公認心理師 2023-147

「従業員が仕事に没頭でき、やりがいや誇りを感じられ、仕事から活力を得られる職場づくり」に該当する概念を選択する問題です。

産業領域の概念は横文字が多いんですよね。

問147 中堅製造業、A社。創業当初から、従業員への給与や福利厚生を重視した経営を続けている。近年では、時間外労働対策や女性活躍推進、ハラスメント対策などに注力し、一定の成果を得ている。メンタルヘルス対策にも取り組んでおり、社内での相談体制や職場復帰支援に関する制度などを整備してきた。今回、メンタルヘルス対策の一環として、健康経営の観点を取り入れた対策を強化する計画が検討された。この計画では、従業員が仕事に没頭でき、やりがいや誇りを感じられ、仕事から活力を得られる職場づくりが目標として掲げられた。
 A社がこの目標の達成度を評価する観点として、最も適切なものを1つ選べ。
① ポジティブ・アクションの推進
② ワーク・エンゲイジメントの向上
③ ワーク・ライフ・バランスの実現
④ メンタルヘルス不調による休職率の低下
⑤ メンタルヘルス不調による休職者の復職率の向上

解答のポイント

各選択肢の概念を把握している。

選択肢の解説

② ワーク・エンゲイジメントの向上

本問で考えるべきなのは「この計画では、従業員が仕事に没頭でき、やりがいや誇りを感じられ、仕事から活力を得られる職場づくりが目標として掲げられた」という点を叶えるための目標を選択することです。

この内容に近い概念を選択するということですね。

それを踏まえて選択肢を見ていきましょう。

ワーク・エンゲイジメントは、オランダのSchaufeli教授らが提唱した概念であり、仕事に関連するポジティブで充実した心理状態として「仕事から活力を得ていきいきとしている(活力)」「仕事に誇りとやりがいを感じている(熱意)」「仕事に熱心に取り組んでいる(没頭)」の3つが揃った状態として定義されています。

つまり、ワーク・エンゲイジメントが高い人は、仕事に誇りとやりがいを感じ、熱心に取り組み、仕事から活力を得て、いきいきとしている状態にあると言えます。

さらにワーク・エンゲイジメントは、特定の対象、出来事、個人、行動などに向けられた「一時的な状態」ではなく、仕事に向けられた「持続的かつ全般的な感情と認知」によって特徴づけられ、「個人」と「仕事全般」との関係性を示す概念であることに加えて、個人の中で日々の時間の経過とともに一時的な経験として変動していく面もあるものの、基本的には、持続的かつ安定的な状態を捉える概念とされています。

こうした「ワーク・エンゲイジメント」の内容は、本問で問われている「従業員が仕事に没頭でき、やりがいや誇りを感じられ、仕事から活力を得られる職場づくり」に合致しますから、この目標の達成度を評価することが重要であることがわかりますね。

よって、選択肢②が適切と判断できます。

① ポジティブ・アクションの推進

ポジティブ・アクションについて厚生労働省は「一義的に定義することは困難ですが、一般的には、社会的・構造的な差別によって不利益を被っている者に対して、一定の範囲で特別の機会を提供することなどにより、実質的な機会均等を実現することを目的として講じる暫定的な措置」であるとしています。

関連する条約や法律としては、「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(女子差別撤廃条約)」「男女共同参画社会基本法」「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」などがありますね。

このポジティブアクションの必要性が指摘されている要因として、厚生労働省は以下を挙げています。

  1. 高い緊要度:日本における女性の参画は徐々に増加しているものの、他の先進諸国と比べて低い水準であり、その差は拡大しています。これまでの延長線上の取組を超えた効果的な対策として、暫定的に必要な範囲において、ポジティブ・アクションを進めていくことが必要です。
  2. 実質的な機会の平等の確保:世論調査の結果などを見ても、我が国は、固定的性別役割分担意識に関しての偏見が根強いことがうかがえます。また、現状では男女の置かれた社会的状況には、個人の能力・努力によらない格差があることは否めません。こうした中、実質的な機会の平等の確保が必要となります。
  3. 多様性の確保:女性を始めとする多様な人々が参画する機会を確保することは、政治分野においては民主主義の要請であり、行政分野においては、バランスのとれた質の高い行政サービスの実現にもつながります。また、民間企業の経済活動や研究機関の研究活動において、多様な人材の発想や能力の活用は、組織・運営の活性化や競争力の強化等に寄与するものです。

