公認心理師 2024-46

平成29年時の学習指導要領改訂に関する問題です。

学習指導要領改訂は10年おきくらいに行われていますから、それぞれの改訂時にどのような学びが目標とされているかを把握しておくと良いでしょう。

問46 小・中学校学習指導要領(平成29年改訂、文部科学省)で新たに示された、授業改善によって実現が望まれる児童や生徒の学びとして、適切なものを1つ選べ。
① 主体的・対話的で深い学び
② 社会生活への適応を目指した学び
③ 基礎・基本を確実に身に付ける学び
④ ゆとりある充実した学校生活を実現しようとする学び

選択肢の解説

① 主体的・対話的で深い学び

平成29年の学習指導要領改訂の基本的な考え方としては、「教育基本法、学校教育法などを踏まえ、これまでの我が国の学校教育の実践や蓄積を活かし、子どもたちが未来社会を切り拓くための資質・能力を一層確実に育成すること」「その際、子どもたちに求められる資質・能力とは何かを社会と共有し、連携する「社会に開かれた教育課程」を重視すること」になります。

また、知識及び技能の習得と思考力、判断力、表現力等の育成のバランスを重視する現行学習指導要領の枠組みや教育内容を維持した上で、知識の理解の質をさらに高め、確かな学力を育成していく狙いで改訂が行われたとされています。

こうした狙いのもと、新たに示されたのが「知識の理解の質を高め資質・能力を育む「主体的・対話的で深い学び」」です。

この中では、知・徳・体にわたる「生きる力」を子どもたちに育むため、「何のために学ぶのか」という学習の意義を共有しながら、授業の創意工夫や教科書等の教材の改善を引き出していけるよう、全ての教科等を、①知識及び技能、②思考力、判断力、表現力等、③学びに向かう力、人間性等の三つの柱で再整理しています。

例えば、中学校理科であれば、①生物の体のつくりと働き、生命の連続性などについて理解させるとともに、②観察、実験など科学的に探究する活動を通して、生物の多様性に気付くとともに規則性を見いだしたり表現したりする力を養い、③科学的に探究しようとする態度や生命を尊重し、自然環境の保全に寄与する態度を養う…といった形です。

この他に、教育内容の具体的な改善事項としては以下の通り示されています。

  • 言語能力の確実な育成
  • 理数教育の充実
  • 伝統や文化に関する教育の充実
  • 道徳教育の充実
  • 体験活動の充実
  • 外国語教育の充実

要するに、「主体的な学び」とは興味関心を高め、見通しをもち、自分と結びつけながら、粘り強く取り組むといった姿勢を指し、「対話的な学び」とは思考を表現に置き換え、多様な情報を収集し、先達の考えを手掛かりに互いの考えを比較し、協働して課題解決に臨むという姿勢を指すと思ってよいでしょう。

上記の通り、小・中学校学習指導要領(平成29年改訂、文部科学省)で新たに示された、授業改善によって実現が望まれる児童や生徒の学びとして、「主体的・対話的で深い学び」は適切であると言えます。

よって、選択肢①が適切と判断できます。

② 社会生活への適応を目指した学び

こちらは1989年(平成元年)の学習指導要領改訂時のものであると考えられます。

平成元年の学習指導要領の改訂においては、昭和三十三年度に道徳の時間が設けられて以来初めての大幅な改善を行い、「社会の変化に自ら対応できる心豊かな人間の育成」という趣旨のもと重点としては以下が挙げられます。

  1. 道徳の内容の再構成:小・中学校共通に、道徳性を、①主として自分自身に関すること、②主として他の人とのかかわりに関すること、③主として自然や崇高なものとのかかわりに関すること、④主として集団や社会とのかかわりに関することの四点から捉え、その視点から内容項目を分類整理して示し、発展的・系統的な指導が一層充実するよう配慮した。
  2. 道徳の内容の重点化:全学年で道徳の内容を網羅的に指導することを改め、児童生徒の道徳性の発達段階に応じて、例えば、小学校低学年ではしつけなどの基本的生活習慣、中学年では日常の社会規範を守る態度、高学年では公共に尽くそうとする態度、また、中学校では人間としての生き方の自覚などに留意して、内容を精選し重点的に示した。
  3. 全体計画の作成等の強化:各学校において必ず道徳教育の全体計画を作成することとし、学校の教育活動全体を通じて行う道徳教育と道徳の時間との関連を深め、指導の効果を高めるようにした。また、例えば、国語科では道徳性を養うことに資する教材が取り入れられるよう、教材選定の観点を示すなど、各教科等の特質に応じた道徳教育の充実を図った。
  4. 学校・家庭・社会の連携の重視:学校は家庭や地域社会と連携を深め、豊かな道徳性の育成を図るよう配慮することとした

21世紀を目指して一人ひとりの個性を活かし社会の変化に主体的に対応できるように、各教科において学ぶ意欲・学習の仕方と、思考力・判断力・表現力を育成することを重視した新しい学力観が打ち出されたということですね。

これを受けて、体験的な学習や問題解決的な学習を重視して各教科の内容の改善が行われました。

また、小学校1・2年生において社会・理科が廃止され、生活科が新設されると共に、国語の授業時数が増やされたり、隔週学校五日制が導入されたり、高等学校で世界史が必修となったりしました。

