公認心理師 2021-12

知覚の老化に関する問題です。

around40の私としては、そろそろ自分のこととして考えねばならないことばかりでした(特にルアーを結ぶ時に近くが見づらくなっている)。

問12 知覚の老化の説明として、正しいものを1つ選べ。
① 温度感覚の閾値が下がる。
② 嗅覚の識別機能が低下する。
③ 高音域に先行して低音域の聴取が困難になる。
④ 近方視力が低下する一方、遠方視力は保たれる。
⑤ 明所から暗所への移動後における視覚の順応時間が短くなる。

解答のポイント

各感覚器官が加齢でどのような変化が生じるかを把握している。

選択肢の解説

本問の解説は「老年期の感覚機能の低下‐日常生活への影響:北川公路」と以下の書籍とで解説していきます。

① 温度感覚の閾値が下がる。

こちらは皮膚感覚について問われています。

加齢の徴候は皮膚の外観に表れます。

皮膚の加齢変化は真皮の厚さを測定すると30歳を過ぎる頃から次第に薄くなり、最も厚かったころの約80%になります。

同時にコラーゲン量も著しく減少することが分かっており、20歳から80歳の間には半分以下の量になることも報告されています(「お肌の曲がり角は 25歳から」といわれるが、皮膚の老化は30歳ぐらいから始まるということ)。

次に、皮膚の弾性は線維の組織変化が線維の力学的性質を変えています。

コラーゲンが主成分になっているのは膠原線維だが、弾性線維の変化も起きています。

ごく若いときは弾性線維の網状構造はスポンジのような外見で、ここの線維は極めて細いが年をとると枝分かれが多くなり表面が粗くなります(とくに日光にさらされている皮膚は、紫外線からの強い悪影響を受け加齢変化が加速される)。

膠原線維のコラーゲン線維と弾性線維のほかに、真皮の礎質も皮膚の弾力性やシワに関わりを
もっています。

皮膚の表面を一定の力で押さえた後に離すと、若い人の皮膚では数分以内にもとの厚さに戻るが、高齢者の場合は少々時間がかかることが分かっており、これは、真皮の線維成分よりむしろ礎質の変化によるものです。

なお、この礎質の成分であるヒアルロン酸も、年齢とともに成少、皮膚の弾力性を低下させていることが知られています。

最後に、皮膚感覚には、温度覚(温覚、冷覚)、触覚、圧覚、痛覚などがあり、それぞれの刺激に応じる部位は点状に分布しており、これを感覚点(温点、冷点、痛点、触点、圧点)と呼んでいます。

これらの受容器は知覚神経を通じて大脳皮質の体性感覚野に伝えられ、初めて感覚として認識されます。

老化により温度受容の機能の低下がみられ、感度が鈍くなることが分かっています(入浴時に火傷をするのはこのため)。

50歳以下では約0.5度の温度差の弁別ができるのに対し、65歳以上の高齢者では約 1.0~5.0度の温度差となって初めて弁別できるとされてます。

また、寒冷環境下では寒さに対応する「震え」の生理的な防御反応の出現が遅れるため、体内温の低下が大きく、暑熱環境下では発汗量は少なく体内温の上昇が大きいことが判明しています。

以上のように加齢によって、温度の弁別閾が上がること(つまり、温度差が大きくないと違いに気づかない)が指摘されています。

よって、選択肢①は誤りと判断できます。

② 嗅覚の識別機能が低下する。

国際的に、加齢に伴い嗅覚もほかの感覚器官と同様に、生理的機能低下が起こることが報告されています。

また、加齢における嗅覚減退および認知能力の低下が示されており、日本においても、にお
いの識別・同定は高齢になるにつれ低下することが臨床領域から報告されています。

一般に嗅覚は 50歳代から低下が始まり、70歳代で急速に悪化します。

嗅覚障害をきたす原因は50歳代以下では鼻副鼻腔疾患が多いとされていますが、60歳代以上では感冒罹感後や原因不明例が増加します(年齢増加に伴う老化現象としての嗅覚減退の程度は個人差が大きいものの 50歳代から急激に進行するとされている)。

また、高齢者では嗅覚感度(検知閾値)の低下が認められるが、基本的嗅ぎ分け能力は(認知閾値)の低下は嗅覚感度の低下に比べ少ないことが指摘されています。

嗅覚機能低下を引き起こす要因は加齢だけではなく、同時に罹感している疾患の影響も大きく、とくに認知症と嗅覚機能異常については多くの報告があります。

また、投薬による嗅覚機能低下も報告されており、これらは、高齢者の多くは複数の疾患に罹感していることが多く、服用している薬剤の種類も多いため、加齢だけでなく薬剤の服用も嗅覚機能低下に影響を及ぼしていると考えられます。

