサッパリすることが特徴的で、1時間を超えることは稀です。

しかし、いったん目が覚めて2~3時間もすると再び眠気が襲ってきます。

このとき意識的に緊張したり、身体を動かしたりすることによりある程度眠気を押さえることは可能だが、毎日続く眠気ですからずっと我慢し続けることは不可能でしょう。

睡眠発作は会議中であるとか、正常者でも眠気の起こりやすいときに見られることが多いが、歩行中などにも起こり得る点で正常者の眠気とは質的に異なると考えられます。

なお、睡眠発作は強い覚醒刺激を与えると覚醒させ得るものです。

情動脱力発作とは、笑ったり驚いたりなどの主に陽性の強い情動の変化に伴って起こる全身の脱力です。

この発作の持続はごく短時間であるが、骨格筋の脱力のほか顔面筋の脱力もあり、転倒したり机にうつぶせになったりすることもあります。

通常、脱力は瞬間的ですぐに回復するので、周囲の人にあまり気づかれずに済むことが多いが、突然顔の力に締まりがなくなり、ろれつが回らなくなったり、しゃがみこんで床に崩れ折れてしまったりすることもあります。

情動脱力発作中でも意識は保たれており、周囲の状況はよく記憶されています。

ときには情動脱力発作が続けざまに起こり、数分から30分間くらい脱力状態が持続することがあり、脱力重積状態と呼ばれます。

入眠時幻覚とは、入眠後まもなく体験される幻覚で、通常の夢に似るが夢よりも生々しく、現実感のある体験です。

入眠時レム睡眠期に一致します。

夜間睡眠時のみならず、昼間の睡眠時や睡眠発作時にも体験されます。

多くの場合、不安恐怖感のある幻覚で、何か怖いものが襲い掛かってきたり、のしかかられて苦しむといった内容のものが多く、強い現実感と恐怖感を伴う幻視、幻触、身体運動感覚、ときに幻聴が見られます。

通常、目が覚めることによって悪夢であったことを悟りますが、まれには入眠時幻覚が発展して日中にも侵入し、夢幻様体験から幻覚妄想状態を呈することもあります。

睡眠麻痺とは、通常入眠時幻覚による不安・幻覚体験に一致して、全身の脱力状態が起こることを言います(俗にいう金縛りと同じ状態です)。

患者は恐怖から助けを求めて起き上がろうとしますが、全身が金縛りとなって動けず、声もほとんど出すことができません。

事例の状態では、確かに睡眠の問題(居眠りなど)は見られるのですが、その他の状態像(いびきがうるさい、体型のこと)が合致するとは言えませんし、ナルコレプシーに特徴的な症状が見られるわけでもありません。

よって、選択肢②は不適切と判断できます。

③ むずむず脚症候群

まずICSD-3(International Classification of Sleep Disorder 3rd:睡眠障害国際分類第3版)のむずむず脚症候群の診断基準を確認してみましょう。


A.脚を動かしたい衝動があり、脚の不快で気持ちの悪い感覚を伴うことが多く、かつ以下の3つを伴う。

  1. 横になったり、座ったりといった休息や活動していないときに症状が出てくる、もしくは悪化する。
  2. 歩いたり、ストレッチしたりといった動きによって、少なくとも動かしている間は部分的、もしくは完全に症状がなくなってしまう。
  3. 夕方から夜にかけてのみ起こるか、もしくはその時期に一番悪化する。

B.上記の症状は、他の内科的または行動状態のみで説明できるものではない(例:こむらがえり、体位による不快感、筋肉痛、静脈うっ血、下肢の浮腫、関節炎、下肢をたたく癖)。

C.むずむず脚症候群の症状により心配、気分の落ち込み、睡眠の問題や精神的、身体的、社会的、仕事や学習、行動上の機能に問題が生じている。


ただし、こうした項目のすべてが患者の主観によるものになるので、操作的に当てはめるのではなく、不快感が出現する場面とそのときの行動が目に浮かぶまで具体的に聞き取ることが必要です。

表現は必ずしも「むずむず」ではなく、種々の形容になり(例:重だるい、ざわざわする、虫が這う、何かが中で引っ張っているような)、言葉で伝えるのが困難で当惑している様相を示します。

異常感覚の表現がいかなるものであっても「動かさずにはいられない」「動かすと(あるいは、押さえる、こする、叩く、指圧をするといった物理的な刺激で)楽になる」という症状を伴っており、軽減させるための具体的な方法を自ら会得している場合が多いです。

症状の出現と消失は概日リズム(サーカディアン・リズム)に従うのが原則であり、昼夜逆転の生活を送っていない限り、少なくとも発症当初は、夜間就寝前~就寝時に限局して生じ、入眠困難が強い場合でも明け方には少し眠って朝起床時には症状が無くなっていることを特徴とします。

