公認心理師 2023-69

相談室状況を改善するための対応を選択する問題です。

学校で起こるあらゆる状況は、社会の縮図と見なして、子どもたちの社会的成熟の機会となるよう工夫することが大切です。

問69 ある中学校では、一部の生徒たちに、授業妨害、掲示物の破損、生徒や教師への暴言や暴力行為などが頻発している。休み時間には、そうした非行傾向のある生徒たちが校内の相談室に押しかけて騒ぎ、おとなしい生徒に対して暴言や、からかう行動をするようになっている。授業時間も教室に戻らず、相談室のスクールカウンセラーAの注意を聞き入れない。そのため、それまで相談室を利用していた生徒が近づけなくなってしまっている。
 このような相談室の状況を改善するためのAの対応として、最も適切なものを1つ選べ。
① 相談室で騒ぐ生徒たちと個別に面談し、授業妨害などの解決を図る。
② 管理職や教職員と話し合い、相談室利用のルールを明確化し周知する。
③ 相談室の内装や雰囲気などを変え、生徒が気軽に入室できないようにする。
④ 相談室で騒ぐ生徒たちの行動が落ち着くまで、A単独による教育相談を中止する。
⑤ 相談を目的に相談室に来室した生徒は、外部の専門機関にできるだけ紹介(リファー)する。

解答のポイント

ルールの役割・性質を理解しつつ、事例状況で一番マシな対応を選択できる。

選択肢の解説

③ 相談室の内装や雰囲気などを変え、生徒が気軽に入室できないようにする。
④ 相談室で騒ぐ生徒たちの行動が落ち着くまで、A単独による教育相談を中止する。
⑤ 相談を目的に相談室に来室した生徒は、外部の専門機関にできるだけ紹介(リファー)する。

これらの対応は「本来の目的で相談室を利用する生徒まで、相談室を利用できなくなる」という点で不適切です。

選択肢③の「相談室の内装や雰囲気などを変え、生徒が気軽に入室できないようにする」だと、全ての生徒が相談室に入室しにくい形になってしまうので、今利用している生徒や今後利用する可能性のある生徒まで排除してしまう可能性があります。

選択肢④の「相談室で騒ぐ生徒たちの行動が落ち着くまで、A単独による教育相談を中止する」や選択肢⑤の「相談を目的に相談室に来室した生徒は、外部の専門機関にできるだけ紹介(リファー)する」だと、スクールカウンセラーに相談したい生徒が相談できなくなりますね。

スクールカウンセラー単独での教育相談を控えるということは、学校教員等が相談活動に入ってくるということですから(そして、本事例の状況だと生徒指導系の先生が入る?)、秘密保持や生徒の心情などさまざまな点から一般的な学校での心理臨床活動ができなくなります。

外部機関を紹介するというのも、そもそもは相談室を本来の目的とは異なる使用の仕方をしている生徒がいることが問題なのに、適切な使用をしていた生徒を外部に出すというのはいただけません。

そして、選択肢⑤になるとわざわざ学校にスクールカウンセラーを置いて対応している意味がありません。

多くの人が気づかないことかもしれませんが、学校という「社会的な場」で相談することができることの価値は大きいのです。

家庭‐学校という両方の場での子どもの様子を把握することができるため、それらの場での言動の違い、問題の出方、親や教員の人物評価などから多面的な見立てを行うことができます。

私自身、学校内での支援と学校外機関での支援を行うことがありますが、情報という見地から言えば、圧倒的に学校内での支援の方がやり易いですし、学校外の支援機関が生徒支援に関する方針を示してきたときにも「この情報を知っていれば違っていただろうな」と思うことが多いです。

とにかく、わざわざ学校内での支援を遠ざけるというアプローチは本末転倒ということになりますね。

以上のように、大切なのは「相談室を利用しにくくする」ことではなくて、「不当な使用をしている生徒を除き、従来の目的で利用している生徒が安心して利用できる状況を作る」ことになります。

ここで挙げた選択肢では、全ての生徒が利用できなくなるという形になるのでいただけませんね。

以上より、選択肢③、選択肢④および選択肢⑤は不適切と判断できます。

① 相談室で騒ぐ生徒たちと個別に面談し、授業妨害などの解決を図る。

まず「授業妨害などの解決を図る」というのは、相談室利用の在り方とはやや遠いトピックスになります(本問で問われているのは相談室の利用状況の改善について)。

授業妨害等は確かに問題であり、こちらはこちらで改善を図っていくことが求められますが、相談室の利用という直近の問題を解決するのに授業妨害等の状況から改善していくのは、富士山に海抜0メートルから登るようなもので、間違ってはいないけどあまりに遠回りということになります。

