公認心理師 2021-133

感染症における標準予防策に関する問題です。

おそらく、ここまで調べている人はなかなかいないと思いますから、常識的な視点から解いていくしかない人が多かったのではないかと思います。

時事問題と言えなくもないですね。

問133 感染症の標準予防策について、適切なものを2つ選べ。
① 全ての患者との接触において適用される。
② 個人防護具を脱ぐときは、手袋を最後に外す。
③ 手袋を外した後の手洗いや手指の消毒は、省略してもよい。
④ 電子カルテ端末を用いて情報を入力するときは、手袋を外す。
⑤ 個人防護具は、ナースステーション内の清潔な場所で着脱する。

解答のポイント

感染症における標準予防策について把握している。

標準予防策の概要・選択肢の解説

隔離予防策は、医療現場で感染する可能性のある病原体の伝播を制限することにより、入院している子ども、医療従事者、来訪者を守るために策定されています。

医療感染管理諮問委員会(HICPAC)は、2007年に医療現場での病原体伝播を予防するためのエビデンスに基づいた隔離ガイドラインを更新しました。

これらの隔離予防方針の遵守は、医療機関の方針と感染・環境管理に関する他の方法、そして職業上の健康管理などと共に、病原体伝播の減少とより安全な患者ケアに貢献するが、それぞれの施設の状況や対象集団に合わせて、改変適用されることが重要です。

標準的予防策は、感染の診断、疑い、確定にかかわらず、すべての患者をケアするときに、一定の方法で最適に実行すべきものです。

この標準的予防策に加え、空気感染、飛沫感染、接触感染によって伝播する病原体に感染、あるいは保有している患者をケアするときは、感染経路別予防策が適用されます。

標準予防策は、汗以外のすべての体液(目に見える血液汚染の有無にかかわらず)、健常でない皮膚、または粘膜への接触を介して感染するすべての病原体の伝播を予防するために使用されます。

医療機関で働く人々が体液に曝露される機会を減少させるために、障壁(バリア)手法が推奨されています。

標準的予防策は、血液や体液に曝露されると予測されるとき、すべての患者に適用されます。

また、標準的予防策は、血液媒介病原体や薬剤耐性菌などを保有していると認識されていない患者からの微生物の伝播を減少させるために策定されています。

標準的予防策には以下の項目が含まれています。

  • 手指衛生:手袋の着用の有無にかかわらず、患者と接触する前後および血液や体液、分泌物、排泄物、その他汚染された物に触った後は、必ず行うべきものである。
    手指衛生は、手袋を着用する前、外した直後、1人の患者との接触と他の患者との接触の合間、そしてそれ以外で他の患者や環境にある物品に微生物を伝染させないために必要な場合に、アルコール速乾性手指消毒薬か石鹸と流水のいずれかで行うべきである。一目見て手が汚れている時や、血液や他の体液などの蛋白性物質で手が汚染している時は、少なくとも20秒間石鹸と流水で手を洗う必要がある。
  • 手袋:子どもの涙や鼻水を拭くときや日常的に健常児のおむつを替えるときを除き、血液や体液、分泌物、排泄物およびこれらで汚染された物品にふれるときは着用すべきである。手袋を着用する前に手指衛生を行うべきである。粘膜や健常でない皮膚に触れる前に、または体液にふれる可能性がある場合は、清潔な手袋を使用すべきである。手袋は潜在的な感染性物質に触れた後や同じ患者でも異なる処置や手技においては交換すべきである。たとえ目に見える汚染がなくとも、手袋を外した後は手指衛生を行うべきである。
  • マスク、アイプロテクション、フェイスシールド:血液や体液、分泌物、排泄物が飛び跳ねたり、飛散するような手技や患者ケアを行うときに、目、鼻、口の粘膜を守るために着用すべきである。脊柱管や硬膜下腔にカテーテルを挿入したり、薬液を注入するときは、外科用マスクを着用すべきである。
  • 無滅菌のガウン:血液や体液、分泌物、排泄物が飛び跳ねたり、飛散するような手技や患者ケアを行うときに、皮膚を防御し、着衣が汚れるのを予防する。衣服の汚染を予防するために、汚れがガウンは直ちに、注意深く脱ぐべきである。
  • 患者の処置に用いた器具類:皮膚や粘膜に触れないよう、衣類や周囲を汚染させないようにして注意して取り扱うべきであり、製造元の推奨に従って洗浄すべきである。
  • 使用済みの繊維用品(リネン類):汚染されていると考え、微生物を空気中にまき散らさないように、皮膚や粘膜に触れないよう、衣類を汚染させないよう注意して取り扱い、 搬送すべきである。
  • 環境:共用の玩具や頻回接触面を含み、患者の接触状況や汚染度合いに応じて、平常時あるいは状況に応じた環境表面の清掃の方針と方法を決めておかねばならない。
  • より安全な注射手技を守る:針、メスの替え刃、その他鋭利な道具や器具を取り扱うとき、処置後に使用済みの鋭利な刃物類の取り扱い時、使用済みの機器の洗浄後、使用済みの針の廃棄時には、これらによる損傷を防ぐための予防策を取って、医療従事者への血液媒介病原体の曝露を避けるべきである。
  • マウスピース、蘇生バッグ、その他の換気用の器具:すべての患者をケアする場所に準備し、マウスツーマウス蘇生の代わりに用いるべきである。
  • 聴診器や耳鏡:使用時に洗浄しておく。

