公認心理師 2020-134

不登校に関する歴史的な変遷と、現在の不登校支援についての理解が問われています。

不登校の歴史については、まとまった書籍がいくつか出ていますから、一読しておくと良いかもしれませんね。

問134 社会状況の変遷によって、子どもの不登校もその発生や捉え方も変遷してきた。この不登校の現象について、適切なものを2つ選べ。
① 1960年代に、ニューカマー家庭の不就学が問題となった。
② 1980年代の詰め込み教育の時代に、学校恐怖症が発見された。
③ 1990年前後のバブル経済の時代に、登校拒否という言葉が生まれた。
④ 2000年代の児童虐待防止法改正以降、居所不明児が注目された。
⑤ 現在、不登校の子どもを対象とする特別の教育課程を編成することができる。
(注:「児童虐待防止法」とは、「児童虐待の防止等に関する法律」である。)

解答のポイント

不登校の歴史や現在の不登校支援に関する仕組みを把握している。

選択肢の解説

不登校の歴史について述べたものは様々ありますが、ここでは以下の滝川先生の書籍を参考にしつつ書いていきます。

滝川先生と言えば、以下の著作が有名ですし、子どもと関わる支援者、学校で勤める支援者には読んでおいてほしい一冊ですね。

なお、この書籍に関しては、中井久夫先生の「看護のための精神医学」の子どもバージョンという位置づけで執筆されています。

こちらは領域に関わらず、多くの支援者に読んでほしい書籍です。

資格試験の知識には直接には関わらなくても、その知識を支える支援の基本姿勢を学ぶことができると思います。

① 1960年代に、ニューカマー家庭の不就学が問題となった。
② 1980年代の詰め込み教育の時代に、学校恐怖症が発見された。
③ 1990年前後のバブル経済の時代に、登校拒否という言葉が生まれた。

子どもが学校に行かないという現象自体は、学校制度の始まりとともにありましたが、それらは病気や生活困窮、教育への保護者の無理解、勉強が嫌いなど、それなりに「理解ができる」欠席理由でした(この時の「勉強が嫌い」と、現在の不登校の「勉強が嫌い」はちょっと意味が違ってきます。この時の「勉強が嫌い」は本当に嫌い)。

ところが、1950年代終わりくらいから、そうした理由が見いだせない長期欠席が現れだし、理解し難い現象として心理学や精神医学に解明が求められました。

「不登校」という言葉は、このようなかつての「新型」の欠席を従来の欠席と分ける精神医学用語として生まれたものです。

この不登校は、病気でもなく、豊かで文化水準も高い家庭環境で、親は教育に理解があり、本人もまじめで成績良好で学校は嫌いではなく、同級生などとの対人関係上の問題も見つからないというものであり、本人も周囲もなぜ学校に行けないのかわからない(本人も学校に行くべきと考えている)という点で共通していました。

また、いじめといった学校を忌避する出来事もなく、小学校低学年で始まる点も共通していました。

こうした欠席現象は、Jhonsonによって「学校恐怖症」と名付けられました。

ジョンソンは、子どもたちの状態を、学校への合理を超えた極端な恐怖反応と見なし「恐怖症」という表現を使ったわけですね。

ですが、その後、ジョンソンは研究を進め、養育者から離れて過ごさねばならぬ状況への強い不安が子どもたちの共通する心理背景となっていることを見出し、この不安を「分離不安」と名付けました。

つまり「学校に行けない」のではなく、「家(親)から離れられない」と結論付けたわけです。

この「分離不安」という視点については、精神医学者Eisenbergも同様の結論に達していました。

このジョンソンとアイゼンバーグの分離不安説は日本にも紹介され、多くの研究者に支持されました。

確かに1950年代から1960年代のはじめにかけて見られた不登校には、この説明がぴったりくる事例が多かったと言えます。

こうした背景から「学校恐怖症」という呼称が「登校拒否」になり、一般的に使われるようになりました。

ただ、「拒否」という言葉には、能動的に拒むという意味が含まれているため「登校しようとしてできない子どもたち」には当てはまらないという捉え方もあり、その後「不登校」という用語が出てきました。

