公認心理師 2023-86

文や文章の認知処理におけるスキーマの活性化に関連する用語を選択する問題です。

初出の用語が多いので、この機会に覚えておくようにしましょう。

問86 文や文章の認知処理におけるスキーマの活性化に関連する用語として、最も適切なものを1つ選べ。
① 韻律情報
② 共同注意
③ 照応解決
④ 心的辞書
⑤ 物語文法

解答のポイント

各選択肢の用語の意味を理解している。

選択肢の解説

① 韻律情報

音声に含まれる情報は大きく文字に表され一音一音を表す「音韻」と、発話の抑揚・リズム・テンポなどの文字に表れないような「韻律情報」に分けることができます。

発話音声の中に現れる音声学的な性質であり、声の高低や強弱の変化であるイントネーションや強勢、音の長さやリズム、発声の違いによる声色のバリエーションといった、音響的な特徴の総称が「韻律情報」ということになります。

発話を文字の形式で記録した場合には保存されることなく、捨象されてしまう情報であり、それ故に、言語ごとにその要素は異なるとされています。

例えば日本語では、母音の時間長の長短といった音響的性質の違いは、長母音の音素を弁別するための素性として使われるので、韻律的特徴を含めません。

一方、英語などでは、母音の長短は必ずしも弁別的に使われていないため、その長さは韻律的な特質として捉えることができます。

しかし、日本語であっても、特定の単語を強調してゆっくり引き伸ばして発音したような場合には、それを明示的に文字で表すことは少ないので、韻律的特徴として扱われることになります。

韻律情報およびその特徴は、言外の発話意図、感情、話者の個人性の情報を伝達していると考えられています。

Sullivanが言葉を「バーバルコミュニケーション」と「ヴォーカルコミュニケーション」に分けたのとつながるお話ですね。

カウンセリングでも「ヴォーカルコミュニケーション」に留意しつつアプローチしていくことは非常に重要になりますね。

さて、上記のような韻律情報に関する説明内容は、本問の「文や文章の認知処理におけるスキーマの活性化に関連する用語」には合致しないことがわかります。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。

② 共同注意

共同注意とは、子どもがほかの人と同じように物体や人物に対して注意を向けている状態を指します。

言葉を話し始める前の1歳前後から、子どもは自分の身の回りのものに対してしきりに指差しをするようになります。

多くの場合、指差しと同時に言葉に似た発声をします。

このとき一緒にいる親は子供が指差している対象に視線を向けますが、これを共同注意といい、親子の間で一つの共通した対象に注意を向けるというコミュニケーションが成立したことを示します。

ブルーナーは乳幼児の共同注意行動に2つの段階があることを示しました。

  • 第1段階:
    2ヶ月頃の乳児が大人と視線を合わせる行動。
    この段階では、外界と関わるやり方として、大人と視線を合わせたりして関わる子ども―大人のやりとり(二項関係)と、モノと関わる子ども―モノのやりとり(二項関係)しかもっていない。
  • 第2段階:
    9~10ヶ月では、例えば大人が指さした対象(犬)を子どもも一緒に見るといった、外界の対象への注意を相手と共有する行動がみられるようになる。
    第1段階が乳児と大人という2者間の注意共有であったのに対し(二項関係)、第2段階では、自分-対象-他者の3者間での注意のやりとりが可能になる(三項関係)。 

トマセロは、9~10ヶ月頃の子どもは大人と同じ対象に注意を向けるだけだが、12ヶ月頃になると対象を指さした後、大人を振り返ってその対象を見ているかどうかを確認する行動が出現するとし、これを他者の意図を理解した行動と指摘しました。

三項関係を表す共同注意行動には、指さし(見てほしいものを指差す)、参照視(既知の物を目にした場合にも母親の方を見る)、社会的参照(対象に対する評価を大人の表情などを見て参考にする)などがあります。

こうした共同注意に関する内容は、本問の「文や文章の認知処理におけるスキーマの活性化に関連する用語」に合致しないことがわかります。

よって、選択肢②は不適切と判断できます。

③ 照応解決

照応とは、テキスト中のある構成要素を別の構成要素に対応付けることを指し、主に言語学や言語心理学で用いられる用語になります。

代表的な例は、代名詞や指示詞による照応ですが、名詞を繰り返し用いて同じ対象について言及するような場合も照応に含まれます。

従って、照応は必ずしも明示的な言語手掛かりによってのみ行われるのではなく、文章の内容を理解しようとする人間の積極的な意味的処理を必要とします。

多くは既出の構成要素を指しますが(前方照応)、後に現れる構成要素を指す場合もあります(後方照応)。

「息子は毎日ゲームばかりしているから、その時は注意します(「その」の部分)」という表現は前方照応になり、「聞いてよ、こんな話を聞いちゃった。Aさん、転勤するらしいよ(「こんな」の部分)」は後方照応になります。

