公認心理師 2022-68

事例の状態から最もあり得る病態を選択する問題です。

「現時点で最も矛盾の無いものはどれか」という視点で選択することが大切ですし、実践ではそれ以外の可能性も常に頭の片隅に置いておく慎重さが求められますね。

問68 78歳の女性A。3年前に夫と死別した後は、一人暮らしをしている。元来きれい好きで、家の中はいつもきちんと片付いていた。遠方に住む一人娘のBは、安否確認を兼ねて毎日電話でAと話をしている。Aは、2年ほど前から何度も同じ話を繰り返すようになり、半年前頃から、B と午前中に電話で話したことを忘れて、1日に何度も電話をかけるようになってきた。心配になったBがAを訪問すると、家の中や外に大量のごみがあり、冷蔵庫に賞味期限切れの食材が大量に入っていた。Aの人柄が変わった様子は特にないが、Bが捨てるように説得しても、Aは食べられるから大丈夫と言って取り合わない。
 Aの状況から考えられる病態として、最も適切なものを1つ選べ。
① うつ病
② ためこみ症
③ 前頭側頭型認知症
④ 持続性複雑死別障害
⑤ Alzheimer型認知症

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解答のポイント

事例の状態に矛盾しない病態を判断できる。

正答以外の病態も把握している。

選択肢の解説

③ 前頭側頭型認知症
⑤ Alzheimer型認知症

まずは本事例の状況ですが「78歳の女性」「3年前に夫と死別」「元来きれい好き」「娘が安否確認を兼ねて毎日電話している」というものになります。

これに対して事例が示している問題は以下の通りです。

  • 2年ほど前から何度も同じ話を繰り返すようになり
  • 半年前頃から、B と午前中に電話で話したことを忘れて、1日に何度も電話をかけるようになってきた。
  • 家の中や外に大量のごみがあり、冷蔵庫に賞味期限切れの食材が大量に入っていた。
  • Aの人柄が変わった様子は特にないが、Bが捨てるように説得しても、Aは食べられるから大丈夫と言って取り合わない。

上記からは、Aに記憶記銘障害の可能性があることを示唆していると見なすことができますね。

反復して同じことばかり聞くというのは、明確な記憶記銘障害の症状ですね。

また、同じ食材ばかりを買ってくる、冷蔵庫に賞味期限切れの物や腐った物があふれているなども、認知症で見られる記憶記銘障害などによって生じる反応の一つです(例えば、こちらのチェックリストでは、上記の内容が認知症の中期の症状として位置づけていますね)。

