公認心理師 2024-13

具体的な症状が何という高次脳機能障害に該当するかを選択する問題です。

まさに知っているかいないか、という問題ですね。

問13 コインをつかむことができない、ボタンをかけることができないなど、運動の稚拙さを特徴とする高次脳機能障害として、最も適切なものを1つ選べ。
① 観念失行
② 構成障害
③ 身体失認
④ 観念運動失行
⑤ 肢節運動失行

選択肢の解説

① 観念失行
④ 観念運動失行
⑤ 肢節運動失行

失行とは、運動の大きさ、方向、素早さ、強さというものとは無関係な障害であり、自動性と随意性の解離がある状態のことです。

Liepmannが「運動可能であるにもかかわらず合目的な運動ができない状態」と定義した高次脳機能障害であり、麻痺、失調、了解障害や認知障害がないにも関わらず、指示された運動を誤って行う、手渡された物品を誤って使うといった状態です。

失行は、肢節運動失行、観念運動性失行、観念性失行(観念失行)の3つの型に分けることができます。

肢節運動失行は、左側中心前回、中心後回、上・中前頭回の脚部を含む領域に運動のエングラムがあり、この領域の損傷により起こります。

この領域が完全に障害されると右半身の麻痺、左側では行為困難となり、病巣が部分的である際には右側の肢節運動失行が生じます。

症状としては、運動麻痺や感覚障害がないにも関わらず、過去に手慣れている行為の遂行が困難になります。

例えば、ボタンの掛け外しがうまくできない、本のページがめくれない、紐を結べないなどといったことになります。

こうした動作をしようとすると、動作が大雑把になる、ぎこちなく不器用になる、運動の初めが見出せない、という様子が見て取れるわけです。

観念運動性失行は、中心回の周囲、つまり視覚・聴覚・触覚の各領域からの分離により生じます。

この領域が障害されると、習慣的動作が意図的にできなくなり、例えば、バイバイ動作、じゃんけんのグーチョキパーの動作ができなくなります。

また、物品を使用した行為の命令動作ができなくなる、運動の模倣ができなくなるとされています。

観念運動失行では、運動の取り違い(敬礼をせねばならないのに、サヨナラの動作を行う)、異なる肢の運動(右手を顎に持っていくべき時に、左足を動かしてしまったり、身体をゆすってみたりする)、無定形運動(何をやっているのかよくわからない運動:さよならをするときによくわからない運動をするなど)、運動の保続、運動の中断などもよく見られます。

観念性失行(観念失行)とは、瀰漫性の損傷によるものでありますが、主に頭頂葉‐後頭葉の領域(特に後頭葉とより深い関係性)が障害されることで生じます。

この領域が障害されると、煙草のかわりにマッチの棒を口にくわえてしまう、手紙を封筒に入れて封をするときに、手紙を入れずに封をしてしまうといった症状を認めます。

また、目的にかなった更衣や道具使用の一連の行為動作ができなくなります。

即ち、観念失行では、一つひとつの個々の行為はそれほど間違えませんが、正しい運動を間違った対象に行ってしまうことが見られます。

例えば、マッチを擦ってろうそくにつけないで、すぐに消してしまうなどの「行為の省略」があったり、マッチを擦って口に持っていくような「行為の順番の間違い」などが指摘されています。

それぞれの見分けについては、こちらの論文が役立ったので引用します。

検査法症状
観念失行・マッチとローソクを使って火をつけさせる
・封筒と封蝋棒を使って封筒を貼らせる
・正しい運動を間違った対象に対して行う
・行為の一部省略
・行為の順番の間違い
観念運動失行・対象物品のない単純な運動(軍隊の敬礼など)
・再帰運動(右手で鼻を指せなど)
・対象物品なしに物品使用動作を行わせる(櫛で髪をすく動作など)
・物品の操作(櫛、歯ブラシ、金づちなど)
・運動の取り違い
・運動の脱線
・無定形動作
・保続
・一時的な運動の中断
肢節運動失行・縫う
・ボタンをはめる
・手袋をはめる
・物をつまむ
・運動が大雑把
・熟練が無く、粗削りでぎこちない
・運動の発端が見出せない
・一見運動失調に似る

これらを踏まえれば、本問の「コインをつかむことができない、ボタンをかけることができないなど、運動の稚拙さを特徴とする高次脳機能障害」とは、肢節運動失行であると考えられますね。

よって、選択肢①および選択肢④は不適切と判断でき、選択肢⑤が適切と判断できます。

② 構成障害

構成障害とは、頭頂葉連合野前の部分を損傷することで生じる障害であり(左右どちらの頭頂葉病変:非優位半球であるか否かに関わらず生じるが、構成過程には差がある)、眼で捉えた形から空間を把握できなくなります。

図形や物を模写できない、積み木で簡単な物が作れない、パズルが下手になるといったことが具体例として挙げられます。

要するに「まとまりのある形態を形成する能力に障害をきたし,空間的に配置する行為が困難になった状態」であり、日常生活への影響では片づけやパズルができないといった訴えはあるが、一般的な動作への影響はほとんど報告が無いとされています。

上記を踏まえれば、構成障害は、本問の「コインをつかむことができない、ボタンをかけることができないなど、運動の稚拙さを特徴とする高次脳機能障害」ではないことがわかります。

よって、選択肢②は不適切と判断できます。

③ 身体失認

失認とは、脳損傷により特定の単一の感覚を通した対象認知ができなくなる障害の総称であり、①特定の感覚モダリティに限局して生じる、②感覚の異常や全般的な認知機能の低下、注意障害、意識障害のいずれにも起因しない、③他の感覚モダリティを介すれば対象を認知することができる、という3点が鑑別の要件となります。

失認症の主な責任病巣は、各感覚モダリティの感覚連合野になります(例えば、視覚失認であれば、主に両側後頭側頭葉あるいは左半球後頭素行盗用内側面の損傷)。

この定義に従う症状として、視覚失認、聴覚失認、触覚失認などがあり、視覚失認では視力などの要素的感覚障害や認知症による全般的な認知機能低下が無いにも関わらず、視覚的に提示された対象がなんであるか認知できません。

ただし、対象に触ったり特徴的な音を聞いたりすれば、即座にその対象を認知することができます。

一方、失認という語で呼ばれるが、複数の感覚モダリティでの障害に起因するものもあります。

身体失認は、複数の感覚情報を統合して認識される、自己の身体に関する空間的な認識についての障害ですから、単一の感覚モダリティにおける他の失認症とは区別されています。

身体失認には、口頭で指示された身体部位を示すことができない身体部位失認や、自己や対面した他者の身体の左右がわからなくなる左右障害、片麻痺に対する病態失認などが含まれます。

上記を踏まえれば、身体失認は、本問の「コインをつかむことができない、ボタンをかけることができないなど、運動の稚拙さを特徴とする高次脳機能障害」ではないことがわかります。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。

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