本選択肢の「社会生活への適応を目指した学び」に関して、端的に同じ文言がある改訂は見つけられなかったのですが、一番近いのが1989年改訂時の「社会の変化に自ら対応できる心豊かな人間の育成」であると考えました。

以上より、「社会生活への適応を目指した学び」は小・中学校学習指導要領(平成29年改訂、文部科学省)で新たに示された、授業改善によって実現が望まれる児童や生徒の学びではないことがわかりますね。

よって、選択肢②は不適切と判断できます。

③ 基礎・基本を確実に身に付ける学び

こちらは2002年(平成14年)の学習指導要領改訂時に示されたものになりますね。

この時の改善の基本的視点としては、完全学校週5日制の下で、各学校が「ゆとり」の中で「特色ある教育」を展開し、子どもたちに学習指導要領に示す基礎的・基本的な内容を確実に身に付けさせることはもとより、自ら学び自ら考える力などの「生きる力」を育むということが示されており、具体的には以下が挙げられています。

  • 豊かな人間性や社会性、国際社会に生きる日本人としての自覚の育成
  • 多くの知識を教え込む教育を転換し、子どもたちが自ら学び自ら考える力の育成
  • ゆとりのある教育を展開し、基礎・基本の確実な定着と個性を生かす教育の充実
  • 各学校が創意工夫を生かした特色ある教育、特色ある学校づくり

大きな変化としては、授業時数の縮減等(年間授業時数は、当時より年間70単位時間(週当たり2単位時間)縮減、高等学校の卒業に必要な修得総単位数は当時の80単位以上を74単位以上に縮減、授業の一単位時間の弾力化)があります。

他にも、教育内容の厳選(児童生徒にとって高度になりがちな内容などを削減したり、上級学校に移行統合したりなどして、授業時数の縮減以上に教育内容を厳選)、「総合的な学習の時間」の創設、選択学習の幅の拡大、道徳教育、国際化への対応、情報化への対応、体育・健康教育、各学校段階ごとの改善などが改訂時に示されています。

ちなみに、道徳教育とありますが、道徳が教科化されたのは2015年からになります。

以上より、「基礎・基本を確実に身に付ける学び」は小・中学校学習指導要領(平成29年改訂、文部科学省)で新たに示された、授業改善によって実現が望まれる児童や生徒の学びではないことがわかりますね。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。

④ ゆとりある充実した学校生活を実現しようとする学び

こちらはいわゆる「ゆとり教育」の発端となったといわれる1977年改訂の学習指導要領で示されたものになります。

1968・69年学習指導要領は、それまでの知育偏重の教育を改善するため、統一と調和のある教育課程の編成と学習負担の軽減を目指していましたが、経済成長を支える人材の育成を優先する能力主義の教育政策により、算数・数学や理科での現代化が強調され、教育の中身は高度な内容とともに量的にもふくらむことになり、授業についていけない多くの児童生徒を生み出すことになりました。

こうした状況を是正するために、1972年にこれまでに前例のない学習指導要領の一部改正が行なわれ、1977年には本格的に改訂されました。

そこでは、自ら考え、正しく判断する力を養う教育への質的転換と子どもの立場に立った教育課程の編成が重視された。こうした文脈の中から「ゆとり」の必要性が謳われたわけですね。

一般に「ゆとり教育」は、教育内容の削減(俗に3割削減といわれる)と授業時数の削減を行
なった1998年改訂の学習指導要領のときと言われており、その後の学力低下批判などにより、2003年の部分改訂を経て、2008年に学習指導要領が全面改訂されることにより、いわゆる「脱ゆとり教育」が開始されました。

しかし、上記からもわかる通り、そもそも「学校にゆとりを」といわれるようになったのは、1977年改訂の学習指導要領であるということですね。

この時の改訂では「知・徳・体の調和のとれた人間性豊かな児童生徒の育成」「ゆとりある充実した学校生活の実現」「児童生徒の個性や能力に応じた教育の実施」の三つを柱とし、指導内容を精選・集約・中核化して授業時数を削減し、負担を減らすことで、地域や学校の実態に合わせて学校や教師が授業時数の運用に創意工夫を加えることができるようにしました。

具体的には以下のようなことが示されています。

  • ゆとりのある充実した学校生活を実現するため、各教科の標準授業時数を削減
  • 地域や学校の実態に即して授業時数の運用に創意工夫
  • 学習指導要領に定める各教科等の目標・内容を中核的事項にとどめる
  • 教師の自発的な創意工夫を加えた学習指導が十分展開できる余地をつくる

「ゆとり」と聞くと1998年の改訂を思い浮かべることが多いですが、「ゆとり」という言葉が出てきたのは1977年の改訂時だと覚えておきましょう。

以上より、「ゆとりある充実した学校生活を実現しようとする学び」は小・中学校学習指導要領(平成29年改訂、文部科学省)で新たに示された、授業改善によって実現が望まれる児童や生徒の学びではないことがわかりますね。

よって、選択肢④は不適切と判断できます。

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