公認心理師 2020-143

休職していた労働者が職場復帰可能な段階に至った際の対応に関する問題です。

適否の判断に用いる手引きに関しては「公認心理師 2019-154」「公認心理師 2018追加-54」など、複数回出題がありますから正確に把握しておくことが大切ですね。

問143 20代の男性A、会社員。Aは、300名の従業員が在籍する事業所に勤務している。Aは、うつ病の診断により、3か月前から休職している。現在は主治医との診察のほかに、勤務先の企業が契約している外部のメンタルヘルス相談機関において、公認心理師Bとのカウンセリングを継続している。抑うつ気分は軽快し、睡眠リズムや食欲等も改善している。直近3週間の生活リズムを記載した表によれば、平日は職場近くの図書館で新聞や仕事に関連する図書を読む日課を続けている。職場復帰に向けた意欲も高まっており、主治医は職場復帰に賛同している。
 次にBが行うこととして、最も適切なものを1つ選べ。
① 傷病手当金の制度や手続について、Aに説明する。
② Aの診断名と病状について、管理監督者に報告する。
③ 職場復帰の意向について管理監督者に伝えるよう、Aに提案する。
④ 職場復帰に関する意見書を作成し、Aを通して管理監督者に提出する。
⑤ Aの主治医と相談しながら職場復帰支援プランを作成し、産業医に提出する。

解答のポイント

心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き~メンタルヘルス対策における職場復帰支援~」における職場復帰支援の各ステップを把握している。

選択肢の解説

③ 職場復帰の意向について管理監督者に伝えるよう、Aに提案する。

本事例の状況は、うつ病で休職していたAが回復し、職場復帰に向けての具体的な行動(平日は職場近くの図書館で新聞や仕事に関連する図書を読む日課を続けている)をとり、本人も職場復帰に前向きなうえ、主治医からも職場復帰のOKが出ている事例です。

本問では、こうした職場復帰間近なAに対して、何を最も優先して行うかを考えていく必要があります。

こうした職場復帰に関しては、厚生労働省から出ている「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き~メンタルヘルス対策における職場復帰支援~」を参照することが大切です。

こちらの手引きによると、職場復帰は以下の5つのステップで行われます。


【第1ステップ:病気休業開始及び休業中のケア】

労働者から管理監督者に主治医による診断書(病気休業診断書)が提出され、休業が始まります。管理監督者は、人事労務管理スタッフ等に診断書(病気休業診断書)が提出されたことを連絡します。休業する労働者に対しては、必要な事務手続きや職場復帰支援の手順を説明します。労働者が病気休業期間中に安心して療養に専念できるよう、次のような項目については情報提供等の支援を行いましょう。
 ・傷病手当金などの経済的な保障
 ・不安、悩みの相談先の紹介
 ・公的または民間の職場復帰支援サービス
 ・休業の最長(保障)期間等     など

【第2ステップ:主治医による職場復帰可能の判断】

休業中の労働者から事業者に対し、職場復帰の意思が伝えられると、事業者は労働者に対して主治医による職場復帰が可能という判断が記された診断書の提出を求めます。診断書には就業上の配慮に関する主治医の具体的な意見を記入してもらうようにします。

主治医による診断は、日常生活における病状の回復程度によって職場復帰の可能性を判断していることが多く、必ずしも職場で求められる業務遂行能力まで回復しているとの判断とは限りません。このため、主治医の判断と職場で必要とされる業務遂行能力の内容等について、産業医等が精査した上で採るべき対応を判断し、意見を述べることが重要です。

なお、あらかじめ主治医に対して職場で必要とされる業務遂行能力に関する情報を提供し、労働者の状態が就業可能であるという回復レベルに達していることを主治医の意見として提出してもらうようにすると良いでしょう。

【第3ステップ:職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成】

安全でスムーズな職場復帰を支援するため、最終的な決定の前段階として、必要な情報の収集と評価を行った上で職場復帰ができるかを適切に判断し、職場復帰を支援するための具体的プラン(職場復帰支援プラン)を作成します。この具体的プランの作成にあたっては、事業場内産業保健スタッフ等を中心に、管理監督者、休職中の労働者の間でよく連携しながら進めます。