以上のように、高齢者では嗅覚の識別能力が低下することが指摘されています。

よって、選択肢②が正しいと判断できます。

③ 高音域に先行して低音域の聴取が困難になる。

加齢により最小可聴限が上昇し、可聴周波数範囲が狭くなることはよく知られています(空気の振動が音として聞こえる範囲が可聴範囲)。

可聴範囲には周波数による可聴周波数範囲と音圧で測定される最小可聴閾・最大可聴閾があり、可聴閾として問題になるのは、最大可聴限よりむしろ最小可聴限の方です。

加齢に伴って可聴周波数範囲では高い音が聞きにくくなり、最小可聴閾値が高くなるため小さな音が聞こえにくくなるなど可聴範囲が狭くなります(要は、聴覚力の加齢による低下は緩やかに進むものですが、特に高音域での感覚老化が著しくなります)。

これは、末梢の聴覚器官での生理的加齢に加えて、注意を集中して複雑な音環境の中から必要な情報を選び取る、中枢機能の加齢による低下とされています。

ただし、聴力の悪化は性別差があり、男性では40歳くらいから変化が生じるようです。

聴覚における高齢者の主観的訴えとしては、①周囲がうるさい状態での聞き取り、②方言や子ども言葉の聞き取り、③「ば」と「ぱ」や、「ぶ」と「ぷ」といった音の聞き分け、④普段の会話の聞き取り、⑤生活音の中の高い周波数の音の聞き取り、といった日常場面での問題が挙げられています。

むかし、コンビニ前に若者がたむろするのを防ぐために、不快な高音域の音を流すという話がありましたが(実践されたか知りませんけど)、それはこうした加齢による高音域の聞き取りにくさを利用したものと言えますね。

聞こえの問題は、単純に音を大きくするだけで改善されるわけではありませんから、必ずしも大きな声で話しかけることが有効とは限りません。

また、メガネと違って、補聴器が必要であっても利用していない高齢者が多いのも問題とされています。

以上のように、加齢による聞き取りにくさは高音域で顕著であるとされています。

私は声が低いので、その辺はラッキーだったなと思います(キンキン声を苦手とする発達障害児も多い)。

よって、選択肢③は誤りと判断できます。

④ 近方視力が低下する一方、遠方視力は保たれる。
⑤ 明所から暗所への移動後における視覚の順応時間が短くなる。

視力は比較的若い時期から加齢とともに低下し、高齢者の裸眼視力は、生理的な角膜と水晶体の屈折力の変化と網膜黄斑部の変化、視細胞の感覚能力の減退などにより低下するが、さらに、白内障、黄斑部変性、網膜血管硬化症などの眼の病気により低下します(高齢者の裸眼視力は、60~69歳が0.5~0.6、70~79歳が平均0.4弱、80歳以上は 0.2~0.3となることが指摘されております)。

高齢者の視覚では老眼(老視:老年性遠視)が加齢に伴う変化として知られています。

おそらく選択肢④はこれを踏まえたひっかけと思われますが(遠くにピントが合っていて、遠方であれば少ない調節でピントを合わせられるから楽)、当然遠方視力が保たれてるというわけではありません。

遠視という呼び名から「遠くがよく見える」と思っている人がいますが、これは遠くがよく見える状態ではないのです(遠くがよく見える目は正視です)。

あくまでも遠くに焦点が合っているだけであって、そこから近くても遠くても焦点を合わせるための頑張りを目に強いることになりますから、近くも遠くもぼやけることになりがちです。

加齢による遠視は、水晶体の屈折力が落ちたために生じるものですから、そのままの状態では目が疲れやすいなどの問題も出てきます。

上記以外にも、立体物、コントラストがはっきりしない対象、視野の周辺部における知覚などが低下していますし、緑内障や白内障といった有病率が増加し、視覚の問題の原因になります。

また、暗所での光覚閾値の増大など、網膜の機能低下も現れます。

高齢者の主観的な訴えでは、①文字を読む行為に時間がかかる、②暗がりでの見えや暗順応が悪い、③物体の動きを捉えること、動く対象から情報を抽出することが難しい、④手元の作業や、小さい文字が見えづらい、⑤視界の中で自分の目的となる対象を探すことが難しい、といった日常場面における視覚に関わる問題が挙げられています。

なお、暗いところから明るいところへ行って目が慣れることを「明順応」、逆に明るいところから暗いところへ行って目が慣れることを「暗順応」と言います。

一般的に「暗順応」のほうが「明順応」に比べて時間がかかりますが、高齢者の順応は加齢に伴って明暗順応の機能低下が起こるとされています。

なお、順応による視感度測定は、刺激閾または弁別閾によってなされますが、加齢の影響は明順応より暗順応の方が顕著とされています。

この機能低下は、網膜の毛細管の変化、錐体・桿体の欠損状態、さらに水晶体の混濁と関係
しており、加齢による影響と考えられています(40歳代から徐々に見受けられ、50歳以降は顕著になる)。

以上のように、高齢者は遠視になりやすいですが、だからと言って「遠くが見えやすい」というわけではなく、近くも遠くもぼやけるということになりやすいです(比較として、近くの方が強い調整力が必要なので大変なだけ)。

また、高齢者は若年層よりも「暗順応」および「明順応」に時間がかかるようになります(加齢の影響は暗順応の方が顕著です)。

よって、選択肢④および選択肢⑤は誤りと判断できます。

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