公認心理師 2023-62

WAIS-Ⅳのフィードバックに関する問題です。

一応、簡単な結果の読み取りが求められていますね。

問62 17歳の男子A、工業高校2年生。実習に入ってから機械の単純な操作ミスが頻回になり、発達障害を疑った担任教師の勧めで精神科を受診した。小中学校までは忘れ物は多いが、成績は中程度で大きな問題は生じていなかった。Aは、「実習に入ってから先生の説明がよく理解できずに、ミスが多くなり困っている。自分は発達障害なんですか。どうしたら卒業できるか知りたい」と切迫した表情で話した。主治医の指示により公認心理師Bが WAIS-Ⅳを施行した。検査結果は FSIQ 103、VCI 113、PRI 112、WMI 71、PSI 102 であった。
 BのAへの心理アセスメントのフィードバックとして、最も適切なものを1つ選べ。
① 検査記録用紙をAに提示し、全ての結果を詳しく説明する。
② 平均を下回る指数に焦点を絞り、問題点を重点的に説明する。
③ 知的機能のばらつきがあり、発達障害に該当することを伝える。
④ 情報の聴き取りが苦手な可能性を伝え、その対処について話し合う。
⑤ IQは平均域であり、学校生活や実習に問題はないことを強調する。

解答のポイント

知能検査を実施する際の基本的ルールおよびフィードバック手法に関する理解があること。

選択肢の解説

① 検査記録用紙をAに提示し、全ての結果を詳しく説明する。

まず「検査記録用紙を提示する」というやり方について述べていきましょう。

以下はWISCのテクニカルレポートですが、WAISでも同様であると考えておいてください。


記入済みの記録用紙を含んだ検査用具の機密を守り、適正な使用を守る専門家以外には検査用具を公開しないことは、使用者の責任である。受検者やその親あるいは保護者に検査結果の概要を説明することは妥当であるが、そうした場合も、検査としてWISC-Ⅳのセキュリティや妥当性、価値を損ないかねないので、検査問題や記録用紙、その他の検査用具を開示したり、複写したりしてはならない。


上記の通り、刊行委員会は検査結果等をコピーして渡すことを原則として認めておりません。

検査結果を丁寧にわかりやすく説明することと、結果のコピーを渡すこととは同一ではないという見解ですね。

このことは、本選択肢にある「検査記録用紙」も同様です。

検査用具の機密を守るという点が重要なわけですから、さまざまな検査に関する留意点(制限時間の有無や基準等)が細かく記載されている検査記録用紙を見せるなどもっての外なわけです。

また、「全ての結果を詳しく説明する」も特に本事例においては問題のあるやり方ですが、こちらについては次の選択肢の解説に回すことにしましょう。

以上より、選択肢①は不適切と判断できます。

② 平均を下回る指数に焦点を絞り、問題点を重点的に説明する。
③ 知的機能のばらつきがあり、発達障害に該当することを伝える。

これらの選択肢は、検査結果を伝えるときのやり方に問題があります。

選択肢②の「平均を下回る指数に焦点を絞り、問題点を重点的に説明する」についてですが、検査結果を伝える上で重要なのは、当人が課題と思っていたり、知りたいと願っている部分を重点的にやり取りすることです。

本事例においては「実習に入ってから先生の説明がよく理解できずに、ミスが多くなり困っている」という訴えがあり、この点を重点的に説明していくことが大切になるでしょう。

相手の訴えを見極めるときに、①本当に何とかしたいところを話している、②解決したいとかじゃない、のいずれかを判断しなければならないことがありますが、①の場合は「自分の中に困ったところがあって、そこを何とかしたい」という故障した大切な何かを修理したいときのニュアンスが含まれており、その説明にあまり甘えの雰囲気は入ってきませんが、②には甘えの雰囲気が漂うのでわかりやすいです。