【第4ステップ:最終的な職場復帰の決定】

第3ステップを踏まえて、事業者による最終的な職場復帰の決定を行います。

  1. 労働者の状態の最終確認
    疾患の再燃・再発の有無等について最終的な確認を行います。
  2. 就業上の配慮等に関する意見書の作成
    産業医等は「職場復帰に関する意見書」等を作成します。
  3. 事業者による最終的な職場復帰の決定
    事業者は最終的な職場復帰の決定を行い、就業上の配慮の内容についても併せて労働者に対して通知します。
  4. その他
    職場復帰についての事業場の対応や就業上の配慮の内容等が労働者を通じて主治医に的確に伝わるようにします。

【第5ステップ:職場復帰後のフォローアップ】

職場復帰後は、管理監督者による観察と支援のほか、事業場内産業保健スタッフ等によるフォローアップを実施し、適宜、職場復帰支援プランの評価や見直しを行います。

  1. 疾患の再燃・再発、新しい問題の発生等の有無の確認
    疾患の再燃・再発についての、早期の気づきと迅速な対応が不可欠です。
  2. 勤務状況及び業務遂行能力の評価
    労働者の意見だけでなく、管理監督者からの意見も合わせて客観的な評価を行います。
  3. 職場復帰支援プランの実施状況の確認
    職場復帰支援プランが計画通りに実施されているかを確認します。
  4. 治療状況の確認
    通院状況、病状や今後の見通しについての主治医の意見を労働者から聞きます。
  5. 職場復帰支援プランの評価と見直し
    さまざまな視点から評価を行い、問題が生じている場合は、関係者間で連携しながら、職場復帰支援プランの内容の変更を検討します。
  6. 職場環境等の改善等
    職場復帰する労働者がよりストレスを感じることの少ない職場づくりをめざして、作業環境・方法や、労働時間・人事労務管理など、職場環境等の評価と改善を検討します。
  7. 管理監督者、同僚等の配慮
    職場復帰をする労働者を受け入れる職場の管理監督者や同僚等に、過度の負担がかかることのないよう配慮します。

上記のステップと照らし合わせてみると、本事例Aは「第2ステップ:主治医による職場復帰可能の判断」までが済んでいる状態と言えます。

この段階では「休業中の労働者から事業者に対し、職場復帰の意思が伝えられると、事業者は労働者に対して主治医による職場復帰が可能という判断が記された診断書の提出を求めます」とありますので、まず労働者のAは事業者に対して職場復帰の意思を伝えることが直近ですべきことと言えますね。

本事例では、公認心理師がAに対して管理監督者に復職の意思を伝えるよう勧め、そこから主治医による診断書の提出がなされ、次のステップに進むことになります。

なお、この段階での主治医の判断は、日常生活における病状の回復程度によって職場復帰の可能性を判断していることが多く、必ずしも職場で求められる業務遂行能力まで回復しているとの判断とは限らないので、事業者側で最終的な決定の前段階として、必要な情報の収集と評価を行った上で職場復帰ができるかを判断することになります。

以上より、選択肢③が適切と判断できます。

① 傷病手当金の制度や手続について、Aに説明する。

本選択肢の内容は「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き~メンタルヘルス対策における職場復帰支援~」によると、「第1ステップ:病気休業開始及び休業中のケア」に該当することがわかりますね。

常識的な観点から言っても、傷病手当金の制度や手続などの経済的な保障に関しては、休業の手続きと同時に行うべきであり、それが無くては労働者が病気休業期間中に安心して療養に専念することができませんね。

個人的な経験ですが、ある組織に勤める際、事前にその勤務形態や給与などについて問い合わせても、結局勤め始めるその日まで教えてくれませんでした(私は、いろいろな事情もあり、強く問い合わせるだけの立場になかった)。

