公認心理師 2023-87

説明に合致する理論を選択する問題です。

オーソドックスな形式の問題ですが、初出の理論がいくつか見られますね。

問87 個人特有の認知的な枠組みに従い、環境の解釈と事象の予測を行い、自らの行動や環境を統制すると仮定している理論として、最も適切なものを1つ選べ。
① 相互決定論
② 暗黙の人格理論
③ 社会的情報処理理論
④ 心理性的発達段階理論
⑤ パーソナル・コンストラクト理論

解答のポイント

各選択肢の理論の概要を把握している。

選択肢の解説

① 相互決定論

相互決定論(総合決定主義とも呼ぶ)は、心理学者Banduraによって提唱された社会学習理論の概念の一つです。

行動主義者は、個人の行動をほぼ完全に形作ったのは環境であると示唆しましたが、Banduraは個人・行動・環境の間の双方向の関係の重要性を説きました。

相互決定論では、個人の要因(個人の認知、感情、性格など)、環境の要因(環境や社会的な刺激)、および行動の要因との相互作用によって形成されると捉えます。

「行動」「環境」「個人」の3つの要因は、相互に影響を与え合い、互いの決定因子になるという考え方を指し、環境は人の考え方や感じ方に影響を与え、それが行動に影響を与え、環境に影響を与えるという捉え方です。

こうした相互決定論の考え方においては、人々が自分の環境で経験することによって確かに影響を受ける一方で、自分の選択や行動を通じて自分の状況や状況に変化をもたらす力も持っていることを示唆しており、これが自己効力感の概念へとつながっていきます。

これらの説明は、本問の「個人特有の認知的な枠組みに従い、環境の解釈と事象の予測を行い、自らの行動や環境を統制すると仮定している理論」に合致しないことがわかります。

以上より、選択肢①は不適切と判断できます。

② 暗黙の人格理論

Brunerらによって提唱された、性格特性同士の結びつきに関する素朴理論(科学的根拠のない判断の枠組み)のことを指します。

この枠組みが対人認知において、特定の性格特性を示す情報から、ターゲット人物に関わる他の性格特性についての効率的な推測を可能にしていると考えられます。

日常経験を通じて暗黙裡に獲得されるため、個人特有の対人認知構造として機能するが、共通した一般構造も想定されています。

具体的に言えば、血液型性格論が代表であり、それ以外にも各種ステレオタイプが該当すると言えます。

こうした暗黙のうちに自動的に処理されるパーソナリティ観およびそれを他者認知に利用しているということを示した理論を「暗黙の人格理論」と呼ぶわけですね。

ちなみに、上記にある通り、人は自身の「暗黙のパーソナリティ」を用いて他者を判断しますが、それは人によって異なるとされており、例えば、「真面目」という言葉から「誠実」と判断する人はその人を信頼するでしょうが、「融通が利かない」と判断する人は何かを任せることを躊躇うでしょう。

多次元尺度構成法を用いた研究からは、社会的善悪にかかわる社会的望ましさの次元と、知的能力にかかわる知的望ましさの二次元が見出されています。

これらの説明は、本問の「個人特有の認知的な枠組みに従い、環境の解釈と事象の予測を行い、自らの行動や環境を統制すると仮定している理論」に合致しないことがわかります。

よって、選択肢②は不適切と判断できます。

③ 社会的情報処理理論

他者の中で生きているのであれば、周りにいる人の話すことや振る舞い、気持ちや意図など社会からの情報、社会的手がかりを受け取り、読み取り、反応しているはずであり、この一連のプロセスを「社会的情報処理」と呼びます。

Dodgeにより考案された測定可能なオンラインの情報処理モデルであり、以下の6つの段階があるとされています。

  1. 外部手がかりと内部手がかりの符号化
  2. その手がかりの解釈と心的表象化
  3. 目標の明確化または選択
  4. 応答へのアクセスまたは応答の構成
  5. 応答の決定
  6. 実行

この6つのステップを通して、人は日常生活において社会事象に対して何らかの対応をするとされており、その対応行動のためには、現在目の前にしている新規情報だけでなく、過去から蓄積された多様な情報や経験なども活用しています。

この対応行動は、上記の6ステップのそれぞれの段階において、大きな個人差が存在すると考えられ、各ステップにおいての情報処理が適切になされなければ、人は不適切な対人行動や不適応を生じることになります。

