公認心理師 2024-58

高齢者虐待防止法に関する問題です。

細かい内容を突いてきているところもあるので、間違えないように対応したいですね。

問58 高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律〈高齢者虐待防止法〉の内容として、適切なものを2つ選べ。
① 家族が立ち入り調査を拒んだことに対する罰則規定はない。
② 家庭内虐待における通報先には地域包括支援センターが含まれる。
③ 市町村において虐待が認定された場合、行政担当者は警察に報告する義務がある。
④ 養護者による虐待の事実を確認しなくても、疑いの段階で通報することができる。
⑤ 養介護施設職員が、施設において、介護業務に従事する職員による高齢者虐待を発見した場合、通報の努力義務がある。

選択肢の解説

① 家族が立ち入り調査を拒んだことに対する罰則規定はない。

本法における罰則規定は以下の通りになります。


第五章 罰則
第二十九条 第十七条第二項の規定に違反した者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
第三十条 正当な理由がなく、第十一条第一項の規定による立入調査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は同項の規定による質問に対して答弁をせず、若しくは虚偽の答弁をし、若しくは高齢者に答弁をさせず、若しくは虚偽の答弁をさせた者は、三十万円以下の罰金に処する。


第29条と関連する第17条第2項は「委託を受けた高齢者虐待対応協力者若しくはその役員若しくは職員又はこれらの者であった者は、正当な理由なしに、その委託を受けた事務に関して知り得た秘密を漏らしてはならない」ですから、秘密漏洩に関する罰則ですね。

本選択肢と関連があるのは第30条および第11条第1項ですが、第11条第1項が「市町村長は、養護者による高齢者虐待により高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じているおそれがあると認めるときは、介護保険法第百十五条の四十六第二項の規定により設置する地域包括支援センターの職員その他の高齢者の福祉に関する事務に従事する職員をして、当該高齢者の住所又は居所に立ち入り、必要な調査又は質問をさせることができる」とあり、要するに立ち入り調査に関する条項です。

ですから、これを拒んだ場合には「三十万円以下の罰金に処する」という規定が設けられていることがわかりますね。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。

② 家庭内虐待における通報先には地域包括支援センターが含まれる。
④ 養護者による虐待の事実を確認しなくても、疑いの段階で通報することができる。

これらに関連する条項を挙げていきましょう。


(養護者による高齢者虐待に係る通報等)
第七条 養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、当該高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じている場合は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない。
2 前項に定める場合のほか、養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、速やかに、これを市町村に通報するよう努めなければならない。
3 刑法(明治四十年法律第四十五号)の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、前二項の規定による通報をすることを妨げるものと解釈してはならない。


まず高齢者に限らず、虐待対応全般において大切なのは、第1項の「虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者」の『思われる』という箇所です。

かつては「虐待を受けた者を発見した者は~」になっていましたが、それだと確証が無いと通報等が行うことができないため保護が遅れるという指摘・事実があったため、「思われる~」に変更することによって、思い違いやかん違いでもいいから、怪しいと思われる状況があった段階で通報するように変更したという経緯があります。

また第2項には「生命又は身体に重大な危険が生じている場合」以外の場合であっても、虐待を受けたと『思われる』場合には通報してもよいことになっていますね(ただ、これが努力義務になっているのは、高齢者を世話する中で対応が大変な場面もあり、そのときの対応の様子で虐待だと判断されるのはちょっと…というのもあるのかもしれません)。

ですから、選択肢④の「養護者による虐待の事実を確認しなくても、疑いの段階で通報することができる」というのは、こうした法律の経緯も含めた理解が問われているわけであり、当然適切な内容であると言えます。

続いて、選択肢②の正誤判断ですが、上記の第1項および第2項に「これを市町村に通報しなければならない」とあります。

ポイントは選択肢②にある「地域包括支援センター」が、条項内の「市町村」に該当するか否か、に関する理解ですね。

結論から言えば、地域包括支援センターは条項内の「市町村」ではありませんが、虐待の通報先としては適切になります。

これがどういうことなのか、法律の条項を追いつつ解説していきましょう。

高齢者虐待防止法では、高齢者虐待の防止、高齢者虐待を受けた高齢者の迅速かつ適切な保護及び適切な養護者に対する支援について、市町村が主体的に役割を担うことが規定されています。また、高齢者虐待対応協力者のうち適当と認められる機関に以下の事務の一部又は全部を委託することが可能とされています(第17条)。

そして委託可能な事務の内容は以下の通り、各条項で規定されています。

  1. 相談、指導及び助言(第6条)
  2. 通報又は届出の受理(第7条、第9条)
  3. 高齢者の安全の確認、通報又は届出に係る事実確認のための措置(第9条)
  4. 養護者の負担軽減のための措置(第14条)

選択肢②に関わるのは、上記の第9条になり、また併せて第16条も重要になりますから見ていきましょう。


(通報等を受けた場合の措置)
第九条 市町村は、第七条第一項若しくは第二項の規定による通報又は高齢者からの養護者による高齢者虐待を受けた旨の届出を受けたときは、速やかに、当該高齢者の安全の確認その他当該通報又は届出に係る事実の確認のための措置を講ずるとともに、第十六条の規定により当該市町村と連携協力する者(以下「高齢者虐待対応協力者」という。)とその対応について協議を行うものとする。

