公認心理師 2023-76

不登校傾向のある事例に対する現時点での対応を選択する問題です。

「支援の母体」を崩さないようなアプローチが大切になります。

問76 15歳の女子A、中学3年生。保健室の養護教諭Bより、スクールカウンセラーCに不登校傾向のあるAへの支援の依頼があった。Bによると、Aは入学以来、友人や担任教師などとあまりコミュニケーションをとろうとしない。Aの保護者は、学校によるAの支援に協力的ではない。Aは、登校時には昼休みに保健室へ来室しBと何気ない会話をすることがある。Bは、最近Aの様子として、Bとは話しにくい内容があることに気がつき、CにもAに関わってもらいたいと考えるようになった。
 Cの現時点での対応として、適切なものを2つ選べ。
① Aの担任教師にAの最近の様子を尋ねる。
② 保健室でAと会い、Aと面識を得るようにする。
③ 保健室でAと会い、Bに何でも話すようにAに勧める。
④ Aの保護者にカウンセリングを受けるよう働きかける。
⑤ 保健室でAと会い、Aの担任教師と話をするようにAに勧める。

解答のポイント

どのような「関わり方」が支援になるかを考えることができる。

選択肢の解説

① Aの担任教師にAの最近の様子を尋ねる。

もともとの事例文で感じられる気がかりの一つとして「保健室の養護教諭Bより、スクールカウンセラーCに不登校傾向のあるAへの支援の依頼があった」という内容があります。

つまり、Aへの支援はどの程度の範囲で行われることなのかが不明であるということです。

通常、どのような支援であれ、SCは管理職の管理責任の下で活動することになります。

ですから、「養護教諭Bからの支援の依頼」ではあっても、そしてその支援内容が軽微なもの(例えば、偶然を装って保健室で話す等)であったとしても、管理職の了承の下で行われることが重要ですし、こうした支援を管理職が把握していないというのは問題があるわけです。

また、管理職が把握していることが大切な理由として、学校がチームとして対処していくということが挙げられます。

「養護教諭Bからの支援の依頼」ではあっても、Aの担任がそのことを知らないということはチームという視点から言えばあり得ないことです。

Aの支援を行うにあたり、管理職および担任が「Aの支援にSCも加わっていく」という事実を、まずは共有することが前提となります。

上記のような学校組織内での支援を考える上で「管理職や担任がSCの参与を知っている」ことが大切なわけですが、実際の支援にあたっても担任との連携は不可欠となります。

担任ともコミュニケーションを取ろうとしないとありますが、現時点では、それが担任の関わりの問題ではなく、Aの何かしらの特徴や特性が影響していると見なすのが妥当であり、「担任教師などとあまりコミュニケーションをとろうとしない」という一文をもとに担任との連携を控えるのはあり得ないことです。

担任教師にAの教室での過ごし方、担任と「関わらざるを得ない状況」もあるはずなのでそういうときのAの様子、そうしたAに対する担任の見立てなどを聞いていくことが大切になります。

例えば、客観的に見ればかなり孤立傾向のあるAですが、自身が孤立している状況、一人で過ごすことが多いだろう状況に対して、A自身がどう思っているのか、その辺が担任から見るとどのように見えるかは重要な情報になります。

担任が見るAは、より社会的な状況におけるAであると言えますが、養護教諭の前で見せる姿は担任の前よりも社会性は薄れるというのが一般的ですから、そうした状況間の状態像の違い、言動の違いを見ておくことも重要になります。

なお、この「社会性の強弱」について「どちらの姿が大切か」という議論は意味がありません。

どちらも重要な姿であり、その両方を同時に見ておくことが支援上重要ですし、多角的な支援を行うにあたっても欠かせません。

本当は家庭状況という完全プライベート状況での様子も知りたいところですが、「Aの保護者は、学校によるAの支援に協力的ではない」以上、現時点では今ある情報で対処していくことになるでしょう(その場合、家庭での情報が抜けているという事実を常に認識しておくこと)。

いずれにせよ、組織の一員として支援を行っていくためにも、Aへの支援を行っていくためにも、担任との連携は欠かせませんから、担任に最近の様子を尋ねることはごく自然な対応の一つと言えるでしょう。

以上より、選択肢①は適切と判断できます。

② 保健室でAと会い、Aと面識を得るようにする。
③ 保健室でAと会い、Bに何でも話すようにAに勧める。
⑤ 保健室でAと会い、Aの担任教師と話をするようにAに勧める。

対人関係について積極的ではないAが唯一、他者と関わりをもつ場面として「登校時には昼休みに保健室へ来室しBと何気ない会話をすることがある」ということが挙げられます。

こうした子どもはけっこう多いのですが、保健室がこうした子どもの受け皿になる理由として養護教諭個人の力量以外のポイントで言うと、「身体的な不調で訴えるということがしやすい」「学校内での他の場所よりも社会的な制約が薄い」などが挙げられるでしょう。

身体的な不調で訴えるということは「本質的な苦しさを表現しなくてよい」という楽さがあり、社会的な制約が薄いとは「フラッと来室がしやすい」「用事がなくても来やすい」などが具体的に言えるでしょう。

重要なのが、こうした保健室独特の因子がAの来室を助けている可能性を考えることです。

すなわち、自分の苦しさを明らかにしなくてもよい、何か用事がなくても来室して良いという状況が、Aとつながることができる唯一の状況である可能性があり、これらが失われてしまえばAと関係を結ぶことが困難になるリスクもあるのです。

