公認心理師 2023-80

バランス理論にもっとも関係が深い人物を選択する問題です。

ル・ボンが出題されましたね。

問80 バランス理論に最も関係が深い人物として、正しいものを1つ選べ。
① A. Binet
② F. Heider
③ G. Le Bon
④ J. B. Watson
⑤ S. E. Asch

解答のポイント

示されている各人物の概要について把握している。

選択肢の解説

① A. Binet

Binetは知能検査の創案者として知られています。

それぞれの人の知能を客観的に測って、客観的に表す「ものさし」があれば、非常に便利なことは想像し易いと思います。

フランスではBinetが、知的障害児を選別するための鑑別法を編み出そうとしていました。

順序をでたらめに並べた数字の列を記憶させるとか、正方形やひし形を模写させるとかの検査項目を児童にさせてみました。

ビネーは、それからさらに、精神医学者のシモンと協同で、自分の考案した検査問題の多くの児童にやらせてみたところ、ある問題では正答する子どもの数が多いのに、ある問題では正答できる子どもの数が減ってくることに気づきました。

そこで、多くの子どもが正答を与えることができる正答率の高い問題から、少しの子どもしか正答を与えることのできない難しい問題を順番に並べ、どこまで正しく答えるかを見れば、その子どもの「知能」が測れるだろうと考えたわけです。

当時のパリの教育委員会では、公立学校で、知能程度が大体等しい児童を集めて学級を編成すれば、教育する上で効果が上がるのではないかと考えて、その方法を考案するようにビネーに委嘱しました。

そこで、ビネーとシモンは、容易な検査問題から難しい検査問題までを選定して「知能検査」を作り上げたわけですが、これが、世に現われた最初の知能検査法で、今から100年以上前の1905年のことになります。

このビネー式知能検査の成功は、ドイツ、イギリス、アメリカでも認められ、それぞれの国で改訂が行われました。

その中で有名なのが、アメリカのスタンフォード大学でターマンによって行われた改訂です。

ターマンは、ビネーよりももっと多数の児童・成人について、問題を一つひとつ再検討し、1916年にこれを「スタンフォード・ビネー改訂知能検査」として発表しました。

この改訂版は1937年と1960年に、更に改訂を加えられ、世界各地で知能検査の普及に貢献しました。

上記の通り、Binetは知能検査を創案したことで有名な人物であり(他にも「フェティシズム」という言葉で性的傾向を表現することを提唱などあるけど、有名なのはとにかく知能検査について)、バランス理論とは無関係と言えます。

以上より、選択肢①は誤りと判断できます。

② F. Heider

認知的斉合性理論(人間の身体には不均衡状態が発生すると、自発的に均衡状態を回復しようとする機能(恒常性)が備わっている。人間の認知システムにもこのような恒常性が備わっていると考える理論のこと)の1つで、Heiderが提唱したのがバランス理論です(ちなみに、フェスティンガーの認知的不協和理論も認知的斉合性理論の一つです)。

バランス理論はX-O-P理論とも呼ばれ「対象人物もしくは知覚者(P)‐特定他者(O)‐態度対象(X)」の三者関係の斉一性を考えており、他者存在が態度形成に関与する可能性を指摘しています。

上記で言う「三者関係」とは、P‐O、P‐X、O‐Xの関係を指し、肯定評価(+)と否定評価(-)を表す情緒関係と、所有(所属)を表すユニット関係を想定しています。

図で示すと以下のようになります。

この理論は、人は単純で一貫した意味ある社会関係に動機づけられており、三者関係がゲシュタルト心理学的に斉合した均衡状態を志向すると考えます。

情緒関係での均衡は、特定人物が肯定的関係にある他者と態度対象に対し合意する場合、もしくは否定的関係にある他者と態度対象に対し、合意しない場合に達成され、否定的関係が0か2になります。

不均衡状態は、否定的関係が1または3になることで生じます。

不均衡状態になれば不快感が生じるため、人はこの不快を解消するように動機づけられ、最小努力で均衡が実現するように行動するわけです。

上記は理論的に書いてありますが(試験ではこういう出方をするので、こうした表現にも慣れ、覚えておかねばならない)、単純に言えば以下のようになります。

上記の図にある通り、自分と恋人と煙草の関係で考えていきましょう。

自分と恋人の関係が肯定的(+)であり、その両者が煙草に対して肯定的(+)もしくは否定的(-)であれば、その関係は均衡(バランス)状態であるため、不快感は生じないため、この三者関係を変えようとする力は働きません(上記の「否定的関係が0か2」というのは、-の数の話です)。

