公認心理師 2023-132

組織内のハラスメント相談室での初回面接に関する問題です。

常識的にあり得ないような選択肢も含まれており、比較的解きやすい内容になっていたと思います。

問132 組織内のハラスメント相談室で行われる相談者との初回面接における聞き取りについて、適切なものを2つ選べ。
① 具体的な事実を聞き取る。
② 具体的な対応策の検討は控える。
③ 相談者の訴えを疑う姿勢を基本とする。
④ 精神医学的問題のアセスメントは避ける。
⑤ 組織の対応に関する相談者の意向を確認する。

解答のポイント

ハラスメント対応の概要を把握している。

選択肢の解説

① 具体的な事実を聞き取る。
② 具体的な対応策の検討は控える。
⑤ 組織の対応に関する相談者の意向を確認する。

本問では「職場におけるハラスメント対応マニュアル」から引用しつつ解説していきます。

まず「職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応」でも、「事実関係を迅速かつ正確に把握すること」が真っ先に求められています。

組織でハラスメントが認められた場合、行為の具体的様態(時間、場所、内容、程度など)、当事者同士の関係(職位など)、被害者の対応(告訴など)や心情を聞き取ることになります。

そして「相談に対する適切な対応におけるポイント」では、「相談にあたっては、相談者の話に真摯に耳を傾け、相談者の移行などを的確に把握することが必要です。特に、ハラスメントを受けた心理的影響から理路整然と話すことができない場合がありますので、忍耐強く聞くように努めましょう」とされています。

すなわち、具体的な事実を聞き取ると共に、相談者の意向を確認することが重要になってくるわけですが、実際には具体的な事実を聞き取りつつ、その中で相談者がどうして欲しいのか、組織に対して何を望むのかを明らかにしていくという形になるでしょう。

言うまでもないことですが、「ハラスメント」という具体的な問題への対応としては、何よりもまず「具体的な対応策」が重要になってきます。

例えば、いじめであればいじめを止めることが最優先されるように、ハラスメントが行われているという状況を具体的に何とかしていくことが最優先されるのは当然のことになります。

そうした「具体的な対応」がなされていない中で、ただ「聴くだけ」というのは力を発揮しません。

少なくとも、相談者の「ハラスメントを受けている」という状況に対する具体的な対応がなされ、それにより相談者に「以前に比べたら安心できる状況」が生じてようやく心理的な負担などをやり取りすることができるのです。

よく「戦争状態では心理的問題は生じない」という話がありますが、それは当然で、心身の安全がそれなりに保証されている状況でなければ、心理的な側面についてやり取りするということは困難なのです。

ですから、ハラスメントの対応でも「具体的な対応策を検討する」ことは重要と言えます。

以上より、選択肢②は不適切と判断でき、選択肢①および選択肢⑤が適切と判断できます。

③ 相談者の訴えを疑う姿勢を基本とする。
④ 精神医学的問題のアセスメントは避ける。

すでに挙げた資料の中で「窓口担当者が言ってはいけない言葉や態度の例」が以下の通り示されています。

  • 相談者にも問題があるような発言
    あなたの行動にも問題があったのではないか
    あなたにも隙があったのではないか
    過剰反応ではないか
    考えすぎではないか
  • 不用意な慰め
    あなたが魅力的だから、ついそのようなことをしてしまったのでは
    あなたが優秀だから、将来を考えて言ってしまったのでは
  • 行為者を一般化するような発言
    男性(女性)はみんなそのようなものだ
  • きちんと対応する意思を示さない発言
    また今度何かあったら連絡してください
    時間が解決してくれます
    そのくらいのことは我慢した方が良い
    彼(彼女)も悪い人ではないから大げさにしない方が良い
  • 相談者の意向を退け、担当者の個人的見解を押し付けるような発言
    上司に謝罪させたりしたら、職場に居づらくなるのではないか

これらの中には選択肢③の「相談者の訴えを疑う姿勢を基本とする」も含まれており、当然のことではありますが、こんな姿勢を基本とするのはあり得ないと言えます。

ただ、こうした選択肢が設けられている背景も少しは考えておく必要があります。

こうしたハラスメントに限らず、組織の問題や不備等の話をきいていると、時折、「ニュートラルな刺激を悪意を含んだものとして受け取る」という傾向が強い人がいることがわかってきます。

ですから、こういう人に対しては、なんだか「それは普通のことではないの?」「あなた自身に問題があるのではないの?」と言いたくなるのも理解できなくもありません。

ただ、厳しいことを言えば、このご時世に「どちらとも受け取れる(ニュートラルな)ような発言・行動」をする方にも問題があると言えます。

危機管理の視点から言えば、「悪い方向で解釈する人がいる」ということを想定して、それなりに言動をコントロールしていくことが大切です。

とは言っても、それはそれほど制約的なものではなく、「第三者が見ても大丈夫」であるか否か程度の基準で十分であろうと思います。

いずれにせよ、相談者にどのような特性があろうとも「相談者の訴えを疑う姿勢を基本とする」というのは、支援を行う立場の基本姿勢としてあり得ないのは言うまでもありませんね。

また、相談者から心身の不調を訴えるような言動があった場合は、精神医学的問題のアセスメントをその場で可能な範囲で行い、必要があれば医療機関受診を勧めるなどが重要になってきます。

一般論ですが、心理的な反応は、それへの対応が早ければ早いほど回復も早いとされています。

ですから、相談があった時点(本問では初回面接時)で精神医学的問題があると見立てていくことが重要になってきます。

以上より、選択肢③および選択肢④は不適切と判断できます。

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