公認心理師 2020-88

DSMそのものに関する設問ですね。

改訂の歴史を理解しておくことが求められています。

問88 精神疾患の診断・統計マニュアル改訂第5版〈DSM-5〉について、正しいものを1つ選べ。
① 機能の全体的評価を含む多軸診断を採用している。
② 次元モデルに基づく横断的症状尺度が導入されている。
③ 強迫症/強迫性障害は、不安症群/不安障害群に分類される。
④ 生活機能を心身機能・身体構造、活動及び参加の3要素で捉えている。
⑤ 分離不安症/分離不安障害は、「通常、幼児期、小児期または青年期に初めて診断される障害」に分類される。

解答のポイント

DSMの改訂の歴史、その変更点を詳しく理解している。

選択肢の解説

① 機能の全体的評価を含む多軸診断を採用している。
② 次元モデルに基づく横断的症状尺度が導入されている。

これらに関してはDSMの改訂による評定システムの変遷の理解を問うています。

特にこれらの選択肢で問われているのは、DSM-5改訂の目玉の一つである「多軸評定システム」から「次元モデル」への変更です。

それぞれ、詳しく見ていきましょう。

DSM-Ⅲに改訂された際、精神障害毎に操作的診断基準が設定され、また多軸評定システムが採用されたことにより、アメリカ国内のみならず世界的に非常に広く用いられるようになりました。

そして、この多軸評定システムはDSM-Ⅳ-TRまで採用されていました。

多軸評定システムをでは、以下の5つの面から生物・心理・社会的に評定を行います。


第1軸:臨床疾患・臨床的関与の対象となることのある他の状態
(一般身体疾患に影響を与えている心理的要因、投薬誘発性障害、対人関係の問題など)

第2軸:人格障害・精神遅滞

第3軸:一般身体疾患

第4軸:心理社会的および環境的問題

第5軸:機能の全体的評定


多軸評価システムの目的は上記の5軸から多面的に精神障害を診断することであり、精神症状とこれに付随する身体症状の視座だけでなく、患者が直面している活動や参加の制約を含めて精神障害を診断することを、アメリカ精神医学会は DSM の使用者に要請したわけですね。

第1軸~第3軸までが正式な診断的評価を構成し、第4軸および第5軸は特殊な臨床的および研究的状況で使用され治療計画や予後予測に有用とされています(つまり、精神障害の診断と分類に関わるのは第1軸と第2軸になる)。

臨床的関与(医療)の対象になる精神障害は第1軸で診断されますが、その際、2種類以上の診断基準に合致すれば、主障害(受診理由)を最初に記述した上で、他の精神障害は併記されます。

また、第1軸の精神障害と第2軸の精神障害を発病した場合、第2軸の精神障害が主障害であることが明記されない限り、第1軸の精神障害が主障害とみなされることになります。

第3軸の精神障害の診断や患者の現在の状態に影響を及ぼす他の医学・生物学的疾患や身体状態を診察し、その所見を第3軸に記録することが求められました。

この理由は、1人の患者が精神障害以外の病態や症状を併せて呈する場合があるためであり、実際、精神障害やこの病態は身体疾患に続発したり、身体疾患に先行したりすることがあります。

第4軸と第5軸は臨床と研究で活用される尺度で、治療計画、予後予測にとって有用です。

2013年にアメリカ精神医学会は DSM-5を発行しました。

この際の、大きな変更点として挙げられるのは、一部の精神障害(精神病性障害)で、その症状の重症度(症状なし~重度)に応じて「定量的に」評価し、1人の患者の臨床的な特徴を把握する方式(ディメンション:次元モデル)が採用されたことです。

そもそも疾患分類には、カテゴリー診断とディメンション診断があります。

カテゴリー診断は精神疾患の臨床特徴を各カテゴリーに分類するものであり、各診断の核を明示することで、疾患の表現形を理解しやすいのですが、その有効性は分類された一群が均一である場合、各分類間の境界が明確である場合、そして他の分類とは相互に背反するものである場合に最も効果的であると考えられ、精神疾患での使用にはそもそも限界があります。

一方、ディメンション診断は各臨床特徴を数量化して分類するため、その分散が連続的で明瞭な境界線を持たない現象の記述に適しています。

つまり、ディメンション診断では、症状の重症度を「症状なし」から「重度」まで評価することにより(これを「パーセント(%)表示する」などと表現されます)、患者の様々な臨床特徴を次元とみなして病態を系統的に、あるいは疾患横断的に捉えることができます。

これにより情報の洩れが少なくなり、カテゴリー診断では閾値以下であった臨床特徴も記述することができる一方で、実臨床での使用は頻雑となるのでカテゴリカルな疾患分類からのパラダイムシフトとして、DSM-5では一部の限られた領域において当初の予定よりは控えめにディメンショナルモデルやスペクトラム概念が導入されました。

広汎性発達障害(DSM-Ⅳ)から名称変更された自閉症スペクトラム障害(DSM-5)はディ
メンション方式に則った障害概念の新しい捉え方なわけですし、精神病症状(例えば、抑うつや躁状態など)を評価するための重症度ディメンション(症状に係る設問ごとに多段階評価で回答する質問紙)が記載されていますね。