逆に、自分と恋人の関係が否定的(-)の時に、互いが煙草に対して肯定的(+)もしくは否定的(-)であると、「嫌いな人と煙草に対する情緒態度が同じ」という気持ちが悪い状態になる、すなわち不均衡(アンバランス)になるので、態度が変えようとする力が働くということですね(煙草が好きなら嫌いになり、嫌いなら好きになって吸い始めるとか)。

他にも、自分と恋人との関係が肯定的(+)で、自分は煙草が嫌いなのに(つまり、P-Xが否定的(-)である)、恋人が煙草を吸っている場合(つまり、O-Xの関係が肯定的(+)である場合)、不均衡状態が生じて気持ち悪くなります。

こういう時に起こるのが「痘痕も靨(好きな人のあばたは、えくぼに見える)」と呼ばれる現象で、単純に言えば、それまで自分が嫌いだった煙草に対して認識が変わって好きになるということです(これが上記の「最小努力で均衡が実現するように行動する」ということの意味です)。

単純に言えば、三者の+と-をすべて掛け合わせて、+になればバランス状態、-になればアンバランス状態なので変えようとする力が働くということです。

ちなみにHeider=ヘイダーとして、塀の上でバランスを取っているイメージで私は覚えています。

上記のバランス理論の他にも、Heiderは1960年代から1970年代にかけて数多くの関連研究を生み出した帰属理論(本来あいまいなはずの因果関係を特定の原因に帰属させること。ある事柄の原因を特定の原因に帰属させる帰属過程がどのように行われるのか理論化したもの)でも有名です。

Heiderは、人間の行動は基本的に能力や意思などの内的な要素と状況や偶発性などの外的な要素の二つに帰属することが可能であり、行動はこれら内的要因と外的要因が相互に関係していると論じました。

対象となる人物の内面に原因があると推論する場合を内的帰属、社会的・物理的環境や課題自体あるいは運・不運のような対象となる人物の外部に原因があると推論する場合を外的帰属と言いますが、そうした考え方を創案したということですね。

以上のように、本問のバランス理論にもっとも関係が深い人物として、選択肢②のHeiderが正しいと判断できます。

③ G. Le Bon

G. Le Bon:ギュスターヴ・ル・ボンは、群衆の中の人々が示す心理状態である「群集心理」の研究を開始した人物です。

群集心理の特徴として、①全員が同質視され、個人は大勢の中に埋没して匿名性が高まり、自己の言動に対する責任感と個性が消失すること(没個性化)、②暗示にかかりやすくなり、感情や思想が同質化すること、③感情に直接働きかける訴えが無批判に受け入れられ、論理的な示唆は軽視され、暗示された思想を短絡的に行動に移す非論理性が高まることなどが挙げられています。

ル・ボンは、破壊活動を目撃したことを切っ掛けに関心は社会心理学へと向かい、その群衆心理学は、20世紀前半における社会心理学に大きな影響を及ぼすまでになりました。

1895年に著した「群衆心理」によってル・ボンは心理学者としての名声を確かなものとし、同書の中で「今われわれが歩み入ろうとしている時代は、群衆の時代である」と論じました。

上記の通り、ル・ボンは群集心理の創始者として有名な人物ですが、バランス理論とは関連のない人物になります。

よって、選択肢③は誤りと判断できます。

④ J. B. Watson

ワトソンは、アメリカの行動主義心理学の主唱者です。

少年時代はなかなかのならず者で、拳銃を撃って傷害事件を起こすほどでした。

最初に入った大学を辞めてシカゴ大学に入学し直したり、動物心理学で哲学博士の学位を得るなど異色の経歴を持ちますが、優秀だったのは間違いなく自身が設立した動物心理学実験室で研究を次々に行い、1908年には高額の年棒と優れた実験設備をもってワトソンを助教授として大学に迎え入れられました。

