公認心理師 2019-3

問3は現代心理学の源流に関する設問です。
ポイントはヴントに対する批判からの発展を把握していることになります。
こちらの記事がそのまんま解説になっていますが、改めて問題に即して解いていきましょう。

問3 20世紀前半の心理学の3大潮流とは、ゲシュタルト心理学、行動主義ともう1つは何か、正しいものを1つ選べ。
①性格心理学
②精神分析学
③認知心理学
④発達心理学
⑤人間性心理学

解く上で、と言うよりも学ぶ上で大切なのは、「20世紀前半の心理学の3大潮流を覚えようとする」のではなく、どのような流れで3大潮流が生じてきたのかを把握することです。
そのような把握をすることで、3大潮流の心理学の特徴も併せて覚えることが可能になります。

解答のポイント

ヴィルヘルム・マクシミリアン・ヴント(Wilhelm Maximilian Wundt)の仕事を把握していること。
3大潮流はヴントの仕事への批判から発展していったという共通項を把握していること。

選択肢の解説

①性格心理学

性格心理学は、日本においては「人格心理学」と一緒にされることも多いですが、正確には人格=パーソナリティであり、性格=キャラクターとなります。
パーソナリティの語源はラテン語のペルソナですから、その人が演じる役割、それを演じている人を指しています。
対してキャラクターはギリシャ語が語源であり、刻み込まれたもの、という意味があります。
よって、生まれながらに持続的にもつ一貫した行動様式を示す場合が多いです。

つまり、性格は生得的に備わったもの、人格は社会的に形成された役割という意味があるはずですが、実際には混同して使われることも多いように感じます。
これは明確に生得的な部分と社会で身に付いた部分を分けることができないというのが実情であり、そのためにこれらがそれほど弁別的に使用されない背景にあると思われます。
つまりは、性格心理学とは言いますが、人格心理学と重なる面も多いと言えるでしょう

この心理学では、人格や性格といった「その人らしさ」を研究の対象とし、他の心理学領域に比べて、個人差に対する関心が非常に高いと言えますね。
現存する最古の性格学は、古代ギリシャのヒポクラテスの唱えた四体液説です(この際に示されたメランコリアという表現は、ギリシャ語のままで現在も使われていますね)。
その他にも有名なものがいくつもあるので列挙しましょう。

  • クレッチマーの体格と性格(類型論の一つ)
  • ユングの外向・内向(類型論の一つ)
  • シュプランガーの価値感(類型論の一つ)
  • オルポートの個人特性と共通特性(特性論の一つ)
  • アイゼンクの4層構造(特性論の一つ)
  • フロイトは人間の発達段階を示し、それに対応した性格を提示している。
他にもロジャーズの自己理論や認知理論などたくさんありますが、とりあえずこの程度にしておきましょう。
こうした様々な性格・人格に関する理論は提示されていますが、これらは臨床心理学や精神医学をはじめとした他の領域から示されて、それが「性格心理学」「人格心理学」という枠組みで編纂されているという印象を持ちます。

このように、性格・人格に関する知見はかなり古くから見らえますが、19世紀のヨーロッパでは「性格とは何か」を科学的に捉えようとする試みが盛んに行われ、いくつかの興味深い学説が登場しました
そのうちの一つが骨相学ですが、特に19世紀前半のイギリスにおいて骨相学は爆発的なブームになりました。

この背景には、18世紀半ばの産業革命により、イギリス社会が経済的に発展してきましたが、それにより労働者階級や中流階級の人々が経済的に余裕ができ、子どもの教育に力を入れたり、自分の立場にふさわしい性格を身につけたいと考えたりするようになったと考えられます。
また、産業が発展すると同時に、ヨーロッパで国民国家が成立していくなかで、それぞれの国民や民族が集団としてもっている固有の性格に関心が向けられ、国民性や民族性という概念が広がっていきました。
「国民性・民族性はどのようにして決まるのか」という議論の流れも、骨相学のような性格・人格への興味につながっていったと考えられます。

また、どこまでが遺伝で決定されているのか、乳幼児期の家庭環境などが人格形成にどのようにして影響を与えるのかという疑問も、性格心理学の発展を促進させてきました。
タブララサに始まり、これは長らく心理学の重要なテーマとして扱われてきましたね。