例えば、向こうで誰かが笑っているのを「楽しそうだなぁ」と捉えるのと、「自分のことを笑っている」と捉えるのでは、その後の行動・認知が変わってくるのは当然のことと言えますね。

Dodgeのモデルでは、上記1~6に連なるサイクル(円環)の内側に「データベース」があり、これは相互に関連した情報を蓄積、整理、検索しやすくしたもので、データベースには社会生活上必要となるルール、過去経験の蓄積であるスキーマ、知識などが含まれます。

このように、このモデルでは情報処理段階を分類する上で、過去経験により内的表象として体制化された潜在知識構造(たとえば記憶貯蔵、獲得されたルール、社会的スキーマ)と、より直接的に行動を規定するオンライン処理(たとえば手掛かりの処理、目標分類、反応決定)が明確に区別されています。

ある社会的状況に直面する際に、その状況にある社会的手がかりを知覚、符号化、表象することで解釈を行い、その解釈に照らし合わせて適切だと考える反応を潜在的知識構造の中から検索し、その中の最も有効と思われる反応を決定・実行することになるわけです。

この社会的情報処理モデルによると、攻撃行動や向社会行動などの社会的行動は、外部から得た情報の認知、解釈とそれに応じた行動の意思決定プロセスを含む一連の認知的ステップを通して実行されるということになります。

つまり社会的な情報はその場面の応じた最適な行動を決定するために、長期にわたって保持された経験や考え、記憶の集合体で形成された潜在知識データベースを基にして、オンラインで処理されることになる。

例えば、人を殴ってはいけないという規範であったり道徳性を強く持っている人は、もし自分に不利な状況や欲求不満場面でも、暴力による解決を選択しないことが予想されますが、自分が何らかの不利益を被るときは、人を殴っても仕方ないという知識構造を持っていた場合には、そうでない人と同じ欲求不満場面に遭遇した時に人を殴ってしまう可能性は高くなるわけです。

このように基本的には、潜在知識構造が状況や対象に依存したオンライン処理にエラーやバイアスを生じさせることで、間接的に反社会的行動に影響を及ぼすというプロセスを経ていると考えられています。

これらの説明は、本問の「個人特有の認知的な枠組みに従い、環境の解釈と事象の予測を行い、自らの行動や環境を統制すると仮定している理論」に合致しないことがわかります。

以上より、選択肢③は不適切と判断できます。

④ 心理性的発達段階理論

フロイトは心の発達を心的エネルギーであるリビドーとの関連で論じており、各発達段階に特徴的な性格傾向があることを見出しており、この考え方を「心理性的発達段階理論」「精神性発達論」などと呼びます。

