公認心理師 2023-140

DSM-5に基づく病態の理解に関する問題です。

「診断名はどれか」がわかることは当然ですが、同時に「どういう支援が大切か」も考えていきたいところですね。

問140 28歳の女性A。不眠のため精神科クリニックを受診した。現在勤務している飲食店には、半年前に転職したばかりである。職場に慣れてきた3か月前に、仕事が遅いとひどく叱責された。そのため、職場に早く出勤したところ、時間外の仕込みなどは禁止されていると再び注意された。この頃から、職場で動悸や頭痛を感じるようになり、仕事のミスが増えた。対応した公認心理師にAは、ストレスや気分の落ち込みを訴える一方で、「休日はSNSで知り合った男性と遊びに行く。また、以前にも同じようなことがあったが、退職した後、体調は速やかに回復した」と言う。
 DSM-5に基づくAの病態の理解として、最も適切なものを1つ選べ。
① 適応障害
② 急性ストレス障害
③ 脱抑制型対人交流障害
④ 心的外傷後ストレス障害
⑤ 反応性アタッチメント障害

解答のポイント

事例の状態から最も該当する診断名を選択できる。

選択肢の解説

② 急性ストレス障害
④ 心的外傷後ストレス障害

まずは本事例のポイントを挙げておきましょう。

  • 現在勤務している飲食店には、半年前に転職したばかりである。
  • 職場に慣れてきた3か月前に、仕事が遅いとひどく叱責された。そのため、職場に早く出勤したところ、時間外の仕込みなどは禁止されていると再び注意された。この頃から、職場で動悸や頭痛を感じるようになり、仕事のミスが増えた。
  • ストレスや気分の落ち込みを訴える一方で、「休日はSNSで知り合った男性と遊びに行く。また、以前にも同じようなことがあったが、退職した後、体調は速やかに回復した」と言う。

これらについてどう判断するかが問われているわけです。

あくまでも「DSM-5に基づく」ということですから、診断基準に則って考えていきましょう。

急性ストレス障害、心的外傷後ストレス障害の診断基準をすべて表記してもよいのですが、ちょっと長すぎてポイントが絞りにくくなってしまうので(全部見たい方はこちらの解説をどうぞ)、ここでは本事例を解くのに大切なところだけを挙げていきましょう。

本事例が急性ストレス障害であるか否か、心的外傷後ストレス障害であるか否かを判断する最も大きなポイントが「職場に慣れてきた3か月前に、仕事が遅いとひどく叱責された。そのため、職場に早く出勤したところ、時間外の仕込みなどは禁止されていると再び注意された。この頃から、職場で動悸や頭痛を感じるようになり、仕事のミスが増えた」という箇所になるでしょう。

ここでは、急性ストレス障害および心的外傷後ストレス障害の「出来事基準」を見ていきましょう。


【急性ストレス障害】

A.実際にまたは危うく死ぬ、重傷を負う、性的暴力を受ける出来事への、以下のいずれか1つ(またはそれ以上)の形による曝露:

  1. 心的外傷的出来事を直接経験する。
  2. 他人に起こった出来事を直に目撃する。
  3. 近親者または親しい友人に起こった出来事を耳にする。
    注:家族または友人が実際に死んだ出来事または危うく死にそうになった出来事の場合、それは暴力的なものまたは偶発的なものでなくてはならない。
  4. 心的外傷的出来事の強い不快感をいだく細部に、繰り返しまたは極端に曝露される体験をする(例:遺体を収集する緊急対応要員、児童虐待の詳細に繰り返し曝露される警官)。
    注:仕事に関連するものでない限り、電子媒体、テレビ、映像、または写真による曝露には適用されない。

【心的外傷後ストレス障害】

A. 実際にまたは危うく死ぬ、重症を負う、性的暴力を受ける出来事への、以下のいずれか1つ(またはそれ以上)の形による曝露:

  1. 心的外傷的出来事を直接体験する。
  2. 他人に起こった出来事を直に目撃する。
  3. 近親者または親しい友人に起こった心的外傷的出来事を耳にする。家族または友人が実際に死んだ出来事または危うく死にそうだった出来事の場合、それは暴力的なものまたは偶発的なものでなくてはならない。
  4. 心的外傷的出来事の強い不快感をいだく細部に、繰り返しまたは極端に曝露される体験をする(例:遺体を収容する緊急対応要員、児童虐待の詳細に繰り返し曝露される警官)。
    注:基準A4は、仕事に関連するものでない限り、電子媒体、テレビ、映像、または写真による曝露には適用されない。

本事例の「職場に慣れてきた3か月前に、仕事が遅いとひどく叱責された。そのため、職場に早く出勤したところ、時間外の仕込みなどは禁止されていると再び注意された」という体験が、上記の「出来事基準」に該当するかと問われればNoですね。