本事例の場合は①っぽいので、やはり「実習に入ってから先生の説明がよく理解できずに、ミスが多くなり困っている」という話は当人の「何とかしたいポイント」であると認識し、その点を重点的に説明していくことが適切でしょう。

実は、選択肢②の「平均を下回る指数に焦点を絞り、問題点を重点的に説明する」は、説明する内容として選択肢④の「情報の聴き取りが苦手な可能性を伝え、その対処について話し合う」と同じになる場合が多いのですが、一方は不適切で、もう一方は適切となります。

その違いとしては、「説明内容の発進がクライエントの訴えを起点としているか否か」「具体的な対処まで話し合おうとしているか」という点になるでしょう。

話す内容が同じであっても、上記の二点を押さえているかどうかは、クライエントが「自分に向けられている内容である」という認識を持てるかどうかと関わる重要な事柄であることを忘れないでおきましょう。

さて、選択肢①には「全ての結果を詳しく説明する」についても、「説明内容の発進がクライエントの訴えを起点としているか否か」という視点から見れば、検査者側が勝手にやっているという形になりますからダメです。

また、「全ての結果を詳しく説明する」ことによって、焦点がぼやけ、クライエントが本当に知りたいこと、知るべきこと、これからの生き方を楽にするための情報が伝わりにくくなってしまいます。

特に、本事例のクライエントの場合、情報の聞き取りが苦手な可能性が高いわけですから、伝える情報は本人の関心が高く、問題と関連度が高いものに絞ることが重要です。

ただ、検査結果と関連する他の事柄についてもきちんと「伝えられる」ことは大切なので、何を聞かれても良いように、心構えとしては「全ての結果を詳しく説明する」ことが可能なようにしておくことが重要ですね。

選択肢③の「知的機能のばらつきがあり、発達障害に該当することを伝える」については、知的機能にばらつき=発達障害という安易な決めつけと、公認心理師という職ではやってはいけない「発達障害に該当すると伝える」という診断業務を行っていることが問題です。

当人が発達障害であるか否かはWAISの検査結果だけで決めることはできませんし、本事例は高校2年生になるまで「忘れ物は多いが、成績は中程度で大きな問題は生じていなかった」とあり、この「忘れ物が多い」ことと、現在の実習に入ってからの問題だけで発達障害と見なすのは無理があります(もちろん、本人の社会適応の難しさがこうした特徴によって起こっているのであれば、最終的に診断されることもあり得ますが、現時点では…というお話ですね)。

そして、こうした発達障害であるか否かを判断するのは、あくまでも医師の職域の範囲であるということも自覚しておくことが重要です(発達障害であるの可能性を話し合う程度なら可能ですが、それでも繊細な話題であることの自覚が大切です)。

以上より、選択肢②および選択肢③は不適切と判断できます。

④ 情報の聴き取りが苦手な可能性を伝え、その対処について話し合う。
⑤ IQは平均域であり、学校生活や実習に問題はないことを強調する。

これらは解釈の中身に関する理解です。

具体的には「FSIQ 103、VCI 113、PRI 112、WMI 71、PSI 102」という箇所についての理解が問われているわけですね。

各下位検査の分類について記述していきましょう。

言語理解指標
(VCI)
知覚推理指標
(PRI)
ワーキングメモリ指標
(WMI)
処理速度指標
(PSI)
基本検査類似
単語
知識
積木模様
行列推理
パズル
数唱
算数
記号探し
符号
補助検査理解バランス:16~69歳のみ
絵の完成
語音整列:16~69歳のみ絵の末梢:16~69歳のみ

