公認心理師 2023-109

機能性消化管疾患に該当する疾患を選択する問題です。

機能性消化管疾患の定義を前提に、各疾患の特徴を掴んでおくことが重要な問題ですね。

問109 機能性消化管疾患として、最も適切なものを1つ選べ。
① クローン病
② 大腸憩室炎
③ 潰瘍性大腸炎
④ 大腸ポリープ
⑤ 過敏性腸症候群

解答のポイント

機能性消化管疾患の定義と、各疾患の臨床像を把握している。

選択肢の解説

⑤ 過敏性腸症候群

「機能性消化管障害(Functional gastrointestinal disorders: FGIDs)」とは、1988年にローマで開催された世界消化器病学会で、「消化器症状があるにもかかわらず、その原因となる客観的な所見が見当たらないもの」をFGIDsと定義し、その診断基準が提唱されました。

この診断基準は改訂を重ねられており、現在は2016年に改定されたRomeⅣ診断基準が最新のものです。

RomeⅣにおける機能性消化管障害の病型分類は以下の通りです。

A.機能性食道障害
B.機能性胃十二指腸障害
C.機能性腸障害
D.機能性腹痛症候群
E.機能性胆嚢・乳頭括約筋障害
F.機能性直腸肛門障害
G.新生児・乳幼児の機能性消化管障害
H.小児・青年期の機能性消化管障害

このそれぞれの分類の下に、さらに細かい細分類が存在し、実際の診断はこの細分類の病名をつけ、詳細な診断基準のもとに症状からその方の状態をある一定の疾患カテゴリーに分類していく、というのが機能性消化管障害の診断プロセスになります。

機能性消化管障害には非常に多くの疾患が属しますが、実臨床で診断を行う場合に診断される機会の多い「3大機能性消化管障害」があり、以下の疾患が挙げられます。

  • 機能性ディスペプシア(Functional dyspepsia: FD):
    胃の痛みや胃もたれなどの症状が続いているが、内視鏡で所見をみとめないもの
  • 非びらん性胃食道逆流症(Non-erosive reflux disease: NERD):
    胃酸の逆流によって胸焼けや呑酸、胸の痛みの症状があるが、内視鏡で炎症を認めないもの
  • 過敏性腸症候群(Irritable bowel syndrome: IBS):
    腹痛とそれに関係する下痢や便秘などの便通異常があるもの

機能性消化管障害の原因については1つだけでなく、複数の要因が影響しあって起きていると考えられており、そのことが病態をより複雑にしています。

本選択肢の「過敏性腸症候群」では、通勤・通学中に急におなかが痛くなってトイレに駆け込み、排便が終わると腹痛は消失するという経験を繰り返すなどで呈されることが多く、直腸粘膜の過敏性が証明されていますが、中枢の機能障害も指摘されています。

過敏性腸症候群の国際的な診断基準RomeⅣは以下の通りです。

最近3ヶ月間、月に4日以上腹痛が繰り返し起こり、次の項目の2つ以上があること。
1.排便と症状が関連する
2.排便頻度の変化を伴う
3.便性状の変化を伴う
※期間としては6ヶ月以上前から症状があり、最近3ヶ月間は上記基準をみたすこと。

また、便の形状とその頻度から便秘型、下痢型、混合型、分類不能型に分類されます。

  1. 便秘型IBS(IBS-C):硬便または兎糞状便が25%以上あり、軟便(泥状便)または水様便が25%未満のもの
  2. 下痢型IBS(IBS-D):軟便(泥状便)または水様便が25%以上あり、硬便または兎糞状便が25%未満のもの
  3. 混合型IBS(IBS-M):硬便または兎糞状便が25%以上あり、軟便(泥状便)または水様便も25%以上のもの
  4. 分類不能型IBS:便性状異常の基準がIBS-C、D、Mのいずれも満たさないもの

治療には、大腸の蠕動を調節する薬、便の形状を改善する薬、抗不安薬などを組み合わせて使用することになります。

以上のように、機能性消化管障害として過敏性腸症候群が含まれていることがわかります。

よって、選択肢⑤が適切と判断できます。

① クローン病
② 大腸憩室炎
③ 潰瘍性大腸炎
④ 大腸ポリープ

上記の通り、機能性消化管疾患の定義は「消化器症状があるにもかかわらず、その原因となる客観的な所見が見当たらないもの」になりますが、ここで挙げた選択肢の疾患には「客観的な所見」が確認されます。

各疾患の概要と示される客観的な所見を簡単に挙げていきましょう。

まずは選択肢①のクローン病についてです。

大腸及び小腸の粘膜に慢性の炎症または潰瘍をひきおこす原因不明の疾患の総称を「炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease:IBD)」といい、狭義にはクローン病と潰瘍性大腸炎に分類されます。