要するに、女性の活躍促進という意味合いでポジティブ・アクションという用語は使用されています。

こうした「社会的・構造的な差別によって不利益を被っている者に対して、一定の範囲で特別の機会を提供することなどにより、実質的な機会均等を実現することを目的として講じる暫定的な措置」、特に女性の活躍促進という意味合いで用いられることが多いポジティブ・アクションという概念は、本問の「従業員が仕事に没頭でき、やりがいや誇りを感じられ、仕事から活力を得られる職場づくり」を意味するものではないことがわかります。

以上より、選択肢①は不適切と判断できます。

③ ワーク・ライフ・バランスの実現

ワークライフバランスについては、厚生労働省の「仕事と生活の調和推進のための行動指針」を参考にしましょう。

本行動指針は、「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」で示す「仕事と生活の調和が実現した社会」を実現するため、企業や働く者、国民の効果的な取組、国や地方公共団体の施策の方針を定めたものです。

仕事と生活の調和が実現した社会とは、「国民一人ひとりがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活などにおいても、子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる社会」です。

具体的には、以下のような社会を目指すべきとしています。

  1. 就労による経済的自立が可能な社会
    経済的自立を必要とする者とりわけ若者がいきいきと働くことができ、かつ、経済的に自立可能な働き方ができ、結婚や子育てに関する希望の実現などに向けて、暮らしの経済的基盤が確保できる。
  2. 健康で豊かな生活のための時間が確保できる社会
    働く人々の健康が保持され、家族・友人などとの充実した時間、自己啓発や地域活動への参加のための時間などを持てる豊かな生活ができる。
  3. 多様な働き方・生き方が選択できる社会
    性や年齢などにかかわらず、誰もが自らの意欲と能力を持って様々な働き方や生き方に挑戦できる機会が提供されており、子育てや親の介護が必要な時期など個人の置かれた状況に応じて多様で柔軟な働き方が選択でき、しかも公正な処遇が確保されている。

仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」のこの部分について、必要とされる条件や取組が「仕事と生活の調和推進のための行動指針」で示されているわけです。

「仕事と生活を調和させること」を指すワークライフバランスであり、これが実現した社会が「国民一人ひとりがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活などにおいても、子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる社会」とされています。

こうしたワークライフバランスの内容は、本問の「従業員が仕事に没頭でき、やりがいや誇りを感じられ、仕事から活力を得られる職場づくり」を意味するものではないことがわかります(問われているのは、仕事に関する充実というニュアンスが強いですからね)。

以上より、選択肢③は不適切と判断できます。

④ メンタルヘルス不調による休職率の低下
⑤ メンタルヘルス不調による休職者の復職率の向上

本問の「従業員が仕事に没頭でき、やりがいや誇りを感じられ、仕事から活力を得られる職場づくり」と、ここで挙げた選択肢である「メンタルヘルス不調」とはイコールにならないことがわかると思います。

A社が元々取り組んでいた「メンタルヘルス対策にも取り組んでおり、社内での相談体制や職場復帰支援に関する制度などを整備してきた」という箇所の内容が、「メンタルヘルス不調による休職率の低下」および「メンタルヘルス不調による休職者の復職率の向上」であった可能性もあるでしょうね。

また、「今回、メンタルヘルス対策の一環として、健康経営の観点を取り入れた対策を強化する計画が検討された」という説明から、これらの選択肢を選んでしまいそうになるかもしれません。

しかし、本問で求められているのは「従業員が仕事に没頭でき、やりがいや誇りを感じられ、仕事から活力を得られる職場づくり」でありプラマイゼロの状態からプラスを目指すようなイメージに近いですが、「メンタルヘルス不調による休職率の低下」および「メンタルヘルス不調による休職者の復職率の向上」はマイナスをゼロに近づけようとするアプローチと言えます。

ちなみに、「メンタルヘルス不調による休職率の低下」および「メンタルヘルス不調による休職者の復職率の向上」は労働安全衛生調査の調査内容に含まれているものになっていますね。

以上より、選択肢④および選択肢⑤は不適切と判断できます。

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