公認心理師 2024-24

「1日の大半を家の中で過ごし、外出頻度は週1回未満である高齢者の状態」を示す概念を選択する問題です。

正答に関する詳しい理解はなくても、他の選択肢を理解している、正答の言葉の響きで何となく、で正解できそうな問題ですね。

問24 1日の大半を家の中で過ごし、外出頻度は週1回未満である高齢者の状態として、最も適切なものを1つ選べ。
① 見当識障害
② 閉じこもり
③ 要介護状態
④ 老年的超越
⑤ 遂行機能障害

選択肢の解説

① 見当識障害

まず見当識とは、自分が現在置かれている時間・場所・状況・周囲の人物などの把握(判断)のことを指します。

つまり、自分が現在、どんな場所にいてどんな状況にあるか、日付や時刻はいつ頃で、周りの人たちは誰か、といったことの把握です。

通常は意識していないが保たれているものであり、質問されたりしてそれに注意を向ければ、正しく答えられるものです。

記憶障害や意識障害、知能の障害、あるいは知覚障害などで見当識が障害されると、「今はいつか」「今どこにいるのか」「(配偶者など、よく知った人が)誰か」などがわからなくなり、この状態のことを「見当識障害」と呼びます。

こうした見当識障害に関する説明は、本問の「1日の大半を家の中で過ごし、外出頻度は週1回未満である高齢者の状態」ではないことがわかりますね。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。

② 閉じこもり

こちらについては厚生労働省のこちらの資料を参考に述べていきましょう。

閉じこもりの概念、定義はさまざまであり、現時点でも統一された定義はありませんが、ヘルスアセスメントマニュアルでは「1日のほとんどを家の中あるいはその周辺(庭先程度)で過ごし、日常の生活行動範囲がきわめて縮小した状態」という定義や、「家の外から出られる状態であるにもかかわらず、家から外に出ない状況」であり、かつ「社会的な関係性が失われている状態」との定義もあります。

一方、国内外の文献を参考に、外出頻度から「週1回も外出しない状態」を閉じこもりと定義が提示されています。

おそらくこれらが統合され、現在の「1日の大半を家の中で過ごし、外出頻度は週1回未満である高齢者の状態」を閉じこもりとしており、これは本問で示されている内容と合致していることがわかりますね。

ですから、閉じこもりのスクリーニングとしては、以下のような項目が挙げられています。

  1. 週に1回以上は外出する。
    →よく行く場所を教えてください。
  2. 月に1~3回は外出する。
    →よく行く場所を教えてください。
  3. ほとんど、または、全く外出しない。

上記のうち、2と3が「閉じこもり」に該当するわけですね。

寝たきりの原因としての閉じこもり症候群をもたらす要因には、身体的、心理的、社会・環境要因の3要因が挙げられており(詳しくは以下の通りです)、相互に関連して発生してくると考えられています。

  • 身体的要因:歩行能力の低下、IADL障害、認知機能の低下、散歩・体操や運動をほとんどしない、日常生活自立度の低下、下肢の痛み
  • 心理的要因:ADL に対する自己効力感の低さ、主観的健康感の低さ、うつ傾向、生きがいがない
  • 社会・環境要因:高齢であること、集団活動などへの不参加、家庭内の役割が少ない、社会的役割の低さ、親しい友人がいない

なお、これらは閉じこもりの予測因子として解明されているものになります。

また、要介護区分の中では最も重度な状態である「要介護5」では、1日の大半を寝たきり状態で過ごし、ベッドの上で寝返りをする際にも介助が必要になってくるとされています。

要介護4の段階でも日常生活にケアが欠かせませんが、要介護5では心身機能がさらに衰えた状態であり介護に必要な時間がより長いとされています。

以上より、本問の「1日の大半を家の中で過ごし、外出頻度は週1回未満である高齢者の状態」とは、閉じこもりのことであると言えます。

よって、選択肢②が適切と判断できます。

③ 要介護状態

育児・介護休業法に定める「要介護状態」とは、負傷、疾病又は身体上若しくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態のことをいい、要介護認定を受けていなくても、介護休業の対象となり得ます。

常時介護を必要とする状態については、判断基準が定められていますので、この基準に従って判断されることになります(一般的には、この基準で判断された状態を「要介護状態」とすることが多いですね)。

介護休業などの判断のため「常時介護を必要とする状態」の家族がいるかどうかを判断するための基準として、以下の1または2のいずれかに該当する場合であることを指します。

