公認心理師 2023-74

事例の状況でカウンセラーが行うべき支援内容を選択する問題です。

いわゆる「学生相談」の事例であると考えて良いでしょうね。

問74 18歳の男性A、大学1年生。授業の内容が分からないと訴え、定期試験前に学生相談室に来室し、カウンセラーBが初回面接を行った。Aは、「課題として出されるレポートをどのように書いたらよいかも分からず、未提出の課題がいくつもある。また、一人暮らしであり、スケジュール管理ができず、遅刻なども多い。友人との交流もほとんどなく、所属する学部学科の教員にも相談していない。毎日がつらくて、夜もあまり眠れていない」と語った。Bは、Aに面接の継続を勧めた上で、抑うつ症状への対応のために、精神科医を紹介した。
 現時点でBが検討すべきAへの支援内容として、最も適切なものを1つ選べ。
① 学部や学科の変更
② サークルや部活動への参加
③ 修学上の問題に合わせた対応策の調整
④ 就職活動のための自己分析シートの作成

解答のポイント

事例状況における支援のプランを考えることができる。

選択肢の解説

① 学部や学科の変更
② サークルや部活動への参加
③ 修学上の問題に合わせた対応策の調整
④ 就職活動のための自己分析シートの作成

まず本事例の主訴は「課題として出されるレポートをどのように書いたらよいかも分からず、未提出の課題がいくつもある。また、一人暮らしであり、スケジュール管理ができず、遅刻なども多い。友人との交流もほとんどなく、所属する学部学科の教員にも相談していない。毎日がつらくて、夜もあまり眠れていない」であると考えられます。

こうした訴えについては、背後に発達障害の可能性が考えられますが、現時点では明確にはなっていません。

後半の「毎日がつらくて、夜もあまり眠れていない」については、抑うつ症状が疑われるものの、この点については既に「精神科医を紹介した」とありますから、本事例で求められるのは上記の「本人が訴えている事柄」に関してとなります(もちろん、精神科医との継続的な連携は前提として)。

さて、このような状況で選択肢①の「学部や学科の変更」や、選択肢②の「サークルや部活動への参加」については勧められません。

大学に入ってレポートの書き方など「筋道」を示されていない状況で動けないこと、スケジュール管理の難しさ(遂行機能の弱さ)、他者との関係性の築きにくさ、などから発達障害の可能性が考えられますが、現時点では明確になっていません。

他にも、「書けないから未提出の課題が増える」という箇所から、完璧主義、誇大的な自己(こうあらねばという高い理想みたいな)をもつが故に「ちゃんとしていないと書けない、提出できない」といった心理的な傾向が影響している可能性もあります(これを発達障害の傾向と考える人もいますが、起こりやすさと発達障害の一次的な特徴とは異なりますね)。

いずれにせよ、現時点でAの問題はいったい何なのかはわからないというのが正直なところであり、この状況において「学部や学科の変更」という大きな決断をするのは勧められません。

なぜなら、「学部や学科の変更」を行ったとしても、Aの問題が「学部や学科の問題ではなかった」としたら、「学部や学科の変更」という大きな労力を費やしたにも関わらず、結局はまた同じような問題が起こってしまうというリスクもあるわけです。

また、「サークルや部活動への参加」については、「友人との交流もほとんどなく、所属する学部学科の教員にも相談していない」を受けての対応であると考えられますが、Aの問題が何によって起こっているのか明確になる前に対応すれば、「学部や学科の変更」と同じく、却って他者との関わりのうまくいかなさが生じて孤立感を高めるリスクもあります。

また、抑うつ的な状態と考えられるAに対して、「サークルや部活動への参加」というのは負担が大きいものである可能性もありますから、なかなか勧められない選択だろうと思います。

ですから、Aへの支援を行っていくにあたっては、まずAが訴えている就学上の問題について対応を考えていくことが重要になるでしょう。

具体的には「課題として出されるレポートをどのように書いたらよいかも分からず、未提出の課題がいくつもある」という点についてです。

これは「一人暮らしであり、スケジュール管理ができず、遅刻なども多い。友人との交流もほとんどなく、所属する学部学科の教員にも相談していない」という訴えを無視することにはなりません。

なぜなら、現時点でAに対して考えられる最も可能性の高い見立ては「発達障害」であり、その検証を行うにあたっては「課題として出されるレポートをどのように書いたらよいかも分からず、未提出の課題がいくつもある」という点にアプローチするのが最もわかりやすい上に、Aの支援にもなります。

そして、Aに発達上の課題があるとすれば、レポート課題についてだけではなく、友人関係の持ち方、スケジュール管理の仕方なども発達のテーマと絡んでくることもあり得ますから、レポート課題について具体的な対応を考えていくというアプローチを導入にして、Aの問題全体を見ていくという形になるのです。

つまり、レポート課題というAの主訴に沿った対応であること、その中でAの問題の在り処を見極めていくこと、その見極めに沿ってAの他の問題への対応を考えていくこと、などが可能になるのが選択肢③の「修学上の問題に合わせた対応策の調整」になるわけですね。

さて、残る選択肢④の「就職活動のための自己分析シートの作成」については、Aが主訴として訴えていないこと(主訴として訴えていないから必要ないとは言えないが、主訴で語られていないことをやっていくのも問題ですね)、18歳という大学に入りたての時期からやり始めるにしては流石に時期尚早であること(Aの動機づけが生じにくい)、抑うつ状態ではそれどころではないだろう、などの視点から問題外と言ってよいのではないかと思っています。

きちんとクライエントの主訴を中核に据え、その支援を行いつつもクライエントの問題や課題を見極めて、それを時にはクライエントと共有しながら支援を進めていくことが重要になりますね。

以上より、選択肢①、選択肢②および選択肢④は不適切と判断でき、選択肢③が適切と判断できます。

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