公認心理師 2020-150

発達障害(ADHD)の事例に対する支援法についての問題です。

より具体的な方針について浮かべながら臨むことで、より自信をもって答えることができる問題だと思います。

問150 9歳の男児A、小学3年生。Aは、注意欠如多動症/注意欠如多動性障害〈AD/HD〉と診断され、服薬している。Aは、待つことが苦手で順番を守れない。課題が終わった順に担任教師Bに採点をしてもらう際、Aは列に並ばず横から入ってしまった。Bやクラスメイトから注意されると「どうせ俺なんて」と言ってふさぎ込んだり、かんしゃくを起こしたりするようになった。Bは何回もAを指導したが一向に改善せず、対応に困り、公認心理師であるスクールカウンセラーCに相談した。
 CがBにまず伝えることとして、最も適切なものを1つ選べ。
① 学級での環境調整の具体案を伝える。
② Aに自分の行動を反省させる必要があると伝える。
③ Aがルールを守ることができるようになるまで繰り返し指導する必要があると伝える。
④ Aの年齢を考えると、この種の行動は自然に収まるので、特別な対応はせず、見守るのがよいと伝える。

解答のポイント

発達障害(ADHD)の特徴を踏まえた支援、具体的な環境調整の案について示すことができる。

選択肢の解説

① 学級での環境調整の具体案を伝える。

まず、AはADHDの診断が出ており、服薬もしていますね(DSM-5にも「しばしば自分の順番を待つことが困難である(例:列に並んでいるとき)」とありますから、その典型的な事例と言えるでしょう)。

そして「待つことが苦手で順番を守れない」「列に並ばず横から入ってしまった」「かんしゃくを起こしたりする」という、事例内で述べられているAの問題については、ADHDを背景として生じうるものばかりと言えます(「どうせ俺なんて」と言ってふさぎ込んだりするのはADHD由来とは言えませんが、二次障害としてはあり得る反応です。この点については、他選択肢の解説で述べていきましょう)。

この事例において、すでに「何回もAを指導したが一向に改善せず」とあるように、担任も一般的な範囲で指導を行っていることがわかります。

ですが、それで改善することがなかったので「対応に困り、公認心理師であるスクールカウンセラーCに相談した」という流れになりますね。

ここでSCに求められているのは、ADHDというAの発達的特徴を踏まえた助言になります。

具体的には「どうやったら列の割り込みをしないで済むようになるのか?」に関する、専門家の視点からの助言が求められているのです。

詳しくは他選択肢に譲りますが、A自身の考え方、問題の捉え方などを変えようとするのは、あまり効果のある対応とは言えません。

ADHDという衝動性を備えた問題であることを考えれば、Aは「わかっているけど止められない」という状態であることを前提に関わっていくことが求められます。

そして、「わかっているけど止められない」状態の人に、「わかっていること」を教え込もうとすることで、それができない自分に対して否定的な認識を生じさせてしまう恐れがあります。

この辺に関しては以下の選択肢で詳しく述べていきますね。

こうした点を踏まえれば、本事例でまず考えねばならないのが「Aの衝動性が出てしまうような環境を減らす」というアプローチです。

現状では「課題が終わった順に担任教師Bに採点をしてもらう」というルールでやっていますが、この際に「Aは列に並ばず横から入ってしまった」といった問題行動を取っています。

「課題が終わった順に担任教師Bに採点をしてもらう」という環境を調整することで、とりあえずは「Aは列に並ばず横から入ってしまった」という行動を減らすことができるかもしれないと考えるわけです。

具体的には、終わった人が手を挙げて先生が採点をしに行く、ノートをいったん預かって採点後に返す、などの対応が考えられます。

こうしたことを実践するにあたり「Aの衝動性の背景にある心理的因子」も同時に見立てていくことが大切です。

そもそも「課題が終わった順に担任教師Bに採点をしてもらう」という状況で問題が出たのは、Aが少しでも早く終わったことを主張したいからなのか、列で待つということ自体が苦手なのか、並んでいた他児童に特徴があったのか、などより細やかにAの衝動性を生じさせた因子を特定していくのです。

環境調整がうまくいく/うまくいかないにかかわらず、こうした「背景にある因子の予測」は可能であり、それをしていけばより適切な環境調整にたどり着きますし、「列に並ぶ」という場面以外にも援用可能な情報を入手できる可能性もありますね。

こうした環境調整を提案することで、相談してきた担任Bおよび男児Aの両方の支援になるようにしていくのがスクールカウンセラーの仕事になります。

以上より、選択肢①が適切と判断できます。

② Aに自分の行動を反省させる必要があると伝える。

この選択肢の対応は、Aが「自分の行動が悪いという自覚が薄い」ということに加えて、「その自覚が生まれ、反省の念が生じることで行動の改善が期待できる」場合に採用されることになります。

Aがこれらの条件に当てはまっていることが求められますが、どうもそのようには見えませんね。

まず担任が何度も本人に伝えていること、注意されたときにふさぎ込むことがあるといった点を踏まえれば、Aの「自覚が薄い」ということに関しては当てはまりそうもないですね。

発達障害、特にADHDであるという点を踏まえれば、頭ではしてはいけないとわかっていても、その状況になると衝動的に動いてしまうというのが実態であろうと思います。

もちろん、その衝動的な行動に思考が入ってくること(これはしてはいけないことだ、という感じの思考ですね)は将来的には期待したいところですが、現時点ではそれができているとは言い難く、こうした状態のAに対して「自分の行動を反省させる」という方針は「できないことを重ね重ね伝える」ということになりかねません。