  1. 介護保険制度の要介護状態区分において要介護2以上であること。
  2. 状態(1)~(12)のうち、2が2つ以上または3が1つ以上該当し、かつ、その状態が継続すると認められること。
項目/状態
(1)座位保持(10分間一人で座っていることができる)自分で可支えてもらえればできるできない
(2)歩行(立ち止まらず、座り込まずに5m程度歩くことができる)つかまらないでできる何かにつかまればできるできない
(3)移乗(ベッドと車いす、車いすと便座の間を移るなどの乗り移りの動作)自分で可一部介助、見守り等が必要全面的介助が必要
(4)水分・食事摂取自分で可一部介助、見守り等が必要全面的介助が必要
(5)排泄自分で可一部介助、見守り等が必要全面的介助が必要
(6)衣類の着脱自分で可一部介助、見守り等が必要全面的介助が必要
(7)意思の伝達できるときどきできないできない
(8)外出すると戻れないないときどきあるほとんど毎回ある
(9)物を壊したり衣類を破くことがあるないときどきあるほとんど毎日ある
(10)周囲の者が何らかの対応をとらなければならないほどの物忘れがあるないときどきあるほとんど毎日ある
(11)薬の内服自分で可一部介助、見守り等が必要全面的介助が必要
(12)日常の意思決定できる本人に関する重要な意思決定はできないほとんどできない

一般的には要介護状態とは、要介護度による判定の一つを指し、介護保険の要介護認定を申請することでランク付けされます。

大きく分けて「要支援」と「要介護」の2種類があり、「要支援1~2」「要介護1~5」という要介護度は、心身の状態に応じて7段階に分けられています。

ざっくりとした分け方にはなりますが、「要介護」とは、入浴、排泄、食事等の日常生活動作について常時介護を要すると見込まれる状態のことをいい、「要支援」とは、現在は介護の必要が無いものの、将来要介護状態になる恐れがあり、家事や日常生活に支援が必要な状態をいいます。

こうした要介護状態に関する説明は、本問の「1日の大半を家の中で過ごし、外出頻度は週1回未満である高齢者の状態」ではないことがわかりますね。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。

④ 老年的超越

老年的超越理論は、Tornstamによって離脱理論、精神分析、禅を取り入れて構築されました。

加齢とともに、物質的・合理的(経済的)な視点から、神秘的・超越的な視点に移行するので、喪失はあっても心理的には安定を保つことが可能であるという知見です。

高齢期に高まるとされる「物質主義的で合理的な世界観から、宇宙的、超越的、非合理的な世界観への変化」を指す言葉が「老年的超越」ということになります。

なお、Eriksonは、超高齢期の身体機能の低下や社会的ネットワークの縮小が大きな心理的危機をもたらすこと、その危機を乗り越えて心理的適応に至るためには、新たな心理的発達が必要と述べています。

そして、この第9段階の心理的発達の内容として老年的超越の可能性を指摘しており、超高齢期の危機を乗り越えるため、もしくは乗り越えた高齢者の状態像としての老年的超越を位置付けています。

老年的超越とは、現実に存在する物質世界から実際には存在しない精神世界への、世界に対する認識の加齢変化と定義されます。

変化は3側面で生じると想定されており、社会関係の側面では、社会常識に捉われなくなり、知恵を獲得します。

自己の側面では、若者にありがちな自己中心性や自尊心がよい意味で低下します。

そして、宇宙的意識の側面では、思考の中に時間や空間の壁がなくなり、意識が自由に過去や未来と行き来するようになるとされています。

このような変化に伴って幸福感が高くなると考えられている。

以上のような老年的超越は、本問の「1日の大半を家の中で過ごし、外出頻度は週1回未満である高齢者の状態」ではないことがわかりますね。

よって、選択肢④は不適切と判断できます。

⑤ 遂行機能障害

遂行機能とは「目的のある一連の行動を有効に行うために必要な認知能力」のことを指し、実行機能と訳されることもあります。

遂行機能は、家事・料理・買い物・仕事・外出・旅行など日常生活のあらゆる場面で必要となり、何かの問題に遭遇したときに、それを解決するために用いられる認知能力で、社会的に責任ある適切な行為を取るために不可欠な能力と言えます。