相談室の問題は、相談室の枠組みの中でできる対応を通して改善を目指す方が良いでしょう。

ちなみに「授業妨害等の解決は生徒指導教員などの役割であって、スクールカウンセラーの活動には該当しない」と考えるのは誤りです。

スクールカウンセラーは校務分掌で言えば「教育相談」になりますが、教育相談は「生徒指導」に含まれている分掌ですから、スクールカウンセラーが授業妨害等の問題の解決に尽力するのは仕事の範疇になります。

問題があるとすれば、そうした非行生徒への対応が「できるカウンセラーとできないカウンセラーが存在する」ということでしょうね(この辺は先生もわかっていて、できないカウンセラーにはそもそも相談さえしません)。

また、相談室利用の改善にしても、授業妨害等の改善にしても「相談室で騒ぐ生徒たちと個別に面談し」というアプローチはあまり効果が出るものとは言えません。

教師への暴言暴力にまで至っている状況で「個別に面談」することでどこまで改善可能なのかは甚だ疑問ですし、スクールカウンセラーの性別や特徴によっては「怖くてできない」ということもあるでしょうね。

近年は「世界が自分の手のひらの上にある」という認識を持っている子どもも多く、そういう子どもが非行になっている場合は「自分がやっていることを否定された」ということが強い怒りを生む場合もあり、「個別に面談」という形での対応はリスクが出てきます。

非行についてどのような理解をしているかによってこの辺の考え方に違いはあるかもしれませんが、本事例のような状況で大切なのは「枠組みを見直す」ことです。

別の言い方をすれば「きちんと組織として対応する」ということが求められます。

この辺は次の選択肢の解説で詳しく述べることにしましょう。

以上より、選択肢①は不適切と判断できます。

余談ですが、犯罪と見なせるようないじめ行為に対して警察の介入を考える旨の通知が文部科学省から出されました(学校におけるいじめ問題への的確な対応について)。

おそらく、今後はいじめに限らず警察等の介入を積極的に学校が要請するという場合は増えると思います。

それほどに近年の子ども及び保護者の学校への要求・振る舞いは度を越えています。

これまでは、そうした家庭に対して学校が一生懸命対応することで、どこかに着地点が発生して良い関係を築けるということが多かったのですが、最近はそういう対応をしていても要求が過大になっていくだけであり、問題の解決は起こらないのがほとんどです。

今後の学校に求められるのは「私たちができるのはここまでなんです」という限界を示すこと、その方法の一つとして警察等の介入を積極的に要請するなどの対応になると思います。

② 管理職や教職員と話し合い、相談室利用のルールを明確化し周知する。

本事例のような状況で大切なのは「本来の目的で利用している生徒が守られること」および「本来の目的以外で入室している生徒を出すこと」です。

加えて、こうした枠組みを破ってくる、そして、それが特定の生徒ではなく複数に及んでいるという状況では、個別に対応するのではなく「組織として、枠組みを設定する」ということが重要になります。

生徒が単体で不適切な相談室利用をするだけなら、その生徒にきちんと言い聞かせるなどで対応可能な場合が多いのですが、複数になるとそういうわけにもいかないのがほとんどですからね。

ですから、本選択肢にある「管理職や教職員と話し合い、相談室利用のルールを明確化し周知する」ということになるでしょう。

具体的には「相談室を利用する場合には、きちんと事前に許可を取る必要がある」というのが一般的なところでしょうか。

ちなみに、こういう枠組みを設定することによって「これまで相談室を利用していた生徒」も若干利用しにくくなります(休み時間にフリーで出入りできていたのができなくなる、フラッと来室ができなくなる)。

ですが、一部不適切な利用をすることでルールが厳しくなり、自由度が損なわれるというのは社会でもよく起こることの一つです(ゴミ出しのルールを守らないやつがいるから、ごみ袋が指定になる:お金がかかる、ごみ袋に名前を書かなければいけなくなる、など)。

フラッと来室などができなくなるため、もしかしたら「救えていた命」が救えなくなる可能性もあり、何らかの機会に不適切な利用をしていた生徒たちにもそういうことを伝えていくことが大切になります。

「これまで相談室を利用していた生徒」に対しては、そうした社会の縮図の一つであること、利用しにくくはなるがあなたたちを守るために必要であること、担任に伝える等のルールについてやりにくさの有無などを話し合っていくことが重要です。

このように、人数が増えたり、対応する範囲が増えることで、従来のルール・枠組みでは対応しきれなくなり、ルールや枠組みを明確化・厳密化することが要請され、それまでよりも支援できる範囲が狭まることは、学校に限らず起こり得ることです。

ですから、こうした状況を悲観するのではなく、どう子どもたちの社会的成熟に向けての機会とするかを考えていくのがスクールカウンセラーの役割と言えますね。

以上より、選択肢②が適切と判断できます。

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