公認心理師 2023-91

「男性はたくましく、女性はやさしい」という固定観念を説明する概念を選択する問題です。

似たような用語が多いので、それぞれの違いを理解しつつ解いていきましょう。

問91 「男性はたくましく、女性はやさしい」という固定観念を説明する概念として、適切なものを1つ選べ。
① ジェンダー・ギャップ
② セクシャル・マイノリティ
③ ジェンダー・ステレオタイプ
④ ジェンダー・アイデンティティ
⑤ セクシャル・オリエンテーション

解答のポイント

示されている用語の意味を把握している。

選択肢の解説

① ジェンダー・ギャップ
② セクシャル・マイノリティ
③ ジェンダー・ステレオタイプ
④ ジェンダー・アイデンティティ
⑤ セクシャル・オリエンテーション

個人的には、こういう2つの用語をくっつけて一つにしたものを、固定的な「用語」として扱って良いか迷うところがあります。

ですので、それぞれの用語について述べておきましょう。

  • ジェンダー=社会的・文化的につくられている性(生物学的な性とは違う)
  • セクシャル=生物学的な性、性的な特徴、性的な行動などを示す広範な語
    ※ジェンダーとセクシャルの違いについては、内閣府のこちらのページをどうぞ。
  • ギャップ=直訳で隙間、ズレ、食い違いなどを表す。その人について自分が持っていた印象と実際の性格に食い違いがあった場合や、一見両立しないと思える二つの面を持っている場合に「ギャップがある」と表現するが、本問の捉え方もこれで問題はないだろう。
  • マイノリティ=ある社会を占める人たちとは違う属性を持った個人やその集団を指す。少数派という意味で用いられるのが正しいが、少数派でいることによる不利益や差別意識も含んだ用語として扱っている人もいる。おそらく後者は適切な使い方ではない。
  • ステレオタイプ=端的に固定概念を指す。多くの人に浸透している固定観念や思い込みのこと。「偏見」や「バイアス」になると、こうしたステレオタイプに感情的に方向づけが加わる(詳しくはこちらをどうぞ)。なので、本問で「固定観念」と表記されている時点で、「ステレオタイプ」と表記されている選択肢が怪しいと思うべき。
  • アイデンティティ=自己同一性。心理学や社会学では「自分は何者なのか」という概念を指す。これが備わっていれば、分が何者であるのかを認識して他者と区別できる状態と言える。「自分は自分であると自覚すること」「連続性のある自己認識を持つこと」「自分の価値を他者に認められること」などを意味する表現である。
  • オリエンテーション=直訳で「ものごとの方向性を定めること」「環境などに順応すること」などを指す。臨床心理士試験の二次試験で「あなたのオリエンテーションは?」と聞かれた時期がありました(今はわからないけど)。要するに、どういう学派の枠組みで心理学を学んできたのか?という意味として答えれば良いのだろうと思います。

これらの意味を知っておけば、だいたいは解けるだろうと思いますが、2つがくっつくと意味合いが変わってくるものもありますので、上記を踏まえた上で各選択肢の用語について簡単な説明をしていきましょう。

  1. ジェンダー・ギャップ:
    男女の違いにより生じる格差のこと。日常の習慣から社会の制度や仕組みにまで、根強く残っている。世界各国の男女格差を測る「ジェンダーギャップ指数」で、日本は世界156か国中125位と格差解消が大きな課題になっている。指数には、女性の方が給料が低い、大学進学率が低いなどの指標がある(ニュースになっていたので知っている人は多いでしょう)。男性だけ加点し、女性に0.8をかけて得点を出す等、医学部の受験でも話題になりましたね(今の時代、こんなことをするなんてどうかしてるんじゃないかと思うようなことが当たり前にありますね)。
  2. セクシャル・マイノリティ:
    性的少数者。何らかの意味で「性」のあり方が多数派と異なる人のこと。一般に、ホモセクシュアル(同性に魅力を感じる)、バイセクシャル(異性と同性の両方に魅力を感じる)、自分の性に違和感を覚える人、または性同一性障害などの人々を指すことが多い。
  3. ジェンダー・ステレオタイプ:
    性別に関して社会に浸透している固定観念や思い込みのこと。「男性」と「女性」それぞれに対して人々が共有する、固定的な思いこみ(信念)やイメージのこと。「男は強くあるべき」「女性はおしとやかに」「男性は外で働き、女性は家庭を守るべき」など。
  4. ジェンダー・アイデンティティ:
    自己の属する性別についての認識に関するその同一性の有無又は程度に係る意識。自分のジェンダーをどのように認識しているかを表す概念であり、生まれ持った身体的性別と一致する場合もあれば、そうでない場合もある。いわゆる「心の性」のことと思っておけば大きくずれないだろう。
  5. セクシャル・オリエンテーション:
    性的指向。恋愛感情又は性的感情の対象となる性別についての指向。恋愛や性愛の対象。男性、女性、もしくは男性と女性の両方に対して感情的、空想的、性的な魅力を感じる気持ちを持つこと。ヘテロセクシュアル(異性に魅力を感じる)、ホモセクシュアル(同性に魅力を感じる)、バイセクシャル(異性と同性の両方に魅力を感じる)などとして語られることが多い。性を構成する要素の一つではあるが、他にも体の性(戸籍上の性)、心の性(性自認)、表現する性(性表現)などがある。

上記の「ジェンダー・アイデンティティ」および「セクシャル・オリエンテーション」については、内閣府のこちらのページより引用しつつ述べました。

上記より、本問の「男性はたくましく、女性はやさしい」という固定観念を説明する概念は「ジェンダー・ステレオタイプ」であることがわかりますね。

よって、選択肢①、選択肢②、選択肢④および選択肢⑤は不適切と判断でき、選択肢③が適切と判断できます。

なお、今の社会では「男らしく」「女らしく」などという表現で子どものしつけや教育を行うことに根強い忌避感がありますが、ステレオタイプの価値も知った上でその辺を調整すべきだと思っています。

ステレオタイプが生じるそもそもの理由としては、端的に言えば情報処理の簡便さのためです。

「〇〇はこういうものである」という固定的な捉え方をたくさん抱えておくことで、目の前の状況を処理するのが楽になるというわけですね。

人間に備わっている機能の一つなので、あんまり「ステレオタイプをもたないように」というのも無理がある話だなと思いますし、そんな風に「ステレオタイプとは良くないものだ」という感覚自体がステレオタイプに対するステレオタイプというか、バイアスというか、偏見という感じもします。

また、子どもが「自分」を構築する上で、「自分は男性(女性)である」といった感覚は重要なポイントになり得ます。

あんまりそれを除外するのもいかがなものかと思うことが多い今日この頃ですね。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です