このように、次元モデルでは、各疾患のスペクトラム(連続体)を想定して、各精神疾患・パーソナリティ障害・発達障害の重症度を「パーセント(%)表示」で示すわけです(実際は%で示されるのではなく、軽度・中等度・重症などの分類になりますね)。

以上のように、選択肢①の内容はDSM-Ⅳ-TRまでの多軸評定システムのことを指しており、選択肢②はDSM-5に改訂された後の次元モデルに基づく評定システムのことを表していることがわかりますね。

よって、選択肢①は誤りと判断でき、選択肢②が正しいと判断できます。

③ 強迫症/強迫性障害は、不安症群/不安障害群に分類される。
⑤ 分離不安症/分離不安障害は、「通常、幼児期、小児期または青年期に初めて診断される障害」に分類される。

ここで挙げた選択肢は、各疾患がDSM-5の診断基準のどのカテゴリーに属するか、といった内容を集めたものです。

特にDSM-Ⅳ-TRからDSM-5に改訂された際に、いくつかカテゴリーの変更や移動があったのですが、そうした改訂点を把握していることが求められています。

こちらは単純に知識を問うていますが、可能であれば知識の定着を助けるために「なぜそこにカテゴライズされているか」も含めて考えておくようにしましょう。

まず選択肢③ですが、こちらはDSM-Ⅳ-TRからDSM-5に改訂された際の改訂点を把握していることが求められています。

強迫性障害は、DSM-Ⅳ-TRではこの選択肢内容の通り、不安障害群に含まれていました。

ですが、DSM-5に改定された際、「強迫症および関連症群/強迫性障害および関連障害群」というカテゴリーが設けられ、不安障害群からは分離した形になりました。

強迫性障害はDSM-Ⅲ以降、強迫症状に関連する病的不安が中核的病理とされ、不安障害の一型に位置付けられてきました。

実際に、他の不安障害とは、症状の不合理性に関する洞察、回避などによる社会的機能的問題といった臨床特徴に加え、SSRIや認知行動療法の有効性が共通している等、不安障害群に含まれていたことも頷けます。

しかし、強迫性障害を示すクライエントの中には、不安に乏しい、あるいは洞察が不十分な場合も認められます(一般に、こうした事例の方が重症です)。

さらに強迫性障害では、成因や脳器質・機能的、神経化学的知見など、生物学的背景における他の不安障害との相違が多角的に検証されてきています。

そのため、ICD-10にならい、DSM-5の改訂において、強迫性障害と他の不安障害との境界を明瞭にすることが検討されたわけです。

こうした背景があって、改訂時には不安障害群から分離したということになりますね。

さて、続いては選択肢⑤についてです。

まず選択肢内容にある「通常、幼児期、小児期または青年期に初めて診断される障害」が何を指しているか把握しておきましょう。

こちらはDSM-Ⅳ-TRまで設けられていた分類で、この分類には「精神遅滞」「学習障害」「運動能力障害」「コミュニケーション障害」「広汎性発達障害」「注意欠陥および破壊的行動障害」「幼児期または小児期早期の哺育、摂食障害」「チック障害」「排泄障害」「幼児期、小児期、または青年期の他の障害」が含まれていました。

そして「幼児期、小児期、または青年期の他の障害」には、分離不安障害、選択性緘黙、反応性愛着障害、常同運動障害が含まれていました。

ですから、選択肢⑤の内容はDSM-Ⅳ-TRまでのことを述べていると言えますね。

そもそもDSM-5に「通常、幼児期、小児期または青年期に初めて診断される障害」という分類は存在しないわけですから、その点を知っていれば即座に正誤判断ができる選択肢なわけです。

DSM-5に改訂された際、上記の「通常、幼児期、小児期または青年期に初めて診断される障害」に関しては解体され、新しい分類や元々あった分類に再分類されました。

特に大きかったのが、「神経発達症群/神経発達障害群」を創設し、発達障害関連疾患をまとめてそちらに入れ込んだことですね(DSM-Ⅳ-TRの「精神遅滞」「学習障害」「運動能力障害」「コミュニケーション障害」「広汎性発達障害」「注意欠陥および破壊的行動障害」「チック障害」はこちらに分類されることになりました。いくつかは名前も変わっていますね)。

また、「幼児期または小児期早期の哺育、摂食障害」はDSM-5になって「食行動障害および摂食障害群」に分類され、「排泄障害」はDSM-5では新たに「排泄障害群」が設けられました。

そして、選択肢⑤に係わる「幼児期、小児期、または青年期の他の障害」ですが、こちらに含まれていた「分離不安障害」及び「選択性緘黙」はDSM-5から「不安障害群」へ、「反応性愛着障害」はDSM-5からは「心的外傷およびストレス因関連障害」へ、「常同運動障害」はDSM-5からは「神経発達症群/神経発達障害群」へ、それぞれ再分類されることになりました。

