公認心理師 2024-23

QOLを測定する包括的尺度を選択する問題です。

過去問を把握しておけば2択まで絞ることができますね。

問23 QOLを測定する包括的尺度として、最も適切なものを1つ選べ。
① GHQ
② K6/K10
③ MAS
④ PIL
⑤ SF-36

選択肢の解説

① GHQ

健康心理学のアセスメントでは、健康度や身体疾患を尋ねるための質問紙が良く用いられています。

代表的なものとして、CMIや精神健康調査(GHQ)などがあります。

GHQ(The General Health Questionnaire)はGoldbergによって1972年に開発された精神障害のスクリーニングを目的とした質問紙検査法です。

一般的な対象から、神経症、抑うつ、不安などの不調を訴える者を検出できるよう、精神症状や身体症状、睡眠状態などに関して具体的な質問項目が設けられています。

各国で使用されており、対象年齢は質問内容が理解できる12歳以上で、通常の60項目版に加え、短縮版として30項目版、28項目版、12項目版も作成されています。

一般的には「主として神経症者の症状把握、評価および発見に有効なスクリーニング・テスト」と見なしておいて問題ないと思います。

これらを踏まえれば、GHQが「QOLを測定する包括的尺度」ではないことがわかりますね。

以上より、選択肢①は不適切と判断できます。

② K6/K10

K6/K10とは、うつ病や不安障害などの精神疾患をスクリーニングすることを目的としています。

2002年にKesslerらにより開発されました。

一般住民を対象としており、心理的ストレスを含む何らかの精神的な問題の程度を表す指標として利用されています。

合計点が高いほど、精神的な問題がより重い可能性があるとされています。

K6の質問項目としては、「神経過敏に感じましたか」「絶望的だと感じましたか」「そわそわ、落ち着かなく感じましたか」「気分が沈み込んで、何が起こっても気が晴れないように感じましたか」「何をするのも骨折りだと感じましたか」「自分は価値のない人間だと感じましたか」の6つの質問について5段階(「まったくない」(0点)、「少しだけ」(1点)、「ときどき」(2点)、「たいてい」(3点)、「いつも」(4点))で点数化し、合計点数が高いほど、精神的な問題がより重い可能性があるとされています。

K10の質問項目は、上記に加えて、「理由もなく疲れ切ったように感じましたか」「どうしても落ち着けないくらいに、神経過敏に感じましたか」「じっと座っていられないほど、落ち着かなく感じましたか」「ゆううつに感じましたか」が入ることになります。

カットオフポイントはK6が15点以上、K10が25点以上とされていますね。

上記を踏まえれば、K6/K10が「QOLを測定する包括的尺度」ではないことがわかりますね。

よって、選択肢②は不適切と判断できます。

③ MAS

MAS:Manifest Anxiety Scale(顕在性不安尺度)は1953年にテイラーが、キャメロンの慢性不安反応に関する理論を基にMMPIから選出された不安尺度50項目に、妥当性尺度15項目を加えた65項目で構成・作成しました(妥当性尺度15項目を加えたのは日本語版。ちなみに、この妥当性尺度はMMPIのL尺度を使っている。ここ重要)。

それまで面接や行動観察から主観的印象的に捉えられることが多かった不安を客観的に測定することを可能にしました。

顕在性不安とは、自分自身で、精神的身体的な不安の徴候が意識化できたものであり、MASはある期間かなりの頻度で現れる不安の全体的水準を測定します。

すなわち、MASで測定されるのは1種類のものではなく様々な不安を含んだ多次元的なものと言えます。

上記を踏まえれば、MASが「QOLを測定する包括的尺度」ではないことがわかりますね。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。

④ PIL

PIL(Purpose-in-Life Test)は Franklの考えに基づいて、アメリカのCrumbaughらによって考案されたものです。

Frankl(1952)は人間の動機づけの基本となるものは「意味への意志」と考えました。

人は自分の人生に独自性の感覚を与える意味と目的を見出せないときに、実存的空虚( existential vacuum )を経験し、この空白状態は主として退屈、倦怠として現われ、それが持続すると「実存的欲求不満」になるとされています。

これは意味や目的が見出せないことに対する情緒的反応ですが、神経症的な人の場合は、それが高じると精神因性神経症(noogenic neurosis)となります。

CrumbaughらはFranklのいう精神因性神経症が、力動的に解釈されている従来の神経症と異なるものなのかどうかを決定することを最終的な狙いとして、「人生の意味・目的」という実存的概念の数量化を進めること、特にFranklの記述した実存的欲求不満の状況を数量的に測定することを目指してPurpose-in-Life Test(PIL)を考案しました。