クローン病は、この炎症性腸疾患のひとつで、1932年にニューヨークのマウントサイナイ病院の内科医クローンらによって限局性回腸炎としてはじめて報告されました。

クローン病は主として若年者にみられ、口腔にはじまり肛門にいたるまでの消化管のどの部位にも炎症や潰瘍(粘膜が欠損すること)が起こりえますが、小腸と大腸を中心として特に小腸末端部が好発部位です。

非連続性の病変(病変と病変の間に正常部分が存在すること)を特徴とし、それらの病変により腹痛や下痢、血便、体重減少などが生じます。

クローン病の原因として、遺伝的な要因が関与するという説、結核菌類似の細菌や麻疹ウイルスによる感染症説、食事の中の何らかの成分が腸管粘膜に異常な反応をひきおこしているという説、腸管の微小な血管の血流障害説などが報告されてきましたが、いずれもはっきりと証明されたものはありません。

最近の研究では、なんらかの遺伝的な素因を背景として、食事や腸内細菌に対して腸に潜んでいるリンパ球などの免疫を担当する細胞が過剰に反応して病気の発症、増悪にいたると考えられています。

続いて選択肢②の「大腸憩室炎」です。

憩室とは、消化管壁の一部が外側に突出し、嚢状(袋状の形のこと)になった状態をいいます。

憩室は食道、胃、十二指腸、小腸、大腸のいずれにもできますが、大腸にできることが一番多い病気で、これを「大腸憩室炎(症)」と呼びます。

大腸憩室は、1個だけではなく複数個できる場合が多く、ほとんどは後天的に出現し、大腸の壁の強さと腸管内圧のバランスが崩れることでできると考えられています。

高齢化や食生活の変化によって便秘の頻度が高まり、糞便を送り出すための腸管運動が亢進することで腸管内圧も高くなった結果、圧に耐えられなくなった腸管壁の一部が、外側に膨らむことで憩室ができます。

憩室に糞便が溜まったまま長時間が経つと、内部で細菌が増殖し、憩室に炎症が生じ、これを「憩室炎」といい、腹痛や発熱、また下痢症状などが出現します。

次は選択肢③の「潰瘍性大腸炎」についてです。

潰瘍性大腸炎は大腸の粘膜(最も内側の層)にびらんや潰瘍ができる大腸の炎症性疾患です。

特徴的な症状としては、血便を伴うまたは伴わない下痢とよく起こる腹痛です。

病変は直腸から連続的に、そして上行性(口側)に広がる性質があり、最大で直腸から結腸全体に拡がります。

この病気は病変の拡がりや経過などにより下記のように分類されます。

  1. 病変の拡がりによる分類:全大腸炎型、左側大腸炎型、直腸炎型
  2. 病期の分類:活動期、 寛解期
  3. 重症度による分類:軽症、中等症、重症、激症
  4. 臨床経過による分類: 再燃 寛解 型、慢性持続型、急性激症型、初回発作型

発症年齢のピークは男性で20~24歳、女性では25~29歳ですが、若年者から高齢者まで発症します。

これまでに腸内細菌の関与や本来は外敵から身を守る免疫機構が正常に機能しない免疫反応の異常、あるいは食生活の変化の関与などが考えられていますが、まだ原因は不明です。

最後は選択肢④の「大腸ポリープ」です。

「ポリープ」というのは正確には病名ではなく「皮膚・粘膜などの面から突出し、茎をもつ卵球状の腫瘤」の総称です。

つまり図(特に②~④)のような丸くて出っ張っている球状のものを概して「ポリープ」と呼んでおり、その中でも粘膜表面に変化のない「粘膜下腫瘍(粘膜の下に何かあるもの)」を除く粘膜表面が変化し出っ張ったものを「ポリープ」と呼ぶことが多いです。

大腸にできるポリープはほとんどが腫瘍性のもので、小さいもののほとんどは「腺腫」と呼ばれる腫瘍です。

大腸の「腺腫」はだんだん悪性の腫瘍、いわゆる「がん」になるという説があり、大きくなるにつれ「腺腫」の成分が無くなっていき、全体が「がん」に置き換わると言われています。

大腸のポリープのほとんどが治療の対象で、「腺腫」は内視鏡で切除可能です。

「がん」でもごく初期内視鏡で切除可能ですが、なかには、リンパ節に転移するものがあり、その場合には外科的に切除が必要になります。

また上に述べたように「腺腫」から「がん」になっていきますので、「腺腫」だと思って内視鏡で切除した病変をくわしく調べた結果、外科的に追加切除が必要になることもあります。

個人的なことですが、昨年、大腸ポリープが見つかり、手術しましたがガン化していなかったのでホッとしました(40歳を超えると色んな不都合が起こるものなので、健診を受けていて良かったなぁという感じです)。

以上より、ここで挙げた疾患は機能性消化管疾患(消化器症状があるにもかかわらず、その原因となる客観的な所見が見当たらないもの)には該当しないことがわかりますね。

よって選択肢①、選択肢②、選択肢③および選択肢④は不適切と判断できます。

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