本問では、こうしたAの見立てに沿って最も適切な診断名を選択することになります。

ここではまず、認知症関連について検証していくことにしましょう。

選択肢③の「前頭側頭型認知症」の神経精神症状をより具体的に示すと以下のように分類できます。

  • 軽度神経精神症候群:
    ピック病では、潜行性に発症し緩慢な進行経過をとりますから、症状が明らかになる以前にさまざまな前駆的な精神症状を見ることがあります。
    疲れやすくて集中力や思考力が低下し、どことなく不活発で、まるで抑うつ気分があるように見えることもあります。
    また、頭痛や頭重感の訴えもあります。些細なことで立腹したり(易刺激性)、うつ気分や自己不全感がみられたり、態度にも落ち着きがなくなる(不穏)といったこともしばしば見られます。
  • パーソナリティ変化:
    人柄の変化は、本病に特有のものです。
    共通する特徴は社会的な態度の変化であり、発動性の減退あるいは亢進です。アルツハイマー型認知症では、少なくとも初期には、対人的な態度が保たれているのと比べると、この行動面での変化が際立っています。ときには周囲のことをまったく無視して自分勝手に行動するように見えることがあります。また、異常に見えるほど朗らかになって冗談をいったり、機嫌がよくなったりすることもあります。このようなことが続くと、もともとの性格と比べて人格の変化が生じたと見做されるようになります。
    ただ、このような時期には、まだ新しい事柄を記憶する能力は比較的残っていることがあって、アルツハイマー型認知症とは違った印象を受けることが少なくありません。
    特に、衝動のコントロールの障害は、欲動の制止欠如とか、人格の衝動的なコントロールの欠落などと表現され、思考において独特の投げやりな態度は考え不精と呼ばれます。
  • 滞続症状:
    しばしば、話す内容に同じことの繰り返しがあります。これは特有な常道的言語で、運動促迫が加わっています。まるでレコードが同じことを繰り返すようであることから、グラモフォン症候群と呼ばれたこともあります。
    この症状は側頭型ピック病において特徴的とされています。言語機能の荒廃にはまだ至っていない段階で見られるものですが、次第に言語の内容は乏しくなります。
  • 言語における症状:
    言語の内容が貧困になり言語解体と呼ばれる状態になります。自発語や語彙が少なくなり言語の理解も困難になります。中期になると、話を聞いても了解できなくなりますし、自発言語も乏しくなりますが、文章の模写や口真似は十分にできるといった超皮質性失語のかたちをとります。
    本病では、まず健忘失語や皮質性感覚失語が始まり、そのうち超皮質性感覚失語、超皮質性運動失語などが明らかになり、最も進行した段階では全失語も見られます。この段階になると、認知症に加えて、失書、失読、失行、失認、象徴能力の喪失などが出現します。
    同じことを繰り返す反復言語、それに反響言語、緘黙、無表情の四徴候は本病の特徴とされています。
  • ピック病の認知症:
    アルツハイマー型と比べると、初期には記憶障害は目立たないことが少なくありません。しかし、抽象的思考や判断力の低下は、最も初期から認められます。また、対人関係において常道的な態度をとることもあって、社会的な活動はもとより、周囲に対して適切な態度をとることができなくなります。
    初期にはそれまで獲得している日常生活上での技能(自動車の運転など)は残っていますが、トラブルを生じたときに自主的な判断で切り抜けるといったことはできなくなります。しだいに記銘力の低下や健忘が、特有な人柄の変化と相まって、認知症の病像を呈するようになります。しかし、注意力や記銘力は後期においてもかなり残っていることが少なくありません。そのため、前頭側頭型認知症は、記憶よりも言語面で目立つ認知症と表現されることもあります。
  • 精神病様症状:
    神経衰弱様の症状が前駆期に見られることがあります。また、自閉的で無関心な対人的態度や反社会的と周囲から受けとめられるような行為から、統合失調症を疑われることもあります。ただ幻覚妄想を見ることは多くありません。
    精神病様症状としては、進行麻痺様症状、統合失調症破瓜様症状、衝動行為を伴う妄想状態、不安でうつ気分を帯びた状態、強迫症状、身体的影響感情などが知られます。後期になると、自発性の低下が目立ち横臥がちとなります。末期には精神荒廃状態となり、原始反射をともなって無動無言状態となることもあります。

本問ではご丁寧に「Aの人柄が変わった様子は特にないが」という一文が示されており、これは「前頭側頭型認知症ではありませんよ」と言いたいわけです。

ゴミを溜め込むということは前頭側頭型認知症のBPSDとしてあり得ないとは言い切れず、また、前頭側頭型認知症は記憶記銘障害が少ない病態ではありますが、それでもあり得ないとは言えず、やはりポイントになるのは人格の変化という前頭側頭型認知症に特有の症状が生じているか否かが重要になってきます。

この点に関しては、上記の通り明確に否定されていることから、前頭側頭型認知症の可能性は第一選択とはならないわけですね。

続いて、選択肢⑤の「Alzheimer型認知症」について検証していきましょう。

アルツハイマー型認知症は、進行した段階では大脳全域に変化の及ぶ疾患ですが、もっとも初期には側頭葉底面や海馬などにおいて、まず病変が現れます。

この部位は、記憶の獲得に重要な部位なので、記憶障害のうちでも記銘の困難が最も初期から出現しやすいと言えます。

病変はさらに広範な領域に及ぶため、クリューヴァー・ビューシー症候群(側頭葉の障害)、ゲルストマン症候群(頭頂‐後頭葉の障害)、バリント症候群(後頭葉の障害)などが目立つようになります。