家族歴も参考になり、診断に迷うときにはドパミン作動薬への反応性をもって判断する場合もあります。

本事例では、睡眠の問題は見られるものの(寝付きは良いが、夜間に頻繁に目が覚める。起床時には、頭痛がひどく、熟眠感に乏しい)、それがむずむず脚症候群の症状によるものではないと見るのが妥当ですね。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。

④ 睡眠時無呼吸症候群

睡眠時無呼吸症候群は眠り出すと呼吸が止まってしまう病気です。

呼吸が止まると血液中の酸素濃度が低下するため、目が覚めて再び呼吸し始めますが、眠り出すとまた止まってしまいます。

問診などで睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合は、携帯型装置による簡易検査や睡眠ポリグラフ検査(PSG)にて睡眠中の呼吸状態の評価を行います。

PSGにて、1時間あたりの無呼吸と低呼吸を合わせた回数である無呼吸低呼吸指数(AHI)が5以上であり、かつ上記の症状を伴う際に睡眠時無呼吸症候群と診断します(10秒以上呼吸が止まる「無呼吸」や、呼吸が弱くなる「低呼吸」が、1時間あたり5回以上繰り返される状態)。

その重症度はAHI5~15を軽症、15~30を中等症、30以上を重症としています。

睡眠時無呼吸症候群では…

  1. 周囲からいびきを指摘される
  2. 夜間の睡眠中によく目が覚める(息苦しくなって目覚めることもある)
  3. 起床時の頭痛や体のだるい感じ
  4. 日中の眠気

…などを経験します。

睡眠時無呼吸症候群には、口や鼻から肺の入り口である声帯に至る空気の通り道が細くなるために発生する「閉塞型」、呼吸を調整する脳の働きが低下するために発生する「中枢型」、これら両方が関係する「混合型」に分けられますが、「閉塞型」が大部分を占めるので、こちらを念頭に置きつつ解説していきます。

閉塞型の睡眠時無呼吸症候群の原因のひとつは肥満とされています(実際に肥満は睡眠時無呼吸症候群全体の60%以上に見られます)。

睡眠中にはのどの緊張が緩むため、正常の人でも空気の通り道が細くなりますが、肥満の人ではのどへの脂肪沈着が増加するために空気の通りが悪くなるとされています。

体重増加により、のどに脂肪が蓄積して気道が狭くなるうえに、あおむけで寝ることでさらに気道が狭まるとされています。

この狭くなった気道を空気が通るたびに、大きないびきが起こり、この気道が完全に塞がれたときに無呼吸となります。

ただし、睡眠時無呼吸症候群は「肥満」の人だけにみられる病気ではなく、やせている人でも「下あごが小さい、後退している」「扁桃腺が大きい」などがあれば気道が狭くなりやすいため睡眠時無呼吸症候群の原因となります(ほかに、閉経後の女性や高齢者の方でも睡眠時無呼吸症候群は起こりやすくなります)。

そして、こうした無呼吸状態や低呼吸状態を一晩中繰り返すため、深い睡眠がまったくとれなくなり、日中に強い眠気が出現します。

睡眠時無呼吸症候群の問題は上記の止まりません。

酸素濃度が下がるため、これを補うために心臓の働きが強まり、高血圧となります。

酸素濃度の低下により動脈硬化も進み、心筋梗塞や脳梗塞を起こしやすくなります(低酸素状態が続くことで、心臓や血管に大きな負担がかかる)。

さらに睡眠不足によるストレスにより、血糖値やコレステロール値が高くなり、さまざまな生活習慣病やメタボリックシンドロームが引き起こされます(低酸素状態と睡眠不足の影響で、体に過度なストレスが加わると、糖の代謝にかかわるインスリンなどホルモンの働きが悪くなる)。

治療ですが、経鼻的持続陽圧呼吸療法(Continuous positive airway pressure:CPAP)が標準的治療とされています(睡眠時無呼吸症候群では、高血圧、脳卒中、心筋梗塞などを引き起こす危険性が約3~4倍高くなり、特に、AHI30以上の重症例では心血管系疾患発症の危険性が約5倍にもなります。しかし、CPAP治療にて、健常人と同等まで死亡率を低下させることが明らかになっています)。

CPAPはマスクを介して持続的に空気を送ることで、狭くなっている気道を広げる治療法です。

また、下あごを前方に移動させる口腔内装置(マウスピース)を使用して治療することもあります。

また、肥満者では減量することで無呼吸の程度が軽減することが多く、食生活や運動などの生活習慣の改善を心がけることが重要になってきます。

アルコールは睡眠の質を悪化させるので、晩酌は控える必要があります(寝付きは良くなるけど、深いねむりになりにくくなりますね)。

上記の「睡眠時無呼吸症候群」の特徴は、以下の事例特徴に一致することがわかりますね。

  • 昼間の強い眠気と倦怠感、集中力の低下などがある。最近は、重要な会議でも居眠りをすることが多くなり、部下からそのことを指摘される。
  • 40歳を過ぎてから徐々に体重が増加し、現在のBMIは30である。
    ※日本肥満学会では、BMIが22を適正体重(標準体重)とし、統計的に最も病気になりにくい体重とされています。25以上を肥満、18.5未満を低体重と分類しています。
  • 高血圧症の診断の下、内科クリニックで薬物療法を受けている。
  • 毎日6時間程度の睡眠時間を確保しており、寝付きは良いが、夜間に頻繁に目が覚める。起床時には、頭痛がひどく、熟眠感に乏しい。いびきがうるさいとのことで、数年前から妻は別の部屋で寝ている。

