公認心理師 2023-34

B型肝炎ウイルスの感染経路に関する問題です。

明らかに心理学とは異なる領域ですが「カウンセリングで話題になる可能性のある事柄は、全て私たちの守備範囲」くらいに思っておくと良いでしょう。

問34 B型肝炎ウイルスの感染経路として、最も適切なものを1つ選べ。
① 精液
② 飛沫
③ 飲用水
④ 吐しゃ物
⑤ エアロゾル

解答のポイント

B型肝炎の概要について把握している。

選択肢の解説

① 精液
② 飛沫
③ 飲用水
④ 吐しゃ物
⑤ エアロゾル

本問の解説は厚生労働省の「B型肝炎について(ファクトシート)」から引用していきましょう。

B型肝炎は、B型肝炎ウイルスによって起こる、致命的となり得る肝臓の感染症です。

B型肝炎は、主要な世界的健康問題で、ウイルス性肝炎の中では最も重症な型であり、慢性肝疾患を起こし、肝硬変や肝がんによる死亡の危険が高くなります。

世界中で20億人が感染していると推計されており、2億4千万人以上が慢性の(長期にわたる)肝臓感染症にかかっていると推計されていて、毎年60万人がB型肝炎の急性または慢性の経過によって死亡しています。

地理的分布として、B型肝炎は中国やアジアの他の地域にまん延しています。

この地域のほとんどの人は、小児期にB型肝炎ウイルスに感染し、成人の8%から10%が持続感染していおり、この地域におけるB型肝炎によるがんは、男性の三大死因の一つであり女性のがんの主な原因となっています。

アマゾンや、東部ヨーロッパと中央ヨーロッパの南部でも持続感染が高率で、中東やインド亜大陸では、全人口の2%から5%が持続感染していると推計されています。

一方、西ヨーロッパや北米では、持続感染しているのは人口の1%未満です。

B型肝炎ウイルスは、感染した人との血液と血液の直接接触や、精液や膣分泌液によって感染します。

感染経路はHIVと同じですが、B型肝炎ウイルスはHIVに比べて50倍から100倍感染力が強く、また、B型肝炎ウイルスはHIVと異なり、人の身体の外でも少なくても7日間は生存することができ、この期間に予防接種を受けていない人の身体にウイルスが入った場合には、感染が成立することがあります。

開発途上国で、よくみられる感染経路には、以下の経路があります。

  • 周産期(出生時の母から子への感染)
  • 小児早期の感染(感染している家族との密接な人‐人感染による不顕性感染)
  • 安全でない注射器の使用
  • 安全でない輸血
  • コンドームを適切に使用しない性的接触

多くの先進国(例えば、西ヨーロッパや北米)では、感染経路は開発途上国と異なり、主に、青年期の性交渉や注射薬物使用による感染が中心になっています。

B型肝炎ウイルスは汚染された食物や水によって広がることはないので、通常、職場で感染が広がることはありません。

B型肝炎ウイルスの潜伏期間は平均90日ですが、30日から180日の幅があり、ウイルスに感染した後、30日から60日後にウイルスが検出されるようになるなど検出される期間には幅があります。

B型肝炎の急性感染期には、ほとんどの人は症状が現れませんが、感染した人の中には数週間続く急性症状を起こすことがあり、皮膚や眼球結膜の黄染(黄疸)、褐色尿、激しい倦怠感、悪心、嘔吐、腹痛がみられることもあります。

また、B型肝炎ウイルスは肝臓に持続感染することがあり、後に肝硬変や肝がんに進展することがあります。

B型肝炎ウイルスの感染が慢性化する可能性は、感染した年齢によります。

B型肝炎ウイルスに感染した小児が、最も感染が慢性化しやすく、「1歳以下で感染した乳児の90%で感染が慢性化する」「1歳から4歳の間に感染した小児の30%から50%で感染が慢性化する」とされています。

成人では「小児期に感染し、感染が慢性化した成人のうち、25%はB型肝炎に関連した肝がんか肝硬変で死亡する」「B型肝炎に感染した健康な成人の90%は回復し、6か月以内にウイルスが完全に除去される」とされています。

急性B型肝炎には特異的な治療法がなく、治療は症状の緩和と、嘔吐や下痢で失われた体液の補正を含む栄養バランスを維持することを目的としています。

慢性B型肝炎は、インターフェロンや抗ウイルス薬を含む薬物で治療することもできますが、その治療には、年間で数千ドルの費用がかかるため開発途上国のほとんどの人は薬物治療を受けることができません。

肝がんはほぼ致命的であり、たいていは最も生産性が高い家族を養う責任がある世代の人々に起こります。

開発途上国では、肝がんの患者のほとんどが、診断から数か月のうちに死亡します。

高所得国では、外科治療や化学療法によって、数年、延命することが可能です。

肝硬変の患者は、時々、肝移植を受けますが、成功率には幅があります。

B型肝炎ワクチンは、B型肝炎の予防の大きな柱です。

B型肝炎ワクチンは、定期の予防接種スケジュールの一部として、3回または4回接種されます。

B型肝炎ウイルスの母子感染がよくみられる地域では、ワクチンの初回接種は、出生後可能な限り早期(すなわち24時間以内)に実施すべきであり、規定の接種回数で、乳幼児、小児、青少年の95%以上に、感染予防に必要な抗体ができ、予防効果は少なくとも20年続き、おそらく生涯持続すると考えられます。

