公認心理師 2024-41

刑事施設における性犯罪再犯防止指導の内容に関する問題です。

RNRモデルを基盤にしていることを理解していれば(そしてRNRモデルの基礎的なことがわかっていれば)、比較的解きやすい内容だったと思います。

問41 刑事施設における性犯罪再犯防止指導の内容として、誤っているものを1つ選べ。
① 認知行動療法を基礎としている。
② グループワークを中心としている。
③ プログラムの効果検証が行われている。
④ 対象者の再犯リスクの高低を問わず、同一プログラムを受講させる。
⑤ 対象者が社会復帰する前には、メンテナンスプログラムを受講させる。

選択肢の解説

① 認知行動療法を基礎としている。
② グループワークを中心としている。
③ プログラムの効果検証が行われている。
④ 対象者の再犯リスクの高低を問わず、同一プログラムを受講させる。
⑤ 対象者が社会復帰する前には、メンテナンスプログラムを受講させる。

本問に関しては、まず、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(刑事収容施設法)の103条に規定を見ていきましょう。


(改善指導)
第百三条 刑事施設の長は、受刑者に対し、犯罪の責任を自覚させ、健康な心身を培わせ、並びに社会生活に適応するのに必要な知識及び生活態度を習得させるため必要な指導を行うものとする。
2 次に掲げる事情を有することにより改善更生及び円滑な社会復帰に支障があると認められる受刑者に対し前項の指導を行うに当たっては、その事情の改善に資するよう特に配慮しなければならない。
一 麻薬、覚せい剤その他の薬物に対する依存があること。
二 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(平成三年法律第七十七号)第二条第六号に規定する暴力団員であること。
三 その他法務省令で定める事情


上記の第1項は「一般改善指導」と言われるものであり、原則として全受刑者を対象に、①被害者の置かれている状況と心情を理解させ罪障感を養うこと、②規則正しい生活習慣や健全なものの見方や考え方を身に付けさせ心身の健康を増進させること、③釈放後の生活設計に必要な情報を理解させ社会生活において求められる協調性、規則遵守の精神、行動様式等を身に付けさせることなどを目的として行われます。

対して、上記の第2項が「特別改善指導」とされるものであり(「その事情の改善に資するよう特に配慮しなければならない」とあるから「特別」なんですね)、薬物依存や暴⼒団への加⼊などの事情により、改善更⽣及び円滑な社会復帰に⽀障があると認められる受刑者に対し、その事情の改善に資するよう特に配慮して⾏われるものになります。

特別改善指導の種類と対象者は以下の通りになります。

  1. 薬物依存離脱指導(R1):⿇薬、覚せい剤その他の薬物に対する依存がある者
  2. 暴⼒団離脱指導(R2):暴⼒団員である者
  3. 性犯罪再犯防⽌指導(R3):性犯罪の要因となる認知の偏り、⾃⼰統制⼒の不⾜等がある者
  4. 被害者の視点を取り⼊れた教育(R4):⽣命を奪い、⼜は⾝体に重⼤な被害をもたらす犯罪を犯し、被害者及びその遺族等に対する謝罪や賠償等について特に考えさせる必要がある者
  5. 交通安全指導(R5):被害者の⽣命や⾝体に重⼤な影響を与える交通事故を起こした者や重⼤な交通違反を反復した者
  6. 就労⽀援指導(R6):刑事施設において職業訓練を受け、釈放後の就労を予定している者等

これらの特別改善指導は、矯正局から提示されている標準プログラムに基づき、各施設において実践プログラムを策定、実施しています。

各施設では収容している受刑者の特性や施設の置かれている状況等に応じて、「医学、心理学、教育学、社会学その他の専門的知識及び技術を活用」(同法第84条第5項)しながら、科学的根拠に基づく効果的な指導を行うべく努力を重ねていると考えられます。

このように特別改善指導の中に、本問で問われている「性犯罪再犯防⽌指導」があるわけですが、まずはこの対象者の選定を行っていくことになります。

性犯罪再犯防止指導の対象者の選定に当たっては、新たに刑が確定した受刑者について、その者が在所する刑事施設におけるスクリーニングと調査センターにおける性犯罪者調査の2段階があり、これらを組み合わせることによって、性犯罪の再犯リスクの高い受刑者を特定し、全国の指導実施施設の指導実施状況を勘案して、適切な受講対象者を振り分け、効率的に指導が行われるよう配慮されています。

こうした指導の前提にはD.A.AndrewsとJ.Bontaが主張するRNRモデル〈Risk-Need-Responsivity model〉が基盤にあるのですが、この最初のR=リスク原則とは、対象者の再犯リスク水準に対応した介入密度(時間・頻度・内容)の処遇を実施すると最も再犯防止効果が上がるという、リスク水準と処遇水準とのマッチング最適化の原則です。