呼称に関する個人的な意見としては、「不登校」は子どもたちの状態を客観的に眺めた表現だと感じており、間違ってはいませんが情緒がないと感じています。

「学校恐怖症」や「登校拒否」は、子どもの状態を内側から眺めて付けた呼称だと思いますが、実態と合っていないと感じます。

個人的には「登校しぶり」などのように、子どもの内面の葛藤が現れている呼称が一番しっくりきますね。

ここまでが、不登校の第一世代ともいうべき一群でした。

1960年代になって不登校の年齢幅が広がったことで、分離不安以外の要因を見ていく動きが出てきて、実際に様々な要因が挙げられましたが、中流階層以上の、生活難がなく、子育てや教育への関心が高い家庭で育ち、成績も一般に悪くなく、学習意欲もむしろ高い子どもたちに特異的にみられる長期欠席であるという点で共通していました。

この共通性によってひとまとめと認識でき、そこには学業意欲の低さを共通特徴とする「怠学」との大きな違いが見て取れました。

上記のような流れを理解していると、ここで挙げた選択肢の正誤判断を行うことができます。

選択肢②の「学校恐怖症」、選択肢③の「登校拒否」に関しては、いずれも1950年代~1960年代にかけて示された表現となりますから、その点で選択肢の内容に誤りがあると言えます。

また、選択肢①の「ニューカマー家庭」とは、1990年に出入国管理及び難民認定法が改正されて増加した、主に南米系の移民の家庭を指しています。

これを受けて、1991年以降、学齢期の外国人の子どもたちにも就学案内が発給されるようになりましたが、多くの場合において各教育委員会は日本人同様に日本語の通知を出すにとどまり、外国語での就学案内や外国人保護者に向けた情報発信など、積極的に就学を促す働きかけはなされませんでした。

こうした状況で、どこの学校にも通っていない外国人の子どもたちの存在が問題となりはじめました。

2002年には外国人集住都市会議が14の加盟自治体の不就学者数の調査を行って26%と報告し、2003年には文科省は総務省行政評価局より外国人の子どもの不就学問題について改善の勧告を受けるに至ります。

外国人登録者数と義務教育諸学校及び外国人学校等の在籍者数から算出された不就学児童・生徒数は12,098人(2001年)であり(当時の外国人の学齢児童・生徒の約11.4%に当たる数字)、この推計値をもとに、就学案内の徹底などをはじめとした勧告がなされました。

このように、選択肢①の「ニューカマー家庭」についても、年代が誤っていることがわかりますね。

以上のように、ここで挙げた選択肢は、それぞれが不登校と絡んだ現象や概念ではありますが、すべて年代との齟齬がありますね。

よって、選択肢①、選択肢②および選択肢③は誤りと判断できます。

なお、選択肢②の詰め込み教育はその後のゆとり教育への転換を図る機会となりましたね。

1980年代にこうした詰め込み教育の問題(詰め込まれた知識は試験が終わると忘れてしまう「剥落学力」である、勉強についていけない子どもの非行やいじめ、それによる不登校など)への反省から、児童・生徒の学習の動機付けに重点を置くゆとり教育へと路線を変更することとなったわけです。

多くの少年犯罪が取りざたされたのもこの時代でしたね(神戸連続児童殺傷事件、西鉄バスジャック事件、岡山金属バット母親殺害事件など。いわゆる「キレる17歳」ですね。私はまさにこの年代です)。

④ 2000年代の児童虐待防止法改正以降、居所不明児が注目された。

児童虐待防止法は、2000年11月に施行されました。

その後、第一回目の「児童虐待の防止等に関する法律改正」がなされ、2004年10月1日から施行されましたが、この根拠は、2000年に制定された児童虐待防止法附則第二条に「この法律の施行後三年を目途として、この法律の施行状況等を勘案し、検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする」と盛り込まれたことによります。

この改正では、虐待定義の見直し(保護者以外の同居人も対象、DVなども虐待となる)、児童虐待に係る通告義務の拡大(虐待されていると「思われる」場合であっても通告)などが行われました。

第二回目の改正は2007年4月に国会に提出され、6月に可決・成立しました。

改正の根拠となったのは、第一回目改正時の「児童虐待の防止等に関する法律」附則に「この法律の施行後三年以内に、児童の住所又は居所における児童の安全の確認又は安全の確保を実効的に行うための方策、親権の喪失等の制度のあり方その他必要な事項について、この法律による改正後の児童虐待の防止等に関する法律の施行状況等を勘案し、検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとすること」とされたことです。

改正点では、第一条の目的に「児童の権利利益の擁護に資すること」が明記され、第四条関係に、国・地方公共団体の責務として、虐待を受けた児童等に対する「医療の提供体制の整備」が加えられました。