勤め始めてから知らされた雇用条件は、自分が思っていたよりも2割ほど程度が低く、妻は今でもその仕事を紹介した人物のことを許さないと申しております(そこに勤めていた数年間は、私にとっても妻にとっても苦労が多かったので)。

その機関では、私の肉親が他界したときにも供花を出さない等、私はここで「一事が万事」という言葉を実感しました(葬式の形態や慣習は地域差があるので一概には言えないのでしょうけど)。

さて、何が言いたいのかというと、本選択肢にあるような傷病手当金は労働者にとって場合によっては命綱になるものですし、そうでなくても生活の基盤になるはずのものですね(私にとっての給与がそれでした)。

そのような大切な情報は、労働者から求められるまでもなく提供されるべきであり(そもそもカネのことを聞くのは気が引けるし、精神的な要因による休職なら尚更)、そういう情報が遅滞なく提供されて初めて「心置きなく休める基盤」ができると言ってよいわけです。

こうした情報が適切な時期に適切な相手に提供されない組織は、さまざまなところで杜撰なところがあると私は確信しています(もちろん、上記の体験以外にも多くの事例を見聞きした上での確信です)し、労働者の不調からの回復を遅らせる「見えない要因」になると思っておくことが大切です。

さて、いろいろと述べましたが、本選択肢の内容は「病気休業開始」の時期に行われるべきものです。

以上より、選択肢①は不適切と判断できます。

② Aの診断名と病状について、管理監督者に報告する。

本選択肢の病名については、選択肢①と同様に「第1ステップ:病気休業開始及び休業中のケア」で行われるべきものであると考えられます。

正確には、労働者から管理監督者に主治医による診断書(病気休業診断書)が提出され、休業が始まりますから、この段階で診断名が明らかになっているはずですね。

ですから、仮に第1ステップのような段階であったとしても、公認心理師が診断名を報告するのは役割を超えた行為と言えますから、いずれにせよ不適切ですね。

なお、この際、管理監督者は、人事労務管理スタッフ等に診断書(病気休業診断書)が提出されたことを連絡し、休業する労働者に対しては、必要な事務手続きや職場復帰支援の手順を説明するなどの手続きを踏んでいきます。

さて、上記については主に診断名に関する事柄になりますが、病状に関してはどうでしょうか。

Aが復職の意思を見せているわけですから、この時点でのAの病状(この時点ではどの程度回復しているか)を管理監督者に伝えるのは、何となく良さそうな気もしますね。

しかし、やはりこちらもすべきではないと考えられます。

なぜなら、Aはすでに主治医から復職の許可が出るほど回復しているわけですから、自らの病状を自らの口で伝えることができる状態にあるとみるのが自然ですから、こちらはA自身に任せた方が良い事柄と言えるでしょう。

もちろん、組織として必要なのは専門的な視点からの病状ですから、他選択肢でも示す通り、この時点でのAの病状に関しては産業医等が精査した上で採るべき対応を判断し、意見を述べることが重要になってきます(主治医の判断は「必ずしも職場で求められる業務遂行能力まで回復しているとの判断とは限らない」ので)。

このように、診断名にしても病状にしても、この段階で管理監督者に伝えるという対応は妥当ではないと言えますね。

よって、選択肢②は不適切と判断できます。

④ 職場復帰に関する意見書を作成し、Aを通して管理監督者に提出する。

本選択肢にある「職場復帰に関する意見書」とは、「第4ステップ:最終的な職場復帰の決定」の段階で出されるものであり、産業医等が作成するものとされています。

復職においては、こうした「職場復帰に関する意見書」をもとに関係者間で内容を確認しながら手続きを進めていくことが望ましいとされています。

具体的には、管理監督者、人事労務管理スタッフの確認を経た上で、事業者による最終的な職場復帰の決定を行い、労働者に対して通知するとともに、就業上の配慮の内容についても併せて通知することになります。

管理監督者、事業場内産業保健スタッフ等は、「職場復帰に関する意見書」等の写しを保管し、その内容を確認しながら、それぞれの実施事項を責任を持って遂行するようにします。

