公認心理師 2023-41

共感性の性質や働きに関する問題です。

共感といえばロジャーズが有名どころですが、そこだけを勉強していても解けない問題でしたね。

問41 共感性の性質や働きに関する説明として、不適切なものを1つ選べ。
① 同情と同一の概念である。
② 認知的共感性と情動的共感性に大別される。
③ 他者の理解を深め、円滑な対人関係の形成の基礎となる。
④ 共感性の程度は、他者の情動状態に対する感受性の指標として使われる。
⑤ 他者の情動状態を知覚することに伴って生起する情動反応のことを指す。

解答のポイント

共感性に関する理解を有している。

選択肢の解説

① 同情と同一の概念である。
③ 他者の理解を深め、円滑な対人関係の形成の基礎となる。
⑤ 他者の情動状態を知覚することに伴って生起する情動反応のことを指す。

Eisenbergは、共感性と同情を以下のように区別しています。

共感性とは、相手の情動状態から生じ、その状態に伴ってこちら側に生じるような情動状態です。

相手の情動と一致した代理的な感情経験であり、相手と感情を共にするようなことを指します。

これに対して、同情とは相手の情動の状態についての情動状態であり、それが相手についての哀れみや悲しみ、配慮の感情を作り上げます。

すなわち、同情は相手と同じ情動を感じ取ることを意味しているのではなく、相手あるいは相手の状態に対して感じる感情のことになるわけですね。

アイゼンバーグは向社会的行動をするかしないかといった判断の理由付けを発達的に明らかにしています。

  1. 快楽主義的・自己焦点的指向
  2. 要求に目を向けた指向
  3. 承認および対人的指向、あるいは紋切り型の指向
  4. 自己反省的な共感指向
    (移行段階)
  5. 強く内面化された段階

このように自分の快楽に結びつく考え方から、相手の立場にたった共感的な理由を経て、強く内面化された価値観に基づくものへと発達します。

こうした判断は、ある状況の中で自分がどう行動したらよいかを決定する基本的な枠組みとなり、より高いレベルの判断に裏付けられた向社会的行動になるに従って、安定した節度ある向社会的行動になると言えます。

一般に、共感性の高さは相手の気持ちを考え、相手を思いやる能力の高さを示していますから、共感に基づいた思いやり行動は、視点の異なる様々な人々と関わるための協調的な行動スキルの学習を促すことができ、また、より良好で安定的な対人関係を築くことができるとされています。

それに留まらず、Hoffmanは共感的苦痛が向社会的行動の動機として働くことを示しました。

共感的苦痛とは、誰かが痛みや危険を感じていたり、その他の形での苦痛を感じていたりする現場に立ち会っている場合、こちらが感じる苦痛のことですが、共感的苦痛と向社会的行動とはプラスの関係にあるだけでなく、向社会的行動に先行し、向社会的行動の後には共感的苦痛の強さは低下することが明らかになっています。

これらから、共感と同情は異なる概念であり、共感とは「相手の情動状態から生じ、その状態に伴ってこちら側に生じるような情動状態」「相手の情動と一致した代理的な感情経験であり、相手と感情を共にするようなこと」であると言えますね。

また、共感性が他者理解の増加、円滑な対人関係を築く基礎になることも理解できますね。

以上より、選択肢③および選択肢⑤は適切と判断でき、除外することになります。

また、選択肢①が不適切と判断でき、こちらを選択することになります。

② 認知的共感性と情動的共感性に大別される。
④ 共感性の程度は、他者の情動状態に対する感受性の指標として使われる。

共感は多くの研究者によって様々に定義されていますが、それらを大別すると、認知的理解の側面を強調する定義と情動反応的側面を強調する定義とがあり、前者を「認知的共感」、後者を「情動的共感」と表現します。

認知的共感に近い例としては、Dymond(1949)の「他人の思考、感情、行為のなかに自分自身を想像的に置き換えて、その人のあるがままの世界を構成すること」、Rogers(1957)の「クライエントの私的な世界を、あたかも自分自身のものであるかのように感じとり、しかも、この〈あたかも~のように〉という性格を失わないこと」、岩下(1975)の「自分が主体となった先行経験の表象内容を相手に同一視することを以って為す、他者理解」などがあります。

また、情動的共感に近い例としては、Stotland(1969)の「他人が情動状態を経験しているかまたは経験しようとしていると知覚したために、観察者にも生じた情動的な反応」、Gavrilova
(1975)の「他人と同一視することによって、他人と同じ感情を経験すること」などがあります。

ただ一般的には、「認知的共感」とは相手の情動や感情を自分のものとして写し取ることなく「相手は悲しんでいるのだ」と理解するプロセスを指し、「情動的共感性」とは相手の情動や感情を自分の情動や感情として写し取ることであり、悲しんでいる相手の傍らにいたときに、自分まで悲しくなるといった現象を指しています。

Hoffmanは他者の情動状態の知覚によって他者と似たような内的状態が生じる「情動的共感」と、認知的に相手の状況や状態を理解する「認知的共感」が相互作用するモデルを提唱しており、両者の相互作用が哀れみや思いやりといった高次の共感性を支える基盤であると主張しています。

また、共感性に関する尺度は多く作成されていますが、例えば、「共感プロセス尺度」では、共感性を「他者感情への敏捷性」「視点取得」「感情の共有」「他者指向的反応」の4つの水準を順に辿るプロセスとして考えられています。

「多次元的共感性尺度」では、被影響性、共感的配慮、想像性、視点取得、個人的苦痛の5尺度で構成され、他者指向的な視点取得と自己志向的な想像性には共感性の認知的側面が、それ以外は情動的側面を問題としています。

それ以外にも、共感に関する尺度の中には、他者情動への感受性を因子として組み込んでいるものが見られることからも、共感性と他者の情動状態への感受性との関連は前提とされていることが多いですね(そして、どちらかといえば、情動的共感性と関連しているという知見が優勢ですね)。

このように、共感性は認知的共感性と情動的共感性に大別されるというモデルは確かに存在します。

よって、選択肢②および選択肢④は適切と判断でき、除外することになります。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です