公認心理師 2024-17

高齢者の適応に関する理論を選択する問題です。

過去問で何度も出題されていますから、必ず得点ゲットするようにしましょう。

問17 高齢者の適応に関する理論として、最も適切なものを1つ選べ。
① PM理論
② 心の理論
③ CHC理論
④ バランス理論
⑤ 補償を伴う選択的最適化理論

選択肢の解説

① PM理論

PM理論は、社会心理学者である三隅二不二(みすみ・じゅうじ)が提唱したリーダーシップ理論で、リーダーシップ機能の観点から、リーダーシップスタイルの類型化を試みたものです。。

いくつかあるリーダーシップ理論のうち、いわゆる「リーダーシップ行動論」に基づいた理論で、リーダーシップとは後天的に学習された行動スタイルと考えます(誰でも身につけられるものであり、優秀なリーダーという存在を規定する考え方)。

Pとは「Performance機能」を指し、集団目標達成や課題遂行を重視するスタイルのことであり、成員に指示・命令を与えるリーダー行動を表します。

一方、Mとは「Maintenance機能」を指し、対人関係の緊張を和らげ、集団を維持強化するスタイルのことであり、具体的には、部下を公平に取り扱うことや信頼すること、また部下の労をねぎらい、それを承認することも含まれます。

両機能は互いに独立した次元と考えられており、基本的には部下が上司であるリーダーのP機能とM機能を表す複数の具体的項目に基づいて、リーダーが日頃どの程度それぞれを果たしているかを評定します。

そして、縦軸にM機能次元、横軸にP機能次元をとり、リーダーがそれぞれを発揮している程度の平均値を基準に、リーダーシップを4つのスタイル(PM型、P型、M型、pm型)に類型化します。

4つのリーダーシップスタイルの類型化を表記する際には、平均値を基準として、より高く示している場合にはPとMを大文字で表し、より低い場合には小文字で表します。

最も理想的なリーダーシップは、P機能とM機能をそれぞれよく果たしている「PM型」になります。

そして、組織現場を超えて、集団生産性については、短期的にはPM型>P型>M型>pm型となり、長期的にはPM型>M型>P型>pm型の順になります。

他方、部下の意欲・満足度については、PM型>M型>P型>pm型の順になります。

いずれも集団効果の指標においてPM型が際立って高い理由は、M機能がP機能に対して触媒的に作用し、両者の相乗効果が生じるためと解釈されています。

これらを踏まえれば、PM理論が「高齢者の適応に関する理論」ではないことがわかりますね。

以上より、選択肢①は不適切と判断できます。

② 心の理論

人間が他者も人間と見なし、身体の背後に心を有していると理解するのは(簡単に言えば、他者が自分とは異なる考えや思いを持つことを理解するのは)、発達段階のいつ頃で、どのように芽生えて、どのように発展していくのか、これらについて明らかにしようとしたのが「心の理論」です。

「心の理論」という言葉は、Premack&Woodruff(1978)のチンパンジーの研究から始まりました。

相手の行動に関して推論を行う際に相手の「心」の状態にその原因があると考えることから、その状態を「心の理論」を持つとして名づけられたのです。

これを「理論」と見なす理由として、心的状態は直接的観察が不可能なので、その心的状態に関する知識は現実の行動を予想する因果的枠組みを与えるためであるとするPremack&Woodruffの立場は、多くの「心の理論」の研究に共通しています(つまり、他人の行動を予測するための因果図式を与えてくれる「理論」であるということ)。

彼らは、チンパンジーは相手のチンパンジーが特定の行動からある欲求や意図を持っていると思えば、最初の行動とは別の行動であっても、その欲求や意図に適う行動を実行すると推論するはずという仮説を立てました。

このように、Premack&Woodruffは、相手の意図が理解できるのであれば「心の理論」を想定できると考えましたが、その後、単なる同一視(相手のことを理解しているのではなく、自分がそうしたいことが一緒だっただけ)と、「心の理論」を使って真に相手の心を理解しているか(自他の区別があった上であるか)を見分ける必要があるという反論が出ました。