この遂行機能を論じる時、必ずと言ってよいほど引用されるのがLezakの定義であり、Lezakによれば、遂行機能(実行機能)には、目標の設定、プランニング、計画の実行、効果的な行動という要素が含まれるとしています(以下に詳しく述べていきます)。

  1. 意思や目標の設定:
    問題解決のためには、まず「問題を解決する」という意思を持ち、「どうしたのか」という目標を明確に設定することが重要である。この目標の設定には、発動性(自ら行動を開始する能力)と動機づけが関わってくるし、自分や環境の認識といった状況の把握、そして目標を明確にする能力や解決されるまで目標を維持する能力が必要である。
    ここに問題があると、対人場面においては会話を始めなかったり、感情の平板化を示したりする。また日常生活では冷蔵庫が空になっていても買い物に行こうとしなくなるなどの問題が生じる。
  2. 計画の立案:
    「問題を解決する」という目標を達成するためには、自分自身や取り巻く環境を客観的に捉えて計画を立てることが必要となる。そのためには問題解決に必要な手段・技能・材料・人物などを想起する能力、もしくは解決のための新しいアイデアを発案する生成的思考あるいは発散的推論の能力、認知的柔軟性が必要である。そして、それらを評価して必要なものを取捨選択して、行動を方向付ける枠組みを構成・組織化する能力が必要である。
    生成的思考に問題があると対人場面では会話を生み出すことができず、言いたいことがなさそうに見える。またオープンクエスチョンに答えることができない。日常生活では買いたい物が無かった時に、代替品を考えることができないなどの問題が生じる。
    構成・組織化する能力に問題がある場合には、話をまとめることが苦手で、話が回りくどく、話題が飛んだりしてなかなか核心に至らない。買い物の際には、リストを作ることをせず、広い店内で買い物するときに案内図を利用せずに行き当たりばったりに探して時間を効率的に使えなくなったりする。
  3. 目的ある行動・計画の実行:
    計画を実行するためには、計画の立案の中で導き出された一連の行動を正しい順序で適切なタイミングで開始し、維持、あるいは中止する能力が必要である。そのためには計画の内容を最後まで維持する能力と、計画にはない行動を行いたくなる衝動をコントロールし、排除する能力が必要である。計画の内容を最後まで維持するためにはワーキングメモリが必要であり、適切なタイミングで開始するためには展望記憶の能力が必要である。課題を維持する能力に問題があると、会話の最中に興味を失っていったり、同じ話題を保つことができなかったりする。買い物ではリストに書いてあってもリストにある物すべてを購入しなかったりすることが起こる。
    衝動をコントロールする能力に問題があると、自分が話す順番まで待てずに他者が話しているのを遮ったり、そのときの話題にふさわしくない内容を話したりする。日常生活では衝動買いが多くなり、買い物をしている時に魅力的に見えた物は不必要でも、予算を超えていても買ってしまうなどの問題が生じる。
  4. 効果的に行動する:
    目標を達成するためには、自分が何を行っているかを意識でき、そして自分自身の行動が計画通りに行われているのかを監視し、必要があれば自分の行動を調整もしくは修正する能力が必要となる。これらの能力はアウェアネスあるいはセルフモニタリングと呼ばれる。
    アウェアネスに問題があると、自分の障害に対して認識がない状態になる。日常生活では、冷蔵庫に食品が無くても買いそろえることが重要な問題であるということに気づかないというように問題に対する認識が乏しくなる。セルフモニタリングに問題があると、会話場面では相手が自分の話題に関心がなくてもそれに気づかず話し続けたり、自らの行動を振り返る力が乏しくなる。

遂行機能は、注意と記憶の間で相互依存し重複する部分を有しています。

その中で課題の持続(課題持続性)や同時に2つ以上の課題を行う(分割性注意)、あるいは課題を切り替える(転換性注意)といった能力は注意機能と重複します(だから選択肢)。

ワーキングメモリ、展望記憶、アウェアネスは遂行機能と注意と記憶の3つの機能と重複して関与しています(特にワーキングメモリが3つの機能の土台となっている)。

こうした遂行機能障害に関する説明は、本問の「1日の大半を家の中で過ごし、外出頻度は週1回未満である高齢者の状態」には当てはまらないことがわかると思います。

確かに「目的のある一連の行動を有効に行うために必要な認知能力が障害されている」という状態の人が、「1日の大半を家の中で過ごし、外出頻度は週1回未満」になることはあり得るでしょうが、この2つがイコール関係にあるわけではないですからね。

以上より、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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