改正の視点は、児童相談所の権限強化で、立入調査に関しては、親の同意が得られない場合、一定の手順を踏んだあと裁判所の許可を得て強制立入できるとしました。

他には、保護者への指導や面会制限の強化などが挙げられるでしょう。

第1回目の改訂時にすでに「児童の住所又は居所における児童の安全の確認又は安全の確保を実効的に行うための方策」についてが示されていることからも、居所不明児の存在が注目されていたことがわかりますね。

厚生労働省によると、居所不明児(居住実態が把握できない児童)とは、当該市町村に住民票はあるが、乳幼児健診が未受診等で、電話や家庭訪問等による連絡が取れない家庭に属する児童(以下の1~3のいずれかに該当)であって、市町村が引き続き所在及び安全の確認を行ったにもかかわらず、所在等が確認できない児童のことを指します。

  1. 乳幼児健康診査、予防接種、新生児訪問、乳児家庭全戸訪問事業などの乳幼児等を対象とする保健・福祉サービスを受けておらず、電話、文書、家庭訪問等による勧奨を実施したにもかかわらず、連絡・接触ができない家庭に属する児童
  2. 市町村の児童家庭相談、保育の実施事務、子ども・子育て支援新制度における施設型給付や児童手当、児童扶養手当等の児童を対象とした手当(市町村独自の手当も含む)の支給事務、その他児童福祉行政の実施事務の過程で把握されている児童のいる家庭のうち、電話、文書、家庭訪問等による勧奨を実施したにもかかわらず、連絡・接触ができないため、それらの行政事務の実施上、必要な各種届出や手続を行っていない家庭に属する児童
  3. 市町村教育委員会が、学校への就園・就学に係る事務(学校において行う事務や、就園奨励費補助、就学時健診、就学説明会等の就園・就学前後の諸手続に係る事務も含む)の過程で把握した児童のうち、市町村教育委員会が各学校や学校設置者と連携してもなお電話、文書、家庭訪問等により連絡・接触ができない家庭に属する児童

特に、上記の3が不登校と関連してくることになりますね。

その後、厚生労働省や文部科学省では、居所不明児に関する調査や通知等を行っていますね。

例えば、「居所不明児童生徒に関する教育委員会の対応等の実態調査」「義務教育諸学校における居所不明の児童生徒の把握等のための対応について」「平成29年度居住実態が把握できない児童に関する調査結果」などです。

実態としては、DVを見せることも虐待と認定されるようになったこと、DVから逃れるための引っ越し等によって居所不明になること、そういった場合は誰にも伝えずに居所を変えるため学校も実態を把握できないこと、などのように虐待と不登校にも深い関連があることが見えてきます。

また、虐待によって、保護者が正当な事由なく児童生徒を出席させないという事案があり、教員が家庭訪問を行っても、保護者が子どもを出さないため、その存在を明確に確認することができないという状況も生じました。

以上のように、居所不明児の存在は児童虐待防止法の改正を機に注目されていたことがわかりますね。

よって、選択肢④は正しいと判断できます。

⑤ 現在、不登校の子どもを対象とする特別の教育課程を編成することができる。

不登校児童生徒の実態に配慮した特別の教育課程を編成して教育を実施する必要があると認められる場合、文部科学大臣が、学校教育法施行規則第56条に基づき(第79条:中学校、第79条の6:義務教育学校、第86条:高等学校、第108条:中等教育学校において準用)、学校を指定し、特定の学校において教育課程の基準によらずに特別の教育課程を編成して教育を実施することができます。

また、平成28年12月7日には、不登校児童生徒への支援について初めて体系的に規定した「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」が成立しました。

この法律は、学校以外の場で行う多様で適切な学習活動の重要性が規定されたものであり、これを受けて不登校児童生徒に対する支援のさらなる充実が求められていました。

さらに、本法律に基づいて策定された基本指針においては「不登校児童生徒の意思を十分に尊重しつつ、個々の児童生徒の状況に応じた支援を行うこと」の重要性や、不登校児童生徒に対する多様で適切な教育機会の確保のため、教育支援センターや不登校児童生徒等を対象とする特別の教育課程を編成して教育を実施する学校の設置促進についても示しています。

上記の「教育支援センターや不登校児童生徒等を対象とする特別の教育課程を編成して教育を実施する学校」は特例校と呼ばれ、これが本選択肢の「不登校の子どもを対象とする特別の教育課程を編成することができる」に該当することになります。