PILはA~Cの3つの部分から構成されており、Aは態度スケールと呼ばれているもので、個人がどの程度に「人生の意味・目的」を体験しているかを問う20項目(7段階評定)からなる質問紙法です。

Bは文章完成法(13項目)、Cは自由記述の形式で、人生の意味・目的そしてそれらをどのように経験し、あるいは達成しているかについて記述を求めます。

Crumbaughらは標準化についてはAのみを用い、BとCについては臨床的に使用しており、数量化、標準化はしていません。

その後、日本語に翻訳される際に、AのみではなくB・Cについても数量化することが試みられ、BおよびCについても基準が設けられ、現在の「PIL日本版」が作成されました。

オリジナル(英語)版では、Part-B・C部分は「臨床で用いる」として数量化は行われていませんが、日本版では文章部分の客観的な評価を目ざして、世界で初めて数量化を実現したというわけですね。

上記を踏まえると、PILテストは、クライエントの「生きがい感」、つまり病気や困難を超えて前向きに生きていこうとする意欲を測定するものと言えます。

生きがいを持っていることは、免疫機能をはじめとして、人間の諸機能を活性化するものとされており、生きがいの有無や高下を検査することは、その人の健康管理上、きわめて重要であり、PILテストはその最適な検査法であるとされています。

さて、本問で問われているのは「QOLを測定する包括的尺度」を選択することです。

QOLとは、1940年代、がん患者のQOLの研究にはじまり、医療、経済学、心理学、老年学、保健学、社会福祉などの分野で用いられており、生活の質、生命の質、人生の質とも訳され、生活や人生への満足度、幸福感にも関連する概念です。

リハビリテーションの分野では、1970年代のアメリカで重度の身体障害のある学生が中心となって始まった「障害者の自立生活運動」を経て、身体機能の回復やADL(日常生活動作)の自立だけでなく、本人にとって価値ある生活の選択や、QOLの向上を重視して、必要な支援が考えられるようになりました。

QOLには、主観的QOL(生活満足度、幸福感)と客観的QOL(社会経済的状況、物理的環境など)の側面があり、両者は必ずしも対応するわけではありません。

このように見てみると、PILテストが測定する「生きがい感」と、QOLとは似ている面はあるものの、QOLの方が様々な視点を含む広範な概念であるように思えますね(生きがい感は主観的なものだけど、QOLは主観だけでなく客観的なものも含まれるなど)。

ですから、PILが「QOLを測定する包括的尺度」ではないと考えるのが妥当です。

よって、選択肢④は不適切と判断できます。

⑤ SF-36

さて、前選択肢の解説でQOLについて粗方説明しましたが、健康と直接関連するQOL(身体的、心理的、社会的、スピリチュアル)と、間接的に関連するQOLとが区別されています。

前者の評価尺度としては、包括的QOL尺度である「SF-36」が知られています。

SF-36(MOS Short-Form 36-Item Health Survey)は、世界で最も広く使われている自己報告式の健康状態調査票であり、特定の疾患や症状などに特有な健康状態ではなく、包括的な健康概念を8つの領域によって測定するように組み立てられています。

わずか36項目の質問、5分程度の回答時間で包括的な健康度を測定するので,さまざまな疾患を持つ患者の健康度の記述、治療やケアのアウトカム評価、一般住民の健康調査など、多岐にわたる目的に使用されています。

SF-36は、健康関連QOL(HRQOL:Health Related Quality of Life)を測定するための、科学的で信頼性・妥当性を持つ尺度であり、アメリカで作成され、概念構築の段階から計量心理学的な評価に至るまで十分な検討を経て、現在、170カ国語以上に翻訳されて国際的に広く使用されています。

健康関連QOLを測定する尺度は、大まかに包括的尺度と疾患特異的尺度に分類されますが、SF-36は前者に位置づけられます。

健康関連QOLという共通した概念で構成されているので、様々な疾患の健康関連QOLを測定することができ、疾病の異なる患者間のQOLの比較が可能です。

また、病気にかかっている人から一般に健康といわれる人のHRQOLを連続的に測定できるので、患者の健康状態を一般の人と比較することができます。

SF-36は、8つの健康概念(①身体機能、②日常役割機能(身体) 、③体の痛み、④全体的健康感、⑤活力、⑥社会生活機能、⑦日常役割機能(精神)、⑧心の健康)を測定するための複数の質問項目から成り立っています。

上記を踏まえると、本問の「QOLを測定する包括的尺度」はSF-36であると言えます。

よって、選択肢⑤が適切と判断できます。

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