これを解決するためWimmer&Perner(1983)は、ヒトおよびヒト以外の動物が心の理論を持っているかどうかを調べる方法として、誤信念課題と呼ばれる課題を考案しました。

誤信念課題は、子どもが相手の行動を予測するために心的状態、特に特定の事柄についての信念について推論を行うことができるかを評価するもので、自分自身の信念と相手の信念が異なっていると理解できなければ正答できません。

サリーとアン課題が有名だろうと思いますが、ここでは同様に有名な「マキシ課題」を述べていきましょう。

  1. マキシと母親は店から帰ってきました。2人はいくつかチョコレートを買ってきました。
  2. マキシは引き出しの中にチョコレートを入れて、それから外に遊びに行きました。
  3. マキシが出かけている間、母親はケーキを作るためにチョコレートの一部を使いました。それから、母親は引き出しではなく、戸棚にチョコレートを入れて、2階に行きました。
  4. マキシが戻ってきました。マキシはお腹がペコペコで、すぐにチョコレートが食べたくなりました。
  • テスト質問:チョコレートを探すためにマキシはどこを探すと思いますか。
  • 統制質問:遊びに出かける前にマキシはどこにチョコレートをしまいましたか。チョコレートは今どこにありますか。

この課題に対し、心の理論を備えていないとされる年少の子ども(~3歳半くらいまで)は、話の冒頭でチョコレートをおいた場所がどこか覚えているにも関わらず、マキシは今チョコレートがある場所を探すだろうと話します。

それに対して、心の理論を備えている、だいたい4歳~5歳の子どもは、マキシがチョコレートを最初に置いた場所(引き出しの中)を探すだろうと答えます。

この答えを導き出すためには、マキシが保っているチョコレートの位置についての信念(知っていると思っていること)と、話を聞いて自分が保っている信念(自分が知っていること)とが異なっていることを、子どもが認識しなければなりません。

つまり、観察者(この課題に答える子ども)と観察された者(この場合はマキシ)が、同じ状況について異なる信念を持っているということを認識しなければならないということになります。

前述したように、ある年齢に達した子どもは、自分とは異なり、自分の視点から見ると誤っているマキシの信念を推論し、行動をその信念に帰属させることによって、正しく質問に答えることが可能になります。

つまり、子どもはマキシ(他者)の信念が誤っていても、マキシ(他者)の行動を導くものであることを認識するわけです。

これらから「心の理論」を簡潔にまとめると「他者の心を類推し、理解する能力」のことを指しますが、この表現では少し不十分だろうと思います。

正確には、自分自身や他者の心的状態、つまり、信念や欲求や意図や情動などへの帰属に基づいて、行為や発言を説明し、予測し、解釈する能力の基礎が「心の理論」と言えます。

即ち、「心の理論」の成立に関しては、「自分自身の信念」と「他者の信念」が異なっていると理解できることが前提となっておりますから、「自分や他者の心的状態を理解し、把握する能力」ということになります。

これらを踏まえれば、心の理論が「高齢者の適応に関する理論」ではないことがわかりますね。

以上より、選択肢②は不適切と判断できます。

③ CHC理論

CHC理論(Cattell-Horn-Carroll theory)とは、キャッテル・ホーン・キャロルという3人の研究者の頭文字を取って名付けられた理論です。
※キャッテルは知能の一般因子を流動性知能・結晶性知能とした人
※ホーンはそれよりも多くの因子があると考えた人
※キャロルは知能の3層理論を示した人

この理論のルーツは2つあり、1つはキャッテルによって考案された流動性知能‐結晶性知能理論(Gf‐Gc理論)です。

この理論は弟子のホーンによって更に拡張され、9~10個の因子による拡張Gf‐Gc理論へと発展しました。

もう1つは、キャロルによる大規模な因子分析研究であり、スピアマン時代から蓄積されてきた460以上にのぼる人間の認知能力に関するデータベースを対象として、階層因子分析法を用いた解析を行い、最終的に3層からなる知能の階層理論を構築するに至りました。