また、以下のハイリスクグループも予防接種を受けるべきです。

  • リスクの大きい性行動をする人々
  • 感染した人々のパートナーと同居家族
  • 注射薬物使用者
  • 輸血または血液製剤を頻繁に投与する必要がある人
  • 臓器移植のレシピエント
  • 医療従事者等、職業上、B型肝炎ウイルスに感染するリスクのある人
  • B型肝炎が高率に発生している国への渡航者

ワクチンは、安全性と有効性が優れています。

多くの国では、小児の8%から15%がB型肝炎ウイルスに持続感染していましたが、予防接種によって、予防接種を受けた小児における持続感染の割合が1%未満に減少しました。

2011年7月の時点で、B型肝炎ワクチンは179か国で、定期の予防接種として接種されています

世界保健総会が世界的にB型肝炎の予防接種を勧める決議を採択した1992年に定期の予防接種として実施していた国は31か国であり、当時と比べ、大きく増加しました。

上記の通り、B型肝炎ウイルスは、感染した人との血液と血液の直接接触や、精液や膣分泌液によって感染するので、選択肢①の「精液」が感染経路として適切と言えます。

ついでなので、他の選択肢によって感染する可能性があるものを挙げておきましょう。

まず選択肢②の「飛沫」と、選択肢⑤の「エアロゾル」についてです。

「空気感染」は、感染している人が咳やくしゃみをした際に、口から飛び出した飛沫が乾燥し、その芯(飛沫核)となっている病原体が感染性を保ったまま空気の流れによって拡散し、近くの人だけでなく、同室(閉じられた空間)にいる人もそれを吸い込んで感染することを指します。

「飛沫感染」は、感染している人が咳やくしゃみをした際に口から飛ぶ、病原体がたくさん含まれた水しぶき(飛沫)を近くにいる人が吸い込むことで感染します。

飛沫が飛び散る範囲は1~2mであり、飛沫感染するものは接触感染も起こりえます。

「エアロゾル感染」は飛沫感染の一種ですが、一般的に考えられている飛沫感染や接触感染とは異なり、まだ明確な定義がありませんが、空気感染とは原理が異なります。

飛沫感染とエアロゾル感染とではその飛沫の粒子の大きさが異なり、飛沫感染では、ウイルスを含む飛沫が口、鼻、目などの露出した粘膜に付着することで感染しますが、このときのツバの大きさは5μm以上であり、中の水分の重みで口から出て1~2mの距離以内に落ちると推定されます。

対して「エアロゾル」とは、空気中に浮遊する、直径が0.001μmから100μmの粒子のことであり、一般に直径5μm以上の大きさと定義される「飛沫」よりも細かいものを指します。

「エアロゾル感染」は、病原体を含むエアロゾルが空気中を漂い、それを吸い込むことで生じる感染です。

「空気感染」は、エアロゾルよりもさらに小さな微粒子が空気中を広範囲に長時間漂うことで、それを吸い込んで感染する感染経路になります。

ですから、粒子の大きさで言えば、飛沫>エアロゾル>空気感染ということになるわけです。

ちなみに空気感染するウイルスとしては、麻しんウイルスや水痘・帯状疱疹ウイルスなどがあります(乾燥し飛沫核となっても感染力を失わず、飛沫核は軽いため空気中を漂い、広範囲に感染を拡げる)。

飛沫感染するウイルスとしては、インフルエンザウイルス、アデノウイルス、風しんウイルス、ムンプスウイルスなどが挙げられています。

新型コロナウイルスは空気感染はありませんが、接触感染、飛沫感染、エアロゾル感染はあるとされていますね。

また選択肢④の「吐しゃ物」ですが、接触感染の中には感染源である人に触れることで伝播する直接接触感染(握手、だっこ、キス等)と、汚染されたものを介して伝播する間接接触感染(ドアノブ、手すり、遊具等)があります。

皮膚や粘膜との接触、または患者周囲の物や手を介して病原体が伝播・感染し、主なRSウイルス、エンテロウイルス、アデノウイルス、ロタウイルス、ノロウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルスなどがありますね。

選択肢③の「飲用水」ですが、病原体を含む水や食べ物を介して感染する経口感染(糞口感染)に含まれると考えられます。

細菌としては黄色ブドウ球菌、腸管出血性大腸菌、カンピロバクター、赤痢菌などがあり、ウイルスではロタウイルス、ノロウイルス、アデノウイルス、エンテロウイルスなどがあります。

以上より、選択肢②、選択肢③、選択肢④および選択肢⑤は不適切と判断でき、選択肢①がB型肝炎ウイルスの感染経路として適切と判断できます。

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