病変が大脳のほぼ全域に及ぶ時期になっても、大脳皮質運動野、知覚野の神経細胞の変化は軽微であることはアルツハイマー型認知症の特徴です。

アルツハイマー型認知症の経過は次のように分けることができます。

  1. 前駆期:特徴的な認知障害が明らかになる前に、頭痛、めまい、不安感、自発性の減退、不眠などの軽度の神経衰弱様症状がみられる時期があります(軽度神経精神症候群)。軽度の人格の変化が明らかになり、頑固になったり、繊細さが見られなくなったり、自己中心的な傾向が見られたりします。また、思考力や集中力の低下があって、物忘れに患者自身で深刻に悩むことがありますし、うつ気分、不機嫌、不活発、焦燥感などの感情や意欲の変化も見られます。
  2. 初期:近時記憶の障害が目立ってくる時期で、時間的な見当識障害や自発性の低下などを認めます。また、新しく経験した事柄や情報を記憶しておくことが困難となりますし、昨日や今朝の当然覚えているはずと思われるような出来事を覚えていないため、周囲の人たちとトラブルを生ずることがあります。
    この中でも記憶記銘障害に関しては、近時記憶が最も初期に障害されやすく、具体的には「反復して同じことばかり聞く」「金銭、通帳など収納した場所を忘れて大騒ぎする」「繰り返し同じものを買ってくる」などが挙げられます。なお、即時記憶は近時記憶に次いで障害されやすく、比較的初期に見られるものとされています。
    また時間的な見当識の低下も初期から見られ、1日の時間帯を間違うなどが起こり得ます。
  3. 中期:この時期になると、近時記憶に留まらず、自己および社会における古い情報に関する記憶が障害されます。見当識では、外出しても道を間違えて家に帰れなくなったり(地理的失見当)、自宅にいても他人の家にいると思い込んだり(場所に関する見当識障害)します。判断力が低下して、簡単な問題の解決も困難となり、日常生活でも着衣、摂食、排便などで介護が必要になります。
    妄想を形成することもありますが、その内容は断片的です。運動面では、多動があり、徘徊や常同行為があって、行動に混乱が多くなります。この時期には、しばしば、失語、失行、失認などの神経心理症状、筋トーヌスの亢進(筋の緊張状態を指し、筋を受動的に伸長したときの抵抗として表現される)、けいれんなどが見られます。
    ただ、この時期には自分の意思を言葉で他人に伝えるということは可能です。このことは行動障害が出ないで生活できるというためには重要な意味があります。
  4. 後期:言葉によって自分の意思を人に伝えることができない段階です。そのために自分の意思や気持ちを不適切な故魚津で表現することが行われます。記憶障害は最も著明で、近時記憶はもとより、自分の出生地、両親、きょうだいの名前、更には、自分の名前まで忘れてしまうことがあります。人物に対する見当識障害もあって、目の前にいる人が誰かわからないということも起こってきます。さらには、鏡に映った自分の顔もわからず、一日中、鏡に向かって話しかけているといったこともあります(鏡徴候)。摂食、排泄、着衣いずれにおいても介護が必要となりますし、失禁も見られます。感情は鈍麻し、まとまった思考は困難です。また自発性の低下は著しく、臥床するようになります。さらに失外套症候群も見られることがありますが、これはもっとも重篤な段階であると言えます。

上記の変化については、きわめて緩徐に発症し進行していきますから、年数で単純に区切れるような分類ではありません。

本事例の特徴である記憶記銘障害が中核になってくるのがAlzheimer型認知症であり、本事例で示されている特徴はこの病態のものであると見なして矛盾はないと考えることができます。

大量のごみがあること、賞味期限切れの食材が大量であること、捨てるように説得しても応じないことなどは、他の疾患・病態でも生じ得るものではありますが、これらと記憶記銘障害との関連でこれらが生じるとなるとAlzheimer型認知症が最も可能性が高いと判断して問題はないでしょう(こうした問題は認知症のBPSDとして挙げられていますね)。

記憶の障害によって、買ったことを忘れてしまうため何度も同じものを購入する、判断力や理解力が障害を受けることでゴミの分別ができなくなる(ゴミの分別、ゴミ出し日、ゴミ出し場所がわからなくなるなどもあり得る)といったことが生じたり、そうした自身の状態への否認が説得に応じないなどの反応になり得るわけです。

なお、娘が毎日電話をしていたという経緯を踏まえると、Aが示している病態は上記で示した区分の初期に該当するものであると考えてよいと思います(もちろん、実際にはより細やかに聴取する等による総合的な判断が必要です)。

以上より、選択肢③は不適切と判断でき、選択肢⑤が適切と判断できます。

① うつ病

まずはDSM-5の抑うつエピソードを見ていきましょう。


A.以下の症状のうち5つ(またはそれ以上)が同じ2週間の間に存在し、病前の機能からの変化を起こしている。これらの症状のうち少なくとも1つは、(1)抑うつ気分、または(2)興味または喜びの喪失である。
注:明らかに他の医学的疾患に起因する症状は含まない。

