公認心理師 2023-95

主に高齢者を対象に認知機能の評価を行う心理検査を選択する問題です。

かなり解きやすい問題だったと思います。

問95 主に高齢者を対象に認知機能の評価を行う心理検査として、適切なものを1つ選べ。
① ADOS-2
② BDI-Ⅱ
③ HDS-R
④ LSAS-J
⑤ NEO-FFI

解答のポイント

各検査の目的を把握している。

選択肢の解説

① ADOS-2

Autism Diagnostic Observation Schedule Second EditionでADOS-2(エイドスツー)です

こちらは自閉症スペクトラム評価のための半構造化観察検査になります。

ASDの包括的な臨床診断の一助、効果的な支援・介入の模索、重症度の判定に役立つとされています。

ADOS-2は本人の直接観察による検査であり、対象は1歳の幼児から成人までで所要時間は40~90分程度です。

年齢と言語水準によって5つのモジュールに分けられ、標準化された検査用具や質問項目を用いて半構造化された場面を設定し、ASDの診断に役立つ対人的スキル、コミュニケーションスキルを最大限に引き出すように意図されており、行動観察の結果を数量的に段階評定できる点に特徴があります。

最終的にアルゴリズムを使って「自閉症」「ASD」「非ASD」の3つの分類判定が可能です。

ちなみにスクリーニングには以下のような段階があります。

  • 第1スクリーニング:
    発達障害の特徴があると判断されたケースや療育・医療・福祉機関などにすでにかかっているリスクの高いケースを対象に、ASD、ADHD、LDなどの弁別をするためのアセスメント。
    代表的な検査が、M-CHATでありASDの早期発見においては非常に有用なツール。
  • 第2スクリーニング:
    ハイリスク群に対して弁別的診断の方向性を得ることを目的に行われる。
    代表的なのが、AQ、AQ児童用、PARS、SCQ、CARSなど。
  • 診断・評価:
    代表的なのが、ADOS、ADI-R、CARS2など。

組合せとしては、ADI-Rが効果的とされています。

ADI-Rは過去の特性を主として診断の判定をし、ADOSは現在の特性で判定を行い、診断においては相補的な関係にあると言えます。

また、支援を考えるうえでは、ADI-RによってASD児者に対して周囲の人が感じている困難や課題の情報を得ることができ、ADOSによって専門家からみたASD児者の対人コミュニケーションの特徴に関する情報を得ることができます。

これらを総合して、日常で役立つ支援を構築できるとされています。

以上のように、ADOS-2は本問の「主に高齢者を対象に認知機能の評価を行う心理検査」には合致しないことがわかります。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。

② BDI-Ⅱ

BDI-Ⅱはベック抑うつ質問票のことで、認知療法の始祖であるベックのグループが作成した自己記入式質問紙です。

13歳〜80歳の抑うつ症状の有無とその程度の指標として開発されました。

DSM-Ⅳに準拠したうつ病の症状を網羅しており、全21項目から構成されており、それぞれに4つの反応形式が設定されています。

続いてはBDI-Ⅱの評価項目についてですが、こちらはインターネット上で見ることができます。

ここでは検査項目の大まかな内容を述べておくことにしましょう。

  1. 憂うつ
  2. 悲観
  3. 過去の失敗
  4. 喜びの喪失
  5. 罪責感
  6. 被罰感
  7. 自己嫌悪
  8. 自己批判
  9. 自殺念慮
  10. 落涙
  11. 激越
  12. 興味喪失
  13. 決断力低下
  14. 無価値観
  15. 活力喪失
  16. 睡眠習慣の変化
  17. 易刺激性
  18. 食欲の変化
  19. 集中困難
  20. 疲労感
  21. 性欲減退

これらがBDI-Ⅱの評価項目であり、各項目4件法(0-3)で回答していきます。

BDI-Ⅱを定期的に行うことによって、自分自身の気分の傾向を数値として測定でき、自分自身を客観的に見つめることが可能になります(この辺が認知療法っぽいですね)。

以上のように、BDI-Ⅱは本問の「主に高齢者を対象に認知機能の評価を行う心理検査」には合致しないことがわかります。

よって、選択肢②は不適切と判断できます。

③ HDS-R

HDS-Rとは改訂長谷川式認知症スケールのことを指しますね。

日本で最も多く用いられている簡易認知機能検査で、9つの下位テストから構成されているが動作性検査を含んでおらず運動障害の影響を排除するように作成されています。

改訂長谷川式の検査項目は以下の通りです。

  1. 年齢
    ・年齢はいくつですか
  2. 日付の見当識
    ・今日は何年ですか
    ・何月ですか
    ・何日ですか
    ・何曜日ですか
  3. 場所の見当識
    ・私たちが今いるところはどこですか
  4. 即時記憶
    ・これから言う3つの言葉を言ってみてください
    1)桜、猫、電車 または
    2)梅、犬、自動車
    ・後でまた聞きますのでよく覚えておいてください
  5. 計算
    ・100から7を順番に引いてください
    ・それからまた7を引くと
  6. 逆唱
    ・私がこれから言う数字を逆から行ってください
    「6-8-2」
    「3-5-2-9」
  7. 遅延再生
    ・先ほど覚えてもらった言葉をもう一度言ってみてください
    ※回答がない場合のヒント:植物、動物、乗り物
  8. 視覚記憶
    ・これから5つの品物を見せます、それを隠しますので何があったか言ってください
    ※時計、鍵、ペン、硬貨、くしなど必ず相互に無関係なもの
  9. 語想起・流暢性
    ・知っている野菜の名前をできるだけ多く言ってください