このように「照応」とは、文章や談話の中で、代名詞や指示詞を使って具体的な何かを指すことで、ある文や語句と他の文や語句との対応関係のことを指します。

そして「照応解決」とは、「それ」 「これ」 などの指示代名詞が何を示すか(=照応)の理解について問うことを指します。

これらを踏まえると、本問の「文や文章の認知処理におけるスキーマの活性化に関連する用語」として照応解決は合致しないことがわかります。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。

④ 心的辞書

心的辞書とは、言葉を理解する際に頭の中で利用される目録のようなもので、心内辞書とも言います。

語の情報が視覚や聴覚から入力されると、見出し(語彙項目)が検索され、そこから語の読みや意味の理解に必要な情報が引き出されて語の認知が成立するというモデルに基づいています。

一般の辞書には、語の表記、読み、意味、用例・用法などが記述されていますが、同じように、心的辞書にも語の形態情報、音韻情報、意味情報、統語情報などが貯蔵されていると考えます。

一般の辞書の見出しは、読み順(五十音順など)で並んでいることが多いですが、心的辞書の場合は語彙記憶内で語の使用頻度順に配列されているという説や意味的類似度で組織化されているという説などがあります。

なお、1990年代ごろから人工知能研究では「語の意味は、その語が出現した際の周囲の単語によって決まる」という分布仮説が注目を集めています。

これは意味の分散表現によるもので、見出し(語彙項目)を検索して意味の理解に必要な情報を引き出すプロセスを想定していません。

上記からもわかる通り、心的辞書とは「脳の中に辞書のようなものが存在し、語彙項目(見出し)にアクセス(接近)し、そこから情報を引き出すことで単語が認識される」という主張です。

様々な単語認識の実験結果により、視覚情報から直接単語を認識する説、音韻情報を介して間接的に認識する説があり、最近の傾向としてこれらを統合したモデルが有力とされています。

これらを踏まえると、本問の「文や文章の認知処理におけるスキーマの活性化に関連する用語」として心的辞書は合致しないことがわかります。

よって、選択肢④は不適切と判断できます。

⑤ 物語文法

小説、新聞記事、教科書など、まとまった文章を読んで理解するには、語句の意味と語句の意味を理解するための常識的な知識、文法的な知識とともに、文章構造や文章の展開に関する知識が必要不可欠です。

例えば、学校教育の中で教えられるような「起承転結」「5W1H」「序論→本論→結論」といったものが文章構造や文章の展開に該当します。

認知心理学では、そういった「文章の構造」「物語の展開」に関する知識を「文章スキーマ」「物語文法」と呼び、そうした知識が文章の理解を支えていると考えます。

私たちが文章を理解するときに「何の話であるか」というテーマを認識しながら読み進めており、テーマに関するスキーマ的な知識(物事を理解するための「枠組み」となる知識のまとまり)を活用しながら文章の理解を行っているのです。

こうした物語の展開構造に関するスキーマのことを「物語文法」と呼び、1970年代後半に複数の認知心理学者によって提案されました。

物語文章を構成する要素間のつながりを記述するための文法であり、文章の典型的な構造を意味しています。

提案内容は研究者により異なりますが、いずれも物語がどのような要素で構成され、各要素がどのような下位要素から構成されるかを、ある種の規則として記述しています。

Thorndykeの提案した物語文法は10個の規則として定式化されていますが、例えば、規則1(物語→設定+テーマ+筋立て+解決)では、物語が4つの要素から構成されていることが示されています。

規則2(設定→登場人物+場所+時間)では、規則1の要素の1つである「設定」の部分が、3つの下位要素から構成されていることを示しています。

このような規則を用いることで、物語は階層的な木構造として表現できます。

ソーンダイクは、物語理解においては読み手の心内にそのような表象が構築されると仮定して、理解や記憶などの課題遂行結果を予測し、物語文法の心理的妥当性を主張しました。

しかしながら、テキストから構造への解析手続きが明確でないことや、極めて限られた物語にしか適用できないことが問題点として指摘されました。

例えば、子どもの頃に聞いたり読んだりした「物語・昔話・おとぎ話」は、多くが同じ「構造」をしていて、構造が同じであるが故に言語能力が未発達な子どもであっても、安心して、かつワクワクしながら、物語が楽しめるのです。

他にも、サスペンスドラマなどの状況設定や悪役・犯人役として登場人物は、毎回異なるものの展開は「ワン・パターン」であることが多く、ある種「安心して」かつ「気楽に」物語を楽しむことができます。

そして、私たちは、見聞きした物語の「細部」ではなく、繰り返し体験する大筋や展開(スキーマ)としての物語展開を覚える傾向にあるということであり、この構造を定式化したのが「物語文法」といえるわけですね。

このようなことを踏まえると、本問の「文や文章の認知処理におけるスキーマの活性化に関連する用語」として物語文法が合致することがわかると思います。

以上より、選択肢⑤が適切と判断できます。

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