人間は、視温帯の発達に伴って段階ごとに敏感になり、快感を感じる身体器官が存在し、それぞれ、口・肛門・性器がその対象になります。

各段階に特徴的な防衛機制が仮定されており、これが段階ごとの性格傾向を特徴づけるものとされています。

発達の過程で欲求の過度な満足あるいは不満によって「固着」が起こるとされており、固着が起こる発達段階を固着点と呼びます。

どの人にも特有の固着点が存在し、その発達段階に特有の防衛機制が多く用いられることで特有の性格傾向が形成されると考えられています。

用いられる防衛が現実に対して不適切だったり極端な場合には、それが症状として顕在化するため、特定の精神障害はそれぞれ相当する固着点をもつと考えられています。

以下では、各発達段階について簡単に解説していきましょう。

  1. 口唇期:生後~1歳半
    授乳や食物摂取に伴う唇、口腔、その周辺のリビドー興奮が性的な快感と結びつくとされている段階。吸い付く、飲み込むなどが中心になる早期の口唇期と、歯が生えることで噛みつくが優勢になる口唇サディズム期の2つに分かれる。
    この時期に特有の防衛機制は体内化、取り入れ、投影、否認があり、この時期に固着点がある人を「口唇性格」と呼ぶ。
    赤ん坊が何でも口に入れ、なめたり噛んだりすることで物=外界を知ろうとしたり、不快なものを吐き出して拒否する具象的な活動と精神内界の活動とが類似していることがわかる。
  2. 肛門期:1歳~3歳
    トイレットトレーニングの時期に相当し、身体的に肛門括約筋のコントロールが可能になると共に、心理的にも「ためこむ‐放つ」ことが中心的なテーマになる。また、一人で歩いて移動できるようになるなど自由と主体性が増す一方、親をはじめとする社会の要請に従う必要が生じる時期でもあるため「自律性の獲得‐社会や価値規範への従順」も重要な課題になる。この時期の子どもにとって大便は、親への贈り物(初めて自分でうんちができたら、親はめっちゃ喜ぶから)である一方、汚れた攻撃の手段として体験されるため、「決められた(期待された)形でうんちをして親に褒められたい‐ウンチをぶちまけて汚し、親を困らせたい」という矛盾する願望を同時に持つことになる。こうした両価性は、肛門期に特徴的な心理であると言える。
    この時期に固着があると肛門性格とされ、特有の防衛機制として反動形成、打ち消し、隔離、知性化がある。
  3. 男根期:3歳~5歳
    この時期を男根期またはエディプス期と呼ぶ。社会的にも性差について言及されることが多くなる時期だが、性器領域の刺激、興奮に没頭し、小児自慰が見られるのもこの時期である。
    この時期の重要な概念としてエディプスコンプレックスがあり、異性の親に愛情を向けて同性の親を憎み殺したいと願うこと(エディプス願望)、またはそこで派生する同性の親から処罰を受ける不安(去勢不安)、異性の親を手に入れることからくる罪悪感など、「父、母、子」の三者関係をめぐってさまざまな情緒が入り乱れるさまを指します。最終的には、父親への愛情が憎しみに勝ることで、母親を手に入れたいという分不相応な願望を放棄し、「両親に愛される子ども」として、愛情を感じる父親に同一化し、内在化することで、主体性を発揮できるようになることが期待されます。この過程で、自分の願望を社会的な善悪の価値観に照らして判断することを身につけ、価値基準を司る超自我が形成されるため、非常に重要な段階といえる。
    この時期に特徴的な防衛機制は、退行、抑圧、合理化、置き換えとされている。
  4. 潜伏期(6歳~12歳)と性器期(思春期以降)
    6歳頃になると性的な興奮が目まぐるしく続いた時期が一旦収束を見せ、この時期は潜伏期と呼ばれる。内的なリビドーの動きに翻弄されることが減り、外的環境においては義務教育が始まっていく。認知機能や身体的能力の発達に伴い、外界への興味が増すと同時に、仲間の中で多くのことを学ぶ時期になる。この時期に獲得される防衛機制は昇華とされ、最も適応的な防衛とされている。潜伏期には固着という概念はなく、これまでの段階を経てすでにその人の固有のパーソナリティの中心部分は形成されていると捉える。
    思春期に入ると、第二次性徴をはじめとした身体的発達に伴い、再度内的リビドーが活発になる。この時期には、それまでの部分に特化した性欲(部分性欲)と異なり、性器を中心としたものに組織化される(性器統制)。これは相手をひとまとまりのまとまった人間として感じ取れるようになり、相互に責任をもった交際が可能になり、それによって次の世代を育てる準備が整うことを指す。この時期を性器期と呼び、成熟した大人の状態を指す。

こうした段階を経て発達していくことをフロイトは示したわけですね。

これらの説明は、本問の「個人特有の認知的な枠組みに従い、環境の解釈と事象の予測を行い、自らの行動や環境を統制すると仮定している理論」に合致しないことがわかります。

よって、選択肢④は不適切と判断できます。

⑤ パーソナル・コンストラクト理論

Kellyは物理学と数学の学士を取得後、教育社会学の修士課程を修了、その後心理学への系統を深めました。

学生の頃に、当時隆盛だったS-R理論の考え方に疑問を抱き、環境刺激による一般的な行動の変化よりも、体験の捉え方の個人差や、人それぞれの行為そのもの、あるいは行為を行った理由を説明することが重要であると考えるようになりました。

パーソナル・コントラスト理論は、ケリー自身の豊富な臨床体験の中から、こうした発想をもとに独自の概念を用いて構築された理論です。

ケリーは、我々の住む世界の実在性、継時性、完全性を仮定した上で、基盤となる哲学的な前提としてコンストラクティブ・オルタナティビズム(constructive alternativism)と呼ばれる概念を設定しました。

これは、我々を取り囲む現実が「そのままの形で受け取られるばかりではなく、人々が考え付く限りの様々な解釈に従うもの」(Adams-Webber,1979)であること、つまり、同じ現実であってもその解釈は人によって異なることを強調した考え方です。