これらを踏まえて、各選択肢を見ていきましょう。

ちなみに、私は中井久夫先生の院内感染に関するエッセーが好きです。

中井先生はもともとウイルス学をしていた方ですから(30代に入ってから精神科に転科した)、ときどきエッセーにウイルスに関する話題が出てきて面白いです。

① 全ての患者との接触において適用される。

上述の通り、標準的予防策は、感染の診断、疑い、確定にかかわらず、すべての患者をケアするときに、一定の方法で最適に実行すべきものです。

この標準的予防策に加え、空気感染、飛沫感染、接触感染によって伝播する病原体に感染、あるいは保有している患者をケアするときは、感染経路別予防策が適用されます。

以上のように、標準的予防策は全ての患者との接触において適用されるものです。

よって、選択肢①は適切と判断できます。

② 個人防護具を脱ぐときは、手袋を最後に外す。
③ 手袋を外した後の手洗いや手指の消毒は、省略してもよい。
④ 電子カルテ端末を用いて情報を入力するときは、手袋を外す。

これらは手袋に関する内容ですね。

一つひとつ見ていきましょう。

選択肢②は、防護具の着脱順序に関する内容ですね。

こちらは北海道大学のマニュアルを参考にして述べていきましょう。

【着衣】

  1. ガウン:折りたたんである内側が最もきれいな部分。内側が表になるように着用する。
  2. マスク:顔および顎下にフィットさせる
  3. ゴーグルやフェイスシールド:必要時に着用。着用するなら順序はここ。
  4. 手袋:処置直前に着用する(最初に着用すると環境表面への接触、マスク着用時の顔面への接触で手袋が汚染されてしまう)

【脱衣】

  1. 手袋:最も汚染している。
  2. ゴーグルやフェイスシールド:外側は汚染している。取り外し時、清潔な耳掛け部分(つる)またはヘッドハンドを持って外す。
  3. ガウン:ガウンの前面およびガウンの袖は汚染している。汚染部分を中にし、丸め包み込む。
  4. マスク:マスク前面は汚染している。マスク紐あるいはゴムを持って外す。

このように、脱衣時には「最も汚れているものから脱いでいく」のが基本になりますから、最も汚染していると考えられる手袋から脱衣していくことが求められます。

また、手袋着用に関しては以下のように記述されています。

【手袋着用が必要な場面】

  1. 採血など血液に触れる可能性がある時
  2. 腹水、胸水、髄液など体液に触れる可能性がある時
  3. 正常でない皮膚、粘膜に触れる可能性がある時
  4. 吸引時。気管、胃液など
  5. 接触感染予防策患者(MRSAや多剤耐性緑膿菌などの処置ケア時など汚染物、汚染した環境、器材に触れる可能性のある場合)
  6. 座薬等の挿入や排泄介助時
  7. 排泄物の処理時
  8. 使用後の医療器材の片付けや洗浄時など

【手袋を外す場面】

※上記「手袋着用が必要な場面」が終了した時点で手袋を外す。

  1. 血液との接触が終わった時
  2. 座薬等の挿入や排泄介助が終わった時
  3. 体液との接触が終わった時
  4. 吸引が終わった時
  5. 汚染物、汚染した環境、器材との接触が終わった時
  6. 排泄物の処理が終わった時
  7. 使用後の医療器材の片付けや洗浄時が終わった時
  8. 手袋が破損した時など

【手袋着用が不適切な場面】

  1. 血圧・体温・脈拍を測る時
  2. 入浴や着衣の介助時
  3. 患者搬送時
  4. (オンライン)カルテの記入時
  5. 経口薬の配布時
  6. 食事の配膳や下膳時
    など

選択肢③の「手袋を外した後の手洗いや手指の消毒は、省略してもよい」に関しては、明確に否定されていますし、一般常識的な感覚でも省略できるものではないのが分かると思います(手袋という最も不潔なものに触れていたわけですから、洗浄しなくてよい論理はどこにもありませんね)。

また、選択肢④の「電子カルテ端末を用いて情報を入力するときは、手袋を外す」に関しては、正しい内容であることが分かります。

電子カルテを書くときにはキーボードに触れることになりますが、こちらに手袋をしたまま触れると手袋の汚染が伝播することになります(手袋は最も汚染されているもの)。

ですから、こうした共用で使うものに触れる前には、すでに清潔な状態すなわち感染を伝播させる状態ではないはずですね。

そのために着脱の仕方、着脱のタイミング等が細やかに規定されているわけです。

以上より、選択肢②および選択肢③は不適切と判断でき、選択肢④は適切と判断できます。

⑤ 個人防護具は、ナースステーション内の清潔な場所で着脱する。

本選択肢は当然不適切ですね。

「清潔である」とは「不潔なものに触れていない」ということですから、ナースステーションという多くの人が出入りする場所を「清潔」なままにしておくためには、個人防護服という「不潔」なものをその場所に持ち込まないということが大切になります。

これはいわゆる「ゾーニング」に関する選択肢ですね(神戸大学の岩田先生が、某船の中では全然できてなかったと告発したやつです)。

清潔区域・準清潔区域(清潔区域と不潔区域の境界)・不潔区域などという分け方が一般的であろうと思います。

標準的予防策では、感染を伝播させないという目的がありますから、清潔区域を汚染しないようにすることが重要になりますね。

よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です