公認心理師 2021-126

アルコール依存症に関する問題です。

公認心理師 2021-27」と被る内容でしたね(午前中の問題を休み時間に話し合っておくと良かったかもしれないですね)。

問126 アルコール依存症について、最も適切なものを1つ選べ。
① 不安症とアルコール依存症の合併は少ない。
② アルコール依存症の生涯自殺率は、約1% である。
③ アルコール早期離脱症候群では、意識障害は起こらない。
④ 脳機能障害の予防に、ビタミン B1の投与が有効である。

解答のポイント

アルコール依存症の大まかな疫学や病態、治療について把握している。

選択肢の解説

① 不安症とアルコール依存症の合併は少ない。

一般人口を対象とした調査(アメリカNESARC研究)によると、アルコール使用障害において、不安障害の中で最も高い併存率を示したのが「特定の恐怖症」であり、12か月の有病率が13.8%となっています。

他のパニック障害、社交不安障害、全般性不安障害の12か月有病率は6%前後となっています。

ヨーロッパの研究では、アルコール依存症があると、パニック障害の12か月有病率が6.8倍になると報告されている等、ほとんどの研究において、アルコール使用障害を有すると、不安障害群の危険率が有意に上昇すると報告されています。

なお、不安障害を有している場合、アルコール使用障害の有病率はどの不安障害であっても105以上、特にパニック障害では20%弱の有病率を示しています(これはアメリカの調査)。

こうしたアルコール使用障害と不安障害の関連を説明する理論としては、緊張軽減理論とストレス反応要求モデルがあります。

緊張軽減理論は、動物実験でストレスを引き起こす課題を与え、こうしたストレス状況では、アルコール消費がストレス関連ホルモンの分泌を有意に減少させ、動物が恐怖刺激に近づく頻度を挙げました。

このような結果から、不安や恐怖の状況において、アルコール使用が強化されると考えられます。

しかし、緊張軽減理論では、①緊張には不安だけでなく、否定的な感情も含まれ、定義が曖昧で広すぎる、②緊張を引き起こす状況の特異性や、個人間の差異が考慮されていないという批判があります。

ストレス要求モデルは、ストレスとなる状況への反応を軽減化するためにアルコールを消費するというものであり、不安やストレスが予期、または喚起される状況でアルコールが消費されると考えます。

ストレスが予期される、またはその最中にアルコールが摂取されれば、抗不安効果が最も大きいと考えられます。

例えば、社交不安障害では、社交的な場面においてのアルコールによる抗不安作用が、他の人より社交不安障害では大きいということになります。

いずれにせよ、不安な状況下でアルコールを摂取して紛らわそうとするのは一般心理としても理解しやすいでしょうから、これらの併存が多くなるのはわかりやすいかもしれませんね。

また、アルコール依存症があるとストレス耐性が下がりやすいので(心的な緊張をアルコール摂取による酩酊で「棚上げ」する習慣がついていると、ストレスに直面してそれを現実的に対応するという流れが生じにくい)、当然、不安の閾値が上がってしまうと考えられます。

一般水準では耐えられるレベルの不安にも耐えられず、再びアルコールを摂取する、その不安を別のものに置き換える(これによって恐怖症が生じる)などの対応になっていくと考えられます。

以上より、不安症とアルコール依存症の合併が多いと言えます。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。

② アルコール依存症の生涯自殺率は、約1% である。

まずは大枠として飲酒と自殺について理解しておきましょう。

飲酒直後の自殺ですが、自殺した人からアルコールが検出されることは珍しいことではありません。

日本の調査でも自殺例全体のアルコール検出率は32.8%で毒物死・焼死・轢死・墜落死で高濃度のアルコールが検出されています。

この割合を海外の調査結果と比較すると、自殺した人からは平均で37%からアルコールが検出され、自殺未遂で救急病院を受診した人からは平均で40%の人からアルコールが検出されています。

このように自殺の直前に飲酒する割合は高いことが知られていますが、その理由としては下記のような心理的変化が提唱されています。

  1. 飲酒が絶望感・孤独感・憂うつ気分といった心理的苦痛を増強する
  2. 飲酒が自分に対する攻撃性を高める
  3. 飲酒は人の予想に変化をもたらして死にたい気持ちを行動に移すきっかけとなる
  4. 視野を狭めて自殺を予防するために有効な対処手段を講じられなくなる

上記は飲酒と自殺との関係ですが、アルコール依存症と自殺となるとさらに深刻です。

感情障害で6%、統合失調症で4%が自殺の危険率とされていますが、アルコール依存症ではこれらよりも生涯リスクが高いとされています(古くは依存症の生涯自殺率は11~15%とされていましたが、最近の7%と推計されている。それでも非常に高いと言える)。

アルコール依存症者が自殺する標準化死亡率(観察された死亡者数/期待死亡者数で換算される。性や年齢など影響を与える因子を除外してアルコール依存症とそうでない集団の自殺頻度を比較するもの)は5.86であり、アルコール依存症者は依存症でない者に比べて約6倍自殺の危険が高いということが示されています。