これら2つの理論は、その基本構造において極めて類似した特性を有していたことから、1つの理論に統合され、知能は次の3つの階層から構成されているとする「CHC理論」となりました。

第Ⅰ階層(限定的能力)は約70個の限定的能力であり、第Ⅱ階層のいずれかの因子に属しています。

第Ⅱ階層(広範的能力)は以下の10個の広範的能力から構成され、第Ⅲ階層は一般的知能であり「g因子」が位置づけられています。

  1. 結晶性能力/知識:ある文化において取得した知識の量およびその効果的応用に関する能力。言語理解(VCI)と関連が深い。
  2. 流動性能力/推理:応用力や柔軟性を用いて新奇な課題を解く能力。知覚推理(PRI)と関連が深い。
  3. 視覚処理:視覚的なパターンを知覚して記憶し、操作・思考する能力。知覚推理(PRI)と関連が深い。
  4. 聴覚処理:聴覚的刺激を分析、合成、弁別する能力。
  5. 短期記憶:情報を取り込み、保持し、数秒のうちに使用する能力。ワーキングメモリ(WMI)と関連が深い。
  6. 長期記憶と検索:学習した情報を記憶して、効率的に検索する能力。
  7. 読み書き:言葉を読み、文理解能力および言葉を書き、文を構成する能力。
  8. 数量の知識:蓄積された数学的知識および数学的推論に関する能力。
  9. 処理速度:注意や集中を必要とする認知課題を流暢かつ自動的に行う能力。処理速度(PSI)と関連が深い。
  10. 反応・判断速度:自動的な認知課題を処理する能力。

CHC理論はスピアマンから始まる知能の因子分析的研究の集大成であり、使用されている主要な知能検査の改訂においては、この理論への準拠が常に考慮されています。

上記を踏まえれば、CHC理論が「高齢者の適応に関する理論」ではないことがわかりますね。

以上より、選択肢③は不適切と判断できます。

④ バランス理論

認知的斉合性理論(人間の身体には不均衡状態が発生すると、自発的に均衡状態を回復しようとする機能(恒常性)が備わっている。人間の認知システムにもこのような恒常性が備わっていると考える理論のこと)の1つで、Heiderが提唱したのがバランス理論です(ちなみに、フェスティンガーの認知的不協和理論も認知的斉合性理論の一つです)。

バランス理論はX-O-P理論とも呼ばれ「対象人物もしくは知覚者(P)‐特定他者(O)‐態度対象(X)」の三者関係の斉一性を考えており、他者存在が態度形成に関与する可能性を指摘しています。

上記で言う「三者関係」とは、P‐O、P‐X、O‐Xの関係を指し、肯定評価(+)と否定評価(-)を表す情緒関係と、所有(所属)を表すユニット関係を想定しています。

図で示すと以下のようになります。

この理論は、人は単純で一貫した意味ある社会関係に動機づけられており、三者関係がゲシュタルト心理学的に斉合した均衡状態を志向すると考えます。

情緒関係での均衡は、特定人物が肯定的関係にある他者と態度対象に対し合意する場合、もしくは否定的関係にある他者と態度対象に対し、合意しない場合に達成され、否定的関係が0か2になります。

不均衡状態は、否定的関係が1または3になることで生じます。

不均衡状態になれば不快感が生じるため、人はこの不快を解消するように動機づけられ、最小努力で均衡が実現するように行動するわけです。

上記は理論的に書いてありますが(試験ではこういう出方をするので、こうした表現にも慣れ、覚えておかねばならない)、単純に言えば以下のようになります。

上記の図にある通り、自分と恋人と煙草の関係で考えていきましょう。

自分と恋人の関係が肯定的(+)であり、その両者が煙草に対して肯定的(+)もしくは否定的(-)であれば、その関係は均衡(バランス)状態であるため、不快感は生じないため、この三者関係を変えようとする力は働きません(上記の「否定的関係が0か2」というのは、-の数の話です)。

