公認心理師 2023-14

子どもに対する鏡像認知課題を通して把握される心理的特質に関する問題です。

情動の発達プロセスに関する問題ですね。

問14 子どもに対する鏡像認知課題を通して把握される心理的特質として、最も適切なものを1つ選べ。
① 自己愛
② 自己意識
③ 自己概念
④ 自己評価
⑤ 自伝的記憶

解答のポイント

子どもの情動発達プロセスを把握している。

選択肢の解説

② 自己意識
④ 自己評価

鏡像認知とは、個体が鏡に映った像を自己のものだと認識することで、20世紀後半にヒトの乳幼児やチンパンジーを対象にした実験的な研究が始まり、現在ではその方法が定着しています。

ミラーテスト、マークテストとも呼ばれ、ヒト乳幼児を対象にした鏡像認知課題では、口紅などをつけるのでルージュテストと呼ばれることもあります。

1970年に心理学者のゴードン・ギャラップJrが開発した動物の行動研究であり、人間以外の動物が視覚的な自己認知の能力を持っているかどうかを確かめるための手段として用いられています。

古典的な鏡像認知課題(ミラーテスト)では、研究の対象となる動物に麻酔をかけ、通常自分では見る事のできない体の部位に、塗料やステッカーなどのマークを付け、その後、動物が意識を回復すると、鏡を見られる環境に移されます。

その動物がマークに触れたり、調べるなどすれば、その動物は鏡に映った像を、自分以外の動物ではなく、自分自身であると受け取った証拠であると見なされるわけです。

人間の子どもを対象に行われる鏡像認知課題では、化粧用のルージュを使い(だからルージュテストと呼ばれる)、被験者である子どもに気付かれないように、顔に点を付けます。

その子どもは、鏡の前に置かれ、どのような反応をするかが観察されるわけですが、子どもの発達の段階によって様々な反応が見られます。

生後6ヶ月から12ヶ月の子供の場合、鏡像を「仲の良い遊び相手」であると見做すのが普通で、生後12ヶ月になると自尊心と恥が見られるようになり、生後14ヶ月から20ヶ月ではほとんどの子どもが回避的行動を示すようになります。

生後18ヶ月にして漸く半数の子どもが鏡像を自分自身であると認知し、生後20ヶ月から24ヶ月までには65%に上昇します(子どもが自分の鼻を触ったり、ルージュを拭い取ろうとするなど、マークに起因する行動を示すことがその根拠とされる)。

こうした鏡像認知課題(ルージュテスト)は自己の概念の評価基準となるとされており、鏡を見て鼻に塗ってあるルージュに触れる子どもは、自己認識を理解できる基礎的能力を持っているを意味します。

1歳半ばになると自己意識が芽生えるとともに、自分が他者に見られていることを認めることで生じる照れという情動が出現するとされ、Lweisらは生後22か月児を対象にルージュ課題を用いて自己意識と照れの関係を調べ、鏡像認知ができる子どもの方が照れの反応を示し、照れが自己意識の成立によって生じてくる可能性を示唆しています。

ルイスらは更に、自己意識の成立とともに、対象の物や性質が他者にはあって自分には存在しないことを意識することが可能になって「羨望」という情動が出現すると考えました。

2歳頃になると、どれが自分の物で、どれが他者の物かという知識を持っているかのような振る舞いを見せますが、研究者によってはこれを自己意識の指標の一つとしています。

日常の子どもの姿からすれば、自己意識の成立と照れ、羨望の出現は関係しているように見えますが、残念ながら確たる証拠はまだ存在しないので、鏡像課題が自己意識の表れと見なすのは尚早であるという研究者もいて、決着が付いていないところです。

なお、自身の能力、性格、態度、興味・関心などに関し、自身の内省に基づいて行う評定を自己評定と呼び、児童生徒が自己評定の結果に基づいて行う値踏みを自己評価と呼びます。

こうした自己評価は、自己意識的感情の生起に必要だとされており、Eisenbergは、恥や罪悪感、困惑や誇りなどが、自己の理解と評価が重要な位置を占めている自己意識的感情であると述べています。

これらは2歳過ぎに出現する二次的情動であり、親など他者から叱責や賞賛を受けて、あるいは自ら取り込んだ基準やルールに基づいて、自分の行動の良し悪しを評価する能力が出てくる時期であり、こうした発達に伴って恥、罪悪感、誇りといった情動が出現するわけですね。

人間が発達していく中で、こうした自己意識的感情を獲得するには、客体的自己知覚や基準・規則・目標などを認知できる能力が必要であると言えます(だから2歳過ぎに生じてくるということ。自己意識よりもちょっと後ですね)。

選択肢④の「自己評価」については、鏡像認知課題で認められるものではありませんが、そういう点で間接的に関わりがあると言えるでしょう。

さて、選択肢②の「自己意識」とは、外界ではなく自分自身に向けられる意識のことであり、向けられる自己の側面によって、他者が観察できる自己の外面(容姿や振る舞い方など)に向けられる「公的自己意識」と、他者から観察できない自己の内面(感覚、感情、思考など)に向けられる「私的自己意識」に分けられます。