特にうつ病の合併・離婚や別離といった対人関係のストレス・社会的サポートの欠如・非雇用・重篤な身体疾患・単身生活といったことが自殺の危険性を高めるとされます。

また、アルコールの乱用そのものも自殺の危険性を高めます。

一方、自殺者にうつ病が多いことは有名ですが、うつ病以外では依存症が最も頻度が高く、自殺者全体の15~56%にアルコール乱用または依存がみられたと報告されています。

なお、アルコール依存症に合併する精神疾患としては、うつ病が圧倒的に多く、アルコール依存症者の41%がうつ病を合併しており、その26%はアルコールがうつ病を誘発したものという報告もあります。

自殺、うつ病、アルコール依存症は互いに非常に関連が深いと見なすのが妥当です。

以上より、アルコール依存症の障害自殺率は1%ではなく、もっと高い(研究によってまちまちだが7%程度か?)とされています。

よって、選択肢②は不適切と判断できます。

③ アルコール早期離脱症候群では、意識障害は起こらない。

長期のアルコール摂取により耐性が生じ、飲酒量の急激な原料や断酒に伴って離脱症候群が出現します。

この離脱症状は従来より、早期症候群と後期症候群に分類されており、以下のような違いがあります。

臨床像早期/小離脱後期/大離脱または振戦せん妄
症状または症候軽い焦燥、不安、手指振戦、不眠、吐気・嘔吐自律神経系過活動、精神運動興奮、失見当識、意識障害、感覚・知覚障害
飲酒停止後発現までの時間0~48時間24~150時間
症状のピーク24~36時間72~96時間
重症度軽度生命の危険
けいれん発作あり、6~48時間なし

早期症候群では、飲酒停止後早期から48時間に多く見られ、イライラ感や不安、抑うつ気分、また心悸亢進、発汗、体温変化などの自律神経症状、手指や眼瞼、体幹の振戦、時にてんかん様の大発作、幻視や幻聴などの一過性の幻覚、軽い見当識障害が認められます。

これに対して、後期症候群は飲酒停止後72~96時間に多く見られ、3~4日持続するもので、粗大な四肢の振戦、自律神経機能亢進、精神運動興奮、幻覚、意識変容が主症状となる振戦せん妄が出現します。

このように後期症候群では意識変容が主徴となってきますが、早期症候群ではどうでしょうか。

それを知るために意識障害について、少し理解を深めてみましょう。

さて、意識にはその程度をしめすスケールがあり、日本で使われているのはJCS(Japan Coma Scale:ジャパン・コーマ・スケール)とGCS(Glasgow Coma Scale:グラスゴー・コーマ・スケール)ですが、ここではJCSを示しておきましょう。

Ⅰ.刺激しなくても覚醒している
1.だいたい意識清明だが、今ひとつはっきりしない
2.見当識障害がある
3.自分の名前、生年月日が言えない

Ⅱ.刺激すると覚醒する状態、刺激をやめると眠り込む
10.普通の呼びかけで容易に開眼する
20.大きな声や揺さぶりで開眼
30.痛み刺激を加えつつ呼びかけるとかろうじて開眼

Ⅲ.刺激しても覚醒しない
100.痛み刺激に対して、払いのけるような動作をする
200.痛み刺激で少し手足を動かしたり、顔をしかめる
300.痛み刺激に反応しない

数字が大きくなるほど重症(「JCSⅡ-20」などと表現)

300とかは、医療ドラマなどで「意識レベル300」とか言っているのを聞いたことがある人もいるでしょうね。

上記の「Ⅰ‐2:見当識障害がある」とあるように、見当識障害も意識障害に含まれています。

ですから、軽い見当識障害が生じるとされる早期症候群でも意識障害は生じると見なすのが妥当なわけですね。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。

④ 脳機能障害の予防に、ビタミン B1の投与が有効である。

アルコール依存症では、脱水や偏食による栄養障害が生じている可能性が高く、脱水の管理とウェルニッケ脳症やコルサコフ症候群の予防のために点滴による水分補給とビタミンB1を中心としたビタミン剤の補給を行うことが重要になってきます。

コルサコフ症候群はチアミン(ビタミンB1)の欠乏によって生じ、前向性健忘、逆行性健忘などの記憶障害の他、見当識障害、作話、病識欠如を特徴としています。

ビタミンB1欠乏の最も多い原因はアルコール中毒ですが、そのほか胃がん、胃切除、胃潰瘍、十二指腸潰瘍などでも見られることがあります。

身体のエネルギー源のひとつである糖質の代謝が適切に行われるためには、ビタミンB1は必要不可欠な物質です。

全身の臓器のなかでも特に脳は糖質をエネルギー源として依存する割合が大きく、糖質やビタミンB1の需要量がとても大きいです。

したがって、糖質やビタミンB1の摂取量が減少した状況や、脳における両者の需要量が増加するような状況においては、容易にビタミンB1の欠乏に起因する症状が引き起こされることになります。

なお、意識障害、眼球運動障害、失調性歩行を特徴とするウェルニッケ脳症を伴う場合、ウェルニッケ‐コルサコフ症候群と呼ばれます。

以上のように、アルコール依存症の治療では脳機能障害の予防のためにビタミンB1の投与を行うのが妥当と言えます。

よって、選択肢④が適切と判断できます。

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