近年、軽微な出来事であっても「トラウマになる」と表現する人が多く、また、実際に「この出来事で」と思うような出来事でトラウマ反応と思しき状態像になる事例も出てきています(この「心的外傷を生じさせやすい」という在り様について、関わる臨床家はその仕組みについて考えていく必要があると思います)。

そういう意味では急性ストレス障害および心的外傷後ストレス障害をどう捉えるかは難しいところではありますが、少なくともDSM-5の診断基準で言えば、本事例の出来事はこれらの疾患であると見なすのは無理でしょうね。

また、「この頃から、職場で動悸や頭痛を感じるようになり、仕事のミスが増えた」という反応も、急性ストレス障害および心的外傷後ストレス障害のそれと見なすには無理があります(こちらについては各症状を別ページでご確認ください)。

それと、一応「半年前から」とありますから、この時点で急性ストレス障害は除外できますね、念のため。

以上より、選択肢②および選択肢④は不適切と判断できます。

③ 脱抑制型対人交流障害

ここではまずDSM-5における脱抑制性対人交流障害の診断基準を示しましょう。


A.以下のうち少なくとも2つによって示される、見慣れない大人に積極的に近づき交流する子どもの行動様式:

  1. 見慣れない大人に近づき交流することへのためらいの減少または欠如
  2. 過度に馴れ馴れしい言語的または身体的行動(文化的に認められた、年齢相応の社会的規範を逸脱している)
  3. たとえ不慣れな状況であっても、遠くに離れて行った後に大人の養育者を振り返って確認することの減少または欠如
  4. 最小限に、または何のためらいもなく、見慣れない大人に進んでついて行こうとする。

B.基準Aにあげた行動は注意欠如・多動症で認められるような衝動性に限定されず、社会的な脱抑制行動を含む。

C.その子どもは以下の少なくとも1つによって示される不十分な養育の極端な様式を経験している。

  1. 安楽、刺激、および愛情に対する基本的な情動欲求が養育する大人によって満たされることが持続的に欠落するという形の社会的ネグレクトまたは剥奪
  2. 安定したアタッチメント形成の機会を制限することになる、主たる養育者の頻回な変更(例:里親による養育の頻繁な交代)
  3. 選択的アタッチメントを形成する機会を極端に制限することになる、普通でない状況における養育(例:養育者に対して子どもの比率が高い施設)

D.基準Cにあげた養育が基準Aにあげた行動障害の原因であるとみなされる(例:基準Aにあげた障害が基準Cにあげた病理の原因となる養育に続いて始まった)。

E.その子どもは少なくとも9ヵ月の発達年齢である。

該当すれば特定せよ
持続性:その障害は12カ月以上存在している。

現在の重症度を特定せよ
脱抑制型対人交流障害は、子どもがすべての症状を呈しており、それぞれの症状が比較的高い水準で現れているときには重度と特定される。


上記を読めばわかる通り、「脱抑制」という表現どおり、対人交流をすることへの抑制が無いことを特徴とする障害になります。

ただ、上記からもわかる通り「見慣れない大人に積極的に近づき交流する子どもの行動様式」ですから、そもそも28歳のAを脱抑制型対人交流障害を候補に挙げることさえしてはいけません。

たぶん「休日はSNSで知り合った男性と遊びに行く」という話から、脱抑制型対人交流障害(見慣れない大人に近づき交流することへのためらいの減少または欠如)の可能性を考えさせようとしているのでしょう。

以上より、選択肢③は不適切と判断できます。

⑤ 反応性アタッチメント障害

まずはDSM-5の基準を示しますね。


A.以下の両方によって明らかにされる、大人の養育者に対する抑制され情動的に引きこもった行動の一貫した様式:

  1. 苦痛なときでも、その子どもはめったにまたは最小限にしか安楽を求めない。
  2. 苦痛なときでも、その子どもはめったにまたは最小限にしか安楽に反応しない。

B.以下のうち少なくとも2つによって特徴づけられる持続的な対人交流と情動の障害

  1. 他者に対する最小限の対人交流と情動の反応
  2. 制限された陽性の感情
  3. 大人の養育者との威嚇的でない交流の間でも、説明できない明らかないらだたしさ、悲しみ、または恐怖のエピソードがある。

C.その子どもは以下のうち少なくとも1つによって示される不十分な養育の極端な様式を経験している。

  1. 安楽、刺激、および愛情に対する基本的な情動欲求が養育する大人によって満たされることが持続的に欠落するという形の社会的ネグレクトまたは剥奪
  2. 安定したアタッチメント形成の機会を制限することになる、主たる養育者の頻回な変更(例:里親による養育の頻繁な交代)
  3. 選択的アタッチメントを形成する機会を極端に制限することになる、普通でない状況における養育(例:養育者に対して子どもの比率が高い施設)