逆に、自分と恋人の関係が否定的(-)の時に、互いが煙草に対して肯定的(+)もしくは否定的(-)であると、「嫌いな人と煙草に対する情緒態度が同じ」という気持ちが悪い状態になる、すなわち不均衡(アンバランス)になるので、態度が変えようとする力が働くということですね(煙草が好きなら嫌いになり、嫌いなら好きになって吸い始めるとか)。

他にも、自分と恋人との関係が肯定的(+)で、自分は煙草が嫌いなのに(つまり、P-Xが否定的(-)である)、恋人が煙草を吸っている場合(つまり、O-Xの関係が肯定的(+)である場合)、不均衡状態が生じて気持ち悪くなります。

こういう時に起こるのが「痘痕も靨(好きな人のあばたは、えくぼに見える)」と呼ばれる現象で、単純に言えば、それまで自分が嫌いだった煙草に対して認識が変わって好きになるということです(これが上記の「最小努力で均衡が実現するように行動する」ということの意味です)。

三者の+と-をすべて掛け合わせて、+になればバランス状態、-になればアンバランス状態なので変えようとする力が働くということです。

上記のバランス理論の他にも、Heiderは1960年代から1970年代にかけて数多くの関連研究を生み出した帰属理論(本来あいまいなはずの因果関係を特定の原因に帰属させること。ある事柄の原因を特定の原因に帰属させる帰属過程がどのように行われるのか理論化したもの)でも有名です。

Heiderは、人間の行動は基本的に能力や意思などの内的な要素と状況や偶発性などの外的な要素の二つに帰属することが可能であり、行動はこれら内的要因と外的要因が相互に関係していると論じました。

対象となる人物の内面に原因があると推論する場合を内的帰属、社会的・物理的環境や課題自体あるいは運・不運のような対象となる人物の外部に原因があると推論する場合を外的帰属と言いますが、そうした考え方を創案したということですね。

これらを踏まえれば、バランス理論が「高齢者の適応に関する理論」ではないことがわかりますね。

以上より、選択肢④は不適切と判断できます。

⑤ 補償を伴う選択的最適化理論

選択最適化補償理論(補償を伴う選択的最適化理論)はSOC理論と呼ばれ、Baltesが提唱した高齢期の自己制御方略に関する理論です。

この理論では、加齢に伴う喪失に対する適応的発達のあり方として、獲得を最大化し、喪失を最小化するために自己の資源を最適化すると主張されています。

すなわち、若い頃よりも狭い領域を探索し、特定の目標に絞る(選択)、機能低下を補う手段や方法を獲得して喪失を補う(補償)、そして、その狭い領域や特定の目標に最適な方略を取り、適応の機会を増やす(最適化)とされています。

具体的には以下の通りです。

  • 喪失に基づく目標の選択(Loss-based Selection):若い頃には可能であったことが上手くできなくなったときに、若い頃よりも目標を下げる行為を指す。
    例:ボーリングで120取れていたけど、80を目標にしよう!
  • 資源の最適化(Optimization):選んだ目標に対して、自分の持っている時間や身体的能力といった資源を効率よく割り振ることを指します。
    例:週に3回はボーリングに行っていたけど、週に1回に減らそう。
  • 補償(Compensation):他者からの助けを利用したり、これまで使っていなかった補助的な機器や技術を利用したりすることを指します。
    例:自分でボーリングに行っていたけど、息子に送ってもらおう。

上記の頭文字を取って「SOC理論」とされています。

この理論は心理学的なサクセスフル・エイジングを説明する理論であり、目標を最適化した上で、喪失した能力などを見極め、それを補う方策を講じながら生きることで、幸福な高齢期が実現するという考え方ですね。

以上のように、補償を伴う選択的最適化理論とは「高齢者が目標調整、変更しながら、今ある身体的・認知的資源を使い、少しでも喪失以前の状態に近づこうとする方略」を指し、本問の「高齢者の適応に関する理論」であることがわかりますね。

よって、選択肢⑤が適切と判断できます。

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