ワトソンは1912年にキャッテルに招かれてコロンビア大学で「行動主義者が考えているような心理学」という表題で講演を行い、それが研究誌に掲載されました。

これが「行動主義」という言葉が表に出た最初です。

ワトソンは、心理学は人間の行動を扱う自然科学の一分野であると考え、その目的は行動の予測と統制で、研究対象は観測可能な物理刺激に対する有機体の筋運動、腺分泌、それらによって引き起こされた環境の変化であるとしました。

それまでの心理学では、その対象は「意識」とするのが常識でしたが、これは仮定にすぎないものであり注意するに値しないというのがワトソンの主張で、これは若手の心理学者たちから強い支持を受けて、37歳という若さでアメリカ心理学会の会長に選出されました。

ワトソンの理論は、スキナー、ハル、トールマンなどの新行動主義に発展的に継承されたり、ウォルピやアイゼンクなどの行動療法の創始にも大きな影響を与えるなど、各方面に絶大な影響力をもっていました。

その後、ワトソンはパブロフの研究から理論を発展させていきましたが、さまざまなスキャンダルや研究倫理の問題を起こし、大学から罷免されました。

しかし、そこから実業家として財をなし、その傍らで心理学の研究を再開するなど波乱に満ちた人生を歩んだ人です。

このようにワトソンは行動主義に関連する重要人物ではありますが、バランス理論とは関連のある人物ではありません。

以上より、選択肢④は誤りと判断できます。

⑤ S. E. Asch

Aschでまず有名なのは同調行動に関する実験および理論ですね。

集団に所属すると、ときには自分自身の意見や信念を曲げて、多数派に従ってしまうことがありますが、これは集団への同調と呼ばれる現象です。

これを実証した有名な研究がAsch(1951)の線分の長さを問う実験です(あっし(Asch:アッシュ)も「これで」と同調行動、と覚えましょう)。

多くの人が正答以外を指差している場合、間違った方を選んでしまうという研究です(全体の32%くらい。絵では35%となっていますけど)。

同調が生じる状況要因としては、集団凝集性が高い、集団が大きい(5~6人以上は大差がないとされているが)、集団内での地位が低い、などによって同調が増大するとされています。

また、多数者側が全員一致していることが重要で、1人でも正解を表明する成員がいると同調は激減します。

更に、個人的要因も絡んできて、自尊心が低かったり親和欲求が強い人は同調を生じさせやすいとしています。

また、Aschは印象形成の分野でも有名な人物です。

Aschによって印象形成に関する重要な2つのことが明らかになっており、その一つは中心特性・周辺特性の存在です。

個人が持つ様々な特性の中には個人の全体的な印象に大きな影響を与える「中心特性」と、全体的な印象にさほど影響を与えない「周辺特性」が存在しているということを明らかにしたわけです。

実験では「知的な→器用な→勤勉な→あたたかい→決断力のある→実際的な→用心深い」という順番で特性語が提示されたわけですが、別の群に対しては特性語の「あたたかい」が「つめたい」に置き換えられて提示されました。

すると、前者と後者では形成される印象が大きく異なり、前者の参加者はそのような特性を持つ人物を肯定的に、後者の参加者は否定的に評価したわけです。

この結果は、印象が形成される際には個人が持つ個々の特性を単に足し合わせたものではなく、全体として見たひとつのまとまりとして印象が形成されるということを明らかにしました。

もう一つは提示順序によって印象が異なってくるということがAschによって明らかにされています。

アッシュの実験では「知的な、勤勉な、衝動的な、批判的な、頑固な、嫉妬深い」といった特性語を「知的な」から右へ順番に提示した場合と、「嫉妬深い」から左へ順番に提示した場合では形成される印象が異なりました。

前者ではポジティブな印象が形成され、後者ではネガティブな印象が形成されたわけですが、これは、最初に認識した特性語がその後の印象形成に大きな影響を与えたためであると考えられており、これが「初頭効果」と呼ばれます(ちなみに、初頭効果は他の領域でも言われる概念ですから、「印象形成における初頭効果」と表現する癖をつけておくと良いです)。

以上のように、Aschは印象形成や同調行動で有名な研究者であり、バランス理論とは関連の無い人物になります(社会心理学の重要人物なので、その点では関連があると言えなくもないですね)。

よって、選択肢⑤は誤りと判断できます。

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