なお「産業医等」とは、産業医その他労働者の健康管理等を行うのに必要な知識を有する医師」を指しますので、「職場復帰に関する意見書」を公認心理師が作成するという本選択肢の内容は不適切と言えますね。

すなわち、本選択肢の内容は、「職場復帰に関する意見書」を作成するにしてもワンステップ早い上に、そもそも「職場復帰に関する意見書」を公認心理師が作成してはいけないという前提があるので妥当とは言えないことがわかります。

以上より、選択肢④は不適切と判断できます。

⑤ Aの主治医と相談しながら職場復帰支援プランを作成し、産業医に提出する。

まず、職場復帰支援プランとは、職場復帰をする労働者について、労働者ごとに具体的な職場復帰日、管理監督者の就業上の配慮及び人事労務管理上の対応等の支援の内容を、当該労働者の状況を踏まえて定めたものを指します。

そして職場復帰支援プランの作成は、「第3ステップ:職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成」で行われます(ですから、本事例の状況から鑑みると、職場復帰プラン作成はまだ早すぎますね)。

この具体的プランの作成にあたっては、事業場内産業保健スタッフ等を中心に、管理監督者、休職中の労働者の間でよく連携しながら進めることが前提になっています。

よって、本選択肢の「Aの主治医と相談しながら職場復帰支援プランを作成し」という時点で不適切と言えます。

他選択肢でも述べていますが、主治医はあくまでも「日常生活における病状の回復程度によって職場復帰の可能性を判断していることが多く、必ずしも職場で求められる業務遂行能力まで回復しているとの判断とは限らない」ので、職場復帰プランという具体性のあるものを作成するにあたっては、職場の担当者間でのやり取りが必須となります。

なお、職場復帰プラン作成に関しては以下のような手順を踏みます。


①情報の収集と評価

職場復帰の可否については、必要な情報を収集し、さまざまな視点から評価を行い総合
的に判断することが大切です。情報の収集と評価の内容は次のとおりです。

  1. 労働者の職場復帰に対する意思の確認
  2. 産業医等による主治医からの意見収集:診断書の内容だけでは不十分な場合、産業医等は労働者の同意を得た上で、必要な内容について主治医からの情報や意見を収集します。
  3. 労働者の状態等の評価:治療状況及び病状の回復状況、業務遂行能力、今後の就業に関する労働者の考え、家族からの情報
  4. 職場環境等の評価:業務及び職場との適合性、作業管理や作業環境管理に関する評価、職場側による支援準備状況
  5. その他:その他必要事項、治療に関する問題点、本人の行動特性、家族の支援状況や、職場復帰の阻害要因等

②職場復帰の可否についての判断

職場復帰が可能か、事業場内産業保健スタッフ等が中心となって判断を行います。

③職場復帰支援プランの作成

以下の項目について検討し、職場復帰支援プランを作成します。

  1. 職場復帰日
  2. 管理監督者による就業上の配慮:業務サポートの内容や方法、業務内容や業務量の変更、段階的な就業上の配慮、治療上必要な配慮など
  3. 人事労務管理上の対応等:配置転換や異動の必要性、勤務制度変更の可否及び必要性
  4. 産業医等による医学的見地からみた意見:安全配慮義務に関する助言、職場復帰支援に関する意見
  5. フォローアップ:管理監督者や産業保健スタッフ等によるフォローアップの方法、就業制限等の見直しを行うタイミング、全ての就業上の配慮や医学的観察が不要となる時期についての見通し
  6. その他:労働者が自ら責任を持って行うべき事項、試し出勤制度の利用、事業場外資源の利用

上記からも明らかなように、主治医とやり取りするのは産業医の役割となりますね。

以上より、まず本事例の段階で職場復帰支援プランの作成は早いこと、主治医と相談しながら進めるものではないこと、公認心理師が行うべき事柄ではないことなどから、本選択肢の対応は妥当とは言えません。

よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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