選択肢①でも述べたとおり、この状況で行うべきことは、まず環境調整だと考えられます。

先述の通り、本事例では「課題が終わった順に担任教師Bに採点をしてもらう」という設定ですが、これを別のルールで順番が決まっているようにすることで、少なくとも「割り込もうとする」という行動は減ることが期待できますね。

こうした環境調整を行ってAの問題が減れば儲けものですし、うまくいかなければ「このやり方ではうまくいかない」というデータを入手できます。

こうしたAの特性を踏まえて、Try&Errorでもいいので「効果がありそうなことをやってみる」という感じで、一種の「実験」をしてみると良いだろうと思います。

この際、可能であれば「実験」という捉え方と、「実験には失敗がない」という認識の仕方をクライエントと共有できると良いでしょう。

それは本事例のAのようなクライエントに特に必要かもしれません。

Aは「どうせ俺なんて」と言ってふさぎ込んだりすることが示されていますから、彼は「多くの失敗をする俺なんてダメだ」という認識を持っていると予想されます。

ですから、支援の中で色々試して、その結果がどうであれ「失敗はない」という考え方で接することで、A自身が自分の問題や課題に能動的に関わる意欲につながると期待できます。

本選択肢の「反省させる」という方針は、本人の失敗を強く意識させるという点でも望ましくないことがわかると思います(特にAは自己否定的なことを言っていますからね)。

以上より、選択肢②は不適切と判断できます。

③ Aがルールを守ることができるようになるまで繰り返し指導する必要があると伝える。

発達障害全般に言えることですが、彼らには「それほど負担なくできること」「頑張ってもできないこと」があり、その間に「できるけど、とても負担なこと」が非常に大きなウェイトで存在しています。

特に「できるけど、とても負担なこと」に関しては、発達障害児たちが頑張って実践できるときもありますが、無理をしているのでそれほど長続きしないという結果になりやすいものです。

本事例では「何回もAを指導したが一向に改善せず」とありますが、それはAにとってその指導内容が「頑張ってもできないこと」か「できるけど、とても負担なこと」に位置するからであると考えられます。

このような「できないこと」や「できても長続きしないこと」を指導し続けるのは、およそ合理的な対応とは言えませんね。

この事例に限らずですが、「正しいけど効果がないこと」を言い続けるのは、相手が反論できないだけに有害無益です。

本選択肢の対応は、これまでの「何回もAを指導したが一向に改善せず」という対応を維持するということになります。

こういう「改善しないことが証明されている対応を維持する」というのは、支援の在り様としてはいかがなものかですね。

もちろん、表立って変化は見られないけど内的には変化が生じていることが見立てられれば維持もありなんですが、本事例ではそういう見立ても難しいですね。

また、改善の見込みが薄いにも関わらず「繰り返し指導する」ことによって、Aの自尊心を傷つけ、二次障害が生じたり根深くなる恐れもあります。

本事例では、「「どうせ俺なんて」と言ってふさぎ込んだり」というAの反応が示されていますから、すでに自尊心が傷ついている恐れがあります。

このことを踏まえれば、現在の対応を維持するというのは避けた方が良いことがわかりますね。

以上より、選択肢③は不適切と判断できます。

④ Aの年齢を考えると、この種の行動は自然に収まるので、特別な対応はせず、見守るのがよいと伝える。

本選択肢ですが、一見して誤りだろうと判断できると思いますが、あながちいい加減に設定された選択肢というわけでもありません。

なぜなら、ADHDの児童のなかには、確かに成長と共にその発達的な偏り(特に多動に関して)が改善されていくことがあるからです。

ですが、やはり本選択肢の対応はいくつかの視点で不適切と言えます。

まずは支援のニーズという点で、本選択肢の対応は適切ではありません。

たとえ本選択肢の内容が正しいとしても、担任はクラスで困っているわけです。

たとえ将来は改善するからといって「特別な対応はせず、見守る」というのは、担任の支援のニーズに対して応えたことにはならないですね。

「将来改善するから」と言われても「現在の問題」が改善したことにはならないので、担任が困っているというところをどう支援していくかが重要になります。

なお、上記のような言い方をすると「Aの支援なのに、担任のニーズを重視するばかりでいいのか」という意見もあるかもしれませんが、事例をしっかり読めば、現時点での相談者は担任Bです。

もちろん、Aの支援についても考えていくわけですが、「クラスでの対応に困っている担任」に対しても支援を行っていくのがスクールカウンセラーの仕事ですから、当然担任への支援という視点も欠かしてはなりません。

また、Aへの支援という視点でも、やはり本選択肢の対応は適切とは言えません。

「特別な対応はせず、見守る」というのは聞こえが良いですが、結局は何もしないということになります。

何もしないという対応を取る場合は「現在の環境で良くなっており、今後も現在の環境での改善が期待できる」「上げ止まりがきたところで、次の対応を考えよう」という状況になると思いますが、事例の状況ではAのネガティブな自己認識が窺えるなど、現状維持で良いポイントが見当たりません。

むしろ、現在の状況によってAのネガティブな自己認識が生じている可能性を考えると、積極的に環境を変えていくなどの対応を考えていくことが重要な事例と言えます。

冒頭で、多動に関しては成長とともに落ち着いてくる事例があると述べましたが、それはやはり環境がそれなりに調整されていたり、二次障害が顕著でない場合の方が多い現象です。

元々の発達の偏りに加えて二次的な問題が加わると、事態が複雑になり、改善や成長が困難になってくることも考える必要がありますから、やはり早期の対応は不可欠と言えるでしょう。

以上より、選択肢④は不適切と判断できます。

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