公認心理師 2023-75

いじめ状況においてSCとしての対応を選択する問題です。

危機的状況ほど多面的に捉え、決して「見落とし」が無いようにしなければなりませんが、どうしてもこの「見落とし」の有無は経験則に拠っているように思いますね。

問75 14歳の女子A、中学2年生。Aの保護者は、スクールカウンセラーBにAの不登校について相談に訪れた。1か月前、Aは授業中に友人Cと同じグループになったとき、Cから、「Aと同じグループは嫌だ」と皆の前で言われた。それ以来、Cに会うのがつらいと感じ、毎朝腹痛と下痢を訴えるようになり、学校をずっと休んでいる。かかりつけ医に受診したところ、過敏性腸症候群と診断され、処方された薬を服用している。
 Bが次に行う対応として、適切なものを2つ選べ。
① Aに登校するように促す。
② CがAに謝罪する場を設ける。
③ Aの保護者との面接を継続する。
④ Cの保護者との面接を計画する。
⑤ いじめの重大事態が発生していることを担任教師や管理職に報告する。

解答のポイント

事例の状況を社会的にどう捉え、SCとして可能な対応を自覚できる。

選択肢の解説

① Aに登校するように促す。
② CがAに謝罪する場を設ける。
③ Aの保護者との面接を継続する。
④ Cの保護者との面接を計画する。

本事例では「Aは授業中に友人Cと同じグループになったとき、Cから、「Aと同じグループは嫌だ」と皆の前で言われた」という、かなり明確な理由があっての不登校ということになります。

この出来事をどう捉えるのか、という点については、明確に「いじめ」と認定することになるでしょう。

特に本事例のように、それを言われた前後から明確な不快感・不適応が生じていることを踏まえれば、いじめの基準となる「本人が嫌かどうか」は論じるまでもなく明白ですからね。

というわけで、事例で起こっている出来事を「いじめ」と認定することに異論の挟む余地はありません。

異論としては、①Cに発達障害などの要因があったのではないか、②A自身の脆弱性の要因を考えないのか、ということが挙げられるでしょう。

しかし、まず①は「いじめであるか否かの判断」を左右する要因になり得ず、加害者側がどのような意図があろうが(意図がなかろうが=わざとではない、悪気がない)、自身が行ったことによって相手が不快に感じたのであれば、それは「いじめ」と認定される可能性があることであると考えておくことが重要です。

もちろん、例えば、明確に「絵が上手だね」と褒めているのに、その言葉の受け取り手に自信に対する否定的なイメージが根強いため、その言葉を「嫌味を言われた」と解釈したり、自分に対する否定的イメージが優先されて「下手だって言われた」などのようにねじ曲がっている場合は別になるので、そういう場合は受け手が不快に感じたとしても「いじめ」という認定という認定にはならないことが多いでしょう(この辺の線引きは難しいけど…)。

また、②の脆弱性については、正直なところ、子どもたちは自身に起こった不快な出来事に対する脆弱性が年々高まっていると思ってはいます。

この背景には、子どもの不快に敏感な世の中・家庭環境に育ったということもあるでしょうし、それ故に、子どもが不快に感じる可能性のある状況を極力減らすようになっており(例えば、子ども同士をあだ名で呼ばせない等)、不快な状況の経験の少なさもあるように感じています。

とは言え、本事例の状況で「Aが脆弱だからだ」と考えるには、「みんなの前で嫌だと言われた」という状況は現代の子どもたちにはちと厳しいものがあるのは間違いありませんし、本事例のような「多くの人が当たり前のように不快を覚える状況」において、その不快を示しているのですから、当然「いじめ」と見なすことになります。

いじめの判断において、もはや「受け手の脆弱性」を要因と加えることは難しい世の中であると認識しておいた方が良いです(事例によっては、受け手の脆弱性がかなり影響していることを承知しておりますが。そして、そういう事例は何度も「加害者」を作り、結果として、人が近寄らなくなってしまう)。

以上のように、明確に「いじめ」と認定できる状況において、選択肢①の「Aに登校するように促す」というのは、明らかに問題のある対応と言えるでしょう。

登校を促すのであれば、Aの苦悩を汲み取りつつ、具体的・現実的に学校で同じような出来事が起こらないよう対処すること、その方法を実践可能な形でAやその両親に提示して、安心感を高めていくという手順を踏む必要があります。

そうした手順を踏まずに登校を促している選択肢①の対応は、不適切なものと考えざるを得ません。

なお、こういう時に「絶対にいじめが起こらないようにしてくれ。でないと、学校へは行かせられない」という親がおりますが、これはこれで無理な相談です。

もちろん、それが起こらないような学校内の体制を整えることは当然ですが、いじめがSNSなどの「外」で行われることも十分に考えられる以上、「100%、起こらないことを保証する」というのも不可能なので、学校としてできるだけの配慮と対応を行っていくというレベルで納得してもらうしかありません。

「子どもを100%管理することは不可能」という当たり前のことを踏まえたお話であり、こうした事情を飲み込んで、子どもに安心感を送り、時が来れば丁寧に押し出す力のある家庭であれば、いじめの被害を受けた子どもであっても何とか立ち直っていけるものです。

さて、選択肢②および選択肢④は同じ理由で不適切と判断されます。

その理由とは「加害者にアプローチしている」という点です。

選択肢②も選択肢④も、加害者側にアプローチして、Aの登校しやすさを引き出そうとしています。

それ自体は、いじめ対応の中で行われるべき事柄でしょうが、まずはAやその保護者にその対応(加害者に働きかける)を行うことの了解を得ることが重要になります。

ですから、選択肢③の「Aの保護者との面接を継続する」というのは必須の手順になります。

上記のような「いじめ事態において、どのような対応をするかは被害者と一緒になって考えていく」ということが肝要であり、SCと保護者が面接を継続することで、保護者の希望を汲み取りやすくなったり、第三者の立場で客観的に学校ができることを提示したり、また、子ども本人の状態を聞くことで状態を見立てたりと、多角的な支援が可能になります。