以下に「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」の該当箇所を抜き出しておきましょう。


第二条(定義) この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

  1. 学校 学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第一条に規定する小学校、中学校、義務教育学校、中等教育学校の前期課程又は特別支援学校の小学部若しくは中学部をいう。
  2. 児童生徒 学校教育法第十八条に規定する学齢児童又は学齢生徒をいう。
  3. 不登校児童生徒 相当の期間学校を欠席する児童生徒であって、学校における集団の生活に関する心理的な負担その他の事由のために就学が困難である状況として文部科学大臣が定める状況にあると認められるものをいう。
  4. 教育機会の確保等 不登校児童生徒に対する教育の機会の確保、夜間その他特別な時間において授業を行う学校における就学の機会の提供その他の義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保及び当該教育を十分に受けていない者に対する支援をいう。

第三条(基本理念) 教育機会の確保等に関する施策は、次に掲げる事項を基本理念として行われなければならない。

  1. 全ての児童生徒が豊かな学校生活を送り、安心して教育を受けられるよう、学校における環境の確保が図られるようにすること。
  2. 不登校児童生徒が行う多様な学習活動の実情を踏まえ、個々の不登校児童生徒の状況に応じた必要な支援が行われるようにすること。
  3. 不登校児童生徒が安心して教育を十分に受けられるよう、学校における環境の整備が図られるようにすること。
  4. 義務教育の段階における普通教育に相当する教育を十分に受けていない者の意思を十分に尊重しつつ、その年齢又は国籍その他の置かれている事情にかかわりなく、その能力に応じた教育を受ける機会が確保されるようにするとともに、その者が、その教育を通じて、社会において自立的に生きる基礎を培い、豊かな人生を送ることができるよう、その教育水準の維持向上が図られるようにすること。
  5. 国、地方公共団体、教育機会の確保等に関する活動を行う民間の団体その他の関係者の相互の密接な連携の下に行われるようにすること。

第八条(学校における取組への支援) 国及び地方公共団体は、全ての児童生徒が豊かな学校生活を送り、安心して教育を受けられるよう、児童生徒と学校の教職員との信頼関係及び児童生徒相互の良好な関係の構築を図るための取組、児童生徒の置かれている環境その他の事情及びその意思を把握するための取組、学校生活上の困難を有する個々の児童生徒の状況に応じた支援その他の学校における取組を支援するために必要な措置を講ずるよう努めるものとする。

第九条(支援の状況等に係る情報の共有の促進等) 国及び地方公共団体は、不登校児童生徒に対する適切な支援が組織的かつ継続的に行われることとなるよう、不登校児童生徒の状況及び不登校児童生徒に対する支援の状況に係る情報を学校の教職員、心理、福祉等に関する専門的知識を有する者その他の関係者間で共有することを促進するために必要な措置その他の措置を講ずるものとする。

第十条(特別の教育課程に基づく教育を行う学校の整備等) 国及び地方公共団体は、不登校児童生徒に対しその実態に配慮して特別に編成された教育課程に基づく教育を行う学校の整備及び当該教育を行う学校における教育の充実のために必要な措置を講ずるよう努めるものとする。

第十一条(学習支援を行う教育施設の整備等) 国及び地方公共団体は、不登校児童生徒の学習活動に対する支援を行う公立の教育施設の整備及び当該支援を行う公立の教育施設における教育の充実のために必要な措置を講ずるよう努めるものとする。

第十二条(学校以外の場における学習活動の状況等の継続的な把握) 国及び地方公共団体は、不登校児童生徒が学校以外の場において行う学習活動の状況、不登校児童生徒の心身の状況その他の不登校児童生徒の状況を継続的に把握するために必要な措置を講ずるものとする。

第十三条(学校以外の場における学習活動等を行う不登校児童生徒に対する支援) 国及び地方公共団体は、不登校児童生徒が学校以外の場において行う多様で適切な学習活動の重要性に鑑み、個々の不登校児童生徒の休養の必要性を踏まえ、当該不登校児童生徒の状況に応じた学習活動が行われることとなるよう、当該不登校児童生徒及びその保護者(学校教育法第十六条に規定する保護者をいう)に対する必要な情報の提供、助言その他の支援を行うために必要な措置を講ずるものとする。


特例校等に関する通知は文部科学省のページにまとまっていますから、興味のある方は見てみると良いでしょう。

以上より、現在、不登校児童生徒のために特別の教育課程を編成することが可能となっています。

よって、選択肢⑤は正しいと判断できます。

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