さらにケリーは、人間は誰もが自分を取り巻く環境を解釈し、予測し、統制しようと試みているとし、その意味で「人間はすべて科学者である」と指摘しました。

彼はこうした人間観をもとに、基本公理とその詳細を規定する11の系から成る「パーソナル・コントラスト理論」を打ち立てました。

基本公理では「人間の処理過程は事象を予測するやり方によって心理学的に規定される」とする考え方が示されています。

そして11の系は以下のようなものが挙げられています。

  1. 構成の命題: 個人は、物事の複製を構成することで物事を予測している。
  2. 個性の命題: 物事の構成の仕方は個々人によって異なる。
  3. 組織の命題: 個々人は、物事をうまく予測するために構成システムを個性的に進化させる。構成システムにはコンストラクト同士の階層関係がある。
  4. 二項対立の命題: 個人の構成システムは、有限数の、二項対立するコンストラクトからなる。
  5. 選択の命題:人間は、二分したコンストラクトのうち、どちらか一方をみずから選び取る。構成システムの明確化と拡大について、より大きな可能性を予測させる方である。
  6. 適応範囲の命題: あるコンストラクトは、もっぱら限られた範囲の物事を予測することに役立つ。
  7. 経験の命題: 個人の構成システムは、物事の複製を構成し続けるなかで変化する。
  8. 調整の命題: 個人の構成システムは、コンストラクトの浸透性(可変性)の制限を受け、その適用範囲内で変化することができる。
  9. 断片化の命題: 個人は、論理的に矛盾するものであっても、さまざまな構成のサブシステムを相次いで適用することができる。
  10. 共通性の命題: 経験の構成の仕方が他者と類似している場合、その程度に応じて、その他者に類似した心理的な変化が生じる。
  11. 社会性の命題:他者の構成の変化を構成する場合、その程度に応じて、その他者を含む社会的状況のなかで、ある役割を演じることができる。

この理論によると、事象の予測には「コンストラクト」が用いられるのですが、これは「現実を眺める透明なパターンあるいはメガネのようなもの」であり、構成体と訳されることもあります(上記の個性の命題になりますね)。

コンストラクトは、具体的には3人の人物のうち2人は似ているが、1人は異なる点として抽出される認知的枠組みであり、「あかるい‐くらい」「うるさい‐しずか」「おいしい‐まずい」「よい‐わるい」などの形容詞的性格をもつ一対の対立概念として表現されます(上記の二項対立の命題を指します)。

そして、コンストラクト・システムでは、まず感覚器から原始的な情報を得ることに始まり、得られた情報はコンストラクトシステム上で意味のある情報に加工されることにより下位のコンストラクトから上位のコンストラクトになっていくとされています(何だか、ピアジェのシェマみたいですね)。

ケリーの考えに従えば、人が保有するコンストラクトの構造や内容を知ることが、その人のパーソナリティを理解することになるわけです。

なお、この理論において、「脅威」とは中核となるコントラクトがまだ十分できあがっていないときに切迫した包括的変化を自覚することであり、「不安」とは重要な出来事が自己のコントラクトシステムでは手の届かないところにあると自覚することです。

また、「罪の意識」とは自分が演じるべき中核的役割をなし遂げることができなかったという自覚であり、「敵意」は自分の社会的予測がすでに外れてしまったにも関わらず、それが妥当である証拠をつきつけようとする試みであるとされます。

このように、パーソナル・コンストラクト理論では、感情をコンストラクトと絡めつつ上記のように意味づけているわけです。

ここまでをざっくりとまとめると以下のようになると言えます。

  1. 客観的には同一の環境であっても、認知の仕方(解釈)は個人によって異なる。
  2. その違いを生んでいるのは、個人のもつ認知的枠組みであるコンストラクトの違いである。
  3. このコンストラクトの構造や内容を理解することが、パーソナリティの理解に他ならない。

ケリーはこうした解釈の差異を生み出す認知的枠組みの体系を「パーソナル・コンストラクト・システム」と呼び、これをパーソナリティと見なしました。

これらをまとめると、ケリーは人間はさまざまな事象を経験し、事象間の類似性や差異を認知し、現象についての概念あるいは構成概念を形成し、これらの構成概念に基づいて事象を予測しようとすると考えたわけです。

しかし、個人は固有の構成概念をもつという点で独自性をもっており、これを「コンストラクト」という表現で示したわけですね(コンストラクトというフィルターを通して、人間は環境の解釈と事象の予測を行っているということ)。

本問の「個人特有の認知的な枠組みに従い、環境の解釈と事象の予測を行い、自らの行動や環境を統制すると仮定している理論」という表現は、こうしたケリーの理論を説明したものになっています。

以上より、選択肢⑤が適切と判断できます。

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