公認心理師 2023-134

学校における危機管理・緊急支援に関する問題です。

緊急支援に関する基本的な理解が問われていますね。

問134 学校における危機管理・緊急支援について、適切なものを2つ選べ。
① 事前の危機管理が必要である。
② マスコミ対応は、複数窓口とする。
③ 緊急支援の役割は、管理職に集約させる。
④ 教育委員会など、地域の関係機関と連携する。
⑤ 通学途中や学校外での事故や犯罪被害は、学校危機に該当しない。

解答のポイント

学校での危機管理・緊急支援の基本的枠組みを把握している。

選択肢の解説

① 事前の危機管理が必要である。

緊急支援自体は、危機的な出来事に際して実施されるものではありますが、同時に、①心の傷の応急処置によって反応の重篤化・長期化を予防し、②一次被害の二次予防、③二次被害の一次予防という、予防の機能を持つものでもあります。

上記の「一次予防」とはすべての構成員を対象にしたものであり、「二次予防」とは不適応に陥る可能性が高いグループに対して実施されるアプローチになります。

こうした「予防」については、「事前の危機管理」でもあります。

特に、一次予防については「すべての構成員を対象としたもの」ですから、緊急事態が起こったときの対応を事前に伝えておくということも含まれます。

危機状態が生じたときにどうするのか(子どもたちの心理的反応を知っておく。それによって、対応することがしやすくなる等)、リスクのある状況が危機状態にならないためにどう対応すべきか、などを知っておくことが「事前の危機管理」になると言えます。

ただ、こういう「事前の危機管理」を伝えていくことの難しいところは「小姑の家事チェックのような目敏さ」が求められるという点です。

例えば、ある先生が家庭訪問するときに「アパートに行かせていただきますね」と親に伝えたところ反応がきました。

どういう反応かというと「どうしてわざわざ「アパート」なんて言い方をするんだ。持ち家なのと、賃貸とで分けているのか」というものです。

これはちょっと過敏な反応だとは思いますが、親のいうことがもっともなわけです(実際に、言い方として「ご自宅で伺います」で良いわけです。だから、上記で「反応」と表記して「苦情」とはいわないわけです)。

ここでわざわざ「アパート」という必要はないし、この背景に教員の差別意識が透けて見えると言われても仕方が無いわけですね。

上記は一例ではありますが、「事前の危機管理」はどのような事態であれ、かなり細かいところに気を配る力が求められます。

ですが、やはりこうした「事前の危機管理」をきちんと行っておくことで、危機になる前にリスク回避できることもありますし、仮に緊急事態に至ったとしても適切な対応を行い、事態を早期に収束に向かわせることが可能なわけです。

よって、選択肢①は適切と判断できます。

② マスコミ対応は、複数窓口とする。
③ 緊急支援の役割は、管理職に集約させる。
④ 教育委員会など、地域の関係機関と連携する。

まずは学校内で緊急支援チームを構成することになります。

具体的には以下のようなものになります。

  1. 責任者:校長
  2. 外部との連絡および窓口:教頭
  3. 児童生徒対象プログラム実施:生徒指導主事、各学年主任など
  4. 専門的助言:スクールカウンセラー(緊急支援のカウンセラーも含む)
  5. 児童生徒、保護者、教職員への個別ケア:養護教諭、スクールカウンセラー、各担任など

実際には、学校によって役割が入れ替わったり、対応する人数が変わることもありますが、こうした「これから起こりえること」を見越しつつ、対応する人を割り当てておくことで、いちいち混乱せずに対応を決めることがしやすくなります。

緊急事態で大切なのが、ある程度の見通しを持って対応すること、理論的に何を行うべきかを理解していること、そして、それらが全てひっくり返ってしまう可能性も含めて対応できる柔軟性を持っていること、などが挙げられるでしょう。

ですから、選択肢③のある「緊急支援の役割は、管理職に集約させる」は不適切な内容であり、実際は起こりえるさまざまな事態に応じて、それに適した役割の人を充てることになるわけです。

こうしたいくつかある役割の中に「メディアの対応」があります。

衝撃的な事件や事故の場合、さまざまなメディアが学校に押し寄せ、混乱を助長する可能性があります(何度も緊急事態に対応してきましたが、学校内に勝手にマスコミが入ってくるということもありました。他にも児童生徒の下校途中に取材するなど、色んなことが起こります)。

ですから、学校内の緊急支援チームが発足した段階で、メディア対応の窓口になる人を決定しておき、取材に対してはすべてその窓口担当者を通じて対応することに全教職員に徹底しておくことが重要です。

基本的には教頭が担うことが多く、学校と市町村教育委員会との関係、問題の質によっては市町村教育委員会の指導主事がその役割を担うこともあります。

メディア対応の担当者を設けるのは、情報のずれに基づく混乱を避けるためであり、担当者から出す情報はその時点で確認された事実であり、公表することが適切であると検討された内容であることが求められます。

大きな事件・事故の場合、マスコミ各社から別々に取材の申込があることも考えられ、必要であれば、記者会見を開くことでそうした各々での取材活動をコントロールしやすくなります。

このように、選択肢②の「マスコミ対応は、複数窓口とする」というのは不適切な内容であり、実際には窓口を一本化することで情報のずれと混乱を防ぐことが重要になります。

上記で既に、市町村教育委員会との連携も前提になっていることは読み取れると思います。
学校における緊急支援の主体はあくまでも学校であり、学校長がリーダーシップを取って行っていきます。

ただ、スクールカウンセラーをはじめとした、緊急支援を行っていくメンバーの中には教育委員会に所属している者もいますから、学校は緊急事態が起こったら「教育委員会など、地域の関係機関と連携する」ことが重要になってきます。

以上より、選択肢②および選択肢③は不適切と判断でき、選択肢④が適切と判断できます。

⑤ 通学途中や学校外での事故や犯罪被害は、学校危機に該当しない。

まず学校の緊急事態には色んなパターンがありますが、「学校の管理責任の内外」という分け方があります。

学校管理責任下にあると見なせる状況として、授業中や部活中の事件・事故(マラソン中やプールでの事故、理科の実験に伴う怪我、熱中症での死亡など)、修学旅行や遠足などの校外学習中の事件・事故(修学旅行、遠足、社会科見学などの際に事故に巻き込まれる)、外部から学校への侵入者による事件、などが該当します。

よく判断が分かれるのが本選択肢にある「通学途中」を学校管理責任下と見なすか否かですが、これは学校の管理責任下にあると判断されます。

そして、「学校外での事故や犯罪被害」であっても、それが上記のような授業中や校外学習中であれば、これらも学校の管理責任下と見なすのが妥当です。

ですから、これらの事態は端的に「学校危機」と見なすのが妥当です。

ただ勘違いしてはいけないのが、「学校の管理責任下でなければ、学校危機ではない」というわけでは無いということです(わかりにくい言い方ですね。学校管理責任下でなくても学校危機になり得ます)。

例えば、通学以外の交通事故、火災(当然、学校のではなく家の)、転落、溺死(川の事故が相変わらず多いですね)、教職員の事故や病死などが、学校の管理責任下外ということになります。

これらは学校に管理責任はないのですが、それでも学校コミュニティの構成員が大きく揺さぶられるという点で学校危機であると言えますね。

ただ、学校の管理責任下で起こったことではないため、「児童生徒の支援に全力を注ぎやすい」という点でやりやすさはありますね。

以上のように、「通学途中や学校外での事故や犯罪被害」であっても学校危機に該当すると言えます。

よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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