  1. その人自身の言葉(例:悲しみ、空虚感、または絶望感を感じる)か、他者の観察(例:涙を流しているようにみる)によって示される、ほとんど1日中、ほとんど毎日の抑うつ気分。 (注:子どもや青年では易怒的な気分もありうる)
  2. ほとんど1日中、ほとんど毎日の、すべて、またはほとんどすべての活動における興味または喜びの著しい減退(その人の説明、または他者の観察によって示される)
  3. 食事療法をしていないのに、有意の体重減少、または体重増加(例:1ヵ月で体重の5%以上の変化)、またはほとんど毎日の食欲の減退または増加(注:子どもの場合、期待される体重増加がみられないことも考慮せよ)
  4. ほとんど毎日の不眠または過眠
  5. ほとんど毎日の精神運動焦燥または制止(他者によって観察可能で、ただ単に落ち着きがないとか、のろくなったという主観的でないもの)
  6. ほとんど毎日の疲労感、または気力の減退
  7. ほとんど毎日の無価値感、または過剰であるか不適切な罪責感(妄想的であることもある、単に自分をとがめること、または病気になったことに対する罪悪感ではない)
  8. 思考力や集中力の減退、または決断困難がほとんど毎日認められる(その人自身の言葉による、または他者によって観察される)
  9. 死についての反復思考(死の恐怖だけではない)。特別な計画はないが反復的な自殺念慮、または自殺企図、または自殺するためのはっきりとした計画

これらを踏まえて本事例を見ていきましょう。

本事例においては、まず記憶の問題が存在しているわけですが、(やや苦しいけど)抑うつ症状が存在することで記憶機能の一時的な問題が生じている可能性もないわけではありません。

Aほどの高齢になれば気分の問題は生じ得るものと見なすことはできますし、抑うつは「脳のくたびれ」ですから、抑うつの存在自体はあり得るものの一つですね。

ですが、やはりそれ以外の問題(大量のごみがあること、賞味期限切れの食材が大量であること、捨てるように説得しても応じないこと)を同じくうつ病によって生じていると考えるのには無理があり、やはり記憶記銘障害とその周辺問題(大量のごみがあること、賞味期限切れの食材が大量であること、捨てるように説得しても応じないこと)とが同時に生じていると見なす場合(実践では連動せず別々に生じることもあるでしょうけど、これは試験問題で「1つ選べ」とされているわけですから、選べるのは「1つ」なんです)、やはりうつ病という捉え方だけでは説明不可能であると考えられます。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。

② ためこみ症

こちらについてはDSM-5の強迫性障害および関連障害群の「ためこみ症」を参照にしていきましょう。


A.実際の価値とは関係なく、所有物を捨てること、または手放すことが持続的に困難である。

B.品物を捨てることについての困難さは、品物を保存したいと思われる要求やそれらを捨てることに関連した苦痛によるものである。

C.所有物を捨てることの困難さによって、活動できる生活空間が物で一杯になり、取り散らかり、実質的に本来意図された部屋の使用が危険にさらされることになる。もし生活空間が取り散らかっていなければ、それはただ単に第三者による介入があったためである(例:家族や清掃業者、公的機関)。

D.ためこみは、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害(自己や他者にとって安全な環境を維持するということも含めて)を引き起こしている。

E.ためこみは他の医学的疾患に起因する物ではない(例:脳の損傷、脳血管疾患プラダー・ウィリ症候群)。

F.ためこみは、他の精神疾患の症状によってうまく説明されない(例:強迫症の強迫観念、うつ病によるエネルギー低下、統合失調症や他の精神病性障害による妄想、認知症における認知機能障害、自閉スペクトラム症における限定的興味)。

該当すれば特定せよ
過剰収集を伴う:不必要であり、置く場所がないにもかかわらず過度に品物を収集する行為が、所有物を捨てることが困難である状態に伴っている場合。

該当すれば特定せよ
病識が十分または概ね十分:その人はためこみに関連した信念や行動(品物を捨てることの困難さ、取り散らかし、または過剰な収集に関連する)が問題であると認識している。
病識が不十分:その人は、反証の根拠があるにもかかわらず、ためこみに関連した信念や行動(品物を捨てることの困難さ、取り散らかし、過剰な収集に関連する)に問題がないとほとんど確信している。
病識が欠如した・妄想的な信念を伴う:その人は、反証の根拠があるにもかかわらず、ためこみに関連した信念や行動(品物を捨てることの困難さ、取り散らかし、過剰な収集に関連する)に問題がないと完全に確信している。