ですから、選択肢③の「保健室でAと会い、Bに何でも話すようにAに勧める」のように心情の話題をするよう勧めたり、選択肢⑤の「保健室でAと会い、Aの担任教師と話をするようにAに勧める」のように他の場面での相談を勧めるのは、適切ではないのです(そもそもAからすればSCのアンタは誰よって感じですからね)。

ちなみに、選択肢③および選択肢⑤の瑕疵をもう一つ述べるとすれば、これらの選択肢の背景には「話せば改善に近づく」という根拠のない思い込みがあるのです。

「話せば楽になる」という人や状況は確かに存在しますが、そういう人や状況はむしろ少ないように思いますし、Aが「話せば楽になる」と思うのであれば、その根拠を提示する必要があります。

そして、現時点でAが「話せば楽になる」という根拠が見当たりませんし、状況的には「Aが話したくなる状況」をどう構築していくかの方に注力する方が現実的だと考えられます。

さて、そうした状況で採用される可能性のある対応が、選択肢②の「保健室でAと会い、Aと面識を得るようにする」になるでしょう。

上記のような理由からAが「登校時には昼休みに保健室へ来室しBと何気ない会話をすることがある」という状況が崩れる可能性があることをしてはなりませんから、この状況を崩さずにSCの介入をどう工夫するかが大切になります。

ポイントなのが、「保健室は誰もが来室して良い場所である」という前提です。

他の生徒や教員、SCも役割上来室することが自然ですし、そうした「自然」な状況の中でAとSCが関わりをもてるようにすることが、今ある「Aの保健室来室」という学校とAとのつながりを削らすに行える支援だと言えます。

こうしたアプローチを実行する前には、養護教諭Bに対して「他の生徒がいるときのAの反応」「教員がいるときのAの反応」などを細やかに確認し、Aがそういう時に芳しくない反応をするのであればSCをどう入れていくかを検討することになるでしょう。

例えば、Aが来ているときにフラッとSCが行って挨拶をしてそれですぐに退散する、何かしらの話題を振っても大丈夫ならどういう話題をするのか、などを考えていくことが重要になるでしょう(何気ない話をしていくAに対しては、あまり内的な話題にならない方が良いでしょうね)。

いずれにせよ、「Aが保健室に来室している」という状況は、現時点で学校とAが唯一つながっている場所であると言えますから、この状況を支援の母体として、その状況を崩さないような支援方針を検討していくことが前提になります。

ですから、選択肢③や選択肢⑤のようなアプローチを行えば、この「支援の母体」を侵しかねず、Aが学校とつながる唯一の場所が失われるリスクがあるのです。

保健室での関わりという「支援の母体」を侵すことなく、控えめに「保健室でAと会い、Aと面識を得るようにする」というくらいからスタートして、養護教諭B以外の人間とも関わりを持つことができるというのが、現時点で目指すステップになるでしょう。

以上より、選択肢③および選択肢⑤は不適切と判断でき、選択肢②が適切と判断できます。

④ Aの保護者にカウンセリングを受けるよう働きかける。

子どもの不適応の支援においては、保護者との連携が欠かせないのは事実です。

ですが、現時点で「Aの保護者は、学校によるAの支援に協力的ではない」とあります。

この理由はさまざま考えられるでしょうが、それでも保護者にカウンセリングを受けるように勧めることはあり得ます。

しかし、ポイントになってきそうなのが、Aが辛うじて登校していて、唯一の対人関係が養護教諭Bとの「何気ない会話」に留まっているという点です。

この状況において保護者にカウンセリングを受けるよう働きかけることが、どう家庭内で作用するか読み切れないのが正直なところです。

保護者の特徴によっては、Aに対して学校での振る舞いに関して何かを言うこともあり得、そうすると「支援の母体」である養護教諭Bとの関係にも影響を与えかねません。

ですから、具体的に保護者に働きかけていく場合には、こうした点に関するある程度の見通しが立ってからの方が安全だと思われます。

さて、そうなってくると厄介にも、Aに対して直接的なアプローチがしにくいということになっていきます。

保護者の了承が必要な対応(例えば、Aにカウンセリングを勧めるなど。通常のSC業務の中で、カウンセリングが事後承諾になることはあり得るが、本事例の場合学校との関係が良好ではない様子なので、先にAとカウンセリングを行ってしまうと苦情が入るリスクがある)ができないということになるので、本事例の状況では「保護者の了承が不要なアプローチ」を検討していくことが重要になってきます。

これが選択肢①および選択肢②が適切であるという理由の一つです。

選択肢②の対応は「偶然を装う」という形に近いですから、保護者から何かを言われたとしても「たまたま他の用事で保健室にSCが居合わせただけ」と言えますから問題ありません。

ただし、上記のような保護者からの訴えがあったとしたら、今後、SCがどの程度「偶然を装って」保健室にいるようにするかは考えものです。

学校の立場としては問題ないのですが、A自身がSCと関わることを避ける可能性があり、そうなると「SCが保健室に居ることが多い状況」はAが保健室に寄り付かなくなるリスクを高めますね。

ただ、こうした保護者の動きを見つつ、保護者との関係が築けるタイミングを見定めておくことが大切になります。

以上より、選択肢④は不適切と判断できます。

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