公認心理師 2023-121

メタボリックシンドロームを構成する病態に関する問題です。

問113の選択肢にもある特定健康診査とも関連のある内容ですね。

問121 メタボリックシンドロームを構成する病態に含まれないものを1つ選べ。
① 血圧上昇
② 脂質異常
③ 内臓肥満
④ 電解質異常
⑤ 糖代謝異常

解答のポイント

メタボリックシンドロームを構成する病態(診断基準など)を把握している。

選択肢の解説

① 血圧上昇
② 脂質異常
③ 内臓肥満
⑤ 糖代謝異常

メタボリックシンドロームとは、内臓肥満に高血圧・高血糖・脂質代謝異常が組み合わさることにより、心臓病や脳卒中などになりやすい病態を指します。

日本では、ウエスト周囲径(おへその高さの腹囲)が男性85cm・女性90cm以上で、かつ血圧・血糖・脂質の3つのうち2つ以上が基準値から外れると、「メタボリックシンドローム」と診断されます(なお、海外では下記とは異なる基準を用いている点に注意が必要です)。

2005年に日本内科学会などの8つの医学系の学会が合同してメタボリックシンドロームの診断基準を策定しました。

下記の通り、内臓脂肪の蓄積があり、かつ血圧、血糖、血清脂質のうち2つ以上が基準値から外れている状態を指します。

  • 必須項目 (内臓脂肪蓄積)
    ウエスト周囲径 男性 ≥ 85cm 女性 ≥ 90cm
    内臓脂肪面積 男女ともに≥100cm2に相当
  • 選択項目(3項目のうち2項目以上)
    1.高トリグリセライド血症≥150mg/dL かつ/または 低HDLコレステロール血症<40mg/dL
    2.収縮期(最大)血圧≥130mmHg かつ/または 拡張期(最小)血圧≥85mmHg
    3.空腹時高血糖 ≥ 110mg/dL

日本人の死因の第2位は心臓病、第4位は脳卒中であり、これらは、いずれも動脈硬化が原因となって起こることが多くなっています。

動脈硬化を起こしやすくする要因(危険因子)としては、高血圧・喫煙・糖尿病・脂質異常症(高脂血症)・肥満などがあります。

これらの危険因子はそれぞれ単独でも動脈硬化を進行させますが、危険因子が重なれば、それぞれの程度が低くても動脈硬化が進行し、心臓病や脳卒中の危険が高まることがわかっています。

これと似たような病態は、以前から「メタボリックシンドローム」のほか、「シンドロームX」「インスリン抵抗性症候群」「マルチプルリスクファクター症候群」「死の四重奏」などとも呼ばれていました。

1999年に世界保健機関(WHO)は、このような動脈硬化の危険因子が組み合わさった病態をインスリン抵抗性の観点から整理し、メタボリックシンドロームの概念と診断基準を提唱しました。

その後、さまざまな機関がそれぞれの診断基準を提唱したため、メタボリックシンドロームの考え方にはいろいろなものがあり(大きく分けて、危険因子の重複を基盤にする考え方と、インスリン抵抗性や内臓脂肪を基盤とした考え方がある)、世界的には危険因子の重複を基盤にする考え方が主流となっていますが、日本では、内臓脂肪を基盤とした考え方を採用しています。

これは、肥満のうちでも、お腹の内臓に脂肪がたまり腹囲が大きくなる「内臓脂肪型肥満(内臓肥満)」が、高血圧や糖尿病、脂質異常症などをひきおこしやすくし、これら内臓肥満と高血圧や糖尿病、脂質異常症が重複し、その数が多くなるほど、動脈硬化を進行させる危険が高まるという考え方です。

日本では「特定健康診査・特定保健指導」の制度の中で、この考え方を取り入れていて、健診時にはお腹の周りを測ることになります。

以上より、選択肢①、選択肢②、選択肢③および選択肢⑤はメタボリックシンドロームを構成する病態に含まれると判断でき、除外することになります。

④ 電解質異常

こちらはメタボリックシンドロームとは直接的には関連しない項目です。

メタボリックシンドロームでは、内臓肥満によるインスリン抵抗性等により脂質・糖の代謝異常が起こりますが、それ以外にレニン・アンジオテンシン系と呼ばれるホルモンがメタボリックシンドロームに関与していて、その調節異常が血圧上昇に関与すると考えられています。

レニン、アンジオテンシンはそれぞれ腎臓、肝臓で合成され、血管の収縮やアルドステロンというホルモンを介した腎臓での水分・電解質の調節に関与するため、電解質異常がメタボリックシンドロームと完全に無関係というわけではないのですが、「メタボリックシンドロームを構成する病態」とは言えないことになります。

また、電解質異常は精神科疾患ではよく見られるものになるので、その点も理解しておきましょう。

摂食障害では、検査値異常として低カリウム血症などの電解質異常・肝機能障害・総コレステロール上昇・低血糖・甲状腺ホルモンや女性ホルモンの低下・骨密度の低下などがあります。

排出行動により胃酸や腸液が排出されると、体内のカリウムが失われるので低カリウム血症などの電解質異常が生じるのです。

なお、低ナトリウム血症は腎機能が低下する高齢者でもよくみられます。

精神科患者(特に統合失調症)においては、多飲により腎の処理能力を超えると電解質バランスが崩れて希釈性低ナトリウム血症が生じ、軽症では疲労感、頭痛、嘔吐、浮腫、重症では脳浮腫による痙攣、錯乱、意識障害等、肺水腫やうっ血性心不全等の身体障害を起こし、死に至ることもあります。

原因としては、①向精神薬(特に定型抗精神病薬)による副作用の口渇により飲水が習慣化して強迫的に飲水が増える、②精神疾患の病態(不安、焦燥、幻覚、妄想等)から飲水が習慣化して多飲傾向となる、③向精神薬の長期使用により、慢性的にドパミンD2受容体が遮断され、視床下部の口渇中枢を刺激する中枢性飲水惹起物質のアンジオテンシンⅡへの感受性が亢進し、さらに抗利尿ホルモンの分泌が促進され、水分貯留を引き起こす等が考えられています。

悪性症候群の危険因子として、栄養障害、脱水、電解質異常は挙げられていますから、注意が必要ですね。

以上のように、電解質異常は精神科疾患に関連が深いものではありますが、本問で問われているメタボリックシンドロームを構成する病態とは言えません。

よって、選択肢④を選択することになります。

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