得点範囲は0~30点であり、認知症群と非認知症群のcut off値は20/21点が妥当とされており、重症度の判定基準としては「非認知症:24.27±3.91」「軽度:19.10±5.04」「中等度:15.43±3.68」「やや高度:10.73±5.40」「非常に高度:4.04±2.62」となっております(平均値±標準偏差です)。

以上のように、HDS-Rは本問の「主に高齢者を対象に認知機能の評価を行う心理検査」として妥当だと考えられます。

よって、選択肢③が適切と判断できます。

④ LSAS-J

Llebowitz Social Anxiety Scale(LSAS-J)=リーボヴィッツ社交不安尺度は、社交不安障害を測定する目的で開発された尺度であり、国際的にも広く用いられている社交不安障害の標準的な尺度とされています。

LSAS-Jは社交不安障害の臨床症状や薬物療法、精神療法の治療反応性を評価することを目的に欧米ではもちろんのこと、日本でも用いられています。

質問は24項目で、対人場面や人前で何かをするときの恐怖感、あるいはそういった場面の回避の程度など、両方を分けて測ることができます。

24の状況は行為状況と社交状況の2種類に分かれており、ランダムに混ざっています。

24項目の質問について、0~3の4段階評価した後、合算した得点によって、以下の4段階で重症度の評価を行います(総得点0~144点)。

  • 約30点:境界域
  • 50~70点:中等度
  • 80~90点:さらに症状が顕著;苦痛を感じるだけでなく、実際に社交面や仕事などの日常生活に障害が認められる
  • 95~100点以上:重度;働くことができない、会社に行けないなど社会的機能を果たすことができなくなり、活動能力がきわめて低下した状態に陥っている

こうした重症度の評価を行うことができるという点から、臨床効果の尺度としても用いられています。

なお、LSAS-Jに年齢制限はありませんが、設問は明らかに成人向けとなっています。

以上のように、LSAS-Jは本問の「主に高齢者を対象に認知機能の評価を行う心理検査」には合致しないことがわかります。

よって、選択肢④は不適切と判断できます。

⑤ NEO-FFI

NEO-FFIは、人格研究の新たな主流となっている5因子人格検査として世界的に有名なNEO-PI-Rの短縮版です。

NEO Personality lnventory (NEO-PI)はCosta&McCrae(1985)の一連の研究に基づいて開発されたものであり、人格の生涯発達的研究を視点に入れた新しい検査です。

1978年から10年間にわたり研究、開発されてきたものであり、人格の5因子モデル(いわゆるBigFiveですね)に基づいています。

開発当時はBigFiveについての統一的見解は出ていませんでしたが、McCrae&Costaはこ れらの体系を比較、検討して行く中で、人格の分類の仕方や捉え方はそれぞれ異なるが、特に神経症傾向と外向性という高次の因子が存在することに関しては意見の一致がみられ ると考えました。

その点から、神経症傾向と外向性はより広いクラスターとして、その下位次元に分類・分割できると考えたのです。

そうした視点より、まずは人格特性を定めてそれらを下位次元に分類していくという作業を行いました。

このようなやり方をもって、神経症傾向と外向性に加え、開放性という第3の次元を加えました。

そして3次元と18の下位次元を特定し、NEO-PIおよびNEO-PI-Rの前身であるNEOインベントリーを開発しました。

その後、1983年にNEOインベントリーに調和性と誠実性の次元が追加され、1985年に神経症傾向・外向性・開放性の次元スケール+下位次元スケールおよび調和性・誠実性の次元スケールから成るNEO-PIが刊行されました。

更に1990年には調和性と誠実性の下位次元スケールも作成され、NEO-PI-Rとして1991年に刊行され、現在に至っています。

こうした流れで、McCrae&Costaは5因子モデル(Big Five)を洗練させていきました。

測定される次元は5つで、各次元はさらに6つの下位次元から構成されており、包括的な人格の測定を可能にしています。

1つの下位次元には8つの評定尺度があります。

5次元とそれぞれの下位次元は以下の通りです。

  1. 神経症傾向:不安、敵意、抑うつ、自意識、衝動性、傷つきやすさ
  2. 外向性:温かさ、群居性、断行性、活動性、刺激希求性、よい感情
  3. 開放性:空想、審美性、感情、行為、アイデア、価値
  4. 調和性:信頼、実直さ、利他性、応諾、慎み深さ、優しさ
  5. 誠実性:コンピテンス、秩序、良心性、達成追求、自己鍛錬、慎重さ

すでに示した通り、この5次元はMcCrae&Costaが提唱し、詳細な下位次元を定めました。

NEO-FFIはNEO-PI-Rの短縮版でありますが、基本的なコンセプトは変わっていないので、上記の通りNEO-PI-Rの内容解説で十分であろうと思っています。

もちろん短縮版なので、NEO-PI-Rが240項目であるのに対し、NEO-FFIは60項目となっていますね。

以上のように、NEO-FFIは本問の「主に高齢者を対象に認知機能の評価を行う心理検査」には合致しないことがわかります。

よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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