また、仮に保護者の了承が得られたとしても、加害者側の反応は加害者側次第であることも忘れてはなりません。

選択肢②のように「CがAに謝罪する場を設ける」としても、素直にCが謝罪するかどうかもわかりませんし、同じことが選択肢④の「Cの保護者との面接を計画する」でも言えます。

一般論ではありますが、加害者側の保護者であっても「子どもの問題を受け容れない、認めない」というタイプの保護者は増えてきており、そういう保護者の子どもであるほどに「いじめであることを認めない」「大したことじゃない、わざとじゃないと言い張る」というパターンが出やすくなります。

私は今まで何度も「加害者が素直に認めない、謝らない」ためにこじれにこじれた事例を見てきましたが、SCとして加害者側が「自分たちの問題を受け容れるだけの自我を持ち合わせているか」をきちんと見立て、それも踏まえた上で被害者の保護者と面接していくことが重要だと感じています。

単に「謝罪の場を設ける」だけではダメで、加害者側が自らの問題を認めた上での謝罪でなければ、いじめ被害者が再び傷つくこともあり得ます(本当に悪いと思っているかどうかは、相手に伝わるものですからね)。

いじめの対応として、選択肢②「CがAに謝罪する場を設ける」、選択肢④「Cの保護者との面接を計画する」などはあり得ることですが、被害者側の思いを汲み取りつつ行うことが重要であること、加害者側が認めない態度だと被害者が更に傷つくことなどが考えられます。

ですから手順としては、被害者および保護者の意見を聞く、対応の中に謝罪を入れることについて話し合う、加害者のタイプによっては「心無い謝罪」への対応も被害者保護者と話し合う、などが重要になるでしょうか。

なお、加害者の謝罪は一般的にはいじめの対応において重要な位置を占めることが多いです。

被害者が求めないというパターンもありますが、双方が「これで終わった」という形になれば、被害者も登校しやすいことが多くなりますし、加害者も同じ行動をその後は取らなくなることが多いです。

大切なのは、周りの大人が「終わらせた」にならないよう、当事者とその保護者が納得して「これで終わった」という心理状態に持っていく工夫をSCと学校が話し合いながら計画を立てていくことですね。

以上より、選択肢①、選択肢②および選択肢④は不適切と判断でき、選択肢③は適切と判断できます。

⑤ いじめの重大事態が発生していることを担任教師や管理職に報告する。

まず、いじめの重大事態の定義を述べておきましょう。

法第28条第1項においては、いじめの重大事態の定義は「いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき(生命心身財産重大事態)」および「いじめにより当該学校に在籍する児童等が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認めるとき(不登校重大事態)」とされています。

また、重大事態は、事実関係が確定した段階で重大事態としての対応を開始するのではなく、「疑い」が生じた段階で調査を開始しなければならないことを認識することが重要です。

上記の「生命心身財産重大事態」とは、いじめを受ける児童生徒の状況に着目して判断することになり、例えば、以下の状態を指します。

  • 児童生徒が自殺を企図した場合
  • 身体に重大な傷害を負った場合
  • 金品等に重大な被害を被った場合
  • 精神性の疾患を発症した場合

当然、上記のような明確な被害や傷害がなくても「不登校重大事態」のように、学校を休む状態も重大事態になり得ます。

法第2号の「相当の期間」については、不登校の定義を踏まえて、年間30日を目安とはしていますが、児童生徒が一定期間、連続して欠席しているような場合には、上記目安にかかわらず、学校の設置者又は学校の判断により、迅速に調査に着手することが必要とされています。

正直なところ、「いじめ」という出来事を起点にして休んでいる場合でなくても(もともと不登校傾向があったとしても)、何かしらの出来事と絡んで休んでいると見れなくもない場合、上記の30日の目安は「有って無いようなもの」として扱った方が良いです。

この辺の間違えて「元々不登校だった」「そのような出来事で不登校になるなんて」などのような態度で被害者に接し、とんでもない状況になってしまう事例があります。

もう前後関係はどうでもよくて、被害者にとって「いじめと見なせる出来事があった」、そしてその出来事を起点に休む傾向が強く出ている、のであれば重大事態として扱うくらいの気持ちで対応していった方が、少なくとも学校の危機管理上は大切です(子どもにとって良いかどうかは事例に拠るので何とも言えません)。

本事例では、いじめを起点に休み始めていることから、上記の「不登校重大事態」と見なすのが妥当ですし、「過敏性腸症候群」という心理的要因が絡む疾患になっていることから「生命心身財産重大事態」に至っている可能性も考えねばなりません。

本事例の状況は、限りなく重大事態と認定される可能性が高いと言えるでしょう。

もちろん、重大事態の判断の主体は「学校の設置者又は学校」になります(こちらの問題を参照しましょう)から、SCが重大事態であると認定はしませんが、「いじめの重大事態が発生していることを担任教師や管理職に報告する」というくらいなら許されるでしょう。

正直なところ「いじめの重大事態が発生していることを」と、生じていることが確定しているような表現には引っかかるところがありますが、とりあえず良しとしておきましょう(実際には「いじめの重大事態と認定される可能性が高い状況になっていることを報告する」になるでしょうね)。

以上より、選択肢⑤は適切と判断できます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です