自己に対する注意の向けやすさの個人差以外の自己意識に関する研究として、発達的視点から自己意識の形成過程に着目する研究や、自己意識に基づいて生じる社会的感情(羞恥心や罪悪感など)に着目する研究が挙げられ、本問の鏡像認知課題はこれらに関するものになりますね。

以上のように、鏡像認知課題は自己意識(意識の対象や焦点が自分自身にあること)の把握が可能なものであると言えますね。

よって、選択肢③は不適切と判断でき、選択肢②が適切と判断できます。

① 自己愛
③ 自己概念
⑤ 自伝的記憶

他の選択肢は鏡像認知課題で把握するものではありませんので、まとめてそれぞれの概念について簡単に述べていきましょう(ただ、正解である「自己意識」と関連させられるところはさせながら述べていきます)。

選択肢①の「自己愛」とは、簡単に言えば「自分自身を愛情の対象とすること」であり、フロイトは一次的自己愛(赤ん坊が自分の身体の一部を愛情対象とする自体愛の時期から、他者を認識し、愛情対象とする対象愛への中間に位置する過渡的な段階)と二次的自己愛(対象愛の段階になった後でも、リビドーが対象から撤収され、再び自我に向けられる状態)に分けて論じています。

つまり、フロイトは自己愛の状態から対象愛の状態へという発達の方向が、健全な初期発達であると考えており、自己愛的な人は乳児期くらいの発達初期の状態に留まっている人だと考えたわけです。

これに対し、Balintは、自己愛は常に二次的なものであり、一次的自己愛の存在を否定し(彼は精神の最初の働きとして受身的対象愛=甘えがあるとした)、自己愛の状態とは「愛されたいという欲求が満たされないときに、仕方なく自らを愛するというもの」と考えたのです。

バリントの考え方では、他者から愛されない、好意を持たれないということが、自己愛の状態になる原因と見なしていたということですね(小此木も、この考えを引用し、親からの受身的対象愛が満たされなくなるために、青年期には自己愛が高まるとしている)。

なお、自己愛は否定的な面ばかりではなく、これが存在することで自己尊重や自己形成につながる役割を果たすという見方もあります。

こうした自己愛の健康的な側面に注目し、治療の道筋を示したのがコフートですね。

自己愛に対する考え方、治療法の違い等を細やかに述べているのがギャバードの上記の書籍になります(特にコフートとカーンバーグの相違を重点的に記述していますね)。

自己愛がどの段階から存在するのか、人間に生まれながら付与されている特徴なのか、はたまた不穏な状況への反応として生じるのか、その辺は決着が付いていないというのが実際のところでしょう。

いずれにせよ、自己愛と鏡像認知課題とは関連が薄いということは間違いないです。

以上より、選択肢①は不適切と判断できます。

選択肢③の「自己概念」とは、ある程度抽象化され、構造と統一性をもった自らの性格、能力、身体的特徴などに関する認知および信念の総体で「自己観」ともよばれます。

自己概念が、持続性のある自分の本質として「概念化された自己」であるのに対して、そのときどきの自分の姿について自ら描いた像を「自己像」(自己イメージ:self-image)と称する場合もあります。

自己が立ち現れてくる過程は「自己過程」とよばれ、①自己の姿への注目、②自己の姿の把握、③自己の姿への評価、④自己の姿の表出、の4段階に整理しました。

この流れで言うと、正答である「自己意識」は上記の第1段階に該当するということになりそうですね。

自己概念はこの第2段階に該当し、厳密には自己についての評価を伴わない認知や信念ということになりますが、実際には把握と評価の過程は不可分です。

自己概念は、発達に伴って、身体的特徴など具体的で未分化なものから、内面性などより抽象的でかつ多様な内容へと変容していくが、特に青年期には親密な友人への同一視を通して、新たな自己概念が形成されます。

以上より、選択肢③は不適切と判断できます。

選択肢⑤の「自伝的記憶」とは、個人が自分の人生を振り返って想起するエピソードを指し、典型的には「あるとき」「ある場所」で起きた自己に密接にかかわる特定性の高い出来事の記憶を指します。

エピソード記憶の一種とみなすことができるが、自伝的記憶はもう少し幅広い概念として捉えられており、例えば、時期を特定できないが「A君とよくー緒に遊んだ」とか、具体的な内容を思い出すことはできないが「秋には毎年運動会があった」といった概括的な(特定性の低い)出来事の記憶や、複数の経験から抽象化された「小学生の頃は恥ずかしがり屋だった」といった記憶も自伝的記憶と見なされます。

自伝的記憶の機能としては、①自分が何者であるかというアイデンティティを定義する、②他者にエピソードを開示することによって人間関係を構築する、③過去の成功・失敗経験をふまえて、現在の思考や行動を方向づけるといった役割があるとされています。

自伝的記憶の性質やいつ頃のどのような出来事が記憶されているかを調べるために、手がかり語法、面接によって人生を語ってもらうライフストーリー法、日誌法などが用いられます。

このように見てみると、正答である「自己意識」に比べて、「自伝的記憶」にはアイデンティティの定義などより高次の発達が求められていることがわかりますね。

また、鏡像認知課題の手続きを知っていれば、自伝的記憶を把握するためのものではないことがわかるはずです。

以上より、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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