性格心理学にはこうした流れのなかで発展してきたという経緯があります。
すなわち、もともと性格心理学・人格心理学に分類されるような学説は存在していましたが、19世紀以降の心理学を取り巻く歴史的背景によって、人格・性格概念が重要となったということです

以上の経緯は、3大潮流とは齟齬があるものです。
よって、選択肢①は誤りと判断できます。

②精神分析学

ヴントの業績は大きく以下のように分類できます。

  1. 実験という方法を用いた心理学の提案(内観法を用いた反応時間研究)。
  2. 1875年、ライプツィヒ大学の哲学教授として独立した心理学科目の整備を行う。
  3. 1879年、心理学実験室の開設(建物などが立ったわけじゃないので、イメージとしては心理学研究室(ゼミ)ができたという感じ)。

本問を解くにあたっては、上記の特に第1項が大切です。
ヴントは訓練された実験参加者に、自分自身の「意識」の内容を観察・報告させる「内観法」と呼ばれる方法を用いて、厳密に統制された状況下で「意識」の分析を行いました

そしてこの点が多くの批判を呼び、そこから3大潮流の流れが生まれました。
現代の心理学は、ヴントの要素主義に対する批判が枝分かれして広がってきたということになります。
主な批判と発展を簡単に記すと以下の通りです。

  • 意識に対して、行動を重視したのが行動主義心理学。
  • 部分ではなく、全体性を重視したのがゲシュタルト心理学。
  • 意識ではなく、無意識を重視したのが精神分析学
本選択肢と関連があるのは「精神分析学」ですね。
精神分析学はFreudが祖であり、19世紀末から20世紀にかけて発展しました。
人間の精神活動において、意識よりも無意識の方が重要な役割を果たしていると考え、意識の分析では人間を理解することは不可能であると考えたわけです。
「当人には直接知られず、にもかかわらずその人の判断や行動を支配しているもの」、それが無意識であると考えたわけですね。
フロイトは臨床経験に基づき、単純な言い間違い、書き間違い、物忘れといった日常的な失錯行為から始めて、強迫神経症やヒステリーに至るまで、すべての心的な症状は、その背後に「無意識」の過程が潜在している、という仮説を示しました。
こうした主張は「人間は自分自身の精神生活の主人ではない」という点でマルクスとも通じています。
フロイトが哲学の世界にも多大な影響を与えたとされているのも、この点と関連があります。
以上より、選択肢②が正しいと判断できます。

③認知心理学

認知心理学は1950年代後半に成立したと言われており、心理学の分野の中では比較的新しい分野とされています。
と言っても、認知心理学に関する知見が欠片もなかったというわけではなく、元々は行動主義の下での認知研究がなされていました。

もともと行動主義が「対象を意識ではなく行動にすることで、心理学は科学的であり得る」という主張がなされておりましたが、意識と同じく外から観察ができない「認知過程」も心理学の研究対象から除外されるという憂き目に遭いました。
こうした行動主義のやや狭い考え方に対する反省もあり、1930年代~1950年代にかけて新行動主義が展開されました。

新行動主義では、刺激と反応の間を媒介する生体の条件にも目を向けます。
例えば、トールマンが刺激-反応の間の媒介変数(O)として、期待や仮説、信念、認知地図などを採用し、これらが認知心理学の成立へとつながっていったとされています。

トールマンやハルのアプローチは、現在の認知心理学と近い立場と言えなくもなかったのですが、新行動主義者たちの基本的な考え方として、生体内部のプロセスも、刺激と反応の連合が内在化したものと捉えています。
この辺は相容れないものがあったと言えるでしょう。
こうした中で、行動主義では複雑で可変的な学習や行動を説明できないとして、Neisser(ナイサー)が「認知心理学」(1967)を著し、これをきっかけにして主に学習に関して認知要因を重視する研究が現れてきました。
1960年代から1970年代にかけては「認知革命」と呼ばれるような変革が生じました。
行動主義系の概念を使った論文が減り、認知系の概念を使った論文が急激に増えていったのです。
その端緒であるMiller(ミラー)の「マジカルナンバー7」(1956)は、認知心理学における象徴的な論文と言えますね。
行動主義では人間の高度な知的働きについて説明できることは少なく、この行き詰まりに道を拓いたのが認知心理学でした。
このようにして、人間が外界を認識・記憶・問題解決するという認知過程を研究する心理学として、そして、認知的パラダイムを用いた人間のこころの解明に向けてのアプローチとして認知心理学が発展していきました。
以上のように、明らかに発展の時期が問題文と齟齬があることがわかります。
よって、選択肢③は誤りと判断できます。