事例でも、妻からいびきがあることを指摘されており、日中の眠気、中途覚醒の存在、倦怠感など、全体的に睡眠時無呼吸症候群の特徴を満たしています。

また、適正体重から外れて肥満域にあることも睡眠時無呼吸症候群を引き起こしている要因と見なすのが自然でしょう。

以上より、選択肢④が適切と判断できます。

⑤ 概日リズム睡眠・覚醒障害

ヒトの体内時計の周期は約25時間であり、地球の周期とは約1時間のずれがあります。

このずれを修正できず、睡眠・覚醒リズムに乱れが生じたために起こる睡眠の障害を概日リズム睡眠・覚醒障害と呼びます。

時差症候群・交代勤務睡眠障害・睡眠相後退症候群・睡眠相前進症候群・非24時間睡眠覚醒症候群および不規則型睡眠覚醒パターンに分類されます。

  • 睡眠・覚醒相後退障害(DSWPD):
    極端な遅寝遅起きを特徴とします。就寝時刻になっても寝つけず夜更かしとなり、さらに起きるべき時刻に起きられず、無理に起きると心身の不調が生じます。夏休み等の長期休暇明けに出現することが多く、思春期や若年成人に多くみられます。
  • 睡眠・覚醒相前進障害(ASWPD):
    極端な早寝早起きを特徴とします。夕方から早晩に眠気が出現し、早朝に目が覚めてしまいます。夜の団欒に参加できず、周囲が寝静まっている内から目が覚めてしまうため、多くは家族や友人の生活と乖離が生じることに苦痛を感じます。高齢者に多くみられ、加齢に伴う体内時計の機能変化が関係すると考えられています。
  • 不規則睡眠・覚醒リズム障害(ISWRD):
    1日のなかで睡眠と覚醒が不規則に現れることが特徴です。典型的には4時間以上続けて眠れなくなり、日中頻繁に昼寝がみられます。一部の遺伝疾患に合併するほか、認知症やパーキンソン病などの神経変性疾患、発達障害をもつ子供に多くみられます。
  • 非24時間睡眠・覚醒リズム障害(Non-24):
    毎日30分から1時間程度、睡眠-覚醒リズムが後退していくのが特徴です。本来の体内時計の周期は24時間より少し長く設定されており、主に朝の太陽光が体内時計に作用しズレを調整していますが、この同調機能が何らかの原因で損なわれ、体内時計の本来の周期に従った睡眠-覚醒リズムが現れるのが病気の本態と考えられています。患者の多くは全盲者であり、網膜が機能を失い、光が体内時計に届かないことで生じます。視覚障害がない場合は、睡眠・覚醒相後退障害の病歴があり、太陽光が届きづらい室内環境で長時間生活していると生じやすいと考えられています。
  • 交代勤務障害:
    夜勤などの、通常は眠る時間帯に労働することに伴って、不眠や過剰な眠気が生じるのが特徴です。
  • 時差障害:
    海外(時差地域)への渡航により、体内時計リズムと明暗周期が一致しなくなり、不眠や過剰な眠気が生じるのが特徴です。

概日リズム睡眠・覚醒障害は、大きくふたつに分けられます。

ひとつは人為的・社会的な理由により体内時計を短期間にずらさなければならない場合に起こるものです(時差症候群および交代勤務睡眠障害がそれにあたります)。

もうひとつは体内時計が外界の周期に同調する機能に問題がある場合に起こるもので、内因性概日リズム睡眠障害といいます。

内因性概日リズム睡眠障害としては、深夜にならないと寝付けず昼頃まで起きられないという睡眠パターンが固定してしまう睡眠相後退症候群、反対に夕方になると眠ってしまい早朝に目が覚める睡眠相前進症候群、寝付く時刻と目が覚める時刻が毎日30分~60分ずつ遅れていく非24時間睡眠覚醒症候群、睡眠と覚醒のリズムが見られなくなってしまう不規則型睡眠覚醒パターンがあります。

事例を見てみると、睡眠の問題は見受けられますが、いびきの存在、寝付きは悪くない等、概日リズム睡眠・覚醒障害では説明しづらい特徴も見られます。

もちろん、睡眠の不足はさまざまな問題を引き起こすので、概日リズム睡眠・覚醒障害の可能性は必ずしも排除するわけにはいかないかもしれないですが、事例の状態像を踏まえれば、もっと可能性の高い症候を第一選択とするべきでしょう。

以上より、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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