WAIS-Ⅳでは、全体的な認知能力を表す全検査IQ(FSIQ)と、4つの指標得点を算出します。

以下では、各項目の内容を解説していきましょう。

群指数の概要と、下位検査の簡単な実施方法および検出する能力を記載していきます(こちらのサイトがわかりやすかったので、こちらから引用しつつ)。

【言語理解:言語的なことに対する理解や把握の能力】

  • 類似:2つの言葉の共通点や類似点を答える;概念を理解し、推理する能力
  • 単語:単語の意味を答える;単語の知識や言語概念の形成について
  • 知識:一般的な知識に関する質問に答える;一般的な事実に関する知識の量や学習について
  • 理解:一般原則や社会的状況についての質問に答える;社会性や一般常識を理解する能力

【知覚推理:目で見て物事を理解したり操作したりする能力】

  • 積木模様:モデルと同じ模様を積木を使って作成する;抽象的な視覚刺激を分析して統合する能力
  • 行列推理:不完全な行列を完成させるのにもっとも適切なものを選ぶ;流動性知能や視覚性知能、空間に関する能力
  • パズル:組み合わせると見本と同じになるものを選ぶ;視覚刺激の分析に関する能力
  • バランス:天秤が釣り合うために適切な重りを選ぶ;量的な推理、類比的な推理の能力
  • 絵の完成:提示された絵の中で欠けているものを答える;重要なところとそうではないところの見分けの能力

【ワーキングメモリー:記憶や注意集中に関する能力】

  • 数唱:耳で聞いた数字を復唱する;特に聴覚的な記憶力や注意力に関する能力
  • 算数:算数の文章題を暗算で答える;計算能力や記憶力に関する能力
  • 語音整列:かなと数字を順番に並べる;記憶力、継次処理、注意力に関する能力

【処理速度:手先の器用さやスピードに関する能力】

  • 記号探し:刺激となる記号があるかどうかを探す;作業効率や集中力に関する能力
  • 符号:見本となる記号を書き写す;視覚的な認知やスピードに関する能力
  • 絵の抹消:さまざまな図形の中から特定の図形を探す;選択的な注意や運動に関する能力

これらを踏まえて、各群指数の特徴を挙げると以下のようになります。

【言語理解】

  1. 養育不全、教育不備、長期の不登校があるとここが落ち込みやすい。
  2. 早口で長い説明は苦手。
  3. 作文や発表が苦手になりがち。
  4. 語彙があれば音読は大丈夫。

【知覚推理】

  1. 眼の動きに問題があると板書が苦手になる。
  2. 図形の認知に問題があると、グラフ認知が難しくなる。
  3. 美術系の授業で特徴が見えることも多い。
  4. 知識の活用、すなわち応用問題が苦手になる。

【ワーキングメモリ】

  1. 会話の聞き忘れ、脱線が多くなる。聞き間違い、聞き漏らしも多くなる。
  2. 同時に複数の処理、並行作業が苦手になる。
  3. メモが有効だけど、メモを取ること自体が苦手というパラドックス。
  4. 騒音、雑音に弱い。
  5. 聴覚的な丸暗記が苦手(百人一首など)
  6. 暗算苦手。

【処理速度】

  1. 他者と同じスピードで作業ができない(課題、給食、着替えなど)。
  2. 急がせるとミスが多くなる。
  3. 同じことでも手順が変わったり、効率が悪いやり方だったり、やり方にこだわりが強いなど。

これらを踏まえて「FSIQ 103、VCI 113、PRI 112、WMI 71、PSI 102」という結果を見てみると、ワーキングメモリだけが極端に低くなっていることがわかります。

聴覚的な記憶力や計算力などに関して難しい面があることが示唆されていますから、選択肢⑤の「IQは平均域であり、学校生活や実習に問題はないことを強調する」はあり得ないことがわかりますね(学校生活に問題が出たから来てるのに)。

そして、こうしたワーキングメモリの低さは、本人が学校で感じている「実習に入ってから先生の説明がよく理解できずに、ミスが多くなり困っている」という苦慮感の訴えとも重なるものですから、この点についてどう対応するかを話し合っていくことは、支援上有効なものであると言えますね。

以上より、選択肢⑤は不適切と判断でき、選択肢④が適切と判断できます。

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