④発達心理学

発達心理学は、精神発達を対象として、時間経過に従って生じる発達的変化についての一般的な特徴や法則性を記述するとともに、発達的変化を推し進める要因について検討を試みる心理学分野となります。
発達心理学は、アメリカのHall(ホール)が19世紀末に児童心理学として提唱し、それまで無理解であった児童の権利を擁護しようという運動を相まって発展しました

ハーバード大学の心理学実験室の管理は、ヴントのもとで博士号を取得したミュンスターベルクが行っていました。
そして、このハーバード大で最初に博士号を取得したのがHallで、学位取得後にヴントのもとに留学しています

ホールさんは、いろいろ活躍していて、例えば、1909年にホールがフロイトを招いてクラーク大学開学20周年講演を行ってもらったり、日本人の元良勇次郎はアメリカに留学してホールの教えを受け1888年に帰国、その後外山に招かれて、東京大学を中心に研究・教育を行ったりしています。
また、アメリカ心理学会(APA)はホールによって設立されたものです。

発達心理学は、ホールが当時の生物学の影響により、青年期までの初期発達を重視したところから、発達心理学と児童心理学はほぼ同義の分野として扱われてきました。
その後、生涯発達の視点などの広がりによって、児童心理学よりも発達心理学という用語の方が用いられるようになってきています。
このような流れで発展してきたのが発達心理学であり、時期的には問題文と齟齬はないのですが、発展の経緯が問題文と異なることがわかります。
3大潮流には「ヴントへの批判をもって発展した」という共通項がありますが、発達心理学にはそれが無いですよね
よって、選択肢④は誤りと判断できます。

⑤人間性心理学

実はこの選択肢、ある種の引っかけになっています。
なぜなら人間性心理学は、臨床心理学の中で「第3勢力」と称されているからです。
アブラハム・マズロー(人間性心理学の提唱者)は、精神分析を第一勢力、行動主義を第二勢力、人間性心理学を第三勢力と位置づけました。
「3大潮流」と「第3勢力」…曖昧に覚えているとごっちゃになっちゃいそうですよね。

1960年代のアメリカは、ベトナム戦争の反対運動や学生運動、反人種差別運動といった政治的状況にありました
そうした背景の中で生まれたのが人間性心理学(ヒューマニスティック心理学)です

人間が無意識に支配されているとする精神分析や、外的環境に支配されているとする行動主義に対して、人間を自由意思のもつ主体的な存在として捉える立場が人間性心理学です。
人間性心理学の立場に属する理論家や臨床家としては、実存分析のフランクル、現存在分析のビンスワンガー、欲求階層説のマズロー、クライエント中心療法のロジャーズ、フォーカシングのジェンドリン、ゲシュタルト療法のパールズ、実存心理学のロロ・メイなどになります。

特に人間性心理学の父とも言うべきマズローによると、人間は本来は健康で「自己実現」を目指して成長するものと捉えます。
人間性心理学において精神病理とは、そうした自己実現傾向が阻害された結果生じると見なし、カウンセリングでは本来の自己実現傾向を引き出すことが重要となります。
この点は学派を超えて大切な認識になっていますね。

コーチンは人間性心理学の基本的特徴を以下のように述べています。

  1. 人間を全体的に理解する
  2. 人間の直接的経験を重視する
  3. 研究者もその場に共感的に関与する
  4. 個人の独自性を中心におく
  5. 過去や環境より価値や未来を重視する
  6. 人間独自の特質、選択性、創造性、価値判断、自己実現を重視する
  7. 人間の健康的で積極的な側面を強調する

これらについては過去問(2018追加-80)でも問われているので、しっかりと押さえておきたいところですね。

明らかに発展した流れが問題文の「20世紀前半」という箇所と齟齬がありますし、発展の経緯も異なることがわかります。
よって、選択肢⑤は誤りと判断できます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です