再犯リスクが高いと思われる対象者には広範で厳密な処遇が必要で、再犯リスクが低いと思われる対象者には必要最低限の介入が適切とする考え方で、つまり「処遇の密度は再犯リスクの高い者に集中させなければならない」ということです。

ですから、性犯罪再犯防⽌指導を行っていくにあたっては、対象者の再犯リスクの高低に合わせたプログラムを受講させるわけです(この点から、選択肢④の内容が誤りであることがわかりますね)。

具体的には、①常習性・反復性が認められる者、又は、②性犯罪につながる問題性の大きい者であるか否かなどが判断されることになり、刑事施設において性犯罪者調査の実施の必要性があると判断された者については、調査センターに移送され、詳細な性犯罪者調査が実施されます。

性犯罪者調査においては、このスクリーニング項目に加え、対象者の①性犯罪の再犯リスク(再犯と結びつく要因)、②処遇ニーズ(処遇によって変化させることで再犯リスクの低下につながると考えられる事項)、③処遇適合性(対象者の知的能力、動機付けの度合い及び身体的・精神的問題の有無等によって判断されるプログラムの受講適性)をあらかじめ設定した客観的基準によって判断し、当該受刑者が性犯罪再犯防止指導を受講すべきと判断した場合には、特別改善指導のうちR3(性犯罪再犯防止指導)の判定を行い、必要な指導密度、受講させる指導科目の内容、受講させる施設、受講させる時期、受講までの間に必要な働きかけ等について処遇計画を作成します。

この考え方の背景にもRNRモデルがあるので、過去問を参照にしておくと良いでしょう。

性犯罪再犯防止指導における実際の指導は、オリエンテーション、本科プログラム及びメンテナンス・プログラムの順に行われます。

本科プログラムの指導科目は「自己統制」「認知のゆがみと変容方法」「対人関係と親密性」「感情統制」及び「共感と被害者理解」で構成されていて、指導対象者はその再犯リスク及び性犯罪につながる問題性の程度に応じて、本科プログラムの全科目を受講する「高密度」、必修科目に加えて本人の処遇ニーズに応じて必要な科目を選択して受講する「中密度」、必修科目のみを受講する「低密度」の3種類の指導密度のいずれかに指定されます(この辺も選択肢④の内容になりますね)。

本科プログラムは認知行動療法を基盤としており、性犯罪等の問題行動に至った要因及びその行動に至るパターンを検討して、自らが早期にそのパターンに介入することによって問題の再発(リラプス)を防止するスキルを学ぶ、リラプス・プリベンションの技法を用いています。

実施の単位は、標準的には指導者2人と対象者8人による1回100分程度のグループワークですが、必要に応じて個別面接等を組み合わせることもあります。

また、指導の期間は個々の指導対象者の必要性や指導実施施設の実情によって異なるものの、最長の高密度においてもおおむね8か月であり、受講を終了したとしても、出所まではかなりの期間が経過したり、一般施設に移送されて受刑する者も多いことから、円滑な社会復帰を図る目的で、出所前に本科プログラムで学んだ知識やスキルを復習させるメンテナンス・プログラムを実施します。

令和2年、矯正局において「刑事施設における性犯罪者処遇プログラム受講者の再犯等に関する分析」が公表されました。

これは刑事施設を出所した性犯罪者調査におけるリスク及びニーズ調査で指導を受講すること
が必要とされた者1980名(うち受講群は1444 名、比較対照群は324名)を追跡し、出所後3年以内に惹起された事件のうち、犯行年月日が最も早いものを「全再犯」とし、犯行年月日が最も早い性犯罪を「性犯罪再犯」として調査したものです。

その結果として、指導による再犯の抑止効果が確認されたものとしては、全対象者の全再犯、全対象者の性犯罪再犯、強姦事犯者の全再犯が統計的に有意に受講群の方が比較対照群よりも低かったという結果が出ています(その他の詳しい内容については、上記の資料を読んでください)。

こうした調査からも、性犯罪再犯防止指導におけるプログラムの効果検証が行われていることがわかりますね。

上記を踏まえれば、性犯罪再犯防止指導においては、対象者の再犯リスクの評価を行い、それに基づいて受講プログラムを選定し、認知行動療法を基礎としたプログラムをグループワークにて実施し、復帰前にはメンテナンスプログラムを受講させ、こうしたプログラムの効果検証が行われていることがわかりますね。

以上より、選択肢①、選択肢②、選択肢③および選択肢⑤は正しいと判断でき、除外することになります。

また、選択肢④が誤りと判断でき、こちらを選択することになります。

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