これらを踏まえて、本事例の検証をしていきましょう。

事例では上記の基準Aや基準Cは満たしていると考えられますが、ポイントになるのは基準Eの「ためこみは他の医学的疾患に起因する物ではない(例:脳の損傷、脳血管疾患プラダー・ウィリ症候群)」になります。

本事例では記憶記銘障害が生じていることが示唆されていますし、この記憶記銘障害(及びその背景にある病態)によってごみのためこみや、賞味期限切れの食材が大量にあるという状態が説明が可能です。

ですから、基準Eに引っかかってくるのでためこみ症の判断をするのは、基準Eが否定されてから再検討という形になるのが妥当です。

他選択肢での解説の通り、本事例ではAlzheimer型認知症である可能性を第一選択とし、それが否定された場合にためこみ症を含めた他の疾患の可能性を再検討していくという手順が妥当だと考えられます(実際にはいろんな疾患を同時進行で検証してくものですが、あくまでも手順として示すならですね)。

以上より、選択肢②は不適切と判断できます。

④ 持続性複雑死別障害

こちらについてはDSM-5の「他の特定される心的外傷およびストレス因関連障害」の一つとして示されているものであり、死別に伴う重度かつ持続的な悲嘆反応によって特徴づけられる病態です。

上記を参考に基準を挙げていきます。


A.親しい関係にあった人の死を経験。

B.その死以来、以下の症状のうち少なくとも1つが、そうである日のほうが、ない日より多く、臨床的に意味のある程度、残されたのが成人の場合は少なくとも12カ月、子どもの場合は少なくとも6カ月続いている。

  1. 故人への持続的な思慕/あこがれ。年少の子どもでは、思慕は、養育者や他の愛着をもつ人から離れまた再会するような行動を含む、遊びや行動として表れるかもしれない。
  2. 死に反応した深い悲しみと情動的苦痛
  3. 故人へのとらわれ
  4. その死の状況へのとらわれ。子どもでは、故人へのこの傾倒は遊びや行動の主題を通して表されるか

C.その死以来、以下の症状のうち少なくとも6つが、そうである日のほうが、ない日より多く、臨床的に意味のある程度、残されたのが成人の場合は少なくとも12カ月、子どもの場合は少なくとも6カ月続いている。

  1. 死を受け入れることの著しい困難。子どもでは、これは死の意味と永遠を理解する能力に左右される。
  2. 喪失を信じようとしない、または情動的な麻痺を経験
  3. 故人を肯定的に追憶することの困難
  4. 喪失に関連した苦しみまたは怒り
  5. 故人や死に関して、自分自身に対して不適応な評価をすること(例:自己非難)験
  6. 喪失を思い出させるものからの過剰な回避(例:故人に関連した人、場所、状況の回避;子どもでは、故人について考えることや感じることの回避も含むかもしれない)

社会性/同一性の混乱

  1. 故人と一緒にいたいために死にたいと願うこと
  2. 死以来、他人を信用できない
  3. 死以来、孤独である、または他人から切り離されていると感じる
  4. 故人なしでは人生は無意味で空虚と感じるか、故人なしでは機能することができないと信じる。
  5. 故人生における自分の役割に対する錯乱、または自己の同一性が薄まる感覚(例:自分の一部分が故人とともに死んだと感じる)
  6. 喪失以来、興味を追求したり、将来の計画を立てたりすることが困難である。または気が進まない(例:交友関係、活動)

D.その障害は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。

E.その死別反応は、文化、宗教、年齢相応の標準に比して不釣り合いである、または矛盾している。

該当すれば特定せよ

外傷性死別を伴うもの: 殺人または自殺による死別で、(しばしば喪失を思い出させるものに反応して)その死の外傷的な性質、死の最期の瞬間、苦しみの程度、遺体のひどい損傷、あるいは悪意や故意による性質に、持続的に悲嘆にくれながらとらわれる。


では、これを踏まえて本事例について検証していきましょう。

複雑性悲嘆は、正常な悲嘆(死別によって生じる正常なストレス反応)に比べ持続期間や強度が通常範囲を超える状態のものであり、死別後何年も悲しみが変わらない、故人のことが頭から離れないなどが生じ、長期的には高血圧や心疾患、うつや自殺念慮など心身に影響が大きいものです。

本事例においては「3年前に夫と死別した」とありますが、Aが示しているのは記憶障害である公算が高く、持続性複雑死別障害で示されているような悲嘆反応ではないことが理解できると思います(ゴミを溜め込む、食材の大量買いなどは悲嘆反応では説明できないものですよね)。

以上より、選択肢④は不適切と判断できます。

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