かなりの再編成が行われたという印象ですが、分離不安障害に関しては上記の通り「不安障害群」に分類されていますね(ここが選択肢⑤の正誤判断になりますね)。

ここからは上記の改訂・再分類に関する私の印象を述べていきましょう。

DSM-Ⅳ-TRで設けられていた「通常、幼児期、小児期または青年期に初めて診断される障害」という分類ですが、これはあくまでも「その時期に初めて診断されうる」という視点でまとめられたものになっていました。

しかし、実態・本質としては不安を背景にしていたり(分離不安や選択性緘黙)、発達障害に含まれていたり(ASDやAHDH等)、家庭内での愛着状況という「環境」が強く作用していたり(反応性愛着障害)しており、それぞれの問題の背景は全く異なっていました。

そのため、「通常、幼児期、小児期または青年期に初めて診断される障害」という同じカテゴリーに属しているにも関わらず、その支援の方針は、その診断名によって大きく異なっているという事態が生じていました。

私は見立てであっても診断であっても、それを付することによって「支援の方針が見える」ことが重要だと考える立場ですから、「通常、幼児期、小児期または青年期に初めて診断される障害」に分類されたとしても方針が見えないという事態はよろしくないと考えていました。

DSM-5への改訂によって、それぞれの疾患が実態・本質に即したカテゴリーに再分類されたと思っています(もちろん、細かいことを言いだせば不十分な点もありますが、「分類する」ことにはそうした問題はついて回るものですから仕方ありません)。

これらは私個人の所感に過ぎませんが、おそらく当たらずとも遠からずというところだと思いますし、こうした「改訂にまつわるストーリー」をもっておくことで、試験に役立つ知識として定着することを助けてくれるだけでなく、臨床実践でも活用可能な知識として機能してくれるようになります。

以上より、選択肢③および選択肢⑤は誤りと判断できます。

④ 生活機能を心身機能・身体構造、活動及び参加の3要素で捉えている。

こちらに関してはDSM-5ではなく、ICFについて述べたものになっていますね。

ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health)は、疾患を見るだけでは不十分で「疾患の諸帰結」としての障害を見る必要があるという意識の高まりから、国際疾病分類であるICDの補完として、1980年に国際障害分類(ICIDH)が作成され、2001年に国際生活機能分類(ICF)へと改訂・採択されました。

ICFは、人間の生活機能と障害についての分類法として、多数の組み合わせによって約1500項目に分類することができ、「国際」の名がつく通り世界共通の基準としてさまざまな専門分野や異なる立場の人々の共通理解に役立つことから「生きることの全体像を示す共通言語」とも表現されています。

ICFはICIDHと比較して、①障害のある状態のプラス面を重視した表現の使用、②環境因子の導入、③機能障害→能力障害→社会的不利という因果モデルではなく、構成要素間の相互作用を想定したモデルを採用した、などの特徴をもちます。

ICFは「健康状態」、3つの「生活機能」、2つの「背景因子」の各要素がそれぞれ影響し合って成り立ちます(本選択肢では3つの生活機能が問われているわけです。そもそもDSMの内容ではありませんけど)。

この組み合わせによって、約1500項目もの分類がされるため、特定の要素に偏らず、ICFを構成する要素全体をバランス良く見ることが大切とされています。

インターネット上にあった以下の図がわかりやすいです。



このように、生活機能は「心身機能・身体構造」「活動」「参加」という3要素で捉えていることがわかりますね。

「心身機能・身体構造」とは、生物レベル・生命レベルの視点であり、生命の維持に直接関係する、身体・精神の機能や構造です。

心身機能とは、たとえば手足の動き、精神の働き、視覚・聴覚、内臓の働きなどであり、身体構造とは、手足の一部、心臓の一部(弁など)などの、体の部分のことを指します。

「活動」とは、個人レベル・生活レベルの視点であり、生活行為、すなわち生活上の目的をもち、一連の動作からなる、具体的な行為のことを指します。

これはあらゆる生活行為を含むものであり、実用歩行やその他のADL(日常生活行為)だけでなく、調理・掃除などの家事行為・職業上の行為・余暇活動(趣味やスポーツなど)に必要な行為・趣味・社会生活上必要な行為がすべて入ります。

なお、ICFでは「活動」を、「できる活動」(能力)と「している活動」(実行状況)との2つの面に分けて捉えています。

「参加」とは、社会レベル・人生レベルの視点であり、家庭や社会に関与し、そこで役割を果たすことです。

社会参加だけではなく、主婦として、あるいは親としての家庭内役割であるとか、働くこと、職場での役割、あるいは趣味にしても趣味の会に参加する、スポーツに参加する、地域組織のなかで役割を果す、文化的・政治的・宗教的などの集まりに参加する、などの広い範囲のものが含まれます。

以上のように、本選択肢の内容はDSMではなく、ICFに関する記述であることがわかりますね(DSMはアメリカ精神医学会、ICFはWHOが出しているので発出先がそもそも違います)。

よって、選択肢④は誤りと判断できます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です