(連携協力体制)
第十六条 市町村は、養護者による高齢者虐待の防止、養護者による高齢者虐待を受けた高齢者の保護及び養護者に対する支援を適切に実施するため、老人福祉法第二十条の七の二第一項に規定する老人介護支援センター、介護保険法第百十五条の四十六第三項の規定により設置された地域包括支援センターその他関係機関、民間団体等との連携協力体制を整備しなければならない。この場合において、養護者による高齢者虐待にいつでも迅速に対応することができるよう、特に配慮しなければならない。


上記の通り、地域包括支援センターが第9条の「当該市町村と連携協力する者」に該当し、また、委託可能な業務として「通報」も含まれていますから、地域包括支援センターが通報先としても適切であると言えるわけです。

以上より、選択肢②および選択肢④が適切と判断できます。

③ 市町村において虐待が認定された場合、行政担当者は警察に報告する義務がある。

まずは本法における警察との絡みについて示した条項を見ていきましょう。


(警察署長に対する援助要請等)
第十二条 市町村長は、前条第一項の規定による立入り及び調査又は質問をさせようとする場合において、これらの職務の執行に際し必要があると認めるときは、当該高齢者の住所又は居所の所在地を管轄する警察署長に対し援助を求めることができる。
2 市町村長は、高齢者の生命又は身体の安全の確保に万全を期する観点から、必要に応じ適切に、前項の規定により警察署長に対し援助を求めなければならない。
3 警察署長は、第一項の規定による援助の求めを受けた場合において、高齢者の生命又は身体の安全を確保するため必要と認めるときは、速やかに、所属の警察官に、同項の職務の執行を援助するために必要な警察官職務執行法(昭和二十三年法律第百三十六号)その他の法令の定めるところによる措置を講じさせるよう努めなければならない。


法第12条第1項においては、市町村長は、高齢者の住所又は居所への立入調査に際し、必要があると認めるときは警察署長の援助を求めることができることが規定されています。

警察署長の行う援助とは、市町村長による職務執行が円滑に実施できるようにする目的で、警察が、警察法、警察官職務執行法等の法律により与えられている任務と権限に基づいて行う措置ですから、警察官は、市町村長の権限行使の補助者ではなく、調査業務そのものの補助を行うことは適当ではありません。

今この中には選択肢③に関連する内容は示されていませんね。

選択肢③と関連するのは、警察庁に向けて出されたこちらの通達になります。

通達では、通報の必要性に触れた後、「したがって、各都道府県警察において、警察安全相談、高齢者を被害者とする事案等の捜査、急訴事案や保護の取扱い等の各種警察活動に際し、高齢者虐待事案を認知した場合には、速やかに市町村に通報をすること」とあります。

要するに、警察がその業務の中で高齢者虐待と思われる事案を認知した場合、そのことを市町村に通報するようにという通達なわけです。

ですから、選択肢③の「市町村において虐待が認定された場合、行政担当者は警察に報告する義務がある」の内容は「市町村→警察」になっていますがこれは誤りで、実際には「警察→市町村」が正しい内容であると言えます。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。

⑤ 養介護施設職員が、施設において、介護業務に従事する職員による高齢者虐待を発見した場合、通報の努力義務がある。

こちらについては第21条を見ていきましょう。


(養介護施設従事者等による高齢者虐待に係る通報等)
第二十一条 養介護施設従事者等は、当該養介護施設従事者等がその業務に従事している養介護施設又は養介護事業(当該養介護施設の設置者若しくは当該養介護事業を行う者が設置する養介護施設又はこれらの者が行う養介護事業を含む。)において業務に従事する養介護施設従事者等による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した場合は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない。
2 前項に定める場合のほか、養介護施設従事者等による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、当該高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じている場合は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない。
3 前二項に定める場合のほか、養介護施設従事者等による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、速やかに、これを市町村に通報するよう努めなければならない。
4 養介護施設従事者等による高齢者虐待を受けた高齢者は、その旨を市町村に届け出ることができる。
5 第十八条の規定は、第一項から第三項までの規定による通報又は前項の規定による届出の受理に関する事務を担当する部局の周知について準用する。
6 刑法の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、第一項から第三項までの規定による通報(虚偽であるもの及び過失によるものを除く。次項において同じ。)をすることを妨げるものと解釈してはならない。
7 養介護施設従事者等は、第一項から第三項までの規定による通報をしたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いを受けない。


当然のことですが、上記の第1項より、通報は「努力義務」ではなく「法的義務」であることが示されていますね。

ただ、少しわかりづらいのが第3項に「前二項に定める場合のほか、養介護施設従事者等による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、速やかに、これを市町村に通報するよう努めなければならない」とあることです。

そもそも、上記における第1項~第3項の違いがわかりづらいと思うので、その点を解説していきましょう。

第1項の内容は、養介護施設従事者等が自分が働く施設・事業所等で発見した場合は、重大な危険の有無に関わらず「通報義務」があることを示しています。

上記(養介護施設従事者等)以外の場合は生命・身体に重大な危険があると判断されれば 「通報義務」になり(これが第2項の内容)、それ以外(生命・身体に重大な危険があると判断されない)の場合 には 通報の「努力義務」になります(これが第3項の内容)。

本選択肢の主語は「養介護施設職員」になっていますから、第1項に該当し、重大な危険性の有無に関わらず「通報義務」があることを示していますね。

よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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