D.基準Cにあげた養育が基準Aにあげた行動障害の原因であるとみなされる(例:基準Aにあげた障害が基準Cにあげた適切な養育の欠落に続いて始まった)。

E.自閉スペクトラム症の診断基準を満たさない。

F.その障害は5歳以前に明らかである。

G.その子どもは少なくとも9カ月の発達年齢である。


これらが反応性アタッチメント障害の基準ですが、脱抑制性対人交流障害との比較で考えていくと、両者ともに「不十分な養育の極端な様式を経験している」という点が共通しています。

ただ、脱抑制性対人交流障害では「だれかれ構わず」という対処スタイルだったのに対し、反応性アタッチメント障害では「他者との交流を抑制する」という対処スタイルとして表現されているのが特徴です。

こちらは「5歳以前に明らかである」とありますし、仮に反応性アタッチメント障害だとすると「以前にも同じようなことがあったが、退職した後、体調は速やかに回復した」という話が矛盾することになりますね。

よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。

① 適応障害

適応障害の診断基準は以下の通りです。


A.はっきりと確認できるストレス因に反応して、そのストレス因の始まりから3ヵ月以内に情動面または行動面の症状が出現。

B.これらの症状や行動は臨床的に意味のあるもので、それは以下のうち1つまたは両方の証拠がある。

  1. 症状の重症度や表現型に影響を与えうる外的文脈や文化的要因を考慮に入れても、そのストレス因に不釣り合いな程度や強度をもつ著しい苦痛。
  2. 社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の重大な障害。

C.そのストレス関連障害は他の精神疾患の基準を満たしていないし、すでに存在している精神疾患の単なる悪化でもない。

D.その症状は正常の死別反応を示すものではない。

E.そのストレス因、またはその結果がひとたび終結すると、症状がその後さらに6ヵ月以上持続することはない。

▶該当すれば特定せよ
急性:その障害の持続が6ヵ月未満。 持続性(慢性):その障害が6ヵ月より長く続く。


本解説の順番として、適応障害を最後にしたのは診断基準に「そのストレス関連障害は他の精神疾患の基準を満たしていないし、すでに存在している精神疾患の単なる悪化でもない」があるためです。

すでに他の選択肢の疾患は除外されていますし、事例の情報からはそれ以外の精神疾患が思い浮かぶこともありませんね。

まず「職場に慣れてきた3か月前に、仕事が遅いとひどく叱責された。そのため、職場に早く出勤したところ、時間外の仕込みなどは禁止されていると再び注意された」というはっきりと確認できるストレス因を発端として問題が生じています。

そして「職場で動悸や頭痛を感じるようになり、仕事のミスが増えた」という症状ですが、こちらは少なくとも「社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の重大な障害」には該当すると見てよいでしょうね。

もう一つである「症状の重症度や表現型に影響を与えうる外的文脈や文化的要因を考慮に入れても、そのストレス因に不釣り合いな程度や強度をもつ著しい苦痛」と見なすか否かは難しいところですが、仕事が遅いと叱責される・時間外労働はダメだと言われるなどは「社会人としてされる注意としてはあり得るもの」と見なすこともできるでしょう。

ただ、「ひどく叱責される」のひどくがどの程度なのかがよくわからないので、この辺は何とも言えないところです(時間外の仕込みはダメだと言われるのは、ちゃんと確認しようねという感じですが)。

また「休日はSNSで知り合った男性と遊びに行く。また、以前にも同じようなことがあったが、退職した後、体調は速やかに回復した」と述べていることから、「そのストレス因、またはその結果がひとたび終結すると、症状がその後さらに6ヵ月以上持続することはない」という基準も満たしていると言えますね。

以上より、選択肢①が適切と判断できます。

あくまでもDSM-5の基準で言えば、この事例に対して適応障害と判断するのは適切でしょう。

支援という視点で言えば、上記でも少し述べている通り、やはり「仕事が遅いと叱責される・時間外労働はダメだと言われる」という状況因とその反応の強さのアンバランスさを、この事例の心理的課題と見なしてカウンセリングを継続していくか否かが重要になるでしょう。

この事例は「以前にも同じようなことがあったが、退職した後、体調は速やかに回復した」と述べていて、一見して良さそうに見えますがそれは早計ですね。

事例が常に「一定強度の心理的衝撃」に対して症状を呈し、その場から離れて回復するということを繰り返すとして、この「一定強度の心理的衝撃」がどの職場でも生じ得るものであれば、この人の社会生活は非常に狭いものになってしまいます。

目の前の症状だけを除けばよいのであれば、Aに対して「その場から離れましょう」と言えばいいのですが、Aが社会的に成熟した生活を送ることができるか否かも重要ですからね。

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